〇ファストフード店
　　次の休日、北条さんに呼ばれて駅前のファーストフード店に来た。
　　復讐の計画をたてるのだそうだ。
田村聡美（やだな・・・いじめの復讐だなんて・・・）
　　なんとか断ることはできないだろうか。
　　私は自動ドアをくぐりながらそんなことを考えていた。

〇テーブル席
　　北条さんは店の奥まった二人掛けのテーブル席にいた。
　　イヤホンで何かを聞きながら、ナゲットをかじっている。
　　北条さんってナゲット好きなのかなと、どこか他人事のように思っていた。
北条玲香「おはよう。来てくれて嬉しいわ」
田村聡美「お、おはよう。ええと・・・」
北条玲香「なあに？」
田村聡美「なにを聞いているのかなって・・・」
北条玲香「聞いてみる？」
　　北条さんは、片方のイヤホンを貸してくれた。
　　聞こえてきたのは音楽でもラジオでなくノイズまじりの人の声。
　　飯野さんの声だった。
田村聡美「え・・・これは・・・？」
北条玲香「録音よ。少し前に盗聴したやつのね」
田村聡美「盗聴って・・・！」
北条玲香「いいから、そのまま聞いてて」
　　イヤホンから流れる声は刺々しくピリピリしていた。

〇教室
飯野圭子「北条マジウザい！ なんでわざわざうちの学校に転校してくるわけ！」
飯野圭子「しかも親が会社の社長とか聞いてないんだけど！」
小坂優菜「それよりどうする？ ほら、小学校のときのことバラされたらさ・・・」
飯野圭子「最悪。社会的に死刑確定じゃん・・・ってかまた親に行動制限されたら迷惑なんだけど」
飯野圭子「そもそもなんでうちらだけ怒られんの！」
飯野圭子「悪いのは騒いだ奴らと変質者じゃん！ うちら冗談でやってただけだっての！」
安西萌「変な噂流されたら困る～。私の動画チャンネルの登録数500超えたばっかなのに～」
飯野圭子「・・・じゃあさ、もうやる前にやっちゃおう」
小坂優菜「というと？」
飯野圭子「実はさ、北条の裸の写真まだ持ってるんだよね。バラしたらこれバラすって言っときゃ下手な真似しないでしょ」
小坂優菜「いいじゃんそれ！ ならこのさい北条に関するネタ集めて潰しとかね？」
小坂優菜「あいつ周りに媚売りまくっててウザすぎるんだよね」
飯野圭子「さんせーい！ トイレや化粧とった顔の動画とか、ヤバい会話の録音とか？」
飯野圭子「とにかく北条の化けの皮はがしてこれ以上 でかい顔させねー」
安西萌「でもどうやってネタ集めるの？ 私らあんまり北条さんと話してないし・・・」
飯野圭子「北条の隣の陰キャに聞けばいいんじゃね？ 連絡先交換してたし仲いいっしょ」
小坂優菜「ああ、田村？ 話してくれるかなぁ」
飯野圭子「言わなきゃ北条とまとめて潰すだけだし。陰キャが逆らうとか許さねー」

〇テーブル席
　　ここで声は途切れた。
北条玲香「人間って、簡単には変わらないのね」
　　先にイヤホンをはずした玲香さんが、呆れた声でつぶやいている。
　　私はまだ、動けずにいた。
田村聡美（このままほっといたら、また北条さんがイジメられる・・・？ それに私も・・・）
　　北条さんとまとめて潰すといっていた。私も彼女たちのターゲットなのだ。
北条玲香「それじゃ、現状を理解したところで、私達も具体的な話し合いを始めましょうか？」
田村聡美「え、あの、私・・・」
　　私は復讐の協力を断るつもりで来た。
田村聡美（復讐の手伝いなんてしたくない・・・変な事して夏希やみんなに避けられたくない、平穏に過ごしたい・・・）
　　だけどあんなことを聞いてしまえば。
　　ここで断ることは、北条さんをまた見捨てることになるのだろうか。
　　何も言えずにいると、北条さんは優しく声をかけてくれた。
北条玲香「・・・ねえ、田村さん」
北条玲香「あなたは、飯野さんたちにイジメられたいの？」
田村聡美「それは・・・！」
北条玲香「嫌に決まってるわよね。当然ね」
北条玲香「安心して田村さん、具体的な計画は私がたてるわ」
北条玲香「あなたは私がお願いする通りに動いてくれるだけでいいの」
北条玲香「あなたに責任はないわ」
　　私が恐れていること、心配していること。
　　北条さんはそれらを安心させるようにひとつひとつ丁寧に答えてくれる。
　　北条さんを心配しているようで実際は自分のことしか考えていない私の心を見透かされたようで恥ずかしくなった。
北条玲香「私の復讐はあなたのためにもなると思うの」
北条玲香「だからお願い・・・私に協力をして」
　　最後に固い口調で締めくくる。
　　北条さんの言葉に後押しされたのか、私は思わず頷いてしまった。了承してしまったのだ。
田村聡美「・・・私は何をすればいいのかな？」
北条玲香「簡単なことよ。まずは・・・」