ゴースト・ライター〜幽霊作家は憑かれてる〜

らららコーポレーション

1【自分らしさの証明】(脚本)

ゴースト・ライター〜幽霊作家は憑かれてる〜

らららコーポレーション

今すぐ読む

ゴースト・ライター〜幽霊作家は憑かれてる〜
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇散らかった職員室
  彼女のほっそりとした指先が
  何枚もの紙の束を一枚ずつ捲っていく
  その度に、田村祭の心臓は変な感じに鼓動が早くなる。
  呼吸が浅くなり、なんだか目の前にある景色がアクリル板の向こうにあるように、ぼうっとした色に変わっていくのだ。
  こればっかりは、何度経験しても慣れることはない。
金子観月「ふう・・・」
  あのさあ、と彼女がため息まじりに視線を向けてくる。
田村祭「は、はい・・・!?」
田村祭「ど、どうでしょうか?」
金子観月「それ、聞く?」
田村祭「は、はい!  一応、聞いておこうかなあ、と・・・」
  地獄のような静寂がその場に流れる。
金子観月「ボツ」
田村祭「はぐぅ!」
  コントのようにずっこけた青年に向け
  冷え切った視線を送る女性。
田村祭「観月さぁん・・・」
金子観月「あのね、祭くん」
田村祭「はい・・・!」
  つられて、祭もピシッと背筋を正す。
金子観月「いいところが一つもない!」
田村祭「ひどすぎるっ! 仮にも担当編集でしょ!?」
金子観月「相も変わらず、あなたの作品には、一貫してテーマがない!」
田村祭「テーマ?」
金子観月「主題、とも言えます。この作品を通して、『何を読者に伝えるのか』それが曖昧!」
田村祭「ああ、それなら・・・。 ないことは、ないですよ?」
金子観月「言ってみて」
田村祭「何気ない日常を通して・・・」
金子観月「そんなありきたりなもんは もっとでかい出版社でやれ!」
田村祭「ぐう・・・」
  それを言われちゃ、ぐうの音も出ない。
  企画段階から言われてきたことだ。
  テーマは明確に。
  しかし、祭は担当編集である観月に、
  頭を下げまくってこの企画を通してもらった。
  それもひとえに、
  「自分の」作品を世に出したいと思ったから。
  売れるかどうかもわからない小説の企画を通してくれた観月も、ただ怖いだけの鬼編集ではない、ということだ。
  祭が完全に論破され、先ほどに輪をかけて背中を丸くしていると、観月がため息まじりにボヤく。
金子観月「デビュー作は、あんなにトガってたのにねぇ・・・」
  金子観月は、決して無能な編集者ではない。
  むしろ、弱小ライトノベルレーベルである「ライトニング文庫」において、担当する作品を次々とヒットさせた敏腕である。
  まだまだ若輩の祭を見出して、育ててきたのも観月なのだ。
  デビュー作である
  「羅生の鬼が仮面を被り、人間の門をくぐるが大失敗した件」をヒットさせ
  「田舎」から出てきて生活のため「アルバイト」に明け暮れる小説家志望でしかなかった祭を「小説家」と名乗れるようにしてくれた
金子観月「てか、テイストが全然違うんだけどなんで? 別の人間が書いたみたい」
田村祭「あ、いやあ、そのう・・・」
金子観月「まるで、芥川龍之介と太宰治と三島由紀夫を足して3で割ってライトノベル書いたみたいな、凄まじいエンタメ小説だったのに・・・」
田村祭「きょ、恐縮です・・・」
  こうして何度となく繰り返されたやり取りをまた、繰り返す
芥川龍之介「やはりわかっているなぁ観月ちゃん」
三島由紀夫「ていうか、的を射すぎてて逆に怖い」
太宰治「今時の女にしては、良いセンスしてるじゃん」
田村祭「ホント、観月さんもなんか能力持ってんじゃないの?」
金子観月「ん、なに?」
  祭の独り言とも取れる呟きに、眉をひそめる観月
田村祭「いや、なんでもないです・・・!!」
金子観月「とにかく!  こんなんじゃOK出せません!  来週までにリライトしてくること!」
田村祭「はい・・・」

