勝者は偽りの仮面を被る(脚本)
〇荒廃した教室
足元に見える正義の味方。
その身体は微動だにせずただ静かに横たわっている。
ラギア「やっちまった・・・・・・」
戦いが行われていた。
妖牙帝国の次元侵略とそれを阻止せんとする勇者との攻防。
幾多の帝国兵が勇者に挑み散っていった。
妖牙帝国は失った戦力を現地調達する事で戦いを続けていた。
ラギアと名付けられた俺も兵士へと姿を変えられた人間のひとりだ
人で無くなった俺は、それでもただ死にたくないという一心で帝国に従い戦う日々を送っていた。
部隊を指揮していた幹部が倒され、撤退を開始した俺達。
だが勇者ディバイダーは逃げる兵を後ろから切り裂いた。
最後に残った俺も追いつめられた。
正義の味方が剣を振り被る。
ラギア「ちくしょう・・・・・・やられてたまるか!」
無我夢中で繰り出した拳に嫌な手ごたえがあった。
次の瞬間、勇者はバタリと倒れ動かなくなった・・・・・・。
ラギア「どうするか・・・・・・」
「よくやってくれました」
ラギア「マスターヒート・・・・・・様!」
マスターヒート「まさかこんなタイミングでディバイダーを殺れるとは・・・・・・。それも君のような現地調達品が・・・・・・」
これは戦果をあげたことで幹部に昇進か?さらなる強化か・・・・・・?
それとも・・・・・・。
マスターヒート「これは手柄を横取りするのも容易いというものですよ」
やっぱりこういう流れか・・・。
妖牙帝国は生粋の悪の巣窟。
こういうやつが山程いることは解っていた。
マスターヒート「さぁ死んでもらい・・・」
ラギア「うらぁっ!!」
マスターヒート「ぐはっ・・・・・・貴様・・・・・・!?」
あーあ・・・またやっちまったよ・・・。
とりあえず・・・逃げるか
〇荒廃した教室
ラギア「勝った・・・・・・のか?」
〇新橋駅前
さて、どうする・・・。
勇者を倒した俺は人類の敵。
しかし幹部を殺しちまったから帝国からは裏切者。
そしてさらに厄介なのは・・・・・・
ブレイカー「見つけたぞ妖牙兵!!」
勇者はまだまだ沢山いるってことだ。
ブレイカー「まて!」
〇荒廃した教室
この姿のまま単独で行動するのは難しい。
人目につく場所を避けた俺は再び現場に戻り勇者の死体と対峙する。
怪人と違ってやられても爆発しないもんなんだなヒーローの方は・・・。
まぁ、その方が都合がいい
俺はディバイダーの装備をいただく事にした。
ラギア「これでよし・・・」
〇新橋駅前
ブレイカー「ディバイダー!」
ラギア「よう」
ブレイカー「ここらに妖牙のザコがうろついてなかったか!?」
ラギア「いや、知らないな」
ブレイカー「くそぅ! 折角の討伐報酬ボーナス期間だというのに稼ぎ損ねた!」
ラギア「ボーナス・・・?」
〇コンピュータールーム
理事「素晴らしい活躍だったなディバイダー。 おかげで今回の報酬ボーナス、エリアトップまで登りつめたよ」
ラギア「そりゃどうも・・・・・・」
あれから1ヶ月・・・・・・。
俺は勇者ディバイダーとしてヒーローを演じ続けている。
ヒーローといっても組織に所属し、妖牙狩りを請負っているサラリーマンみたいなもんだ。
基本的に倒した敵の数に応じて報酬がでる。
時々、国や支援団体からボーナスが上乗せされるのだが・・・・・・。
あの時、本物のディバイダーが逃げようとする俺達を追いかけてきたのはそういう時期だったかららしい。
理事「これからも頼むよディバイダー」
ラギア「・・・・・・」
〇近未来施設の廊下
「やぁ、ディバイダー。 相変わらずその姿なのね」
真島英真(ましま えま)・・・勇者達のスーツを作っている科学者だ。
ラギア「着心地がいいんでね」
英真「それは結構」
英真「ところで・・・・・・奴の居所は掴んだかい?」
ラギア「雑兵を一匹一匹確認してるわけじゃない。もうやっちまったかもしれないな」
英真「・・・ブレイカーの仇、奴だけは必ず・・・」
〇怪しげな祭祀場
ファンガ「ばかな!?勇者がなぜ!?」
元々、帝国にいた俺にとって情報を得ることは容易かった。
ファンガ「グギャアア!!」
敵の拠点を潰し報酬を得る。
しかしそれは・・・
雑兵「うわぁ! ファンガ様!?」
雑兵「逃げろ!!」
俺と同じ、元々人間だったかもしれない相手と戦うということ。
逃したところで助かるとは思えない。
〇怪しげな祭祀場
「おっと逃さないぞ雑魚ども!」
雑兵「勇者クラッシャー!?」
クラッシャー「ふははは、いい稼ぎだ!」
雑兵「ひぃ・・・・・・!」
