ファントム・リーベ ~怪人とその愛~

糸本もとい

彼女は怪物ではなく怪人だった(脚本)

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〇大きい研究所
隊長「決して敷地の外には出すな!」
怪人「・・・」
隊長「射撃用意! 一撃で倒せ!」
隊長「撃(て)!!」
隊員B「速過ぎます! 対象を捉えら・・・」
隊員B「ぐが・・・!」
隊長「このっバケモンがあ!!」
隊長「ぐあっ・・・!」
隊員C「おいっ! よせっ! 死ぬ気かっ!?」
勢野譲治「直美!」
怪人「・・・」
勢野譲治「直美・・・」

〇研究所の中枢
研究員「被験者、久能直美が研究所の敷地外に逃走しました」
ゲイリー・シュワルツコフ「2031年1月21日、13時47分。被験者をロスト、か」
甲斐輝基「ゲイリー大佐。説明していただけますね?」
ゲイリー・シュワルツコフ「もちろん」
勢野譲治「待ってください! 俺も聞きます!」
ゲイリー・シュワルツコフ「ああ、久能さんの同僚であり恋人でもあった、勢野さんには聞く権利がある」
ゲイリー・シュワルツコフ「此度のフィグーレン・スーツ装着実験における失敗の原因は」
ゲイリー・シュワルツコフ「スーツを制御し、久能さんの神経とスーツの精神感応素材を同調するために」
ゲイリー・シュワルツコフ「久能さんの体内、及びスーツに組み込んだナノマシンの暴走と思われる」
ゲイリー・シュワルツコフ「ナノマシンに与えた本来の機能である制御、それが機能しなかったと言い換えてもいい」
ゲイリー・シュワルツコフ「これは仮説だが、スーツの精神感応素材との同調という負荷によって」
ゲイリー・シュワルツコフ「久能さんの精神は破壊衝動に支配されたと、私は見ている」
甲斐輝基「破壊衝動に支配された結果が、あの姿と行動だと?」
ゲイリー・シュワルツコフ「スーツの精神感応素材が、あのような戦闘形態とでも呼ぶべき異形に変形したのは」
ゲイリー・シュワルツコフ「人間としての規範による精神の定形化に対する反作用としての破壊衝動」
ゲイリー・シュワルツコフ「それが顕著に表出した結果だろう」
勢野譲治「フィグーレン・スーツは、もう一着が完成していましたね」
ゲイリー・シュワルツコフ「ああ、その通りだ」
勢野譲治「俺が装着します」
甲斐輝基「待て、今はまだ、あらゆる手段を講じるべき段階だ」
勢野譲治「精神感応素材と人工筋肉の組み合わせによって、生体筋肉の3000倍の出力と」
勢野譲治「その高出力に堪え得る外殻をカーボンナノチューブと精神感応素材の組み合わせで得る、でしたね」
ゲイリー・シュワルツコフ「ああ、それがフィグーレン・スーツの基本性能だよ」
勢野譲治「被害が拡大する前に、俺が、この手で直美を止めます」
甲斐輝基「落ち着け、勢野。スーツを装着して、同じ結果になったらどうする」
勢野譲治「その時は、一緒に処理してください」
甲斐輝基「そんな危険な賭けを、私が了承する訳がないだろ」
ゲイリー・シュワルツコフ「私は了承してもいい。上層部への説明も私がしよう」
甲斐輝基「ゲイリー大佐、なにを・・・」
ゲイリー・シュワルツコフ「DNA塩基配列で書かれた命令を組み合わせたナノマシンのプログラムは複雑でね」
ゲイリー・シュワルツコフ「私でもチェックと書き換えを行なうとすれば数週間は要する。その時間を上層部は待ってはくれない」
ゲイリー・シュワルツコフ「このままでは、米軍が直々に久能さんを処理することになるだろう」
ゲイリー・シュワルツコフ「私は自分の作品に自信を持っている。今回の結果はイレギュラーだ。次は成功すると信じる」
ゲイリー・シュワルツコフ「私も上層部も、今回の貴重な実験を重視している。勢野さんの意志は、私の意向と合致する部分がある」
勢野譲治「俺の意志を利用するならしてください。俺は、この手で直美を止められるなら、それでいいんです」
ゲイリー・シュワルツコフ「という訳だ、甲斐二佐。実験を再開したいのだが、如何かな? 甲斐二佐は反対だったと記録してもよいが」
甲斐輝基「・・・勢野。お前の意志は分かった。しかし、これでは、久能くんの意志に背くことになる」
勢野譲治「直美の意志? どういうことです」
甲斐輝基「此度の計画における当初の被験者は、勢野、お前だった」
勢野譲治「え・・・」
甲斐輝基「久能くんはそれを知って、自ら被験者となることを志願した」
勢野譲治「そんな・・・」
甲斐輝基「考え直せ、勢野」
勢野譲治「いえ・・・俺の意志は変わりません。直美は俺が、この手で止めなくちゃならない」
甲斐輝基「勢野・・・」
ゲイリー・シュワルツコフ「決まりだな。では早急に準備しよう」

