エピソード1(脚本)
〇駅の出入口
2月14日、とある駅前にて……。
浅見志保「痛っ……」
浅見志保(やっぱりパンプスって歩きづらいな……こんなの普段履かないし)
ガーリーな服にヒールの高い靴。
私・浅見志保(あさみしほ)は待ち合わせ場所へと急いでいた。
浅見志保(いたいた)
浅見志保「桐島……くん」
おそるおそる呼ぶと、男の子が振り向く。
浅見志保「ごめん、待った?」
桐島優斗「ううん」
桐島優斗「っていうか、俺も早く着いちゃったんだよね。 今日は誘ってくれて嬉しかったからさ」
浅見志保「そ、そっか……」
ニコニコしている桐島に、私はうまく返事をすることができない。
彼はクラスメイトの桐島優斗(きりしまゆうと)。
今日は2人で出かけることになっていたのだけど……。
桐島優斗「じゃ、今日はよろしく。梨香(りか)ちゃん!」
浅見志保「うん……」
浅見志保(今日の私は梨香。 ちゃんとやらないと……)
〇ファンシーな部屋
話はさかのぼること一日前、2月13日の夜ー。
浅見志保「梨香、大丈夫?」
浅見梨香「ゴホッ、ゴホッ……」
自宅では、双子の妹・梨香(りか)がベッドの中で苦しそうにしていた。
浅見志保「熱はないけど……咳も出てダルいなんて、風邪だよ」
浅見志保「明日のデートは中止だね」
浅見梨香「そんなぁ〜……」
浅見梨香「バレンタインのチョコも用意してるのに。志保が選んでくれたやつ……」
浅見志保「あれね。しょうがないよ」
浅見志保「とりあえず桐島に連絡して、あとはゆっくり休みなよ。 おかゆ作ってきてあげる」
梨香の部屋を出ようとしたら、ジーッと視線を感じて……。
浅見志保「何?」
浅見梨香「……明日ってバスケ部休みだよね?」
浅見志保「そうだけど」
浅見梨香「志保が代わりに行ってきて」
浅見志保「……は?」
浅見梨香「私のフリして、桐島くんとデートしてきてよ!」
浅見志保「はぁ〜〜〜!?」
〇駅の出入口
再び戻って、2月14日ー。
結局、梨香のお願いを断りきれず……。
私は梨香のフリをして、桐島とデートをすることになったのだ。
浅見志保(私って梨香に弱いなぁ)
桐島優斗「梨香ちゃん?」
浅見志保「え? あ、はい!」
桐島優斗「なんかボーッとしてるけど、大丈夫?」
浅見志保「ちょっと緊張してるかも。あはは……」
桐島優斗「そうなんだ……」
浅見志保「……な、何? そんなに見てきて」
浅見志保(もしかして、バレちゃった?)
背中に冷や汗が流れたものの……
桐島が首を振る。
桐島優斗「いや、私服も可愛いと思って」
浅見志保「えっ……」
桐島優斗「ほ、ほら、早く行こう! 映画始まるし!」
桐島が照れくさそうにすると、私までドキドキしてしまう。
浅見志保(どうしよう、すごく嬉しい……)
浅見志保(だって……本当は私も桐島のことが好きなんだから……)
浅見志保(でも、私の気持ちは隠さなくっちゃ。)
浅見志保(桐島のことは好きだけど、梨香のことも大切だし……。2人がうまくいくならそれでいいよね……)
自分の気持ちをグッとこらえて、私は『梨香』のまま桐島とデートをすることにしたー。
〇映画館のロビー
映画館に着いて、観るものを選ぶことになり……。
浅見志保(うーん。梨香はどれでもいいって言ってたけど……)
浅見志保(私と梨香じゃ好みが違うしなぁ……梨香っぽいものにしないとだよね。恋愛映画とかかな?)
浅見志保(あとは桐島の好きなものとか……この前、学校でアクションが好きとか言ってたっけ)
桐島優斗「ねえ、観るものなんだけどさ」
浅見志保「私はどれでも大丈夫だよ」
浅見志保「あっ……」
浅見志保(あの映画……!)
