週末カウンセラー はっちゃん

笑門亭来福

第ニ話(別れ)(脚本)

週末カウンセラー はっちゃん

笑門亭来福

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〇大教室
  嫌なことがあった時 どうするか
  というお題の 君のレポートを
  私は何度も何度も読んだ
  声に出して読んでもみた
  違うんだ
  何か足りない
  そう、私の声じゃない
  君の声で聞いてみたい
  君から直接聞いてみたい
はっちゃん「は、はい」
  はっちゃんは魂の叫びを唄いあげます
はっちゃん(♪ yo yo yoyo)
はっちゃん(ヨー ヨー ヨーヨー)
はっちゃん「人は皆」
はっちゃん「朝に仏」
はっちゃん「昼に鬼」
はっちゃん「夕に仏」
はっちゃん「夜に鬼」
はっちゃん「yo yo yoyo」
はっちゃん「ヨー ヨー ヨーヨー」
はっちゃん「良いも悪いも」
はっちゃん「啐啄同時(そったくどうじ)」
はっちゃん「良い波長」
はっちゃん「♪ 駝鳥じゃないよ」
はっちゃん「波の長さで」
はっちゃん「良い波長」
はっちゃん「良い波長で通じあえれば」
はっちゃん「良く響き」
はっちゃん「悪い波長で」
はっちゃん「通じあうなら」
はっちゃん「悪く響く」
  黒い薔薇には
  黒いハート
  白い薔薇には
  白いハート
はっちゃん「♪ 踊るアホウに」
はっちゃん「見るアホウ」
はっちゃん「同じアホなら」
はっちゃん「踊らにゃ 損損 ソンソン songsong!」
  人は皆 生きてるだけで 丸もうけ

〇大教室
頑じぃ「アリガトウ」
  兜をぬいだ
  感極まり
  握りしめたレポートを
  くちゃくちゃにして
  口の中に押し込み
  涙も鼻水も垂らしたまま
  レポートを噛み砕く
  そして、吠える
頑じぃ「すごいよ はっちゃん」
  口から、レポートが
  紙吹雪のように舞う

〇大教室
頑じぃ「魂だ 魂だよ はっちゃん」
頑じぃ「人間丸ごと包み込む」
頑じぃ「寄り添われてるんだ」
頑じぃ「yo yo 寄り添われてるyo」
  桜吹雪の中
  朗読を続ける はっちゃん
  頑じぃは、自分を抑えられなくなり
頑じぃ「は、はっちゃん!」

〇大教室
頑じぃ「はっちゃん」
  静かに警策(きょうさく)を渡す
頑じぃ「心が揺れて、戻りません」
頑じぃ「罰してください」
  警策を受け取り
  小さくうなずく
  頑じぃは、座禅を組み
  瞑想し
  首を下げる
  はっちゃんは、警策を振り上げ
  振り下ろす
  響きわたる警策の音
  頑じぃは合掌し
頑じぃ「もう一度」
  何度も何度も
  果てしなく
  繰り返される
  音と声
  やがて
  頑じぃの衣服は裂け
  肩や首
  背中から
  血が滲み
  服は真っ赤に染まっていく
  血は、衣服から、床に流れだす
  ついに、耐えきれず
  失神し
  前のめりに倒れた

〇大教室
  はっちゃんは、頑じぃを抱き抱え
  ハンカチで血を押さえる
  間に合わない
  あっという間に
  真っ赤になるハンカチ
  オロオロする はっちゃん
  ただオロオロする はっちゃん
  指で撫でる
  手を当てる
  止まらない
  変わらない
  やがて
  親猫が子猫に
  するように
  舐め上げた
  ひたすら
  ただ、流れる血を舐め上げた
  やがて、頑じぃの意識が戻る
  頑じぃの前にいる、はっちゃん
  口の周りが
  血で真っ赤に
  染まっている
  頑じぃは
  はっちゃんの
  口の周りを
  指で拭ってやり
  親犬が
  子犬にするように
  口の周りの血を
  舐め上げる
  はっちゃんは
  思い出していた
  頑じぃがレポートを
  褒めてくれていたことを
  それは、お父さんが
  褒めてくれた記憶と重なっていく
  そして、何故か、昔
  お父さんが良く唄っていた唄が
  頭の中を駆け巡っていた

