3.オークション特番(脚本)
〇黒背景
研究者は論文を書いて
業績を積む
仕事でいう「成果」と同じだ
だがこの論文ってのが厄介で
著者欄の最初に名前が書かれたヤツ
第一著者(ファーストオーサー)
かどうかってのが重視される
要は・・
「この研究で一番頑張ったヤツ」
って目印だからな
二番、三番じゃダメだ
一番じゃなきゃ業績と呼べない
でも・・・
〇化学研究室
──昨晩
粟島研究員「盗めってことですか!? あの娘の隕石を!?」
糸魚川教授「人聞きの悪い言葉は控えたまえ」
糸魚川教授「あるべき場所に戻す、ただ それだけのことじゃないか」
粟島研究員「ですがっ!」
糸魚川教授「粟島くん、ウチに来てから 何年目だったかな?」
粟島研究員「えっ? 今年で3年目ですけど・・」
糸魚川教授「その間、論文は何本書けたかね?」
粟島研究員「・・共著で2本、です」
糸魚川教授「筆頭著者はゼロか このままじゃマズイねぇ?」
糸魚川教授「ここだけの話、来年も 更新できるか厳しいんだよ」
糸魚川教授「研究予算が想定より少なくてね 人員削減の案が出ている」
粟島研究員「解雇・・ですか?」
糸魚川教授「そうなるね だが、チャンスはある」
糸魚川教授「もしインパクトのある論文を ファーストオーサーで出せたら・・」
糸魚川教授「ウチは決してキミを手放さない」
粟島研究員「・・・」
糸魚川教授「あの隕石が手に入ったら 解析は全面的に任せよう」
糸魚川教授「論文の著者欄はキミが最初だ 存分に書くと良いさ」
粟島研究員「全面的に任せよう、だと?」
粟島研究員「どの口が言う! いつも俺がやってるのに!」
粟島研究員「でも今回だけは・・ 俺の業績にすると確約したな」
糸魚川教授「粟島くん?どうした?」
粟島研究員「わかりました やるだけやってみます」
糸魚川教授「うむ、やはりキミは優秀だ」
〇病院の待合室
──現在
粟島研究員「とにかく信頼だ まずは長岡茉莉の信頼を得る」
粟島研究員「警察沙汰は避けたい レンタルとか、他の案も・・」
粟島研究員「おや、アイツは・・」
粟島研究員「隕石の現場にいた記者だな 聞き込みでもやってるのか?」
粟島研究員「少し近づいてみるか・・」
フリーライター「なるほど、妹さんの治療費のために!」
看護師「あの、コレって記事にするんですか?」
看護師「私の名前は出さないで下さいよ? 守秘義務もあるので・・」
フリーライター「ご安心を!記事では 「病院の関係者によると〜」 に留めますので!」
看護師「正直、取材を受けて後悔してるんです くれぐれも騒ぎ立てないで下さいね」
フリーライター「ええ、まあ 善処いたしますよ・・」
フリーライター「さ〜て、お次は本人の声が あればベストだな!」
フリーライター「治療費のため隕石に賭ける姉! だがネット上では疑惑の声!」
フリーライター「キレイ過ぎる隕石!重なる疑問! 「あの隕石はニセモノなのでは?」」
フリーライター「哀れな被災者?それとも詐欺師? 隕石少女の謎に迫る!」
フリーライター「ハハハ!これは見出しが 映える記事になるぞ!」
粟島研究員「ヤバイ記者だな・・ 人間として終わってやがる」
粟島研究員「いや、他人のことは言えないか 俺も下心で近付いてるからな・・」
粟島研究員「しかしネットではニセモノ疑惑か あんまり広がると競売は難しく・・」
粟島研究員「いや、この流れは・・ 悪くないかもしれないぞ?」
〇病室のベッド
長岡花陽「ふぁ〜あ、にゃむ・・」
長岡茉莉「眠たいなら寝ちゃいな 私は気にしないで良いからさ」
長岡花陽「・・ねえちゃ、今日どこで寝るの?」
長岡花陽「おウチ、ないんだよね?」
長岡茉莉「病院の隣のホテルとったよ 提携施設らしくてね」
長岡茉莉「ハナビが入院してるから 料金も特別価格!」
長岡花陽「そっか!ラッキーだね!」
長岡茉莉「おっと電話だ・・ ちょっと話してくるね」
長岡花陽「うん!」
〇屋上のヘリポート
長岡茉莉「はい、長岡です」
長岡茉莉「はい、オークションで・・ はい・・なるほど・・・」
