降れ、女子どもに篠突く雨よ

諸星香江

第四話「復讐は終わらない」(脚本)

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〇ファストフード店
  体育館の事件は想像以上に大きなことになってしまった。
  飯野さん達は被害者ではあったが、あの映像にあったことが事実であることが確認されたため停学処分となった。
  連日、警察が学校へ来るが、いまだに飯野さん達をさらした動画を流した犯人はわかっていない・・・わかるはずもない。
  私は黙っていたのだから。

〇テーブル席
北条玲香「ありがとう、田村さん。 おかげで全部うまくいったわ」
  北条さんはお礼だといって、私にポテトをおごってくれたけど、正直あまり喉には通らなかった。
田村聡美(もし、やったのが私達だってバレたらどうなるんだろう・・・)
田村聡美(やっぱり警察に捕まったりするのかな。 ・・・少年院に送られるとか?)
田村聡美(そうなったら、みんなに嫌われるのかな・・・)
  ここまで考えて、私は一度呼吸を整えた。
  考えても仕方がない。もう済んでしまったことなのだ。
田村聡美(もう北条さんの復讐は終わったんだ・・・今より悪い事なんてもうない。きっとそう)
北条玲香「田村さん、どうしたの?」
田村聡美「ううん、なんでもない。それより、今日集まった理由は何かなって・・・」
  北条さんはソースをつけたナゲットをゆっくり食べきってから私の質問に答えてくれた。
北条玲香「もちろん、次の復讐の計画よ」
田村聡美「え・・・?」
田村聡美「でも、復讐はもう終わったんじゃ・・・」
北条玲香「何を言っているのよ」
北条玲香「あの程度で私の復讐が終わるわけないじゃない」
  北条さんの声は、ぞっとするほど冷たかった。
北条玲香「私がどれだけ苦しんだと思うの?」
北条玲香「あいつらのせいで・・・外に出るのが怖くなって・・・中学になるまで、ずっと家にいたわ」
北条玲香「今のカウンセリングの先生に出会えなければ、今も引きこもっていたと思う」
北条玲香「私だって安心して学校に通って、友達と遊んでみたかった・・・行事や授業に参加する普通の学校生活がしたかった・・・」
北条玲香「なんで『あの時』、あいつらが私を裸にしたと思う」
北条玲香「イジってあげてるのにノリが悪いからその罰なんですって」
  過去の映像がよみがえる。
  泣き叫ぶ北条さん、手足を押さえつけて笑いながら服を剥ぎ取る飯野さん達。
  あんな残酷なショー、忘れたくても忘れられない。
北条玲香「どんなに頼んでもSNSにあげた写真を消してくれなかった。名前や住所まで晒された」
北条玲香「気持ち悪い電話がかかってきたし、気持ち悪い奴にも迫られたわ・・・」
北条玲香「それでも、過去を悔やんでいたのなら、私は何もしないつもりだった」
北条玲香「でもあいつらは反省していない。あれだけ騒ぎになって先生や親に怒られても運が悪かったとしか思っていない・・・」
北条玲香「むしろ被害者だとさえ思っている! バカにしてるわ! 絶対に許さない!」
北条玲香「今度はあっちが苦しむ番よ。 あいつらの人生、潰してやるわ」
  北条さんは冷静でいようとしているけど、あふれる怒りがおさえきれていない。
  彼女の憎しみは私が考えるよりもはるかに深かった。
北条玲香「次は・・・そうね、あいつらの味方をなくしてやったらどうなるかしらね」
田村聡美「それって、どういう・・・」
北条玲香「面倒を見てくれる両親が犯罪者になったりしたら、おもしろそうじゃない? ・・・濡れ衣ならなおさらね」
田村聡美「──ダメ!」
  私は自分でもびっくりするくらいの大声で止めた。北条さんも少し驚いている。
  言ってからしまったと思ったけど、もう言葉は取り消せない。
  とにかく、これは止めなければいけないと思ったのだ。
田村聡美「い、イジメた本人ならともかく、家族にまで復讐するのは、違うと思う・・・!」
田村聡美「しかも濡れ衣を着せるやり方なんて・・・ダメだよ・・・関係ない人を巻き込むのは・・・!」
北条玲香「気の毒だとは思うけど、必要な犠牲よ。 そうじゃなきゃあいつらは苦しまないわ」
田村聡美「必要だと思ってるのは北条さんだけだよ!」
田村聡美「気に入らなければ誰を攻撃していいなんてそれじゃまるで・・・!」
  『イジメじゃないの』と言いかけて私は言葉を飲み込んだ。
  言っていいものかどうか、判断のブレーキがかかったのだ。
北条玲香「・・・裏切り者」
北条玲香「・・・あなたなら、私の気持ちをわかってくれると思ったのに・・・」
北条玲香「イジメの辛さを知っているあなたならって・・・信じていたのに・・・」
田村聡美「ごめん・・・でも、やっぱりその復讐には協力できない!」
  言い捨てて、私は席をたった。
北条玲香「許さない・・・。 邪魔をする奴はみんな・・・」
  後ろから北条さんの声が刺さる。
  私は逃げるようにして店を出た。

〇女の子の一人部屋
田村聡美(やっぱ、言い過ぎたかな・・・)
  時間がたって頭が冷えると、自己嫌悪が襲ってきた。
田村聡美(もっと言い方とかあったよね・・・明日北条さんに謝ろう・・・)
  その時、スマホが鳴った。
田村聡美「うちのクラスのグループチャット?」
田村聡美「『明日は全員午前8時に集合』? 何かあったっけ?」

〇教室
  翌朝、いつもより1時間早く登校した。
田村聡美「おはよ・・・」

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