後は野となれ 花となれ

もと

拾える物は拾え(脚本)

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〇荒野
リュート「これも本物だな ・・・後で磨いてやる、待ってろ」
リュート「・・・もう少し粘るか」
  物心ついて何十年と滅びたての村や町を
  渡り『拾い物』をして生きてきた。
  そして今夜は大当たり、稼ぎ時らしい。
  魔術師か魔物の炎を使ったんだろう。
  小国が滅んだと言ってもいい規模の
  広大な焼け野原だ。
  何もかもが触ると崩れるのは厄介だが、
  魔力の炎は宝飾品を焼けない。
  探せば探すほど俺が潤う・・・何だ?
  ・・・何か居るな?
リュート「・・・勘弁してくれよ・・・」
  住人の生き残り、残党狩りか?
  この気配は人間、動物、魔物・・・?
  俺の魔力では判別もつかないぐらい
  微かな反応だ。
リュート「・・・クソ、近付くしかないか・・・」
リュート「・・・敵か、味方か・・・ 優しい同業であってくれると助かるが・・・」
  震えそうになる脚を、止まりかける脚を
  無理矢理に動かす。
  もう一握りでも魔力があればと嘆く。
  毎度お馴染み、これは恐怖だ。
  背を向けるのも立ち向かうのも
  死に直結している気がする。
  自分はただの人間より少しはマシだと、
  ただそう思い込みながら。
  早く正体を確かめないと・・・
  腰が抜ける前に。
リュート「・・・ここか?」
リュート「下に空洞があるのか・・・掘るか? いや、薄いな? 破るか」
  犬、キツネ、タヌキか?
  焼けば食える生き物だと良い。
  もう半分焼けてるぐらいが更に良い。
  ・・・何か光った。
  高く振り上げたブーツの足を止める。
  十字のアクセサリーを家族で贈り合う習慣が
  ある地域かも知れない。
  骨が二体分、その下には銀の十字も二つ
  落ちている。
  この二人の下か・・・これは・・・
リュート「・・・この波動は・・・ なんだ人間か、子供だな?」
  ホッとしながら二体の骨の間を、
  家の中だったらしい真っ黒に焦げた
  木の床を踏んでみる。
  バリッと軽く膝まで突き抜けた。
リュート「・・・参ったな・・・」
  赤子だったか・・・。
  俺が踏み抜いた板切れが顔にかかっても
  ビクともせず眠っている。
  この辺りの地図はまだ手に入れてない。
  直前に居た町はここから二日かかる。
  今ここで赤子を拾った所で・・・。
赤子「・・・」
リュート「・・・起きるな、寝ろ」
赤子「・・・ぶ」
リュート「待て、泣くな、泣かれても困る」
リュート「泣くと体力を消耗する、腹が減るぞ? それはお前にとって不利な状況だ 今泣くのは得策では・・・」
赤子「ぶんぎゃー!」
リュート「・・・申し訳ないが俺に出来る事は無い 見なかった事にする」
赤子「ぶんっぎゃー!」
リュート「・・・そうか、そうだな そのまま泣き続けた方が良いかも知れない 通りすがりの旅人か、俺の様な盗賊が 気付いて・・・」
  そうだ。小綺麗な赤子だ。
  他の盗賊に見付かれば売られるだろう。
  売る為になら生かす筈だ。
赤子「ぶんっぎゃーっ!」
  誰も来なければ・・・。
  見渡す限り、誰の気配も無いが・・・。
  それもまた運命。
赤子「・・・ぷしっ!」
リュート「・・・くしゃみか? 申し訳ない、俺が煤や砂埃を舞わせた お前の気配が何者か分からなくてな、 正体を確認しようと・・・」
赤子「・・・ぶ」
リュート「臆病者と笑うと良い お前の様な赤子の気配も掴めず、無意味に 叩き起こしてしまった ・・・情けないものだな」
赤子「・・・ぶう」
リュート「・・・眠ったまま何も知らず 死を迎えさせてやれば良かったか」
赤子「んばっ」
リュート「・・・何故笑う? いや、笑えと言ったのは俺か」
赤子「あば」
リュート「・・・そうか、笑ってくれるか 言葉が通じているかの様だな」
赤子「ばっぶ」
リュート「・・・何事も無ければ両親の元で健やかに、 賢く利口な子に育っただろう」
リュート「すまない ・・・飢えに苦しむよりは楽にしてやろう」
赤子「んば」
リュート「・・・すまない」
赤子「・・・うば!」
赤子「ばあ!」
リュート「・・・お前か? 何をした?」
赤子「あぶ!」
  今のは・・・防御の術を破ったのか?
  赤子が?
  ・・・いや待て。
  先に防御の術を使わねば破る物も無い。
  この赤子が?
  術を破って『ばあ』と言ったか?
  そのままにしておけば俺は傍らに
  近付く事すら出来なかっただろうに・・・
  わざわざ開けたのか?
赤子「だ!」
  ・・・そうか。
  業火を生き延びているじゃないか。
  人間も生き物も木も建物ですら
  焼き尽くされたこの地で、
  何故に生きていたのか・・・。
リュート「・・・拾える物は何でも拾えと 俺の師匠も言っていた」
