日本列島総アニメ化法

犬項望

エピソード2(脚本)

日本列島総アニメ化法

犬項望

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〇車内
  小癪なお嬢のディストピア

〇車内
希倫(アニメ化)「この国のどこがユートピアなのかは分かりませんが・・・・・・」
希倫(アニメ化)「私、9年ぶりに帰国して日本のことはさっぱり分からないので、よろしくご教示お願い致します」
白衣の少女「フフフ・・・・・・ ちっちゃくて小生意気だった希倫さんが、 おしとやかなレディになったものね」
白衣の少女「・・・・・・グスッ」
白衣の少女「あらやだ・・・・・・ 最近、涙もろくなってしまって。 歳はとりたくありませんわ」
希倫(アニメ化)「私と同じか、 少し年上にしか見えないんですが?」
希倫(アニメ化)「結局、あなたはどなたなのでしょう?」
希倫(アニメ化)「お母様に似ているのに、 そうではないとのお話ですが・・・・・・」
白衣の少女「フフフ、当ててみてください。 わたくしの名前を・・・・・・」
白衣の少女「一発で当てられたら、先ほど立て替えた”日本列島総アニメ化法”の罰金はチャラにして差し上げますわ」
希倫(アニメ化)「唐突なクイズ要素!?」
白衣の少女「制限時間はこの車が屋敷に着くまで──」
白衣の少女「もし外したら、 働いて返すんですのよ」
希倫(アニメ化)「そのセコさ・・・・・・ 誰かを思い出すのですが」
白衣の少女「では話を再開しますわ」
白衣の少女「日本がアニメ化した理由── それはあなたのご家族に、 大きく関わりがありますわ」
希倫(アニメ化)「私の家族?」
白衣の少女「希倫さん、セルフォンを起動できるかしら」
希倫(アニメ化)「はい、分かりました」

〇サイバー空間
  希倫は掌をモニター化した。
  2020年代のスマートフォンに似たディスプレイがそこに出現する。
  時代のスタンダード。
  先進国民なら必須の
  通信用コンピュータ、セルフォン。
  望んだとき、望んだ場所にディスプレイを表示し、操作することができる。
  この表示は光学的にされるわけではない。
  ナノマシンが視覚に干渉し、本人にだけディスプレイを見せているのだ。
  いわば視覚に意図的な錯覚を起こさせているのである。

〇車内
白衣の少女「その中にV-JACKアプリのアイコンがあるでしょう?」
希倫(アニメ化)「青いアイコンの、 でしょうか?」
希倫(アニメ化)「いつダウンロードされたんです? 覚えがないんですが?」
白衣の少女「それは日本への入国と同時に 自動でダウンロードされるのですわ」
希倫(アニメ化)「なるほど・・・・・・ 私は飛行機内で寝ていましたから、気づかなかったんですね」
希倫(アニメ化)「何に使うアプリですか?」
白衣の少女「V-JACKアプリの機能は大きく分けて2つ」
白衣の少女「1つ目は生身の体をスキャンして、 アニメナイズされた3Dモデルを生成、 保存すること」
希倫(アニメ化)「アニメ調の3Dモデル? 今の私のこの体のような、ですか?」
白衣の少女「はい、生身の身体を元に作成されたのが、 その3Dモデルです」
白衣の少女「俗に“正装”と呼ばれています」
白衣の少女「いわば基本モデルですわ」
希倫(アニメ化)「その言い方だと、 基本以外のモデルも あるということでしょうか?」
白衣の少女「ご明察です。 さすがは希倫さん」
白衣の少女「好きなデザインの3Dモデルを購入し、 保存することができます」
白衣の少女「あるいは完全オリジナルデザインの体を、 オーダーメイドすることも可能です」
白衣の少女「こちらは“異装”などと呼ばれています」
希倫(アニメ化)「“正装”と“異装”・・・・・・」
白衣の少女「そしてV-JACアプリ2つ目の機能が、 周囲にデータ信号を送ること」
白衣の少女「信号を受け取った相手に自分の姿を、 保存した3Dモデルと置き換えて視認させます」
白衣の少女「その際、生身の肉体は完全に隠して表示させるのです」
希倫(アニメ化)「つまり、アニメナイズされた自分の姿や、あるいは元とはまったく無関係な姿」
希倫(アニメ化)「どんな自分にでも見せることが できるアプリ、 ということですね」
白衣の少女「その通り!」
白衣の少女「セルフォン自体が“錯覚を見せる機能”で 成立している仕組みなので、 それをフルに活用いたしました!」
希倫(アニメ化)「凄いアプリだと思います」
白衣の少女「制作物は椿 倫花と椿 勝希。 つまり希倫さんのご家族ですわ!」
希倫(アニメ化)「さすがは倫花お母様と、 勝希おじい様・・・・・・」
白衣の少女「はい! わたくしたち父娘は凄いのですわー!」
希倫(アニメ化)「え?」
白衣の少女「コホン・・・・・・」
白衣の少女「以上が日本がアニメ化した 技術面での概要になります」
白衣の少女「何か質問は?」
希倫(アニメ化)「お蔭様でいろいろ分かりました。 ありがとうございます」
希倫(アニメ化)「質問したいことなのですが、 技術面以外になります。 よろしいでしょうか?」
白衣の少女「どうぞ」
希倫(アニメ化)「V-JACKアプリを全国民に義務化した理由です」
希倫(アニメ化)「ぶっちゃけ趣味のアプリですよね? 国で強制する理由がまったく分かりません」
白衣の少女「当然の疑問ですね」
白衣の少女「理由はいくつかありますが、 対外的には観光資源です」

