百合の葉に隠れないで

美野哲郎

第一話 『雨は葉に降りそそぐ』(脚本)

百合の葉に隠れないで

美野哲郎

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〇水中
  私は、女の子が好きだ

〇森の中
黛仁絵「ゆずちゃん、ごめんね。 家出に巻き込んじゃって──まさか こんな大事になるなんて」
月居ゆず葉「いいの、仁絵(ひとえ)ちゃん 私、気にしないよ」
月居ゆず葉「仁絵ちゃんと一緒なら、 世界の果てまでだって逃げてみせるから」
黛仁絵「ありがとう・・・私 ゆずちゃんが幼なじみで良かった」
黛仁絵「一生、私のそばにいてくれる?」
月居ゆず葉「ええ、もちろん 私、一生、仁絵ちゃんのそばにいたい」
月居ゆず葉「ねえ、目をつむって」
黛仁絵「え 目を?」
黛仁絵「こう、かな・・・?」
月居ゆず葉「・・・そのまま」
黛仁絵「どうしたの? ゆずちゃん」
月居ゆず葉「・・・好きよ、仁絵ちゃん」
黛仁絵「・・・?」
黛仁絵「・・・え?」

〇空
  ──あの時、私はたぶん間違えた

〇空
「月居さーんっ!」

〇並木道
新山ルミ「こっちこっちー。来てくれたんだ 一年女子、あたしだけかと思っちゃったよ」
月居ゆず葉「そうなの? 他の大学の映画サークルとの顔合わせなんでしょ?」
新山ルミ「っていう体の合コンらしいよ だから結構女子来たがらなくって」
月居ゆず葉「そうだったんだ・・・で、でも 合コンくらい普通だよね。大学生だもん」
新山ルミ「おおー、意外。月居さんて 全然男の子に興味なさそうだったのに」
月居ゆず葉「あ、あるよー、興味くらい 普通じゃない? 女の子だもん」
新山ルミ「あはは、普通かー。そう言われると楽だ」
  そう。それが普通・・・なんだもんね

〇森の中
黛仁絵「ふ、普通じゃないよ こんなの・・・」
月居ゆず葉「ごめんなさい、私・・・」
黛仁絵「ずっと、そんな目で私を見てたの? 私は、親友だって思ってたのに・・・」
黛仁絵「これまでも、これからも 一生の親友なんだって信じてたのに」
月居ゆず葉「違うの。私ただ 仁絵ちゃんのことを見ていたら」
月居ゆず葉「ああ、大切だなって思って そしたら、自然とキスしたくなって──」
黛仁絵「・・・気持ち悪い」
月居ゆず葉「え・・・」
黛仁絵「ごめん。私もう ゆずちゃんとは一緒にいられない・・・」
  さよなら・・・

〇空
  この気持ちは、一生隠して生きていこうと決めた

〇大衆居酒屋
新山ルミ「じゃあこのまま二次会来る人 東口の立ち飲みイタリアンねー」
月居ゆず葉「あの、ルミちゃん 私、門限あるし帰るね」
新山ルミ「さっそく下の名前呼びうれしー!! わかった、今日は付き合ってくれて ありがとね、ゆ・ず・ちゃん」
月居ゆず葉「ふふ。じゃあ、また・・・」
風間 泰人「あ、あのっ 月居さん。俺も帰るんで 駅までだったら、送ります──!!」
新山ルミ「ちょっとー、風間くん。あなた今日 ゆずちゃんとは全然喋ってなかったじゃない」
新山ルミ「下心アリアリな人は ゆずちゃんには近づけません」
風間 泰人「でも、俺・・・」
月居ゆず葉「あ。いいですよ、駅までだったら。 私も、大学の知り合い増やさないと」
新山ルミ「風間くん。うちの大学じゃないけどね」