ラギア「やめろ・・・破壊の勇者クラッシャー」
クラッシャー「ザコがまた1人! 邪魔をするな!」
ラギア「お前のスーツは右腕に全てのパワーを集中している。そのため左側は冷却効率を高めるために装甲が薄い」
クラッシャー「ぐはあっ!? なぜ・・・・・・!?」
雑兵「あ・・・・・・あ・・・・・・」
俺は・・・何と戦っているんだ・・・
〇コンピュータールーム
理事「真島くん・・・・・・これで何人目だ・・・・・・」
理事「この1ヶ月・・・・・・勇者たちの殉職が止まらない」
理事「国やマスコミからはスーツの欠陥を指摘されている。単一の能力を重視するあまりに隙があるのではないかと」
英真「ですが全ての機能を完璧になどできません。 強すぎる力は使用する人間の身体に大きな負荷がかかる」
理事「だが・・・勝てなければ意味はない。 このままでは研究資金の打ち切りもありえる。そうなればうちは終わりだ」
理事「例の実験・・・・・・次の候補者を探す時なのでないか?」
英真「・・・・・・そのために、人を犠牲にしろと?」
〇見晴らしのいい公園
ラギア「なんの様だ?」
英真「君に確かめたいことがあってね」
英真「いつから、君は君じゃなくなったんだディバイダー」
ラギア「何のことだ」
英真「わからないわけが無いだろう。そのスーツを作ったのは私だ」
英真「ディバイダースーツは全ての身体能力を効率よく上昇させる万能型・・・ だが、その代償は装着者の肉体を破壊してしまう」
英真「そのため、装着できるタイムリミットは酷く短いんだ。 ちょっとでも欲張って敵を深追いしようものなら・・・」
ラギア「なるほど・・・それであの時、ディバイダーに勝てたのか」
英真「ブレイカーをやったのは・・・君だね?」
ラギア「・・・・・・だとしたら?」
〇新橋駅前
ブレイカー「敵はどこだ! あと20匹は殺さねぇといけねぇってのに!」
ラギア「ボーナス・・・ってやつのためか?」
ブレイカー「当たり前だろ」
ブレイカー「俺たちゃ金のために危険なことしてんだ。稼げるときに稼いどかねぇとな」
ラギア「・・・・・・そんな事のために・・・」
ラギア「そんな事のために俺は殺される所だったってのか・・・」
ブレイカー「おい・・・どうした? ディバイダー・・・・・・?」
ラギア「うおぉぉあぁぁっ!!」
〇見晴らしのいい公園
英真「やはり知ってしまっているのだねディバイダー・・・」
ラギア「あの時、ブレイカーは爆発した。 つまりそれは・・・」
英真「そのとおり。 彼は妖牙兵と同じ肉体改造を施してあった」
ラギア「悪魔の力に手を染めたわけだな」
英真「だが・・・人を守るために必要な力だ」
ラギア「そのために人が人で無くなることになんの意味がある・・・!」
英真「どうだろうね」
英真「彼は金のため敵を殺す事になんの躊躇も抱かなかった。 果たしてそれは本当に人のものだったのか・・・」
英真「それならば・・・・・・」
英真「かつての仲間のために勇者を狩る君は本当に悪なのか・・・・・・」
守るために必要な力なのか
奪うために使う力なのか
何のために戦うのか・・・・・・
ラギア「俺は・・・もう戦う事しか出来ない」
英真「ならばその力・・・私の研究のために使わせてくれないか?」
英真「君の身体があれば、完璧な勇者を作る事ができる。 この戦いを終わらせようじゃないか」
ラギア「悪魔との契約だな」
英真「望みは叶えてあげられないがね」
〇兵器の倉庫
リッパー「追い詰めたぞ!」
ブレイザー「おのれ勇者め・・・! やろうども!」
リッパー「ザコがワラワラと!」
ラギア「・・・・・・・・・」
ブレイザー「貴様は・・・・・・!」
リッパー「勇者狩りディバイダー!?」
ラギア「戦いをやめろ・・・さもなくば・・・」
〇黒背景
俺はディバイダー・・・。
戦いの輪廻を断ち切る者・・・。
全てを終わらせる・・・・・・!!
end
悪の中の悪と悪の中の正義、
裏の裏は表でしょ、的なノリで片付かないですしね
勝ってしまった者の悲哀を感じました
怪人は悪の権化であり人間の敵である。しかし、怪人同士の戦いでは悪と悪の戦いが存在するが、悪の中にも正義の精神が生きているのかもしれません。
主人公はヒーローでもあり怪人でもある、どちらにも属さず両方の情報を持っているから強い。その代償として生じる彼の悩みに深い共感を覚えました。
また、爆発の有無によってヒーローとの差別化を設け、後半のストーリーにつなげていくのは良いテクニックだなと感じました。