〇未来の都会
(ご存じの通り昔からジャパニメーションは諸外国から注目されています)
(日本をアニメの国だと思いこんでいる外国の方もおられるほどですわ)

〇車内
白衣の少女「なので本当にアニメの国にしました!」
希倫(アニメ化)「ええ・・・・・・?」
白衣の少女「お蔭で海外からの観光客は倍増! 外貨獲得でウヒャーって感じですわ!」
白衣の少女「推しキャラにはいくらでもお金をつぎ込むのが、人間というものですからね」
白衣の少女「経済がクルクルーって まわりまくりますわ!」
希倫(アニメ化)「いやいや、待ってくださいよ」
希倫(アニメ化)「それで恩恵にあずかれるのって一部の業種の人だけですよね?」
希倫(アニメ化)「全国民が付き合わされるのは、 おかしいですよ」
白衣の少女「日本列島総アニメ化法は、 全国民に利益があるものです」
白衣の少女「観光などよりも遥かに大きな── 切実な理由があるのですわ」
希倫(アニメ化)「何でしょうか、それは?」
白衣の少女「それはこれから日本で生きてゆく中で、 感じ取ってください」
白衣の少女「9年を過ごした留学先では、 いろいろなことを学んだと思います」
白衣の少女「けど、日本ではそれを理解できる優しさを 育んでいただきたいの」

〇車内
希倫(アニメ化)「・・・・・・」
希倫(アニメ化)「申し訳ないんですが、 私は日本で生きてゆくつもりはありません」
白衣の少女「え!?」
希倫(アニメ化)「お母様のお見舞いが終わったら、 あちらの学校に戻ります」
白衣の少女「どうしてですの!?」
白衣の少女「せっかく帰ってきていただいたのに、 寂しいですわ」
希倫(アニメ化)「私、アニメは苦手なので」
白衣の少女「嘘でしょ!?」
希倫(アニメ化)「寄宿学校の学長が、 ジャパニメーション嫌いで、 閲覧は禁止の校則でした」
希倫(アニメ化)「朝礼でも散々に悪口を聞かされて・・・・・・」
白衣の少女「アニメが嫌いですって!?」
白衣の少女「けしからんですわー!」
白衣の少女「希倫さん、そんな学校辞めましょう。 日本の学校に転校するんです!」
白衣の少女「そしてたくさんアニメをみましょう!」
白衣の少女「古今の名作を生涯見尽くせないほどに、 ご紹介いたしますわ!」
希倫(アニメ化)「アニメを見るために学校を変えるのは、 勝希おじい様、 あなたのような重度のオタクだけです」
希倫(アニメ化)「正直、こんな極端なことをする国には、 馴染めそうにありません」
希倫(アニメ化)「観光地としては面白いですが、 永住するなら普通の国がいいです」
白衣の少女「希倫さん、日本を捨てる気ですの?」
希倫(アニメ化)「生身の体のまま生きたい人もいるんです。 それを無視して全員アニメ化なんて」
希倫(アニメ化)「オタクのユートピアは、 一般人にはディストピアです!」
白衣の少女「・・・・・・希倫さん」