長岡茉莉「テレビ的な問題・・はい 事情はわかります」
長岡茉莉「ネット配信なら、ですか 地上波は厳しい・・・」
長岡茉莉「いえ、構いません それでお願いします」
長岡茉莉「では、失礼します・・」
第3話
オークション特番
〇オフィスの廊下
リポーター「また連絡しますね〜」
リポーター「・・・」
リポーター「ほんと、シッカリした子ね」
ディレクター「お、トキコちゃん 隕石少女と電話かい?」
リポーター「柏崎さん!」
ディレクター「トキコちゃんのインタビュー動画、 ティッターで話題になってたよ〜」
ディレクター「切り抜き動画が拡散されてさ 面白いから局も放置中〜」
ディレクター「トキコちゃんの唖然とした顔が 良い味だしてたね、うん」
リポーター「そうでしたっけ? ちょっと恥ずかしいな・・」
リポーター「ところで柏崎さん ちょうどその件でご相談が」
ディレクター「ん?なんだい?」
リポーター「コレなんですが・・」
柏崎ディレクター「番組企画書ぉ!? もう作ったのかい!?」
柏崎ディレクター「えーっと、もっかい見せてね?」
柏崎ディレクター「『逆転Bidder』ねぇ・・」
佐渡トキ子「番組名は仮タイトルです 適当に付けちゃいました!」
柏崎ディレクター「良いんじゃない? ネットの良さがある」
柏崎ディレクター「このリアルタイム入札ってのが システム的に難しそうだけど・・」
柏崎ディレクター「目の付け所は面白そうじゃないか!」
佐渡トキ子「ホントですか!嬉しいです!」
柏崎ディレクター「いいよ、次の企画会議で ボクから提案してみるね」
柏崎ディレクター「あんまり期待しすぎないように!」
佐渡トキ子「ありがとうございます!」
佐渡トキ子「・・・」
佐渡トキ子「よ〜し!好感触! アタシってスゴいわ!」
佐渡トキ子「報道、司会、アナウンサーに 番組企画もお手のもの!」
佐渡トキ子「このチャンスをモノにすれば ディレクターの道も開ける・・」
佐渡トキ子「超辣腕マルチタレントの 出来上がりって寸法よ!」
佐渡トキ子「フフッ・・ クククッ・・・!」
カメラマン「あの〜佐渡さん 次中継入ってますんで・・」
カメラマン「そろそろ現場まで・・」
佐渡トキ子「は〜い!了解で〜す!」
カメラマン「・・・」
カメラマン「プロって、スゲェな・・」
〇ビジネスホテル
〇ビジネスホテル
〇ビジネスホテル
翌朝・病院の提携ホテル
長岡茉莉「ハァ・・」
長岡茉莉「下着だけ替えてるけど・・ 同じ服はそろそろキツイな」
長岡茉莉「手持ちの服で無事なのって 職場にある作業服くらいだし」
長岡茉莉「ハナビの着替えも用意したい 買い物行ってから病院に・・」
長岡茉莉「ん?」
長岡茉莉「もしもし、どちら様ですか?」
長岡茉莉「・・ジェプラの粟島さん? あぁ、はい」
長岡茉莉「あ、昨日の方ですか ・・電話番号伝えましたっけ?」
〇車内
粟島研究員「やだなぁ、昨日名刺渡した時に 教えてくれたじゃないか!」
粟島研究員「それより、早速キミの家に 向かってるんだ」
粟島研究員「そうそう、隕石の跡地だよ 何ならしばらく野営するつもりだ」
粟島研究員「片付けの合間に少し調査も したいんだけどいいかな?」
粟島研究員「許可は貰ったけど、一応事前連絡をね 何か注意して欲しい点とかあるかい?」
粟島研究員「・・望遠鏡?もしあれば?」
粟島研究員「なるほど、天体観測中に隕石が・・」
粟島研究員「わかった、見つけたら 残骸でも持って帰るよ」
粟島研究員「じゃあ、また──」
〇ビジネスホテル
長岡茉莉「望遠鏡、さすがに厳しいかな 私と一緒に吹っ飛んだハズだけど」
長岡茉莉「もしあれば、病院でハナビと 天体観測できるのに・・」
フリーライター「ハイ、1枚失礼しま〜す!」
長岡茉莉「なっ・・!?」
フリーライター「ドーモすみませ〜ん! 私、フリーで記者やってる者でして〜」
フリーライター「この度の隕石の売買について すこ〜し伺ってもよろしいですか〜?」
長岡茉莉「いま、勝手に写真撮りました? 肖像権の侵害で違法なんじゃ・・」
