第三話「復讐決行」(脚本)
〇女の子の一人部屋
スマホでSNSを流し見していたら漫画の広告が目に入った。
婚約者に隠して浮気をしていた女性。
浮気相手には独身と偽ってつき合い、結婚を機に捨ててしまう。
だけど最後は、浮気相手の男性に自分の結婚式のムービーで浮気をばらされて報いを受ける、痛快ストーリーだった。
いつもなら、胸がスッとするのだけど・・・
田村聡美(ばらした人、大丈夫かな・・・)
今の私は復讐を遂げて終わった物語のその後が気になってしまう。他人事には思えなかったのだ。
〇教室
森山夏希「聡美―! 次の休日さ服買いに行かない? 今、駅前でセールやってるんだって」
田村聡美「あ、ごめん。その日は予定があるんだ」
森山夏希「えー、またぁ。最近、つき合い悪くない? バイト始めたとか?」
田村聡美「そういうわけじゃないんだけど・・・ごめんね夏希」
北条玲香「田村さん、そろそろ時間よ」
田村聡美「! 北条さん・・・い、今いくね」
田村聡美「じゃあ、また後でね夏希」
森山夏希「・・・・・・」
〇体育館の舞台
今日は『道徳映画観賞会』の日だった。
体育館に全校生徒が集まってテーマに沿った映像を見る。
今回のテーマは『薬物と体について』だ。
男子生徒「はぁ~ダリぃ~」
女子生徒「40分も見るの~、でも授業ないだけいっか」
テーマがテーマだからか、体育館に集まった生徒から退屈そうな声があがる。
私と北条さんはそんな生徒たちの隙間を縫うようにして舞台へと向かった。
なぜなら私達は今日の鑑賞会の実行委員だったからだ。
田村聡美(北条さんから一緒に実行委員になってって言われたときは驚いたけど・・・)
やっぱりこれも復讐計画のひとつなの?
だけど今回に関しては北条さんの指示はなく、私は淡々と準備を進めていただけだった。
何もおかしいことはない。だけど・・・
田村聡美(心臓が変にドキドキしてる・・・緊張してるのかな、私)
〇黒
妙な胸騒ぎはやまなかった。
やがて時間になり体育館が暗くなった。
〇体育館の舞台
超巨大スクリーンの前でマイクを持った北条さんが開幕の挨拶をする。
北条玲香「これから映像観賞会『薬物と体について』の上映を始めます。」
北条玲香「上映中は静かにご鑑賞ください──」
北条のさんの美しい声に、可憐な姿に、全校生徒が集中する。こっそりと写真を撮っている男子もいた。
田村聡美(北条さん、アイドルみたい・・・小学校の頃とは全然違うな)
あの時よりも堂々としていて、輝いている。
あんなイジメがあったのに、どうしてここまで立ち直れて、皆が焦がれるような輝かしい存在になれたのだろう。
田村聡美(・・・そういえば私、北条さんのこと、全然知らないかも)
彼女は自分の過去はもちろん、自分自身のこともあまり話さない。
そこがミステリアスでいいと彼女を好いている人は言うけど・・・ちょっと寂しいなと私は思う。
先生「田村さん、再生を」
田村聡美「あ、はい・・・!」
私は急いで再生ボタンを押した。
リハーサル通りなら、耳になじんだクラシックの音楽とともに風に揺れる若葉の枝がスクリーンに映るはずだった。
男子生徒「──うおお!」
ひとりの男子生徒が声を張り上げた。
スクリーンには顔を手で隠している下着姿の女性が現れたのだ。
女子生徒「きゃあ! 何あれ!?」
男子生徒「エロ動画かよ! マジで!」
あちこちで悲鳴や歓声があがる中で、ひと際、悲痛な金切声が体育館に響いた。
飯野圭子「嫌あああああああああ!?」
飯野圭子「止めて! 消して! 消してってば!」
飯野さんが半狂乱になりながら叫んでいる。
やがてスクリーンにはドンというSEとともに巨大なテロップが表示された。
『飯野圭子 ただ今パパ活中♡』
動画の女性は飯野さんだったのだ。
先生「早く映像を消しなさい!」
田村聡美「は、はい!」
私はすぐに電源のボタンを押した。
音がやんで元の真っ白いスクリーンに戻る。だけどそれは一瞬だけで、すぐに映像はよみがえってしまった。
田村聡美「ウソ! 消えない・・・!」
いろんなボタンを押してもコンセントを抜いてもダメだった。動画は卑猥な飯野さんの姿を映し続ける。
やがて映像は別の人物へと切り替わった。
今度は小坂さんだった。
誰もいない教室で誰かのカバンから財布をとってお金を抜き取っている。
勝手にロッカーを開けている場面もあった。
『小坂優菜、窃盗は日常茶飯事♪』
小坂優菜「違う・・・違うの・・・!?」
最後は安西さんだった。
立ち入り禁止の危ない場所で動画をとったり、更衣室の盗撮をしている場面が映される。
『迷惑動画配信者、
安西萌の「えももチャンネル」
登録よろしくね☆』
安西萌「な、なんで私まで!? メールの指示通りにしたのに・・・!」
安西萌「ふたりの秘密教えたら、バラさないって言ってたじゃん! なんでよぉ!?」
体育館はもう混乱の嵐だった。
生徒たちは怯えたり、怒ったり、笑ったりして感情が目まぐるしく変わっている。
先生は事態を治めようと右往左往している。
私はといえばその騒乱を傍観することしかできなかった。
田村聡美「北条さん! まさかこれが・・・」
北条玲香「私の復讐よ」
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