読切(脚本)
〇西洋の市場
オリバー「やばい!早く逃げなきゃ!」
店員「泥棒!待ちやがれ!」
店員「ぐっ・・・!」
オリバー「ジャック!」
ジャック「逃げるぞ!」
オリバー「う、うん!」
店員「くっ・・待て!」
〇廃墟の倉庫
オリバー「ごめん・・・また失敗しちゃった」
ジャック「何言ってんだ。ちゃんと盗れただろ」
ジャック「ほら、大量だぜ」
オリバー「僕が盗れたのはニンジンだけ」
オリバー「それに、ジャックが助けてくれなきゃ捕まってたよ」
ジャック「気にすんなって!」
エルマ「おー!今日は多いね。すごいじゃん!」
エルマ「見て!あたしも収穫あるんだ」
ジャック「宝石か!あそこの路面店から盗ったのか?」
エルマ「そう!状態がいいから、ジャンクショップで高く買い取ってくれるよ」
ジャック「すげーじゃん。これでしばらくは盗まなくてすむな」
オリバー「二人はすごいな。僕はいつも盗る時に手が震えちゃうんだ」
エルマ「オリバーは優しすぎるんだよ」
ジャック「そうだな。まずは罪悪感を捨てろ。そこからだ」
エルマ「そうそう、生きるためだもん。仕方ないよ」
オリバー「ごめん。僕も早く役に立てるようにがんばるよ」
エルマ「そんな気にしなくていいって!」
エルマ「みんなで助け合えばいいんだからさ」
ジャック「そういえば、ここら辺もストリート・チルドレン増えたよな」
エルマ「そうだね。あたしたちみたいに、居場所がない子どもたち」
オリバー「僕みたいに、親の暴力から逃げてきた子もいるのかな」
ジャック「子は親を選べないからな」
ジャック「まあ、俺は親の顔すら知らないけど」
ジャック「でも、俺たちは自由だ」
エルマ「そうだよ。だから今を楽しまなきゃね!」
エルマ「だって、幸せは自分で掴むものでしょ」
オリバー「こんな僕も幸せになっていいのかな・・・」
ジャック「バーカ!なんで幸せになるのに許可がいるんだよ」
ジャック「お前の人生だろ」
オリバー「ジャック・・・」
エルマ「ジャックもたまにはいいこと言うじゃん」
ジャック「たまにはって何だよ。いつもだろ」
ジャック「この廃ビルもだいぶ古いし、そろそろ移動するか」
エルマ「じゃあ今度は、自然がたくさんある場所がいいな!」
ジャック「お!いいね」
オリバー「僕も自然は好きだな」
「え?」
〇廃墟の倉庫
エルマ「何、この煙・・・!」
オリバー「うっ・・・」
エルマ「くらくらする・・・」
ジャック「くっ・・・」
〇廃墟の倉庫
フロイド「さすが軍御用達の睡眠ガス。即効性が高い」
フロイド「連れて行け」
謎の組織の男「はい!」
〇地下の部屋
ジャック「っ・・・」
ジャック「ここはどこだ・・・」
ジャック「外が騒がしいな」
〇ビルの地下通路
兵士「くそっ!あのガキ、どこに逃げた?」
兵士「怪物化する前に捕まえないと!」
兵士「射殺許可が出た。見つけ次第、始末するぞ!」
〇ビルの地下通路
ジャック「何が起こってるんだ・・・」
〇穴の開いた部屋
オリバー「助けて・・・誰か助けて・・・」
ジャック「オリバー!」
オリバー「ジャック!助けて!殺される!」
ジャック「落ち着け!何があった?」
オリバー「突然、部屋に怪物が入ってきて・・・」
オリバー「気づいたら人が死んでて・・・」
ジャック「怪物?どういうことだよ?」
オリバー「男たちが怪物を銃で殺して、部屋中に血が・・・血が・・・」
オリバー「そいつらが言ってた。僕たちも怪物になるって・・・」
ジャック「ちょっと待ってくれ!わけがわかんねーよ!」
ジャック「まずここはどこだ?」