フリーライター「あ〜それ根強い誤解ですねぇ〜」
フリーライター「公道で撮れば違法行為じゃ ないんですよ〜ハイ」
フリーライター「で、す、が、気分を害したのなら 申し訳ございませ〜ん」
フリーライター「改めてもう一枚撮っときますか! ハイチーズ!」
長岡茉莉「え、ちょっと」
フリーライター「ご協力ありがとうございます〜! では早速質問なのですが〜」
フリーライター「妹の長岡花陽さん! 余命1年ってホントですか!?」
長岡茉莉「なぁっ!? どこで知って・・」
フリーライター「ホントのようですね! いや〜泣けるっ!」
フリーライター「妹の治療費のためにっ! 隕石を売ってなんとか稼ぎたいっ!」
フリーライター「聞くも涙、語るも涙! なんという悲劇なんだっ!?」
長岡茉莉「は、はぁ・・」
フリーライター「・・とまぁ、ここまで聞いて ふと思うんですよ」
フリーライター「ド〜モ、話が出来すぎじゃあ ないですかねぇ?」
長岡茉莉「──どういう意味ですか?」
フリーライター「いえね、妹さんのご病気は 本当かと思いますよ?」
フリーライター「ですが隕石が実家に落ちるぅ!? そ〜んな都合の良い話ありますかぁ?」
長岡茉莉「都合の良い話?」
長岡茉莉「こっちは帰る家を失ってるんです どうしてそんな酷い事が言えるんですか」
フリーライター「まさにおっしゃる通り! 大変失礼いたしました!」
フリーライター「しかしですね、その隕石もホンモノか 怪しいって噂がありまして」
フリーライター「既にネットオークションでは 『自称・3億円の隕石!』の 出品が乱立する始末・・」
フリーライター「もうニセモノパーリナイッ! これじゃ本物も埋もれちゃいますよ!」
長岡茉莉「はぁ・・」
フリーライター「にも関わらず!研究機関での調査を 拒否してるそうじゃないですか!」
長岡茉莉「・・価値を落としたくないだけです 一度調べたら高く売れないかもしれない」
フリーライター「ま、その主張も理解できますねぇ」
フリーライター「なにより気象台のライブカメラに 隕石落下の映像がありますから!」
フリーライター「私個人としては本物だと信じてますよ? ただ・・・」
フリーライター「記者として、個人の主張だけに 偏っちゃいけないでしょう?」
長岡茉莉「・・・」
フリーライター「あくまで「そういう噂」もあるって ことでご承知おきくだされば〜」
長岡茉莉「なんか記事が出るんですか? 私について?」
フリーライター「ま、ま、ま それは上のお気持ち次第ですね〜」
フリーライター「私は足で稼ぐしか能のない 弱小ライターですので・・・グスン」
長岡茉莉「うさんくさいなぁ・・」
フリーライター「ま、そういうことです! 記事が出るかはお楽しみってコトで!」
フリーライター「一応名刺お渡ししときますね〜」
妙高新太「妙高新太(みょうこう・あらた)って 言います〜以後よろしく〜」
妙高新太「あ、追加でお話聞けるように お電話番号伺ってもよろしいですか〜?」
長岡茉莉「は、はぁ・・」
妙高新太「はいドーモ! 確かに控えさせて頂きました〜!」
妙高新太「ではでは、またよろしく お願いしますねぇ〜!」
長岡茉莉「・・・」
長岡茉莉「・・・うん」
長岡茉莉「正直、不愉快極まりない記者 だったけど・・・」
長岡茉莉「食いつくマスコミが増えたのは・・ プラン通り、かな?」
長岡茉莉「──大丈夫、問題ないハズ」
長岡茉莉「オークションでも何でもいい とにかく世間の目を集めなきゃ」
長岡茉莉「私の『本命』は・・ その先にあるから」
オカリさんのTap作品は不思議とアニメを観てるみたいな読後感が有るんですよね。視点の設定がいいのかな。素晴らしいです。続きも楽しみです。
胡散臭い人達が集まってきてこの先どうなるか……!
ポスドクは闇深い。
一筋縄じゃない厄介な考えを持つ奴らをどう捌くのか楽しみですね…😂何よりゴタゴタに巻き込まれて妹ちゃんに何かしらの飛び火する事態が一番怖いです…大きい問題は周りを巻き込むから…乗り越えろ長岡ァ!!