1 魔女(男)と人間(女)(脚本)
〇幻想
魔女には禁忌(タブー)がある
自分のために、魔法を使ってはいけない
だから、俺は──
ルカ「君のために、惚れ薬をつくってあげよう」
ルカ「いつか効果が切れてしまうような “にせもの”ではなく」
ルカ「一生続き」
ルカ「永遠の愛をもたらす」
ルカ「“ほんもの”の魔法だ」
〇暖炉のある小屋
悪い魔女(男)と恋する人間(女)
ルカ「ええいっ、何度も言わせるな!」
ルカ「俺は惚れ薬なんかつくらない!」
ルカ「つくらないったらつくらないぞ!」
ユウ「また断ったの!?」
ユウ「久し振りの依頼だったのに~・・・」
シノノメ「断るにしても」
シノノメ「定型文のメールを返すだけとは・・・」
シノノメ「あの大魔女の孫なら──と、期待をしてくださった方に対して」
シノノメ「失礼だとは思わないのですか」
ルカ「おばあさまのことは言うな・・・!」
工房(キッチン)で喚き散らしている主に向かって、
カウンターに座った使い魔たちは、揃ってため息をつく
ユウ「惚れ薬が主力商品だってこと、わかってるよね」
ルカ「なにが惚れ薬だ」
ルカ「浮かれた気分になるだけの"にせもの"じゃないか」
ルカ「それも3日と持たない品質のものを、高値で売りつけるなんて」
ルカ「そんな詐欺まがいのことはしたくないと言って、どこが悪い!」
ユウ「平均は3週間でしょ」
シノノメ「素材を厳選し、天体の影響を考慮すれば 3年とも言いますね」
ルカ「たとえほかにどんな材料を揃えて」
ルカ「目くらましの時間を引き延ばそうと」
ルカ「<涙のしずく>が使われていなければ、惚れ薬とは言えない」
誰かのために流す涙は、宝石になると言われている
それが、あらゆる魔法薬の効力を高めると言われている<涙のしずく>だ
ルカ(だが・・・)
ルカ(<涙のしずく>は、もう何百年も見つかっていない)
そこで魔女たちは、代替品を使うようになった
ルカ「氷砂糖だなんて、バカげてる」
惚れ薬の主な材料は、果物とスパイス
花やハーブ
そして<涙のしずく>だ
<涙のしずく>が氷砂糖になれば、結果として手に入る“にせもの”は
フルーツのシロップとでも呼ぶべきものでしかない
ルカ(代わりになるものなんて、ありはしないのに・・・)
ユウ「だとしても」
シノノメ「人々の求めに応じてこそ、魔女と呼ばれるのでしょう」
シノノメ「ワタクシは雄鶏であって、閑古鳥ではないんですよ」
ユウ「ボクだって、自分には見る目がない、なんて思いたくないよ」
ユウ「だけど、由緒正しい家に生まれて、学院だって主席で卒業したルカより」
ユウ「惚れ薬しかつくれない魔女の方が、よっぽど繁盛してるんじゃ・・・」
ユウが、それまで片手間に操作していたスマホの画面を見せる
今日もたくさんのご注文、ありがとうございます!
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彼もうっとりしながら私のことを見つめてくれました・・・きゃっ♡
またオーダーしたいと思います!
