鑑定‘聴’査人、田中律子

tomato4t

鏡の魔女(脚本)

鑑定‘聴’査人、田中律子

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〇綺麗なリビング
優「ママ、気持ち悪い・・・」
藍「はあ!?」
藍「・・・ったく、早くベッド戻って」
優「うん・・・」
  優が自分の部屋に戻る姿を横目に、薬箱を漁る
  頭痛薬の使用期限が切れているのを見て、思わず舌打ちしそうになった
  薬局が開くのを待っていたら、始業時間には間に合わない
「やだぁ藍、こわーい顔」
  聞こえてきた甘ったるい声
  声の方に顔を向けると、さらに楽しそうな声が響く
「ねぇねぇ、今日はどうしたのぉ?」
藍「子どもが体調悪いって・・・カゼ移されたら最悪だわ」
「えぇぇ、お母さんひどーい!」
藍「・・・別に、普通でしょ」
  わたしの言葉に甲高い声ではしゃぐ様は、あの時と変わらない

〇リサイクルショップ(看板文字無し)
  夫の急死、終わらない息子のイヤイヤ期、先の見えない不安からの不眠
  心がどうにかなりそうだったあの時
「あなた、とても疲れてる。かわいそうに」
藍「・・・は?」
  たまたま入った雑貨屋で鏡に話しかけられ
「返事・・・したわねえぇぇえぇぇ!」
  私は、呪われたらしい

〇綺麗なリビング
優「ママ、おかえり! 今日作文で金賞とったよ!見て!」
藍「・・・だから?」
優「・・・」
  『子どもを愛した分だけ、子供を呪うわぁ』
  『そして子どもにアタシを触らせたりしたら、子どもは即殺す』
  優を前にすると、あの日の鏡のまとわりつくような声が頭に響く
  優を守るためだ、仕方がない
  そんな思いが届くはずもなく
  活発だった優は、わたしの顔色ばかり見るような子になってしまった
藍「はぁ・・・」
「今のはアタシのことを想ってのため息ねぇ 嬉しい!キャハハ!」
藍「・・・そうね」
「んもぅ、八つ当たりはダメよ藍 いくら子どもがらみで問題が起きたとしてもぉ」
藍「・・・!」
「アタシは何でも見えてるし、何でも出来るわよぉ? キャハハハハ!」
  鏡が言っているのは、学校だよりの不審者頻出の件?
  優のクラスの文房具の盗難?
  甲高い笑い声に頭痛を覚えながら、明日も鏡の声に怯えて過ごしていく
  全部、呪われたわたしが悪いんだから