〇エレベーターの中
子供は風の子「こんにちは」
子供は風の子「風の子です」
子供は風の子「欲望と一生懸命は、紙一重なのかな?」
子供は風の子「セルフコントロールの殻に籠ろうとする頑じぃ」
子供は風の子「でも、欲望って強いんだね」
子供は風の子「頑じぃの頭の中は」
子供は風の子「はっちゃんだらけ」
子供は風の子「もちろん」
子供は風の子「はっちゃんもおんなじ」
子供は風の子「お互いに、そう」
子供は風の子「初めての感情らしいのです」

〇観覧車の乗り場
観覧車係の人「へー、20枚!?」
観覧車係の人「こりゃ、驚いたね」
観覧車係の人「あんたら、あれかい?」
観覧車係の人「観覧車オタク?」
観覧車係の人「まぁ、こっちは」
観覧車係の人「もらえるもん、もらえりゃ」
観覧車係の人「かまわんがね」
観覧車係の人「じゃあ、ごゆっくり」
頑じぃ「本当に来てくれると思わなかった」
はっちゃん「えっ、ドッキリ!?」
頑じぃ「違う違う!」
はっちゃん「ここで読む感じですか? その、レポートを・・・」
頑じぃ「あれは、食べちゃったから・・・」
頑じぃ「特に用事がある訳じゃ無いんだけど・・・」
はっちゃん「そんなこともあるんですね」
頑じぃ「えっ?」
はっちゃん「用事がないのに、声かけてくれるなんて」
頑じぃ「初めてです」
はっちゃん「うれしいです」
頑じぃ「・・・」
はっちゃん「・・・」
頑じぃ「大人っぽい感じですね」
はっちゃん「えっ?」
頑じぃ「今日の服」
はっちゃん「ああ、はい、先生も、その」
はっちゃん「落ち着いたというか、いつもの甲冑じゃないんですね」
頑じぃ「新調したんです」
頑じぃ「今日のために」
はっちゃん「・・・」
頑じぃ「あのぉ」
はっちゃん「・・・はぃ」
頑じぃ「よければ、頑ちゃんで」
はっちゃん「えっ・・・」
頑じぃ「頑寺居は、苗字なんで」
頑じぃ「頑なに寺に居たと、書きます」
はっちゃん「変わった苗字ですね」
頑じぃ「日本に一人だそうです」
はっちゃん「由緒がありそうですね」
頑じぃ「やはり、昔、どうしても」
頑じぃ「守り続けないといけないことがあったようで」
頑じぃ「・・・」
はっちゃん「・・・」
頑じぃ「はっちゃん・・・」
はっちゃん「頑ちゃん・・・」
頑じぃ「はっちゃん・・・」
はっちゃん「頑ちゃん・・・」
頑じぃ「好きなんだ」
はっちゃん「えっ」
頑じぃ「観覧車」
はっちゃん「あぁ」
頑じぃ「ほら、もう、こんなに高い」
はっちゃん「ホントだ、空が近い」
はっちゃん「家も、道も、人も、小さい」
はっちゃん「お菓子の国みたい」
頑じぃ「同じ場所なのにね」
頑じぃ「違う国に来たみたいでしょ」
はっちゃん「それで、20周分も」
はっちゃん「チケット、大人買いしたの?」
頑じぃ「いや、初めて・・・」
はっちゃん「20周もしたら、バターになっちゃうかも」
頑じぃ「いいな」
頑じぃ「バターになりたい」
  と、手を握る
はっちゃん「あっ・・・」
頑じぃ「レポートを読んでくれた日」
頑じぃ「バターになった」
頑じぃ「はっちゃんはパンで」
頑じぃ「僕がバター」
頑じぃ「染み込んでいった・・・」
はっちゃん「血が止まらなくて」
頑じぃ「一心不乱」
頑じぃ「かなり流血してたみたいで」
はっちゃん「危機一髪」
はっちゃん「警策が止まらなくなって」
頑じぃ「一所懸命」
頑じぃ「僕がお願いしたんだ、もう一度って」
はっちゃん「制御不能」
はっちゃん「人の血って、こんなに出てくるんだって」
頑じぃ「茫然自失」
頑じぃ「抱き抱えてくれたんだよね、そんな中」
はっちゃん「母性本能」
はっちゃん「どうしよう、何とかしなくちゃって」
頑じぃ「無我夢中」
頑じぃ「流血を舐めてくれたんだよね」
はっちゃん「起死回生」
はっちゃん「頑ちゃんだって、私の口の周りを、その、」
頑じぃ「一心同体」
「未経験で、じいも知らないのに・・・」
「保健体育」
「同じ気持ちなんだ」
「落下流水」
「あの日から本当に」
「何も手につかない」
「昼想夜夢(ちゅうそうやむ)」
観覧車係の人「なんなんだ!?」
観覧車係の人「観覧車だぞ」
観覧車係の人「絶叫マシンじゃないぞ」
観覧車係の人「癒し系遊具なんだから」
「大切にしてやるんだぞー」