〇ネオン街
月居ゆず葉「それでは、私はここで 風間くん、送ってくれてありがとう」
風間 泰人「月居さん、俺」
風間 泰人「好きですっ── 俺と付き合ってくださいっ!!」
月居ゆず葉「え、ええーーっ」
月居ゆず葉「私たち、ほとんど話もしてないのに?」
風間 泰人「俺、実は大学デビューしようとしていて。 今まで、「恋愛」とか無縁だったから」
月居ゆず葉「そう、なんだ・・・」
風間 泰人「もしかしたら、誰でも良かったのかも知れない」
風間 泰人「でも本当に、月居さんに一目ぼれしたんです」
  ・・・それで風間くんは
  「恋愛」が何か、わかったの?
  それは本当に、女の子相手じゃなくちゃ
  いけないものだった?
  ──なんて、訊けなかった
風間 泰人「どうでしょうか 時々、こうしていっしょに歩くだけでも──」
  私も一度くらい、男の子と
  付き合ってみるべきなのかな・・・
月居ゆず葉「うーん・・・じゃあ たまに会ってお話するくらいなら」
  調子に乗るなよ、ビッチがっ!!
月居ゆず葉「な、なに?」
風間 泰人「公園の方からだ・・・」

〇大樹の下
レイン「うるさいわねっ いい加減あきらめたら?」
灰島 建志「はんっ 女が好きとか言いふらした結果 誰も寄りつかなくなったくせに」
灰島 建志「ここで俺と付き合えば、高校の女子も安心して近づいてくれるかも知れないぜ」
灰島 建志「それを──ここまで優しくしてやった俺の気持ちを、『下心』だあ?」
レイン「頼んでもないのにつきまとってきただけでしょ 下心がバレバレだったわ」
レイン「私がたとえヘテロだったとしても アンタになびくくらいなら死んだ方がマシ」
  あの子は、一体
  なんてことを、そんな大声で──

〇水中
  私は、女の子が好きだ
  それはきっと、気の迷いだと思っていた

〇大樹の下
灰島 建志「お前の恋愛感情なんて、気の迷いみたいなもんだって」
灰島 建志「女子同士ってやたら距離が親密だろ だから、友情を恋心と勘違いして──」
月居ゆず葉「・・・!?」

〇水中
  私にはずっと、仁絵ちゃんだけだった
  だから、いつしかその友情を、恋心だと
  錯覚してしまったんだ。きっとそうだと
  だって、その方が──じゃない

〇大樹の下
灰島 建志「今はいやでも、俺と付き合ってみれば 男の良さがわかるかも知れないぜ?」
灰島 建志「だってその方が──」
月居ゆず葉「( ── )」
灰島 建志「”普通”、なんだからさ」
月居ゆず葉「・・・」

〇水中
  ”普通”──その深い海のなかで
  私はずっと、息が出来ずにいた
  ────
  ──笑わせないでよ
月居ゆず葉「──え?」

〇大樹の下
レイン「笑わせないでよ、っつってんの」
灰島 建志「な、何が」
レイン「自分の心にウソをついて それのどこが”普通”だって言うの」
レイン「私の”普通”を、その他大勢と比べて 勝手に決めつけるな!!」
月居ゆず葉「──!!」