〇ファンタジーの学園
  そのとき、
  二人を乗せたリムジンが停車した。
  周囲の住宅とは一線を画す大豪邸が、
  車窓の外に見える。
白衣の少女「家に着きましたわ」
希倫(アニメ化)「懐かしき我が家ですね」
白衣の少女「先ほどのお話はあとで改めてするとして・・・・・・」
白衣の少女「勝負はわたくしの勝ちですね!」
希倫(アニメ化)「勝ち?」
白衣の少女「お忘れ?」
白衣の少女「勝負していたでしょう。 わたくしが誰かを当てられるかのクイズ」
白衣の少女「それを当てられなかった以上、 わたくしの勝ちー! ですわー!」
  リムジンから降りると白衣の少女は、
  その姿を変えた。
椿 勝希(正装)「正解は椿 勝希!  お前の母方の祖父だ」
椿 勝希(正装)「さきほどの白衣の少女姿は“異装”」
椿 勝希(正装)「こちらの姿が“正装” つまり生身をもとにアニメ化した姿だ」
希倫(アニメ化)「・・・・・・」
椿 勝希(正装)「驚いたようだな?  ガハハハッ!」
希倫(アニメ化)「驚きません、気づいていましたから」
椿 勝希(正装)「ごまかしても無駄! 罰金分はしっかり働いてもらうぞ!」
椿 勝希(正装)「日本列島総アニメ化法の罰金は安くない! 返すのには時間がかかるぞ」
椿 勝希(正装)「あちらの学校は辞めて、 日本でわしの手伝いをしてもらおう ガハハハッ!」
希倫(アニメ化)「いえ、私は当てました。 証拠もあります」
椿 勝希(正装)「何!?」
希倫(アニメ化)「回答を言ったシーンを、 見せしましょう」
希倫(アニメ化)「私のセルフォンは古いバージョンですが、 録画くらいはできますので」
  希倫はセルフォンから信号を送り、
  勝希のセルフォンと共鳴させた。
  屋敷の塀をスクリーンに、
  動画が再生される。
  ナノマシンの作用で、
  二人の視覚には映像が見え、
  聴覚には音声が聞こえるのだ。

〇車内
希倫(アニメ化)「アニメを見るために学校を変えるのは、 勝希おじい様、 あなたのような重度のオタクだけです」

〇ファンタジーの学園
希倫(アニメ化)「以上、動画終了──」
希倫(アニメ化)「私の勝ちですね♪」
椿 勝希(正装)「何故分かったんですの!?」
椿 勝希(正装)「い、いや、何故分かった?」
希倫(アニメ化)「大富豪のくせに、 そのセコい性格・・・・・・」
希倫(アニメ化)「5歳だった私にお年玉分の労働を、 家庭菜園でさせたときと同じですもの」
希倫(アニメ化)「それにヒントをポタポタこぼしていました さながら壊れた蛇口のように・・・・・・」
希倫(アニメ化)「おじいさまは昔から、 お口がうかつなんですよ」
椿 勝希(正装)「・・・・・・」
椿 勝希(正装)「ガハハハッ! 小生意気なところは、 9年前と変わらずだのう!」
希倫(アニメ化)「おじいさまは9年前よりも、 頭がフサフサですね♪」
椿 勝希(正装)「うっ!?」
椿 勝希(正装)「ま、まあ髪の毛は、 確かに増やして見せている」
椿 勝希(正装)「“正装”でも多少なら 容姿をいじることが可能だからな」
希倫(アニメ化)「まさか、そのために V-JACKアプリを開発したんですか?」
希倫(アニメ化)「カツラ一つかぶればすむのに」
希倫(アニメ化)「日本中を巻き込むはた迷惑さが、 実におじい様らしいです♪」
椿 勝希(正装)「・・・・・・。 お前、9年経って 見た目はおしとやかになったが」
椿 勝希(正装)「小癪さが激化しておるのう・・・・・・」
  自宅に帰りついた希倫。
  だが、アニメ化した日本の変化に
  悶絶するのはこれからだった。

コメント

  • オタクのユートピアは、一般人にはディストピア、、、本作の世界観を一言で言い切る鋭いセリフですね!とはいえ、近い将来に「特区」を設けて実装される可能性も否定できないこの技術なので、本作の展開も見守っていきたくなりますね。

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