エピソード19(脚本)
〇草原
数が減っているものの、ギアーズたちはひっきりなしに襲いかかってくる。
アイリはギアーズの相手をしながら、周りのコレクターたちの様子を横目で確認した。
全員かなり疲弊している。
中には剣を地面に突き立て息を荒げているものもいた。
アイリ(このままじゃもたない)
いったん態勢を立て直したいが、そうも言っていられない状況である。
アイリが策を練っていると、突然、周囲一帯のギアーズが全て動きを止めた。
アイリ(・・・?)
アイリを含め、前線のコレクター全員がなにが起きたのか分からず困惑する。
するとギアーズたちは、この場にいるコレクターには目もくれず、一斉にとある方向へと向かいだした。
アイリがギアーズの向かう先を見ると、ニルとエルルの姿が目に入る。
ふたりはひどく慌てている様子だった。
アイリ「ど・・・、どういうこと?」
〇城壁
猛烈な勢いで向かってくるギアーズに、ニルとエルルは焦っていた。
エルル「あわわわ、さすがにこの量が一斉に来たらひとたまりもないですよ!」
ニルはパニック状態のエルルをなだめながら、どうにかこの状況を打開する方法を考えていた。
周囲を見回すニルの世界に、木箱に入った大砲の残弾が捉えられる。
並んだそのふたつを見て、ハッとしてニルはエルルの肩を掴んだ。
ニル「エルル、やってほしいことがある」
エルル「この量は無理ですよ〜!」
ニル「そうじゃなくって」
エルル「・・・?」
ニル「この大砲の弾を、エルルのハンマーであの巨大なギアーズまで飛ばすことはできないかな?」
ニル「フリューゲラスを打ち上げられるほどのエルルの力なら、なんとかなると思うんだ」
エルル「わ、私のハンマーでですか・・・?」
エルルは戸惑いつつもニルの言葉に頷(うなず)く。
エルル「分かりました。やってみます」
設置した砲弾の前に、ギアーズを見渡す形でエルルが立った。
エルルはハンマーを下に構えて息を吸うと、大きく振りかぶった。
思いっきり打ち上げられた砲弾は放射線を描いて飛んでいく。
だが、弾はギアーズがいる位置より大きく右に逸(そ)れたところに落下した。
エルルは顔をしかめて「もう一度」と呟く。
再度呼吸を整えて、エルルがハンマーを振りかぶった。しかし今度は、方向は合っているものの飛距離が足らない。
エルル「・・・全力で打つとうまくギアーズを狙えなくて、でも狙いすぎるとうまく力を入れられませんっ!」
エルル「ニルさんっ! もう時間がないんです! 逃げなきゃ!」
エルルに腕を引っ張られても、ニルはまだ動こうとしない。
ニル「・・・それなら」
突如ニルが剣を構えた。
柄を捻(ひね)ると、刀身に脈が走る。
エルル「ニルさん? なにを・・・」
エルルは目の前の光景を見て、思わず言葉を詰まらせた。
発射口から水平に、大砲が切断されていく。
断ち切られた筒の上部が、ドスンと音をたてて地面に落ちた。
続けてニルは断面があらわになった大砲の装填部分を切り落とす。
そしてニルは、エルルの方を振り向いて微笑んだ。
ニル「これをレールに使おう。 エルルはまっすぐ振りかぶって」
エルル「ッ・・・は、はいっ!」
エルルは驚きつつも、ニルの言葉に力強く返事をした。
ギアーズの集団はもうすぐそばまで迫っている。
チャンスは、これ1回きりだ。
エルルはハンマーを持つ手に力を込めた。
ニルが砲弾を先端に載せると、傾斜に沿って弾はエルルの方へと転がり出す。
ニル「頼んだ、エルル!!」
エルル「・・・はぁっ!!」
エルルのハンマーによって、砲弾がレールから打ち上がった。
その間にも、周りにはニルとエルルを取り囲むようにギアーズの大群が迫ってきている。
放物線上に飛んでいく弾を、ニルとエルルは祈るように見つめた。
エルル「いっけえーっ!!」
弾の軌道の先には見開かれた巨大な一つ目。
そのまま見事に命中し、バランスを崩したギアーズが横転する。
その瞬間、もうあと1歩のところまで迫ってきていたギアーズたちの動きがピタリと止まった。
「・・・・・・」
少しの沈黙のあと、ギアーズたちはふたりに興味をなくしたように一斉に去っていく。
ニルとエルルは脱力し、ほっと息を吐いた。
〇草原
それ以降、あれだけ統率がとれていたのが嘘のようにギアーズたちは散り散りになり、アーティレから逃げていった。
一部のコレクターは逃走したギアーズのあとを追ったが、それも結局途中で見失ってしまった。
〇戦線のテント
防衛戦線のコレクター「そんなギアーズいたか・・・?」
防衛戦線のコレクター「俺は見てないな・・・」
しかしニルたち以外には誰も、そのギアーズに気づいた者はいなかった。
〇戦線のテント
ライザー「へっ、こんなやつらの言うことなんて信じられるかよ」
アイリ「ニルとエルルに嘘をつく意味はないわよ」
ライザー「ハッ、どうだか」
カラカル「ライザー、今は仲間同士で争っている場合じゃないだろう」
ライザー「仲間ねえ・・・。 お遊びで来たやつらと一緒にされちゃたまったもんじゃねえ」
カラカル「とりあえずパーツの回収部隊を向かわせているから・・・」
カラカルがそう言ったとき、回収部隊が帰還したとの連絡が入った。
〇戦線のテント
カラカル「どうだった」
伝令「それが・・・」
カラカル「なにかあったのか?」
伝令「・・・なにもなかったんです」
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