赤とんぼリリウム

九重杏也

2 帰ってきたら……(脚本)

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〇おしゃれなリビングダイニング
いろみ「ただいまー」
いろみ「聞いてママー!」
いろみ「折角アイス買ったのに溶けちゃったの。もう最悪なの」
莉々子「おかえりなさい、いろみちゃん」
いろみ「えっ、莉々子!?」
  リビングにいた莉々子をみとめ、私は驚きでのどが干上がった。
  と同時にママがキッチンから顔をのぞかせる。
いろみ母「いろみ、莉々子ちゃん来るなら先に言っときなさいよ」
いろみ母「知ってたらお母さんが散歩行ったのに」
いろみ「・・・・・・約束の時間まで、かなりあったから」
いろみ「大丈夫かなって」
莉々子「ごめんなさい。迷惑だったみたいで」
  律儀にも莉々子は立ち上がって頭を下げていた。
いろみ母「いいのいいの。莉々子ちゃんはなーんも悪くないからね」
いろみ母「いろみのあんぽんたんが、だんまりしてたのがいけないんだから」
いろみ「あーはいはい私の落ち度ですよ」
いろみ「ちょっとどいてっ」
  母親の背後に身を滑り込ませ、冷凍庫に溶けたアイスを放り込む。
  そして冷蔵庫からお茶を取り出し、食器棚からグラスをくすねてリビングへ。
いろみ「ごめん、莉々子。待たせちゃって」
莉々子「謝らないで。私が早く来ちゃっただけだから」
いろみ「とりあえず私の部屋、いこ」
莉々子「・・・・・・うんっ」
  莉々子の同意を得て、テーブルに置いてあったお茶請けを引っ掴む。
いろみ母「いろみー、いろみの部屋でするの?」
いろみ母「ごはんはどうすんのよ。3人分もう少しでできあがるわよ」
いろみ「後で降りてくるから、ラップかけといて。お米は保温で」
いろみ母「電気代が無駄でしょう。冷蔵庫入れとくから」
いろみ「あと、いきなり部屋に来ないでね、絶対だからね」

〇一階の廊下
  そのままそそくさとリビングを脱して、階段をのぼる。
  背後には莉々子の気配が不規則に近づいたり離れたりしていた。

〇女の子の一人部屋
いろみ「どうぞ」
莉々子「・・・・・・お邪魔します」
いろみ「てきとうにくつろいで」
莉々子「遊びに来たわけじゃ、ないけどね」
  その通りだ。
  今日は8月31日。夏休みの最終日。
  今日は午後から宿題の追い込みをする予定だった。
  強引に手に持ったあれやこれやを置いて時計を確認すると、まだ正午を回ってもいない。
いろみ「っもう、早く来すぎ──」
いろみ「ンンッ!!」
  突然首筋に何かが触れて飛び上がる。
  避けるようにして振り返ると、莉々子がハンカチを携えて立っていた。
莉々子「いろみちゃん、汗、すごいから」
いろみ「ああ、ええ、まあ、そうね。暑いから」
いろみ「あの、あ、ありがと」
莉々子「ふふっ。可愛いな、いろみちゃん」
莉々子「シャワー浴びてくる?」
いろみ「いいから! 大人しく座りなさい」
莉々子「はーい」
  莉々子はクッションに沈み込んで、私が持ってきたグラスにお茶を注いで口を付ける。
いろみ「・・・・・・それ、私のグラスのつもりなんだけど」
莉々子「一緒に使おうね」
いろみ「使いません」
莉々子「ケチ。私たち、もうそういうの気にする関係じゃないもん」
いろみ「それはっ・・・・・・もう、バカ」
  私は到底莉々子を直視できずそっぽを向いた。
莉々子「もしかしなくても、テレてる?」
莉々子「テレ度100パーセント?」
いろみ「~~~うるさいのだわっ!」
いろみ「宿題やるよ!」
莉々子「あとちょっとだからね、がんばろう」
  ようやく手提げから道具一式を取り出し机に広げる莉々子。
莉々子「ちなみに、私は、ドキドキだよ」
いろみ「・・・・・・とりあえず、一時間、集中」
  最後のつぶやきは聞こえないフリをして莉々子とはテーブルをはさむように座り、エアコンのリモコンを操作する。
  ピッという起動音が静寂を引き寄せたのだった。

次のエピソード:3 ふたりのじかん

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