〇街の全景
  欲望は増殖する
  欲望は止まらない
  欲望は人を狂わせる
  最近、何も手につかない
  座禅と出会い
  瞑想を繰り返し
  呼吸を整え
  心をコントロールしてきたじゃないか
  どうして
  自分が
  自分じゃ
  なくなるんだろう
  うれしいのに、こわい
  楽しいのに、苦しい
  忘れたのか
  あの人のことを
  思い出せ
  あの人のことを

〇入り組んだ路地裏
頑じぃ母「おかえり、岩次」
  ただいま
頑じぃ母「帰ってきたとこ悪いんだけど・・・」
頑じぃ母「これで何か美味しいもんでも」
頑じぃ母「食べてきてくれない?」
  くしゃくしゃの千円札
  誰かいるの?
頑じぃ母「え、ええ、新しいお友達よ」
  そう、お友達がどんどん増えるんだね
頑じぃ母「いいから、いいから」
頑じぃ母「ちょっと話が込み入ってて」
頑じぃ母「長くなりそうだから」
  わかった
頑じぃ母「アリガトウ、ゴメンネ」
  早く帰り過ぎて怒鳴られたこともあった
  目つきが悪いと
  新しいお友達に殴られたこともあった
  自分の家なのに
  夜遅くに、中の様子を確かめ
  忍び込むような毎日
  父は家を長くあける時もあったが
  お金に困っていることはなかった
  あの人の血が流れている
  そう思うと
  不安は恐怖になり
  激しく恨み、蔑んだ
  また、そんな自分が嫌でしょうがなかった
  そんな時、和尚に出会い
  人は日に何千、何万回も
  鬼になり、仏になり
  生きていくものと諭され
  気持ちが軽くなった
  勧められ、始めた座禅は
  嫌なことも忘れ
  自分の置かれた環境も
  受け入れることができた
  そう、生きてるだけで丸もうけ
  忘れちゃいけない
  欲望に負けない
  己を見つめ
  己を知り
  己を律する

〇雷
  僕は二度と欲望に負けない

〇遊園地の広場
頑じぃ「はっちゃん」
頑じぃ「ごめんね」
頑じぃ「僕は二度と欲望に負けられない」
頑じぃ「何日間の気持ちが」
頑じぃ「いとも簡単に」
頑じぃ「20年以上の修行を吹き飛ばす」
頑じぃ「欲望とは何か」
頑じぃ「身をもって、突き詰めなくちゃいけない」
頑じぃ「また、戻ってくる」
はっちゃん「頑ちゃん」
はっちゃん「ちょっと待てぃ」
はっちゃん「話しをして」
はっちゃん「向き合ってからでも」
はっちゃん「遅くないじゃない」
  人間はもともと
  男も女もなく
  一つだった
  それが割れて
  男と女になった
  だから、男と女は
  割れた片割れを探し
  一つに戻ろうとする
はっちゃん「頑ちゃん」
はっちゃん「己を律するのはいいが」
はっちゃん「他人とも調和せんかい!」
はっちゃん「決意はわかった、が」
はっちゃん「寝言は寝て言えぃ、あ!」
はっちゃん「頑ちゃん」
はっちゃん「待てるかなんて」
はっちゃん「わかんないよぉー」

〇エレベーターの中
子供は風の子「こんにちは、風の子です」
子供は風の子「2度目だから、覚えてくれてますよね」
子供は風の子「さてと」
子供は風の子「今回から、冷やし中華!」
子供は風の子「じゃなくて」
子供は風の子「癒しBGM❣️」
子供は風の子「始めました」
子供は風の子「あ、中身ですか? お話しの?」
子供は風の子「人格って、ややこしいのかな」
子供は風の子「他人の人格には冷静でいられるけど」
子供は風の子「自分のこととなると、意外と」
子供は風の子「譲れないものってありますよね」
子供は風の子「特にこじらせてると、簡単にはいきません」
子供は風の子「次回予告」
子供は風の子「急がずとも回ってる」
子供は風の子「見てね、きっとだよ」

次のエピソード:第四話(繋がってるぅ?)

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  • 私もバターになりたい

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