日本列島総アニメ化法

犬項望

エピソード1(脚本)

日本列島総アニメ化法

犬項望

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〇空港の滑走路
  第一話「どうしてここがユートピア?」
  9年ぶりに帰国した椿 希倫<つばき きりん>は、変わり果てた日本の姿に首を傾げた。

〇未来の都会
椿 希倫「この国・・・・・・次元が下がっていませんか?」
  眼前の町並みは21世紀中盤の典型的地方都市。
  希倫が留学に旅立った9年前──。
  6歳当時と大差はない。
  変貌ぶりに希倫が驚いているのは人の姿だ。
椿 希倫「何故、皆さんアニメ化してるんです?」
椿 希倫「ここメタバース空間じゃないですよね!?」
  道行く人々が軒並み美少女キャラ、あるいはイケメンキャラになっている。
  実体のあるアニメキャラだ。決してコスプレではない。
  希倫が歴史の教科書で見たVチューバー。その3Dモデルにイメージは近い。
  いわば立体的な二次元の存在である。
椿 希倫「何て格好しているんですか?」
  美少女キャラたちの多くは、胸の北半球や南半球、あるいは横乳をたわわに晒している。
椿 希倫「そんなにたゆんたゆんさせたら! ゆっさゆっささせたらダメです!」
椿 希倫「倫理がなっていませんよ!?」
男の子「ママ、あのお姉ちゃん変だよー?」
男の子のママ「こら、実写の人間なんて見たらダメよ!」
  すれちがった親子のテンプレ会話が希倫の心を傷つける。
  希倫は椿家の令嬢として躾をされている。人前に出るに相応しい身なりをしている自信があった。
  だが、今の会話は服装よりもっと手前の段階。いわば生身の存在であることが恥であるように聞こえた。
椿 希倫「──まさか?」
  希倫の頭にある不安が過ったとき、眼前に一台の車が停まった。
  希倫はここ。
  空港前の自動車送迎場に迎えにきてもらう約束を家族としている。
  死病に侵された母に会いたい一心で、日本に帰ってきたのだ。
  停車したのはパトカー。
  降りてきた人物も家族ではない。
椿 希倫「犬のおまわりさん!?」
  警察の制服を着た二足歩行の犬が困り眉で尋ねてくる。
犬のおまわりさん「君、何でアニメ化してないんだワン?」
椿 希倫「ワン!?」
犬のおまわりさん「3秒以内なら見逃してやるワン。今すぐアニメ化するワン」
  言葉遣いまで完全に犬であることに希倫はめまいを覚える。
椿 希倫「そう言われましても・・・・・・ワンともかんとも・・・・・・」
犬のおまわりさん「スリー、ツー!」
犬のおまわりさん「ワーン!」
犬のおまわりさん「はいアウトー!  日本列島総アニメ化法違反の疑いで逮捕だワン!」

〇黒
  やはりそうなのだ──。
  希倫は妄想していた恐怖が、現実のものであることを悟った。

〇飛行機内
  日本に帰国するために乗った旅客機の座席で希倫は熟睡してしまった。
  着陸後、他の乗客がいなくなった機内でキャビンアテンダントに揺り起こされ、寝ぼけ眼で飛行機を降りたのだが──。
  おそらくは飛行中に、異世界へと迷い込んでしまったのだろう。
  希倫の知っていた日本とは似て非なるパラレルワールド。
  アニメ化していないと自由をはく奪されるディストピアに。

〇未来の都会
椿 希倫(格安の航空会社を使ってしまったのがいけなかったんですね)
椿 希倫(日本のパチものみたいな異世界に着くなんて!)
  帰国に要する費用は母方の祖父、勝希<まさき>が負担してくれた。
  勝希は大富豪であり、孫にお年玉や小遣いをたっぷりくれる善き祖父なのだが。
  渡した分の代価を家の手伝いや、家庭菜園での農作業などの労働として要求してくる面倒くさいじいさんなのだ。
  本職は生体コンピュータの研究者。
  いわゆるマッドサイエンティスト気質の変人なのである。
  渡された金を少しでも目減りさせずに返せるよう、格安航空のチケットを買ったのは希倫にしてみれば当然の選択だった。
椿 希倫「おじいさまがケチなのがいけないんですよ! 何でこんなことにー!」
犬のおまわりさん「何をわめいているワン? 話があるなら署で聞くワン」
  希倫がパトカーの中に押し込まれかけたそのときだった

〇未来の都会
白衣の少女「希倫さん!」
  パトカーの後ろにリムジンが停まり、そこから一人の女性が降りてきた。
  白衣を着たその女性もまたアニメキャラ。
  年の頃は18歳前後。白衣を着た理知的な美少女だ。
白衣の少女「右手をこちらへ!」
椿 希倫「え?」
白衣の少女「家に帰りたいなら、わたくしの手を握るのですわ」
  白衣少女の掌を握る。
  とたん希倫の手の甲が輝き、ディスプレイめいたものが立体表示された。
  セルフォン。ナノマシンの働きで人体の細胞を万能通信用コンピュータ化したもの。
  安価で安全、高性能なため瞬く間に普及。
  現在は日本政府が全国民に配布し、管理している。
白衣の少女「V-JACKスピードスキャン開始!」
白衣の少女「アニグレーション!」
  少女が音声入力したとたん、希倫の外見に変化が生じる。