オリバー「わからない・・・怖いよ・・・」
ジャック「エルマは?エルマはどこだ?」
オリバー「僕も見てないんだ」
オリバー「目が覚めたら暗くて狭い部屋にいて、いきなり怪物に襲われたから・・・」
オリバー「もしかしたら、あいつらに捕まったかも。それか怪物に・・・」
ジャック「ウソだろ・・・」
オリバー「僕らも早く逃げなきゃ!殺されちゃうよ!」
ジャック「落ち着け!大声を出すと見つかる」
オリバー「もう終わりだ・・・終わりだ!」
オリバー「うわあああああ!」
ジャック「オリバー!」
〇穴の開いた部屋
兵士「いたぞ!怪物だ!」
兵士「撃て!撃て!」
オリバー「ギャァァァァ!」
ジャック「やめろ!撃つな!」
兵士「ちっ・・・!まだガキが残ってたか」
兵士「どけ!そいつは処分する!」
ジャック「待ってくれ!こいつは俺の友達だ!」
ジャック「頼む、撃たないでくれ!」
兵士「どけ!お前も撃つぞ!」
男たちがジャックに向かって銃を撃とうとした時──
オリバー「やめろ・・・!」
「ぐあっ・・・!」
オリバー「逃げて・・・」
オリバーがジャックを突き飛ばし、通路へ放り出した。
ジャック「うわっ!」
兵士「化け物め!」
兵士「失敗作のくせに調子に乗りやがって!」
オリバー「僕も最後に一つぐらい、役に立ってみせる!」
〇穴の開いた部屋
巨大な爆発音とともに、部屋一面が炎に包まれた。
〇ビルの地下通路
ジャック「オリバー!」
ジャック「くそっ・・・なんでこんなことに!」
兵士「B2フロア!少年を発見!」
兵士「おい、止まれ!撃つぞ!」
ジャック「くっ・・・」
兵士「待て!」
兵士「くそっ・・・火の回りが早い」
兵士「見失ったか・・・」
〇古生物の研究室
B1フロア
研究室
研究員「やめろ!来るな!」
研究員「ぐあっ・・・」
〇流れる血
フロイド「派手に暴れてるな。鎮静剤が効かないのか」
フロイド「仕方ない。処分しろ」
「はい!」
「ギギギ・・・ガガ・・・!」
フロイド「まったく・・・どれもこれも失敗作ばかり」
フロイド「これですべて処分したか?」
兵士「申し訳ありません!黒髪のガキを一人、取り逃しました」
フロイド「B2フロアへ行った兵士2名はどうした?」
兵士「先ほど爆発があったようで、連絡が途絶えました」
フロイド「あの少年は貴重なサンプルだ」
フロイド「見つけたら生きたまま確保しろ」
「はい!」
〇研究施設の廊下(曲がり角)
ジャック「はぁっ・・・はぁっ・・・」
ジャック「何なんだ、ここは」
ジャック「エルマ・・・無事でいてくれ!」
〇謎の部屋の扉
ジャック「・・・ここか?」
〇実験ルーム
ジャック「エルマ!?」
エルマ「・・・」
ジャック「その姿・・・どうしたんだよ!」
ジャック「おい、エルマ!俺だ、ジャックだ!」
フロイド「無駄だよ。もはや人間だった頃の記憶はない」
ジャック「誰だ・・・!」
フロイド「おや、君はまだ怪物化してないね」
ジャック「てめぇ、さっきから何言ってやがる!」
ジャック「エルマに何をした!」
フロイド「君たちに投与したのは、怪物ウイルス」
フロイド「人間を怪物化するウイルスだよ」
ジャック「何だと!」
フロイド「我々は長年、怪物化の研究を続けてきた。最強の生物兵器を作るためにね」
フロイド「だが、どれも上手くいかなかった」
フロイド「自我を失って暴れたり、精神が崩壊して自爆したり・・・」
フロイド「怪物化した人間は、道具として扱うのが難しい」
ジャック「道具だと・・・!」
フロイド「でも、この少女。彼女は特異体質だ」