ふと案内板を見た時、前から気になっていた映画を発見した。
それは、バスケに打ち込む学生を描いた映画。
浅見志保(同じ部活の子が面白かったって言ってたな)
浅見志保(観たいけど、今日はダメだよね。また後にしよう……)
浅見志保「……」
浅見志保(でも気になるな……)
浅見志保(しかも、今日が最終日って書いてある。そんなぁ……諦めるしかないかな……)
浅見志保「……」
桐島優斗「……ねえ、これにしよっか。バスケもの、青春って感じだよね」
浅見志保「え!?」
浅見志保「桐島くんはいいの? 他に観たいものかあるんじゃ……」
桐島優斗「今日はせっかく一緒に来てるんだし、梨香ちゃんが観たいのにしようよ」
浅見志保「あ、ありがとう!」
浅見志保(やった……! 好きな人と好きなもの観れるって、すごく嬉しいかも)
〇映画館の入場口
映画が終わり、私たちは感想を言い合いながら館内を出て来た。
浅見志保「面白かったね! 最後のシュートのところなんて、すっごく感動したよ」
桐島優斗「めっちゃ良かったよな。主人公がスリーポイントを決めて逆転してさ」
浅見志保「私の観たいものにしてくれて、本当にありがとね」
桐島優斗「いいっていいって! それに俺もあの映画気になってたからさ。観られてよかった!」
桐島が楽しそうに感想を話す様子に、私ははホッとする。
浅見志保(無理に付き合わせちゃったかと思ったけど、桐島も喜んでてよかった)
浅見志保(しかもそう言ってくれるなんて、私が気にしないように気づかってくれてるんじゃないかな)
浅見志保(やっぱり優しいな……)
〇公園のベンチ
そのあとは一緒にお茶したりして、ブラついていた。
2人でおしゃべりしながら歩いていたのだけど……。
浅見志保(……足、痛くなってきたかも。慣れない靴で来ない方がよかったかな)
私の歩くスピードが遅くなると、桐島が急に立ち止まる。
桐島優斗「ねえ、ちょっと休憩しよっか」
桐島優斗「俺、買い物してくるからベンチで座って待ってて」
浅見志保「うん、わかった」
桐島を見送ると、私は近くのベンチに座って一息ついた。
浅見志保(よかった……歩くの辛くなってきたから助かったよ)
パンプスを脱ぐと、足の小指の皮がむけて赤くなっている。
浅見志保(うわ、靴擦れだ……)
浅見志保「はぁ……」
浅見志保(せっかくだけど、そろそろ終わりにしないといけないな)
浅見志保(梨香も待ってるだろうし、チョコを渡して帰らないと)
しばらくして、戻って来た桐島が目の前に何かを差し出してくる。
桐島優斗「あのさ、これ……」
浅見志保「バンソウコウ?」
桐島優斗「さっきから歩きにくそうにしてたから、どこか痛めたんじゃないかと思って」
浅見志保「ウソ、気づいてたんだ……」
桐島優斗「って足、赤くなってんじゃん!」
桐島優斗「悪い、もっと早く気づけばよかったよな」
私の足元にしゃがむと、桐島はバンソウコウを貼ってくれた。
浅見志保「じ、自分でできるから」
桐島優斗「でもやりづらいじゃん。いいって」
浅見志保「……なんかごめん。買ってきてもらっただけじゃなくて、ここまでしてもらって」
桐島優斗「俺がやりたいだけだから」
浅見志保「うん……本当にありがとう」
浅見志保(ちょっとチャラいところもあるけど、こういうところがやっぱり好きだな……)
バンソウコウを貼り終えて靴を履くと、私は足踏みをしてみた。
浅見志保「うん、これなら大丈夫!」
桐島優斗「よかった。足痛めたら、バスケできなくなっちゃうもんな」
浅見志保「……え?」
桐島優斗「あっ……」
浅見志保(梨香は帰宅部だし、バスケをやってるのは志保……つまり私なんだけど……)
気まずい顔になる桐島を見ていると、私の胸に不安がやってくる。
浅見志保(気づかれたんだ……!!)