〇未来の都会
  ドライヤー焼けのあった黒髪が美しいロングヘアに。
  肌からはそばかすが消え光り輝く白肌に変わる。
  鼻と唇は簡略されて記号化された。
  即ち──。
白衣の少女「希倫さん、アニメ化おめでとうですわ!」
希倫(アニメ化)「私? これ私?」
白衣の少女「希倫さんのお姿をスキャンして、アニメ調の3Dモデルを作成したのですわ」
  嬉しそうに説明を終えると少女は、犬のおまわりさんへと話しかけた。
白衣の少女「ウチの娘がご迷惑をおかけしております」
  少女は自らのセルフォンを用いて証明書付電子名刺を渡す。
犬のおまわりさん「椿家の方でしたか。これは失礼をしましたワン」
白衣の少女「我が家の教育不足です。罰金はお支払いしますわ」
犬のおまわりさん「社会がアニメ化したのも椿家のお蔭。罰金をいただくわけには──」
白衣の少女「いけません! 公正を欠いては椿の名に傷がつきます」
犬のおまわりさん「では受け取らせていただきます。お嬢様のことはお任せしますワン」
  犬のおまわりさんはパトカーに乗って去って行く。
  希倫は逮捕を免れたのだ。
白衣の少女「希倫さん、今はたてかえておきますから、あとで働いて返すのですよ?」
  少女は希倫に、いたずらっぽい微笑を向けるのだった。

〇車内
白衣の少女「さあ、希倫さんお乗りになって」
  少女の誘いに従いリムジンの後部座席に座る。
  様々な状況から、誘拐の心配はないと判断できた。
  先ほど、希倫のことを“ウチの娘”と呼び、証明書付の電子名刺を犬のおまわりさんに渡して“椿家の人間”として信用を得ていた。
  おそらくこの少女の正体は──。
  否定的な材料もある。
  だが、それに目を瞑り希倫は尋ねた
希倫(アニメ化)「あなたは私のお母様ですか?」
白衣の少女「何故、そう思うのかしら?」
希倫(アニメ化)「声がそのものですし、お顔もお母様をアニメ化したらこんな感じなのかな、と」
希倫(アニメ化)「まあ多少、若作りしすぎな気もしますが──」
白衣の少女「倫花<りんか>さんは現在入院中です」
  希倫の帰国日には一時退院できるよう治療を頑張ると言っていた母、倫花。だがそれは叶わなかったらしい。
  目の前の少女の正体は知りたい。
  だが、こうなると最も優先して質問すべきは別の事になってしまう。
希倫(アニメ化)「ここは私が知る日本なのでしょうか?」
白衣の少女「ええ、希倫さんが9年前に旅立った日本そのものですわ」
希倫(アニメ化)「こんな国じゃなかったはずです」
白衣の少女「日本は昔からアニメ大国ですよ?」
希倫(アニメ化)「だからって! 何で皆さんアニメ化しているんですか?」
  少女は心外そうな顔をした。
白衣の少女「それを知りませんの? 本当に?」
希倫(アニメ化)「学校の規則で、セルフォンの使用が制限されていましたので情報収集が・・・・・・」
白衣の少女「それにしたってニュースくらいは?」
白衣の少女「希倫さん、あなた留学中何をしていましたの?」
希倫(アニメ化)「・・・・・・いいから教えてくださいな」
  希倫が祖国の変貌をしらなかったのには理由があるのだが、後ろめたくて口には出せなかった。
白衣の少女「希倫さんがいない9年間に日本は生まれ変わりましたのよ」
白衣の少女「ご覧あれ、このユートピア!」

〇渋谷の雑踏
  誇り高く宣言する白衣の少女。
  彼女が示す車窓の外を歩いているのは常識的とは言い難い風体のアニメキャラばかりだ。

〇車内
希倫(アニメ化)「ディストピアですよ!」
希倫(アニメ化)「倫理が崩壊しているじゃないですか!」
希倫(アニメ化)「どんな仕組みか知りませんが、こんなことを強制するなんて!」
希倫(アニメ化)「久々に帰ってきた故郷なのに──」
希倫(アニメ化)「正直、失望しました」
白衣の少女「ふざけてなどいません。これは現実的かつ必要な選択なのです」
白衣の少女「お話しましょう。この国を変えた日本列島総アニメ化法、その全貌を!」
白衣の少女「この計画の先に待つのは全人類のユートピアであることを!」

次のエピソード:エピソード2

コメント

  • おもしろい世界観ですね!
    「実写の人を見てはいけません!」に全部持っていかれました😆

  • なんだか楽しそうですね!
    私もアニメ化されてみたい!って思いました。笑
    でも、事情があるみたいですが、いったいどんな事情でこう言ったことになるんでしょうか。

  • 発想が斬新で面白かったです!
    全ての日本人がアニメ化したら...想像が追いつきません!続きが楽しみ!

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