〇綺麗なリビング
「今日はお休みよねぇ、藍 ずっと二人っきりで嬉しいわぁ」
藍「・・・ええ」
  鏡の声はわたし以外聞こえないのに、鏡は優がいない時ほど機嫌よく喋る
  聞く相手がいるだけで満足なのか、適当な相槌でも怒らないのは楽だ
  それでも
  甲高い声が延々と耳に響くと、次第に視界はぐらついてくる
「そう言えばぁ、まーた怒鳴ってたわねぇ藍 怖いお母さんは嫌われちゃうのにぃ」
藍「それは・・・子どもが、鬱陶しいから・・・」
  優を守るため、鏡にはいつだって心にもないことを言う
「やだーサイテー 藍ってやっぱり子ども嫌いなのよぉ」
  違う
  これは優のため、優のためだ
  本心なんかじゃない
藍「嫌い・・・そうね そう、かも」
「もうやめた方がいいんじゃなーい 藍には向いてないわよ、は・は・お・や」
  本心じゃ、ない・・・?
  本当に・・・?
優「ママ!」
藍「優!?」
  当然ドアが開いたかと思えば、学校に行っているはずの優が飛び込んできた
「はぁ!?何、誰!?」
田中 律子「優くん!鏡です! 鏡から声がしました!」
優「うん!」
「な、何で聞こえるのよ私の声! 何なのよアンタ!」
  知らない女性の言葉と、鏡を睨む優の視線に背筋が凍る
  そのまま迷うことなく、優は鏡に向かって走り出した
  脳内に、またあの鏡の言葉が響く
  『そして子どもにアタシを触らせたりしたら、子どもは即殺す』
藍「やめなさい!優!」
優「ママから・・・」
優「離れろーー!」
  優は目の前に掛けていた鏡を掴み、床に放り投げた
「イヤアアアア!男は嫌いィィィ!触られたァァァ!」
  優と交互に鏡を見たが、鏡は苦しそうな声をあげているだけだ
優「マ、ママ・・・」
  目の前に立つ優は、不安そうな顔をしている
  でもわたしは、何を言って、何をしてあげたらいいのかわからず、呆然と優を見る
優「僕、ママがずっと優しいの分かってるよ」
藍「・・・え?」
優「風邪をひいて寝ている時は、いつも体をさすってくれるし」
藍「『・・・ったく、早くベッド戻って』」
優「学校で頑張ったら、ぼくの好きなおかずたくさん作ってくれる!」
藍「『・・・だから?』」
  うっかり言葉にして鏡に聞かれたらと、ずっと言葉には過剰なほど気を遣っていた
  それでも、優はずっとわたしの気持ちを汲み取ろうとしてくれていた
優「ぼくが悪いことしたらもちろん怒るけど・・・」
優「ぼくにひどいことを言うの時ママ」
優「いつも泣きそうな顔してるもん! だから全然辛くない!」
藍「・・・優」
  目頭が熱くなるのがわかる
  優は、ずっとわたしの味方でいてくれた
  わたしの言葉以外を、信じてくれていたんだ
藍「ねえ、あなた この鏡のことを知っているのね?」
  改めて、優が連れてきた女性に向き直る
  彼女はこんな不可解な状況でも、毅然としていた
田中 律子「はい 鏡に閉じ込められているのは、占いを生業にしていた魔女という文献がありました」
「はぁぁぁああああ!? わたしをその辺のチンケな占い師と一緒にしないでくれるぅぅぅぅぅ!?」
田中 律子「現に鏡から出られていませんし、強い力を見せ続ければそれなりに文献は残ります」
田中 律子「話術で弱った人の心を追い込んで、行動をコントロールするのが目的のようです」
藍「・・・なるほどね」
  女性の説明に金切り声をあげる鏡の言葉は、もう耳に届かなくなった
  急に軽くなった足取りで、転がった鏡をそっと拾い上げる
藍「ねえ」
「や、やーだ怖い顔ぉ・・・ でもとっても美しいわぁ藍」
藍「これでもあんたには、感謝してるの」
「ほ、本当ぉ?」
  猫撫で声を出す鏡に向かって、微笑んで見せた
藍「こんなクソボロ鏡になんか、絶対負けないって立ち直れたんだからね!」
「待って待って待って藍・・・ やめ、ギャアアアアアアアアアアアア!」
  窓を開けると、鏡を外の塀に向けて叩きつけた
  高い音を立てて粉々になった様を見届けて、心まで軽くなったようだ
藍「優!」
  振り返って名前を呼ぶと、怯えた顔をされる
  当然だ
藍「大好きよ優!ママは世界で一番、優が大好き!」
  それでも、抱きしめずにはいられなかった
藍「ごめんね優・・・酷いことたくさん言ってごめんなさい・・・傷つけてごめんなさい! ママは優が大好き!」
優「ま、ママ・・・ママ!」
優「ママ好き!ぼくも大好き!」
藍「・・・優!」

〇占いの館
  誰かに愛されている女は、言葉にできない美しさがある
客「プロポーズされたんです!魔女様の鏡占いのおかげですわ!」
  憎い、許せない、邪魔したい、壊したい、苦しめたい
  _______羨ましい
客「ま、魔女様・・・?なぜ夫を・・・?」
  じゃああの人への愛を止めさせれば、私に愛をくれるのかしら
客「魔女様、私にも占いを・・・」
  くれるでしょ
客「お前があの人を殺したのね!」
  くれるはずだわ
客「魔女様!」
  ・・・どうしてくれないの?
神官「鏡の魔女!幾多の殺人は貴様の所業と調べはついている! よって鏡籠めの刑に処す!」
  ねえ誰か
  私を愛してよ

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