桐島優斗「あ……! お、おい、浅見……!」
桐島の呼び止める声を振り切って、私はその場を去って行った……。
〇川沿いの公園
浅見志保「はぁ、はぁ……」
浅見志保(どうしよう、もう梨香との約束も果たせないし……)
浅見志保(桐島、どう思ってるんだろう……だましてたなんて、印象最悪だよね)
浅見志保「とりあえず梨香に謝らなくっちゃ……」
電話をかけると、すぐに元気そうな梨香
の声が聞こえてきた。
〇ファンシーな部屋
プルルルル……
浅見梨香「もしもし志保〜? どうしたの?」
〇川沿いの公園
梨香の声を聞いたら、申し訳なくて涙が出そうになる。
浅見志保「ごめん、失敗だよ。バレちゃった……」
浅見梨香「『そっかぁ……』」
浅見志保「桐島って、もしかしたら結構前から気づいてたのかな?」
浅見志保「映画も私が観たかったやつにしてくれたし、バスケ部だろって足も手当てしてくれたし……」
浅見梨香「『やっぱり優しいね、桐島くん』」
浅見志保「うん……」
浅見志保(梨香の好きな相手って言われても、やっぱり諦めきれないよ……)
浅見梨香「『そういえば、チョコ渡した?』」
浅見志保「まだだけど……」
浅見梨香「『まだなら、ちゃんと渡してね。あれは志保が選んだんだし』」
浅見志保(私の方がセンスがいいとか言って、梨香に頼まれたんだっけ……)
浅見志保(でも、別の女の子からのチョコを好きな人に渡すの? そんなの……)
浅見志保(いくら梨香でもイヤだよ……)
浅見梨香「『せっかくのバレンタインなんだよ。好きな人にはチョコ渡さなくちゃ!』」
浅見志保「……?」
浅見梨香「『志保も、好きな人にちゃんと渡さなくっちゃダメだよ』」
浅見志保「梨香、もしかして私の気持ち気づいて……」
〇ファンシーな部屋
浅見梨香「ふふふ、計画通り……」
浅見梨香「私のことは気にしないで。 桐島くん、きっと志保からのチョコ待ってるよ!」
〇川沿いの公園
浅見志保「えっ、どういうこと!?」
梨香は笑いながら電話を切ってしまった。
浅見志保「なんなの……私からのチョコって?」
???「よかったら、くれない?」
浅見志保「!!」
振り返ると、桐島が勢いよく頭を下げた。
桐島優斗「ごめん、浅見! 俺、全部知ってたんだ……」
浅見志保「? どういうこと?」
桐島優斗「今日のデートを頼んだの、俺だから」
浅見志保「えっ!?」
桐島優斗「浅見の妹に相談したら、準備してくれて……」
桐島優斗「いいところ見せるには、2人きりになるのが一番! ってことになってさ……」
桐島優斗「浅見の妹が今日のデートを思いついてくれたんだ」
浅見志保「……」
浅見志保(それじゃあ、桐島は最初から……)
浅見志保(私だってわかってて、いろいろしてくれたんだ。映画もさっきのバンソウコウも)
浅見志保(……? 私にいいところを見せる?)
桐島優斗「セコいことしてごめん。 すっげー未練がましいけど、これだけは言わせて……」
桐島優斗「俺、浅見のことが好きです」
浅見志保「……!」
浅見志保(ウソ……)
ドキドキして、胸が熱くなって……嬉しくて言葉が出なくなってしまう。
黙っていると、桐島が残念そうな顔をした。
桐島優斗「……急にコクるとか、迷惑だったよな」
桐島優斗「もう忘れてくれて構わないから。今日は一緒にいられて嬉しかった」
ペコっと頭を下げると、桐島は帰ろうとする。
浅見志保「ま、待って! これ……!」
私が差し出したものを見て、桐島がビックリした。
桐島優斗「え……。これ、チョコだよな?」
桐島優斗「嬉しいけど、失恋した相手からはちょっと……」
浅見志保「ち、違うの!」
浅見志保「そのさ……」
浅見志保(ここまできたんだから、ちゃんと言わないとだよね)
浅見志保「……わ、私も好き。桐島のことずっと好きだったの!」
桐島優斗「……」
浅見志保「だから受け取って。両思いの相手からとして……」
桐島優斗「……」
桐島優斗「……ありがとう」
桐島優斗「やば、すごい嬉しいや……これからもよろしくな」
浅見志保「うん……!」
チョコを渡して、私と桐島は笑い合うのだった……。
どうなるのかと思っていたら、最初から仕組まれていたとは思いませんでした。
びっくりしましたけど、姉妹愛っていいなぁと思いましたよ!
二人ハッピーエンドでキュンキュンしました。
なるほど、いい双子ですね~!という事は風邪もウソだったってことですよね?うまいストーリー展開で、最後まで楽しく読むことができました!
双子ってこんなこともできるんだぁって思って読んでいたら、そういうことだったんですね♪ハッピーエンドで嬉しい♪双子だからこその以心伝心、姉妹愛って感じですね!