〇大きい研究所
甲斐輝基「・・・」
勢野譲治「直美は今、どこに?」
甲斐輝基「警察無線によれば、渋谷のスクランブル交差点にいるようだ」
勢野譲治「分かりました。今の俺なら5分ほどでしょう」
甲斐輝基「こうなってしまった以上、必ず久能くんを連れて戻れ」
勢野譲治「諒解しました」
甲斐輝基「・・・」
ゲイリー・シュワルツコフ「シュヴングは行ったようだね」
甲斐輝基「シュヴング・・・?」
ゲイリー・シュワルツコフ「便宜上の呼称だよ。現時点より、勢野譲治をシュヴング、久能直美をクヴァールと呼称する」
甲斐輝基「・・・ゲイリー大佐、ひとつ伺いたい」
ゲイリー・シュワルツコフ「なにかな?」
甲斐輝基「この状況は、あなたが仕組んだものではありませんよね?」
ゲイリー・シュワルツコフ「まさか。いくら私でも、こんな危険な状況は仕組まないよ」
甲斐輝基「・・・失礼しました」
ゲイリー・シュワルツコフ「いや、甲斐二佐が疑いたくなるのも分かるよ。結果として私は、貴重な実験データを得られているからね」
甲斐輝基「・・・」

〇渋谷のスクランブル交差点
警官B「周囲の閉鎖を完了!」
警官C「対象に動きなし! SAT(サット)より出動の報告あり!」
警官A「頼むぞ・・・サットの到着まで、そのまま動くなよ・・・」
警官D「怪人とおぼしき、もう一体によって西口の封鎖が突破されました! こちらに、来ます!」
警官B「対象と類似のもう一体です!」
警官A「おいおいおい・・・ふざけんなよ・・・」
勢野譲治「直美! 俺だ!」
久能直美「・・・」
久能直美「がっ・・・!」
狙撃手「対象アルファへの狙撃に成功。左肩に着弾を確認」
勢野譲治「直美!!」
  直美に覆い被さるように、譲治が直美を抱く
狙撃手「対象ブラボーへの狙撃に成功。背中に3発の着弾を確認」
勢野譲治「ぐ・・・直美・・・大丈夫、か・・・」
久能直美「じょ、う、じ・・・」
勢野譲治「ああ・・・譲治だよ・・・良かった・・・意識が戻った、んだね・・・」
警官A「なんだっ! 今の狙撃はっ! どこからだっ!」
狙撃手「五十口径を3発まともに喰らって立ってやがる・・・まさしく怪物だな・・・」
久能直美「譲治! 譲治!!」
勢野譲治「なおみ・・・一緒、に・・・」
久能直美「譲治!!」
  倒れた譲治を抱きかかえる直美
勢野譲治「なお、み・・・」
久能直美「どうして!? もうヒトとは呼べない、性すら失った、わたしなんかを庇って・・・!」
勢野譲治「さみしい、こと、言うなよ・・・直美は、直美、さ・・・」
勢野譲治「どんな・・・姿に、なっても・・・俺が、愛した、直美だ・・・」
勢野譲治「・・・ごめん・・・俺は、ここまで、みたいだ・・・」
久能直美「譲治!! ダメだよ!! 死んじゃダメ!!」
勢野譲治「愛してるよ、なおみ・・・・・・」
久能直美「譲治!!」
  譲治のかすかな震えが完全に止まる
  譲治のフィグーレン・スーツが装着前の形に戻っていく
狙撃手「対象ブラボーの無力化に成功。対象アルファの理性が戻ったことを確認」
狙撃手「・・・諒解。撤収する」
久能直美「・・・赦さない。ゼッタイに赦さない」

〇大きい研究所
隊員E「配置につきました」
甲斐輝基「ご苦労・・・来るぞ」
  瞬く間で、直美は甲斐の前に移動した
久能直美「班長・・・」
甲斐輝基「撃ち方止め!」
甲斐輝基「久能くん・・・」
久能直美「班長は知っていたんですか?」
甲斐輝基「すまない・・・私は何も知らなかったようだ・・・」
久能直美「ゲイリー大佐は中ですね?」
甲斐輝基「ああ・・・」
甲斐輝基「久能くん・・・」