〇水中
  彼女の言葉は、もう日の目を浴びることはないと思っていた私の心の
  深いところへと差し込んできた──

〇大樹の下
レイン「アンタなんか、どうせモテないから 孤独な私につけこもうとしたんでしょ」
レイン「いいのよ、ウソはつかなくて その卑怯さが、アンタの”普通”なんだから」
灰島 建志「このっ・・・!! クソビッチがあっ──っ」
レイン「ひっ──!!」
月居ゆず葉「待ちなさいっ!!」
灰島 建志「なっ、なんだよ、アンタ」
月居ゆず葉「えっ私? 私は──」
月居ゆず葉「と、通りすがりの、”普通”の女よ それで? 女なら弱いから手を出せる?」
灰島 建志「くっ・・・」
風間 泰人「あー、君さあ。ちょっと女性への礼儀がなってないんじゃないのかな」
灰島 建志「誰だよアンタら・・・ クソっ おいレインっ」
灰島 建志「二度と、学校で友達なんか出来ると思うなよ」
  タッタッタッ・・・
風間 泰人「なんて陰湿な捨て台詞だ・・・」
月居ゆず葉「あなた、大丈夫?」
レイン「あっ・・・・・・はい」
月居ゆず葉「気が強いのはいいけどね。よく周りを見て、するなら安全なところでケンカしようね」
レイン「あ・・・」
レイン「ふわあ────」
風間 泰人「なんだ? この子。様子が・・・」
レイン「あの、私、青藍高校一年、新海雨音。新しい海に響く雨の音と書いて、レインって言います」
レイン「バイト先までストーカーに絡まれて困ってました。助けていただきありがとうございます!!」
レイン「それで・・・」
レイン「お、お姉さんっ」
月居ゆず葉「えっと なにかな?」
レイン「私と──お付き合いしてくださいっ!!」
月居ゆず葉「は・・・へ?」
レイン「あっ いけない!! バイト戻らなきゃ これ連絡先です──アドレス交換しましょう」
月居ゆず葉「えっ? あ・・・」
風間 泰人「ええ? そんなアッサリ」
月居ゆず葉「勢いで、つい・・・」
レイン「それじゃあっ、私、お姉さんと会えて良かった!!」
  タッタッタッ・・・
月居ゆず葉「待ってっ、ひとりで行くの危ないからっ」
風間 泰人「もうっ 俺送ってきますっ」
  タッタッタッ・・・
月居ゆず葉「・・・すごい子だったな」

〇白
  結局、交換したアドレスに反応はなかった
  それでも、その夜は

〇沖合
  いつもより、ずっと楽に呼吸ができた

〇大樹の下
  どうかあの子が、なるべく傷つかずに生きていけますように──

〇空

〇並木道
レイン「お姉さーんっ」
月居ゆず葉「へえっ!? どうしてここに」
新山ルミ「風間くんから聞いたよ 仲良くなったんだって? あと伝言が」
新山ルミ「えっとね、『気の済むまで好きにさせてあげたらいいんじゃないかな』って」
新山ルミ「あと『僕の手には負えそうもない』ってさ 元気な子なんだね」
レイン「それで、お姉さん。考えてくれましたか? 私と、真剣に交際すること」
新山ルミ「え うええっ?」
月居ゆず葉「なっ、なんでこんな人前で、そんなこと言えるの?」
レイン「そんなの関係ないじゃないですかー これは、私とお姉さんの話なんですから」
月居ゆず葉「あのねえ・・・まだ会ったばかりだし、 昨日、私が男の人といるところ見たでしょう?」
レイン「これから、沢山いっしょに過ごせばいいだけです」
月居ゆず葉「それに、あなたずっと年下じゃない そもそも私たち──女性同士なんだよ?」
レイン「お姉さんには今、恋人がいて、私は年下で、女性同士。 なるほど──」
  ・・・わかってくれた?
レイン「なんにも問題はないですね」
月居ゆず葉「へええ?」
レイン「私が、お姉さんのことを好き ただそれだけの話です」
レイン「お姉さん 私と お付き合いしてくれませんか?」
  ────

〇森の中
  私は 女の子が──

次のエピソード:第二話 『空と海が交わるところ』

コメント

  • いったいどれだけの人が同じ様に苦しんでいるのだろう。そんなことを改めて考えさせられたお話ですね。本心を語れば辛い思いをするから隠す。でも本音で語れば変な目で見られてしまう。歳をとっても変わらず、場所を変えてもつきまとう。とても心に響く内容でした。

  • 遅れ馳せながら読ませていただきました!
    誰にも言えない心の内、クローゼットとなり窮屈な海の底で生きてきたゆず葉の気持ちが丁寧に描かれていて、胸が痛くなりました。
    「恋愛」って何なんだろう、と、考え始めたら私も分からなくなってきてしまいました……。
    LGBTQという言葉も産まれ、多様性の時代に生きるゆず葉がこれからどんな風に変わっていくのか、また周りはどんな風な展開を迎えていくのか、楽しみです。

  • 押し潰されそうな息苦しい気持ちを、深海で表現しているところが好みです。
    性別関係なく自由に恋愛をしても良いと私は思いますが、「自分の恋愛対象ではない性別」の人間から恋愛感情を向けられることに拒否感を感じる人もいる、というのは理解できます。難しいですよね。
    主人公がレインちゃんと出会ってどんな変化をしていくのか楽しみです。

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