1 不審者!?(脚本)
〇コンビニ
私の名前はいろみ。
レオ「ワウゥ~~~」
このワンコは我が家の飼い犬でレオ。
そして──
???「よぉーしよしよしよし。ほれほれー」
レオ「クゥ~~~ン」
この、レオを撫でてる人は知らない人。
いろみ「不審者!?」
???「へっ?」
突然立ち上がって周囲をキョロキョロして、人がいないことを確認したら、
???「もしかして俺のこと?」
首を傾げながら訊いてくる。
???「待ってくれ、俺はただこのワン公とじゃれていただけでだな」
いろみ「それが不審なんですっ」
???「いやそれだけで不審者扱いはひどすぎないっ!?」
いろみ「普通の域を超えている。逸脱している」
???「いいじゃねーか、飼い主様がコンビニにいる間にワン公を可愛がるくらいで罪になってたまるか」
いろみ「その発言、もはや異常癖! 変態!」
いろみ「こうしちゃいられない今すぐおまわりさんに──」
???「お願いします許してください」
男の人は速やかに土下座した。
それはもうきっちり指先を伸ばし揃え、額で地面を捉えている。
???「こちらの話を聞いてくださいませんかっ」
レオ「ワンッワンッ」
下げた頭をレオが前足でポンポンしている。
この絵面、加虐癖がある人にはきっとたまらない光景なんだろう。
しかし私はノーマル。
ステキな感情が湧いてきたりはしない。
だが、冷静さを欠いていた気はする。
コンビニから出てきてカチ合わせた人だ。
犬とじゃれているからって不審者と言いがかりつけるのはよくない。
臆面なく土下座するのは、それはそれは、およそ普通ではないんだけど。
いろみ「とりあえず顔を上げてくれません?」
???「意思疎通を図っていただけるのですかっ」
いろみ「私は日本語が話せる現代人」
いろみ「外人でも原始人でも宇宙人でもないですよ」
いろみ「ドゥーユーアンダースタン?」
???「おう、イエスッ」
男の人はズボンを両手で払いながら立ち上がる。
それから、自らの鼻先にピンと張った右指を添えた。
???「ちなみに英語の成績はかなり悪い」
???「壊滅的さ」
見事にエアーメガネクイッを披露してくれる。
やっぱり変な人なんじゃないかな?
???「えっとだな、オレ最近越してきた・・・・・・」
???「いや、家出?」
???「でも路頭に迷ってるわけじゃないし、許可も一応下りてるし」
???「・・・・・・居候?」
???「やべえなどう説明してもマトモにならないぞ」
この人、頭を抱えて遠い目をしているよ。
いろみ「いやどこに住んでるとかはどうでもいいんで」
いろみ「ウチのレオによしよししていた件を説明してくれれば納得するんで」
???「レオっていうのかコイツ」
???「うおお、カッコイイ名前もらえててよかったな、レオ」
レオ「ワンッ」
握りこぶしを作りながら嬉しそうにしている変態(暫定)
それと、少し良くしてもらっただけですぐ懐き、足に顔を撫でつけているウチの飼い犬(チョロい)
もう私帰ってもいいだろうか。
いろみ「じゃなくてね」
???「はい存じております」
???「えー、ただそこにいたからです」
いろみ「・・・・・・そうなの?」
???「そうだ。ただ目が合っただけなんだ信じてくれ」
いろみ「ホントに?」
???「目が語っていたんだ」
???「『汝よ、我を愛でよ。さすれば幸福が与えられん』って」
いろみ「また途端に分からなくなったのだわ」
???「そんなもんじゃないかな、世界ってやつは」
いろみ「もし私が全知全能なら、おにいさんみたいな人格は矯正するのに」
???「もっと個々の権利を尊重していただけませんかっ」
いろみ「いいえ、都合が良くなるなら押し通します」
いろみ「正す。初対面でも飄々としていてめんどくさいところとか特に」
消滅させるとかでないだけ大サービスのつもりだ。
???「あまり失礼でも、ましてチャラいつもりもないから、許してください」
短時間で2回も許しを請われた。
とりあえず勝ってる気がする。
いろみ「いいでしょう、許します」
???「ははー。寛大なお心に感謝申し上げます」
いろみ「ええ、無罪放免よ」
ああなんとお優しい私。
人が出来ているのだわ。
???「んじゃ、家帰って猫を吸わないといけないからさ」
???「今日こそはオレが勝つ」
???「身の程をわきまえさせてやる。それじゃっ」
軽く手を振りながら私の横を通り過ぎてコンビニに入っていった。
いろみ「・・・・・・結局動物に好かれやすいのか、嫌われやすいのやら」
なんて、炎天下で棒立ちになってあきれるのも数舜。
いろみ「アホらし。行こっか、レオ」
レオ「ワンッ」
私はくくってあったレオのリードを掴んで歩き出す。
しかし、知らない人なのに好き勝手言ったような気がする。
初対面に失礼だったのは果たしてどっちなのか。
いろみ「私の方が、謝るべきだった気もする・・・・・・」
いろみ「あっ、そう言えば、アイス」
慌てて手に提げたビニール袋の中から取り出したアイスは、包装ごしで完全に原型を留めていないことが理解できたのだった。
いろみ「はぁー、ショック」
レオ「ワンッ」
いかに悲しくても立ち尽くすことは許されず。
レオに引っ張られる形で家を目指すのだった。
世の中はいろんな不思議な出会いに満ちあふれていますね~。いろみちゃんの発想のぶっ飛び具合に驚きながらも、謎の人も怒るわけでもなく、素直に対応していて、ふたりのやりとりが微笑ましくもおかしく思えました。