〇研究所の中枢
研究員「カーネル・ゲイリー! 早く退避を!」
ゲイリー・シュワルツコフ「きみたちは退避したまえ。私は残る」
研究員「クヴァールは危険です!」
ゲイリー・シュワルツコフ「これもまた実験の内だよ」
久能直美「ゲイリー大佐・・・」
ゲイリー・シュワルツコフ「久能さん。理性を取り戻したようで何よりだ」
久能直美「すべては大佐の筋書き通り、ですね? 違いますか?」
ゲイリー・シュワルツコフ「久能さん。あなたは優秀だ」
久能直美「否定しないんですね」
ゲイリー・シュワルツコフ「最期に真相を知る。それも悪くないでしょう」
久能直美「最後?」
  ゲイリーがポケットからタブレットを取り出しタップした
久能直美「なにを・・・」
ゲイリー・シュワルツコフ「ナノマシンのネクロトーシス・プログラムを起動したんです」
ゲイリー・シュワルツコフ「あなたはスーツとともに死を迎える」
久能直美「ここまでのすべてが、大佐の筋書きだったんですね・・・」
  直美が装着したフィグーレン・スーツが元の形に戻っていく
ゲイリー・シュワルツコフ「ご苦労でした、久能さん。おかげで貴重なデータが取れた」
久能直美「・・・真実を聞かせてください」
ゲイリー・シュワルツコフ「いいでしょう。あなたがスーツを装着して3時間後に暴走したのは計算通りです」
ゲイリー・シュワルツコフ「あなたの恋人である勢野さんは、私の想定通りに決断し、動いてくれた」
ゲイリー・シュワルツコフ「唯一の不確定要素であり、此度の実験における最重要項目、感情が与える影響についても期待通りでした」
ゲイリー・シュワルツコフ「愛と恐怖と憎悪、三つの強い感情によって、あなたは自我のコントロールを取り戻した」
ゲイリー・シュワルツコフ「私の仮説を、あなたは実証してくれた」
久能直美「あの狙撃は大佐の指示なんですね」
ゲイリー・シュワルツコフ「ええ、そうです」
久能直美「そうですか・・・」
ゲイリー・シュワルツコフ「ひとつだけ意外な点があるとすれば、久能さん、あなたが今、逆上していないことでしょう」
ゲイリー・シュワルツコフ「それは、諦観ですか?」
久能直美「違います。大佐、あなたは人間を、愛を、甘く見すぎです」
ゲイリー・シュワルツコフ「愛? 憎悪に並ぶ強い感情だとは理解しているつもりですが?」
久能直美「愛は、もっと深いものですよ」
ゲイリー・シュワルツコフ「深い?」
  直美のスーツが形を変えていく
ゲイリー・シュワルツコフ「有り得ない・・・ネクロトーシス・プログラムは確かに・・・」
久能直美「さようならです。大佐」
久能直美「この計画による犠牲者は、譲治とわたしで最後にしなくちゃいけない」
久能直美「今のわたしは、あなたを赦せない」
ゲイリー・シュワルツコフ「有り得ない・・・」
  直美のスーツが、ふたたび元の形に戻る
久能直美「・・・班長」
甲斐輝基「ああ、ここにいるよ」
久能直美「後のことは、お任せします」
甲斐輝基「分かった・・・ゆっくり休んでくれ・・・」
久能直美「はい・・・そうさせて、もらいます・・・」
久能直美「譲治・・・ごめんね・・・」
甲斐輝基「謝るべきは私だ・・・すまない・・・」

〇墓石
班員「班長・・・時間です・・・」
甲斐輝基「ああ・・・」
甲斐輝基「久能くん、勢野・・・私が、この手でガイストを壊滅させる」
甲斐輝基「私には、それ以外に罪滅ぼしの方法がない・・・」
甲斐輝基「それまで、少し待っていてくれ」

コメント

  • この作品で特に秀逸だったのは2つ。スーツの科学的な設定が細かくなされていることと、読者を惹きつける予定調和を嫌った展開が多かったことです。実は全て計画だった点や、最初は主人公がスーツ被験者ではなかった部分などは痺れました。

  • 愛ですね……。怪人作品で本格的な恋愛ジャンルが読めるとは思ってもみませんでした😌深い。
    何だかとても切ないです。
    でも班長が何か次に繋げてくれる気がして、読後は爽やかでした✨こういうお話、好きです😊

  • 呼称を変えたところが個人的にグッときます。隊員・人から怪人扱いにするという決定的な描写に見えました。
    短編なので登場人物が限られていますが、背景のスーツが開発に至る事情とか他にも実験に関わっている人がいそうだとか気になりました。
    筋書を超えるところまでが筋書、と見せかけて愛がそれをさらに超えているという話の筋が怪人というモチーフに合っている気がします。

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