フロイド「人間と怪物のバランスを保ったまま半怪物化した稀有な成功例だよ」
フロイド「代わりに感情を失ったが、それも兵器としては都合がいい」
フロイド「変に暴れられても困るからね」
ジャック「ふざけんな!」
ジャック「子どもを使って怪物化の実験をしてるのか!?」
フロイド「そうだよ。君たちストリート・チルドレンは、社会に「存在しない」子どもたち」
フロイド「突然いなくなっても誰も不審に思わない」
フロイド「しかも、ウイルスに耐えられる体力があり、細胞も若い」
フロイド「無茶な実験もやりやすい」
フロイド「まさに実験体として最適ってわけだよ」
ジャック「てめぇ!お前らのせいでオリバーは・・・!」
殴りかかろうとするジャックに、フロイドが銃を向けた。
ジャック「くっ・・・」
フロイド「君、名前は?」
ジャック「・・・ジャック」
フロイド「まさにジャック・イン・ザ・ボックス」
フロイド「何が出るかわからない「びっくり箱」ってわけか」
ジャック「何言ってやがる!」
フロイド「ジャック。君はウイルスへの適合性が非常に高い」
フロイド「とても貴重なサンプルだ」
フロイド「我々に協力するなら、生かしておいてやってもいい」
ジャック「誰がお前らなんかに!」
ジャック「エルマを元に戻せ!」
エルマ「・・・ック・・・」
突然、エルマがフロイドを鋭い爪で引っ掻いた。
フロイド「くっ!こいつ・・・!」
ジャック「エルマ!」
フロイド「どうせこの程度じゃ死なない」
エルマ「ジャッ・・・ク・・・」
ジャック「エルマ!俺だ!わかるか?」
エルマ「ジャック・・・!」
フロイド「自我を取り戻しただと?バカな・・・」
エルマ「逃げて!早く!」
フロイド「これは面白い」
フロイド「再生能力も試したいし、これをもう一本打って、腕でも引きちぎってみるか」
ジャック「やめろ!」
フロイド「君は少し大人しくしててよ」
ジャック「くっ・・・」
エルマ「ジャック!」
フロイド「さあ、鬼が出るか蛇が出るか・・・」
撃たれた瞬間、ジャックの体から眩い光が放たれた。
フロイド「これは・・・!」
フロイド「素晴らしい!素晴らしいよ、ジャック!」
フロイド「完全な怪人化だ!」
フロイド「ここまで完璧な怪人は、君で2体目だよ」
フロイド「やはり君は生かしておいてよかった」
ジャックが腕を大きく振ると、周りの壁が一気に崩れた。
〇実験ルーム
フロイド「この破壊力・・・素晴らしい!」
フロイド「ジャック。我々に協力しろ」
フロイド「協力するなら、エルマに危害を加えないと約束しよう」
ジャック「・・・」
フロイド「断るなら、お前もエルマもここで処分する」
フロイド「我々に協力するか、今ここで死ぬか。選べ」
エルマ「ジャック!騙されないで!」
エルマ「そいつはあたしたちを実験体として利用したいだけ!」
エルマ「今ここで助かったって、結局利用されて殺される!信じちゃだめ!」
フロイド「くそっ!化け物が!」
フロイド「お前らみたいな社会のゴミは、黙って利用されていればいいんだよ!」
フロイドがエルマに向けて銃を撃とうとした時──
フロイド「ぐっ・・・」
〇実験ルーム
兵士「うわ!ここも燃えてる!」
ジャック「・・・」
兵士「見ろ!怪人だ!」
兵士「撃て!撃て!」
兵士「攻撃が効かない・・・!」
「なっ・・・!」
「ぐあああっ・・・」
〇血しぶき
殺してやる!殺してやる!殺してやる!
「・・・ック・・・」
「ジャック・・・!」
声が聞こえる
懐かしい声だ
・・・エルマ?