〇タワーマンション
田村祭「はあ・・・つかれた・・・」
  肩をガックリと落とし、ライトニング文庫編集部のある株式会社MARUKAWAのエントランスから幽鬼のように出てくる祭
  その背中にはまるで何か悪いものが憑いているようだった
  というか、完全に憑かれていた
  しかも、三体もの性悪なゴーストたちに
芥川龍之介「だから僕は言ったんだよ。祭の原稿じゃ無理だって。もっと自分を追い込まなきゃさ!」
田村祭「ぐ・・・」
  当然のこと、とでもいうようにストイックな正論を叩きつける生真面目で繊細そうなゴーストその一
  芥川龍之介
三島由紀夫「私は十六の時には既に文壇に認められていたがな!」
田村祭「ぐぬぬ・・・」
  何かというとマウントをとってくるマッチョで暑苦しいゴーストその二
  三島由紀夫
太宰治「まあまあ、三島くん。前途ある若者に対して、そんな風に言うもんじゃないぜ?」
  唯一、祭を擁護してくれるのは
  上品そうなイケメンのゴーストその三
  太宰治
太宰治「人には、才能というものがあるんだからさ。 祭は俺たちとは違うんだ!」
田村祭「ぐはぁ!!」
  そして三人のゴーストの中で
  一番辛辣な言葉を祭に突き刺す太宰治なのであった・・・
  田村祭は、東北のとある村の出身である。

〇田園風景
  田村家は、古くから「イタコ」の家系として地元では有名な家だった。
田村祭「はあ・・・」
  田んぼに挟まれた小道を深いため息をつきながら、田村少年はトボトボと重い足取りで歩いていた
柳「くー?」
  と、隣で主人の事を心配するように寄り添う、白い狐
  普通の狐の赤ん坊ほどの大きさのそれは、
  祭の肩にヒョイ、と飛び乗り、頬をチロチロと舐める
田村祭「あはは・・・ ありがとう、柳」
  柳は、クダギツネである
  妖の一種で、基本的に一般人には見えない
  管(竹筒の事)に入るほど小さいから
  管狐(クダギツネ)
  その力を使い、イタコは占術や呪術を操ることができるのだ
  イタコの家系である田村家の子供は、赤ん坊の頃から一匹のクダギツネと共に育てられる
  祭の高校卒業までの十八年間
  兄妹のように育った柳には、以心伝心
  祭が悩んでいることなど一目瞭然だった
柳「きゅ〜」
田村祭「うん、大丈夫だよ」
柳「きゅー!」
  肩の上で元気にぴょんぴょんと跳ね回る柳
  その様子は
  誰が見ても心がじわっと温かくなるような
  この十八年間変わることのなかった
  穏やかな光景であった
  しかし・・・
田村祭「うん、決めた!!」
柳「こん?」
田村祭「僕やっぱり東京に行くよ!」
柳「きゅ・・・・・・ えぇぇぇ!?」
  唐突な祭の言葉に
  今度は別の意味で飛び上がる柳
柳「こん!  きゅきゅ、きゅー!?」
田村祭「柳のお陰で、気持ちの整理ができた!」
田村祭「僕は東京に行って、小説家になる!」
柳「きゅう!  急すぎだきゅう!」
  ちょっと待て、考え直せ、と訴えかける柳
田村祭「ありがとう! 僕はこの村で、ばあちゃんや、父さん、母さんの跡を継いでイタコになるより、夢を追いかけることにしたんだ!」
柳「きゅう・・・」
  以心伝心はどこに行った? 
  十八年間の絆とはなんだったのか?
  と柳が本気で悩んでいると・・・
田村祭「実は、新幹線のチケットはもう とってあるんだ!」
田村祭「もうアパートも契約してあるんだ!  豊島区の椎名町って駅でね あの有名な、トキワ荘があった街だよ!」
柳「てめえ、行く気満々じゃねえか!  あ・・・きゅ、きゅう〜」
  なんだか思わず人間の言葉を喋ってしまう柳だったが
  夢を語る祭には聞こえるはずもなかったのであった。

次のエピソード:2【兄妹? 姉弟? 祭の上京物語】

コメント

  • きっとこの錚々たるメンバーに憑かれているということは才能はきっとあるのですね…。
    むしろこの三人を超える存在に…ありそうです!

  • ゴーストライターが”ゴースト”に憑かれている”ライター”とは、凄まじい発想力ですね!この名だたる文豪3人をどう制御するのか(できないのか)、今後が楽しみになってきます!

  • 太宰の締めの言葉が全てを語っているみたいで。でも世に名を遺した偉人だからこそ、言える一言なのでしょうね。追い打ちをかけるような、『いたこ』の家系というのが最高です!

成分キーワード

ページTOPへ