赤子「ば!」
リュート「お前の名は?」
リュート「生後何ヵ月だ? 女か、男か? 両親はこの二人か? 両親の名は? ここがお前の生家か? 兄弟姉妹は?」
赤子「ぶう」
リュート「さすがに答える事は出来ないか」
赤子「だあぶ」
リュート「・・・」
リュート「・・・行くか」
  ずっしりと軽い。
  複雑だ。
  命の重みと体の軽さ。
  今までにも子供は数人拾って売った。
  が、こんなに小さい者が生き残っているのは
  初めてだ。
赤子「あっぶ」
  出自が分かりそうな物は何も無い。
  二人分の十字の飾りをポケットに、
  赤子を抱え直す。
リュート「・・・師匠の教えに従うだけだ」
赤子「ぶっぶ、だぶ、ばあ」
リュート「・・・じ、じゅつ、魔術師の血に 生まれついた事を有り難く思えよ・・・」
赤子「ばぶっ」
リュート「・・・フン・・・」
赤子「だあ」
リュート「・・・まだ物を食えぬのだろう? 乳が要るな 尻に当てる布も必要か? 垂れ流されても困る」
赤子「だぶ」
リュート「服は布を巻いて済ませれば・・・ いや着替えも要るな、何色が好みだ? 櫛も要るじゃないか 巻き毛は良くとかねば」
リュート「仕方ないだけだ、拾ったのだからな 思いがけず拾ったのだからな 拾った物は磨いて使える様にするのが 道理だ、覚えておけ」
赤子「きゃあ!」
リュート「仕方ない、本当に仕方ないだけだ お前は女か? 整った顔立ちだな 後で剥いて見てやるから覚悟しろ」
赤子「きゃは!」
リュート「赤子など初めて触るからな 無礼も不慣れも何もかも許せ 全てはお前の為だ 至らぬ事は大目に見てくれ」
赤子「きゃー!」
リュート「これは早足だ 初めてか? そうだろうな 普通の家ならば赤子を抱いて走らぬだろう とりあえず夜明けまでは急ぐぞ」
赤子「だー!」
リュート「黙って抱かれておけ 舌を噛むぞ、気を付けろ とりあえず人を探す この先にあると良いがな、町でも村でも」
赤子「だい!」
リュート「・・・また何かしたな? もう間違いなくお前だな?」
  物を探す術か。俺は使えない。
  師匠と兄弟子から聞いた感覚だ。
  魔力が届く範囲を丸く感じて物を
  探せるという・・・。
  ・・・進路を少し南へ修正する。
  そこそこの村がある様だ。
  人の気配と灯りを感じる。
  焼き討ちを免れたのか。
赤子「ぶう」
リュート「とんでもない奴だな、お前は」
  機嫌の良い赤子だ。
  ならば早足から歩みに変える。
  目的地が分かるのなら何とでもなる。
リュート「抱いていては両手が使えないな 背負う方が良いか 全て村の女に尋ねて解決すると良いが 腹が減っては何とやらだ」
リュート「お前は俺の相棒になれ・・・なってくれ ・・・なってくれるか?」
赤子「あぶ」
リュート「では名前か・・・アブ? ダブ? 響きが悪いな、バブ? これも響きが・・・ そうだ、女か男かを見なければ・・・」
かわいい魔物「ヂュッ!」
  下級の魔物か、赤子の泣き声と匂いに
  釣られて寄ってきたか?
  しまったな・・・ロクな武器も無い。
リュート「クソ・・・長剣は売ったばかりでな。 お前も生まれて数ヶ月で災難だな、 どうする?」
赤子「ばっぶ」
かわいい魔物「ヂウッ!」
赤子「だあ!」
リュート「・・・消し飛んだぞ?」
赤子「ぶっぶー」
リュート「分かってやっているのだろうな? 見境無くやる訳ではないな? そこだけはハッキリさせたいのだが?」
赤子「きゃは」
リュート「・・・お前を不愉快にさせぬ様、全力で 世話をすれば良いか?」
赤子「あっぶ」
リュート「・・・乳の出る女は居るかと 大声で叫ぶ覚悟はまだ無いが善処する」
赤子「だあ!」
  無駄な緊張感と共に策を練る、歩く。
  ・・・もう既に腕が痛くなってきた。
  背負う紐も優先させるか。
  小さな手を握って開いて遊び、俺を見上げる
  この赤子は・・・かわ・・・金になる。
  間違いなく金になる。
リュート「名前と乳と背負い紐だ。 さっきの探す術を使ってくれるか?」
赤子「だっ!」
リュート「・・・何故だ? お前の物だぞ? お前が探してくれ」
赤子「・・・ぶ」
リュート「分かった、分かった 着いたら俺が探す、分かったから・・・」
  つづく。

次のエピソード:飲める物は飲め

コメント

  • 最強の赤さん…
    これがまた知識をつけて大きくなったら厄介な人間に…。
    なんというラッキーというか、見捨てられない優しい人だからこそのラッキーなのかもしれませんね!

  • 良心から拾った赤子ではないにせよ、だんだんと情が涌いてきている様子の描写がとてもいきていました。拾いものもどう扱うかで見返りが違ってくるということでしょうか。謎を秘めた赤子とどのような展開があるのかとても楽しみです。

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