〇実験ルーム
エルマ「ジャック!」
ジャック「エ・・・ルマ・・・」
ジャック「っ・・・!」
エルマ「ジャック!大丈夫?」
ジャック「俺は大丈夫だ。エルマは?怪我は?」
エルマ「平気だよ・・・体はこんなだけど・・・」
ジャック「よかった・・・」
エルマ「ねぇ、オリバーは・・・?」
ジャックは静かに首を振った。
エルマ「そんな・・・」
ジャック「でも、俺たちはまだ生きてる」
ジャック「早くここを出るぞ!」
エルマ「・・・あたしは行けないよ」
ジャック「え?」
エルマ「こんな怪物になっちゃったもん・・・」
エルマ「だから、ジャックだけ逃げて」
エルマ「あたしの分まで生きて」
ジャック「・・・ほら、行くぞ」
エルマ「無理だよ。こんな姿じゃ生きていても・・・」
エルマ「ジャックと出会えて、本当に幸せだった」
エルマ「それだけでもう十分・・・」
ジャック「ふざけんな!」
ジャック「お前がいたから、俺はこんなクソみたいな世界も捨てたもんじゃないって思えたんだ!」
ジャック「見た目なんて何だっていい!」
ジャック「どんな姿でも、エルマはエルマだ!」
ジャック「生きたくないって気持ちも、俺がまとめて受け止めてやる!」
エルマ「ジャック・・・」
エルマ「いつか暴走して、ジャックを傷つけちゃうかもしれないよ」
ジャック「それなら俺だって同じだ」
ジャック「この力がまたいつ暴走するかわからない」
ジャック「どうせわからないなら、その時まで一緒にいようぜ」
エルマ「っ・・・」
ジャック「それに、その姿も結構イケてるぜ」
エルマ「ジャック・・・」
まもなく自動崩壊装置が作動します。ただちに建物の外へ避難してください。
「っ・・・!」
ジャック「まずい!崩れるぞ!」
〇山奥の研究所
〇基地の広場(瓦礫あり)
〇研究開発室
数週間後──
とある研究所
研究員「あの研究所、無くなったんだって?」
研究員「爆発で全壊だってさ」
研究員「うわあ・・・すごいな」
研究員「あそこはだいぶ無茶な実験してたから、いつかああなるとは思ってたけどね」
フロイド「やあ、研究は順調かい?」
研究員「あ、フロイド!」
研究員「この間は大変だったみたいだね」
フロイド「ああ。人間だったら確実に死んでたな」
研究員「ずいぶん派手に殺り合ったらしいじゃん」
フロイド「使えないやつばかりだったよ」
フロイド「怪物ウイルスの改良に加えて、軍の戦力をもっと強化しないとな」
研究員「そういえば、怪人化に成功した実験体がいたって聞いたけど・・・」
研究員「へぇ!フロイド以外にも成功したやつがいたんだ」
フロイド「ジャック。面白い少年だったよ」
フロイド「彼にもう一度会ってみたい」
フロイド「生きていれば、な」
〇大樹の下
エリック「ウソじゃないもん!見たんだ!」
ライアン「ウソつき!」
ライアン「そんなのいるわけないだろ!」
シャーロット「何?どうしたの?」
ライアン「エリックが見たんだってさ」
シャーロット「何を?」
ライアン「化け物!」
シャーロット「えー?化け物?」
エリック「本当に見たんだ!」
エリック「オレンジ色の長い髪で、鬼みたいな腕の女の人!」
エリック「森の中にいたんだ!」
シャーロット「こわ〜い!」
エリック「全然怖くなかったよ」
エリック「だって、笑ってたもん」
ライアン「笑ってた?」
エリック「うん!すごく優しい顔してた」
エリック「そのあと、大きな影と一緒にどっか飛んでいっちゃった」
シャーロット「大きな影?」
エリック「うん!一瞬しか見えなかったけど、なんかヒーローみたいでカッコよかった!」
シャーロット「えー!あたしも会ってみたいな」
ライアン「俺も!今度みんなで探しに行こうぜ」
「うん!」
怪人ありでも無しでも成立しそうな舞台が素敵です。三人の友情も詰まってて面白かったです。
作り込まれた背景設定に感心しました。彼らのストーリーの続きを読みたいと思いました。
さりげなく「2体目」と言っていた謎が後半に明かされた時は「そうきたか」と思いました。
ラストは、あえて二人を登場させずに子供たち3人の語りで締めたのも秀逸で、切ない余韻が残り続けたと思います。