降れ、女子どもに篠突く雨よ

諸星香江

第五話「激しい雨もいつかは…」(脚本)

降れ、女子どもに篠突く雨よ

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〇教室
森山夏希「──そこまで!」
  突然、教室に入ってきた夏希にクラスメイト達も北条さんも目が釘付けになる。
  夏希は私のそばまで来ると、自分のスマホを高々と上げた。
  録画アプリから人の声が流れだした。
北条玲香「・・・協力しなければ、あなたの着替え中の写真、ばらまくわよ・・・」
北条玲香「・・・田村さんのことなら、あなたが詳しいでしょう・・・」
北条玲香「映画観賞会の犯人? そうよ私よ、でも証拠あるかしら?」
田村聡美「この声って、北条さんの・・・?」
  教室中が戸惑いでざわめきだす。
  北条さんは信じられないような目で私と夏希を見ていた。
森山夏希「ひとりふたり脅迫に成功してるから私もいけると思ったの?」
森山夏希「残念でした! 着替えでも裸でも好きにばらまけば?」
森山夏希「あんたが聡美に何かしてるのは知ってた。あんたの過去にも同情はするけど・・・」
森山夏希「でもあんたが聡美にしたことだけは許せない!」
森山夏希「友達イジめるヤツは絶対に許さないから!」
  北条さんは小さく息をのんだ。
北条玲香「私が・・・イジメを・・・?」
  北条さんの顔が青ざめていく。
  そして夏希の登場により、教室内の空気は正反対の方へと動き出した。
  私に向けられていた敵意や疑惑の視線は北条さんへと移っていった。
  私の体の震えはいつの間にかおさまっていた。
森山夏希「聡美、遅れてごめん。ひとまず職員室に行こう。先生に話さなきゃ」
  夏希が私の腕を引っ張って教室の外へと連れ出してくれる。
  振り返った先では、クラスメイトに囲まれた北条さんが質問攻めにあっていた。
女子生徒「北条さん! あれどういうこと!」
男子生徒「ウソだろ! なんで北条さんが・・・」
  北条さんは震えていた。自分の置かれた状況が信じられないとでもいうように。
  ひとりの男子が声を張り上げた。
男子生徒「濡れ衣着せて弄んでいたのかよ! 最低だな!」
  びくりと北条さんの体が震え、唇からか細い声がでた。
北条玲香「・・・私は・・・私は・・・」
北条玲香「穏やかに過ごしたかっただけなのに・・・」

〇黒
  私の頭の中で、何かが弾けた。
  そして、北条さんの復讐の意味を知った。
  彼女は攻撃したかったんじゃない、今度こそ安全に過ごせる場所を作ろうとしていただけだったのだ。
田村聡美「──待って!」

〇教室
森山夏希「さ、聡美・・・?」
田村聡美「北条さんだけじゃない! 私も自分の意思で協力したの!」
  私はあらん限りの声で真実は叫び続けた。
  北条さんはかつて飯野さんにイジメられていたこと。この学校でもまたイジメられようとしていたこと。
  そしてやり方に問題はあったかもしれないが、それは自分の身を守るためで決して攻撃することを楽しんでいたわけではないことを。
田村聡美「北条さん、ごめんなさい・・・!」
田村聡美「『あの時』、私が一番近くにいたのに、怖くて助けられなかった・・・ごめんなさい」
  それから謝った。あの時のことを謝った。
  私の頭の中はもうぐちゃぐちゃで、北条さんを助けたいのか、罪悪感を減らしたいのかもうわからなかった。
  シンと教室が静まり返る。
先生「おい、一体どうしたんだ…?」
  その静寂を破ったのは担任の先生だった。

〇黒
  その後、1時間目の授業は急遽自習という形で学級会が開かれた。
  私と北条さんと夏希は職員室で事件のことを話した。
  ようやく、いろいろなことがおさまろうとしていた。

〇女の子の一人部屋
  夜、明日の準備をしていたら北条さんからメールが来た。
  『会って話がしたい。誰を連れてきても構わない』
  私は少し迷ってから出かけることを決めた。誰も連れずにひとりで。

〇テーブル席
  北条さんはいつもの席にいた。
  私の姿を見るとホッとしたような表情を見せてくれた。
北条玲香「田村さん・・・来てくれてありがとう」
田村聡美「うん・・・それで、話って?」
北条玲香「謝りたかったの・・・私の自己満足かもしれないけど」
田村聡美「そんな、私だって・・・!」
北条玲香「ううん。今回のことは私の我がままにあなたに巻き込んでしまっただけ」
北条玲香「だって本当にイジメが嫌なら、さっさと先生や両親に相談すればよかったんだもの」
北条玲香「今回のことは完全に私の自業自得よ」
  わずかな沈黙おいて、北条さんは話を続ける。
北条玲香「あなたは攻撃することを楽しんでいたわけではないと言ってくれたけど・・・実のところ私は楽しんでいたの」
北条玲香「あいつらが苦しめば苦しむほどざまあみろって楽しくなった。私は被害者だから何をしてもいいって思っていた」
北条玲香「今でも彼女たちのことは許せない・・・でもあなたや森山さんを攻撃したのは間違っていた」
  北条さんは苦しそうにうつむく。
北条玲香「私のしたことはあいつらと同じイジメだ」
  絞り出すような声に後悔がにじんでいた。
田村聡美「・・・気にしないで北条さん」
田村聡美「あとさ、今度は復讐じゃなくて、遊びの計画たてない?」

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コメント

  • こんな終わり方は予想外でしたが、綺麗な終わり方をしてよかったです。

    先生の次回作(短編)も楽しみにしております。

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