10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在ミグ

第8話 幼児退行化現象(脚本)

10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在ミグ

今すぐ読む

10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇学校の屋上
  ウカと知り合ったのは、高校に入ってからだった。
  変わった奴がいる、と彼女はちょっとした有名人だった。
アメタ「何してるの?」
ウカ「朝ごはん」
アメタ「・・・・・・」
  早弁なんて当たり前で、人が見ていても平気で食事をしていた。
  対して性的な事に関してはプラトニックで、しかも誰とも交際していないという。
  なのに無駄に美人。
  奇抜な行動が目立ったが、成績は常にトップクラスなので学校も多目に見ていたのだろう。
  目くじらを立てていたのは僕の母さんだ。
  ふしだらな娘。母さんはウカをそう酷評した。
  あんな子と付き合っちゃいけません、と口を酸っぱくして言っていた。
  しかし思春期真っ盛りの十代男子が母親の言う事を素直に聞く筈もなく、
アメタ「配給品じゃ・・・・・・ ない?」
ウカ「パンがなければ、ご飯を食べれば良いじゃない?」
  まるでどこかの王女様。
  その頃、既に母さんの教えを十分なくらいに仕込まれていた僕にとっては、天地がひっくり返るくらいの衝撃だった。
  だって空腹を感じるのは悪い事だ。
  独善的で閉鎖的で公共性も社会性もない、手前勝手な欲望だ。
  なのに、それを恥とも思わず、こんなにもオープンに。
  こう言って良ければ初恋だったのだろう。
  自由で柔軟。何ものにも束縛されない彼女がとても魅力的に見えた。
ウカ「私は我慢なんてしない。食べたい時に食べたい物を食べる」
ウカ「君も一緒にどう?」
  ふたりきりで食事。つまりは密会。大人の階段を登った気がした。
ウカ「昔はこれが普通だった。恋人や友達同士、家族で食事をするのが当たり前だったんだ」
  さり気なく『恋人』という単語が出てきてどきりとする。
  僕の事を言っているのだろうか? けれども確認する勇気はなかった。
ウカ「どうしてだか、わかる?」
アメタ「質問の意味がわからない」
アメタ「独りでも出来る事を、どうしてわざわざ他人と一緒にしなくちゃいけないんだよ」
ウカ「その方が美味しいから」
アメタ「独りで食べても味は変わらないでしょ」
アメタ「それに栄養を摂取するのに美味しくする必要はないと思うけど」
ウカ「どうせなら美味しい方が良いじゃん」
  本当に独特の持論だった。
  一体どんな生活をしていれば、そんな考えを抱く様になるのか。当時から不思議で仕方がなかった。
ウカ「パパの影響かな? あ、本当のパパね」
ウカ「芸術家なの。文化を大切にする人」
アメタ「食事が文化だって言うの?」
ウカ「そうだよ。一緒に食べると、美味しいし、楽しいでしょ?」
  僕にも父親はいる。でもそれはバンクに精子を提供したどっかの誰かで、どんな人なのかはさっぱりわからない。
  母さんだけではなく、そんな別の親がいたら、僕の人生も少しは変わっていただろうか。
ウカ「君は良いパパになりそうだよね・・・・・・」
アメタ「・・・・・・え?」

〇映画館の入場口
  学生時代に夢見ていた事が、少々違うかたちではあるが現実になっている。
ウカ「よかったねぇウリコ」
ウカ「アメタが映画連れて行ってくれるって!」
ウリコ「うん。オラえもん!」
  傍から見たら完全に家族としか映らないだろう。
  こうなるかも知れなかった、もしもの姿。
ウカ「楽しみだねぇ!」
  でも結局、僕らが結婚する事はなかった。
  何故かというと、疲れてしまったからだ。
  事ある毎に母さんは僕らの間に割って入った。始めの内は耐えていたものの、結局根負けしたのは僕らの方だった。
  まったく食餌も摂っていない人間のどこにそんな根性があるのか、僕もウカもうんざりだった。
  兎に角、僕らの関係は何となく自然消滅してしまった。

〇映画館のロビー
  ロビーで人数分のチケットを購入。携帯端末をかざせば口座から料金が引き落とされる。
  以前はARコンタクトを使っても買えたが、人気作ともなるとシステムに混乱が生じる為、昔ながらの方式に落ち着いた。
  丁度前の上映が終わったのだろう、ホールから一斉に客が吐き出される。
  マスター・マザーの映像と共に、食糧への嫌悪を高めてきた連中だ。
  その手には何も持っていない。昔ならポップコーンとドリンクが定番の組み合わせだったらしいが、今はそんな物はない。
  手持ち無沙汰で只管作品に没頭するのが一般的だ。

〇劇場の座席
日和太「オラえもん助けてぇ〜」
日和太「またシーズー香ちゃんにフラれたよぉ〜」
オラえもん「ヒヨってんじゃねぇぞ! 日和太ぁ!」
オラえもん「これで解決だオラォァッ!!」
オラえもん「これでどんなオンナもイチコロだオラァッ!!」

〇劇場の座席
  基本的に子供向けの作品だからコミカルな要素が多い。
  笑える場面になると僕までつられてしまう。
  隣ではウリコも大喜び。ウカも子供の様に笑っていた。
  まったくいい歳した大人がそんなにはしゃぐなよ。少し呆れもしたが、それだけ映画の完成度が高いという事だろう。
  おしまい
  異常に気がついたのは映画が終わってからだった。
  ざわめきが収まらず、誰も席を立とうとしない。
  感想について喋りたいなら外に出てからでも良いだろう。いつまでもいたら次の客に迷惑だ。
アメタ「これからどうする? ウカ」
「もういっかい! もういっかいみうぅ!!」
アメタ「ダメだよウリコ。もう・・・・・・」
ウリコ「・・・・・・?」
アメタ「・・・・・・?」
ウカ「もういっかい! もういっかいみうのぉ!」
アメタ「ウカ?」
ウカ「あはっ! あああああーあああーーーー」
  ウリコが駄々を捏ねているのかと思ったが違う。
  悪ふざけをしている様にも見えない。
ウカ「やあぁーーーー!! あああーーー」
  泣きじゃくりながら手足を振り乱す。
  滑稽を通り越して不気味に見える。
アメタ「おいウカ! どうしたんだよ!」
「ばぶーーーーーーーーっ!!」
「おぎゃぁあああああああああああっ!!」
  見渡せば他の客も同じ様な状態になっていた。
  いい歳をした大人がTPOもわきまえずに狂乱している。
アメタ「何が起きてるんだ・・・・・・」
  尋常ではない。明らかに異様だった。
  食べる物がない世界よりも、性欲と食欲が逆転した世界よりも、子供とロボットだらけの戦場よりも、
  何よりも奇怪でグロテスクな場景だった。

次のエピソード:第9話 混乱

コメント

  • 人工授精…アメタくんのじゃあないのかなぁ、この流れ。
    それはさておきようやく来ました幼児退行。アメタが無事なのは食事とも関連しそうですね。

  • お付き合い中に親が介入してくるのは辛い😢
    デート回でほのぼのかなーと思っていたら
    金で解決オラえもん!
    子供……向け?
    そして幼児化始まった!?
    ワクワクする展開に目が離せない。
    助けてオラえもん

  • 冒頭、おいしいものをこんなに楽しむ子がどうして……?と切ないような気持ちになってからの、オラえもんwww現金最高!!スピンオフお願いしたい!😆
    からの、まさかの急転直下!😱すごい揺さぶりでした。
    やだまって、わたしもまだオラえもんみゆ……!

コメントをもっと見る(18件)

成分キーワード

ページTOPへ