ルカ「・・・・・・」
シノノメ「ヒトにとって、関心の高いものであることは明白です」
ユウ「魔女にとってもね」
魔女は、自分だけのレシピを持っている
惚れ薬をはじめとして
恋を叶えるとうたう魔法の品は、次々と生み出されていた
ルカ(だが、誰にとっても重要なものが・・・)
ルカ「俺にとっても、そうだとは限らない」
シノノメ「・・・」
ユウ「・・・」
小さな画面から、窓の外へと視線を逸らす
空には雲ひとつない
快晴も快晴だ
ルカ「・・・雨が降るな」
ルカ「雷が落ちるだろう、採ってくる」
ほうきを手に取り、帽子を目深にかぶる
俺はひとり、工房を出た
〇川に架かる橋
歩き出して、すぐのことだった
誰かにぶつかってしまった
ルカ(俺としたことが・・・)
帽子を深くかぶっていたせいだ
前をしっかり見ていなかった
ルカ「すまない、怪我は──」
ヒトミ「ッ・・・」
ぶつかった相手は、どこにでもいるような、ふつうの人間の女性だった
だが──
ルカ(涙が・・・)
彼女の目からこぼれる大粒の涙は、キラキラと光っていた
ルカ(まさか──)
ヒトミ「す、すみません」
ヒトミ「ちゃんとまわりが見えてなくて・・・」
彼女は目元を隠すようにして、手で涙を拭おうとした
硬く澄んだ音を立てて、きらめく涙がこぼれ落ちる
ルカ「!」
とっさに、それをてのひらで受け止めていた
ルカ(ひんやりしているような・・・あたたかいような・・・)
ルカ(硬いような・・・柔らかいような・・・)
ルカ「・・・・・・」
それはてのひらの中で、キラキラと光っている
ルカ「・・・」
ルカ「君は──」
ヒトミ「えっ?」
ルカ「愛を信じたんだな・・・?」
ヒトミ「・・・!」
そうでなければ<涙のしずく>が生まれるわけがない
ルカ(そして、裏切られた)
ルカ(──愚かだ)
ルカ(惚れ薬をほしがる人間も、つくる魔女も)
ルカ(愛なんて、まぼろしを信じている)
ルカ「・・・──」
魔女には禁忌(タブー)がある
自分のために、魔法を使ってはいけない
ルカ(禁忌を破れば、魔女としての力を失う)
ルカ(それだけじゃない)
ルカ(永遠に苦しむことになる)
だから、俺は──
ルカ「君のために、惚れ薬をつくってあげよう」
ルカ「俺なら」
ルカ(君の気持ちを利用して)
ルカ「“ほんもの”をつくることができる」
ヒトミ「・・・・・・」
ヒトミ「い──」
ヒトミ「いらない、です・・・」
ルカ「・・・」
ルカ「・・・は!?」
ルカ「だって、君、失恋したんだろ!?」
ヒトミ「そッ、なっ、なんで知ってるんですか!?」
ルカ「見ればわかる!」
ヒトミ「えーっ!? やだやだ!」
彼女はなぜかバタバタと、服のほこりをはたきはじめる
ルカ「惚れ薬だぞ!?」
ルカ「振られた相手をひざまずかせることも、 振り向かない相手を振り向かせることもできる!」
ヒトミ「・・・ッ」
ルカ「ほしくないのか」
一瞬ためらってから、彼女が口を開いた
ヒトミ「・・・でも」
ヒトミ「それって、ウソじゃないですか・・・」
ルカ「・・・」
ルカ「──そうだ」
ルカ「巷にあふれる“にせもの”であれば」
ルカ「だが・・・」
ルカ「俺は“ほんもの”の魔女だ」
大きな三角帽のフチをなぞる
ルカ「いつか効果が切れてしまうような “にせもの”ではなく」
ルカ「一生続き」
ルカ「永遠の愛をもたらす」
ルカ「“ほんもの”の魔法をかけることができる」
ルカ(そして、俺は)
ルカ(“ほんもの”の魔女になる──)
引き込まれました。まさかの「いらないです」が、キュンです。続きを見てみます。感謝。
惚れ薬がたとえ永遠に続いたとしても、それは偽物というヒトミさんの気持ちがわかります。
好きな人には心から本心で愛されたいですよね。
それが女心ですよね。
薬の効き目はひとそれぞれで、『私は飲んだから大丈夫』というような精神的な効き目も大いにあるかと思います。プロパガンダされた薬に騙されるのも本人次第、でもそれを上手く効能にまわすのも。彼のような感受性に優れた魔女の惚れ薬、私は試したいと思います!