エピソード3.錯綜(さくそう)(脚本)
〇警察署の医務室
月代卒太に告白された麗。
そこへ乱入者が現れ──
「ちょーっと待ったああああああ!!!!!」
嶋名 香子(しまな かこ)「保健室に麗を連れ込んで何してるのよ、 この変態!」
原沖 麗(はらおき れい)「香子!?」
嶋名 香子(しまな かこ)「麗を狙ってるならおあいにくさま、 残念でしたー!」
嶋名 香子(しまな かこ)「麗にはちゃーんとかっこいい彼氏がいまーす!」
原沖 麗(はらおき れい)「え、うそ、私に彼・・・」
嶋名 香子(しまな かこ)「麗はちょっと黙ってて! ほら! 先輩!」
越智 虫哉(おち むしや)「あ、ええと・・・ 彼氏です」
ちょ!? どういうこと!?!?
先輩!?!?!?
嶋名 香子(しまな かこ)「ほら、かっこいいでしょ! それに剣道部で強いんだから!」
月代 卒太(さかやき そつた)「存じ上げています・・・ 越智虫哉(おちむしや)」
嶋名 香子(しまな かこ)「え?そうなの?」
月代 卒太(さかやき そつた)「僕は最初、貴方の剣筋に憧れていました」
月代 卒太(さかやき そつた)「だが、今の貴方の剣には 以前のような美しさがない」
なんかおかしなことになってきた
越智 虫哉(おち むしや)「ええと・・・」
越智 虫哉(おち むしや)「話はまた改めるとしようか。1年生のオリエンテーションが始まる時間だ」
越智 虫哉(おち むしや)「教室まで案内するよ。君、クラスは?」
月代 卒太(さかやき そつた)「わかりました。僕も予定表のオリエントテンションとは何か気になっていたんです」
月代 卒太(さかやき そつた)「僕は1組です」
オリエント(東洋)
テンション(精神的緊張)・・・
間違ってるけど、やけにしっくりくるな
ていうか、え? 1組って
嶋名 香子(しまな かこ)「同じクラス・・・」
マジか。
〇教室
地間 洋隆(ちま ようたか)「・・・原沖」
原沖 麗(はらおき れい)「地間も同じクラスだったのね」
地間 洋隆(ちま ようたか)「うん、まあ。それはそうとさ・・・ なんであいつ、こっち見てるわけ?」
名前順に座った結果、月代卒太と地間洋隆と私は横並びになった。
月代卒太は私に熱い視線を送っている。
間に挟まれる地間にはいい迷惑だろう。
月代卒太の後ろの席で、香子は険しい顔をしてちょんまげ頭を睨み付けている。
原沖 麗(はらおき れい)「あの人さ・・・ 私のこと、好きなんだって」
地間 洋隆(ちま ようたか)「は?」
原沖 麗(はらおき れい)「迷惑かけてごめんね」
地間 洋隆(ちま ようたか)「いや、迷惑っていうか。 なんだよそれ、大丈夫なのか?」
原沖 麗(はらおき れい)「大丈夫、害はない、と思う」
地間 洋隆(ちま ようたか)「ないわけないだろ。 いいか、かかわり合いになるなよ」
原沖 麗(はらおき れい)「どうして?」
地間 洋隆(ちま ようたか)「どうしてって、あからさまに変だろ。 普通の感覚じゃねぇよ」
確かに変だし、普通じゃないけど・・・
地間に言われるとなんだかムカつくな
原沖 麗(はらおき れい)「それは、偏見じゃないのかなぁ」
地間 洋隆(ちま ようたか)「なんだよ、幼なじみよりあんな常識外れの変人野郎の肩持つのかよ」
原沖 麗(はらおき れい)「へー、まだ幼なじみって意識はあったんだ」
地間 洋隆(ちま ようたか)「え?」
原沖 麗(はらおき れい)「何びっくりしてるの? 自分の態度を振り返ってみてよ」
〇公園の砂場
小学生の頃はあんなに仲良くしてたのに──
地間 洋隆(ちま ようたか)「麗ちゃんは、中学受験する?」
原沖 麗(はらおき れい)「ううん、公立でいいかなって」
地間 洋隆(ちま ようたか)「俺も! 良かったー、一緒に行けるな!」
〇学校の廊下
中学生になった途端、いきなり──
原沖 麗(はらおき れい)「洋ちゃん!」
地間 洋隆(ちま ようたか)「その呼び方やめろよ」
原沖 麗(はらおき れい)「なんで・・・」
地間 洋隆(ちま ようたか)「ついてくんなよ。 原沖のクラスはあっちだろ」
〇教室
原沖 麗(はらおき れい)「まさか今更幼なじみ面されると思わなかった」
地間 洋隆(ちま ようたか)「それは・・・!」
原沖 麗(はらおき れい)「あの当時、避けられるのは増えたニキビのせいかなとか、散々悩んだんだよ」
原沖 麗(はらおき れい)「だから外見で人を見下げたくないの。 私のことは放っておいて」
地間 洋隆(ちま ようたか)「・・・!」
ふん。せいぜい反省しろ
しかし、彼氏がいると言われてもマイペースに熱視線を送る月代卒太、メンタル強いな。
〇女子トイレ
オリエンテーション終了後、私は香子を女子トイレに連行した。
原沖 麗(はらおき れい)「で? どういうことなの? 先輩が彼氏って」
嶋名 香子(しまな かこ)「だって麗、あの人にしつこくされてたでしょ?」
嶋名 香子(しまな かこ)「越智先輩にお願いしたら、快く引き受けてもらえたから」
原沖 麗(はらおき れい)「でも、嘘は良くないよ。 すぐにぼろが出ちゃうじゃない」
嶋名 香子(しまな かこ)「だから、嘘じゃなくすればいいんだよ!」
原沖 麗(はらおき れい)「え?」
嶋名 香子(しまな かこ)「先輩に、「本当に付き合ってください」って言うの!」
原沖 麗(はらおき れい)「ええっ!」
嶋名 香子(しまな かこ)「先輩が彼氏だったら、剣道も恋愛も一挙両得(いっきょりょうとく)じゃない?」
嶋名 香子(しまな かこ)「部活に打ち込みながら恋ができるよ!」
原沖 麗(はらおき れい)「確かに・・・それは魅力的かも・・・」
嶋名 香子(しまな かこ)「先輩、剣道場に案内してくれるって言ってたでしょ? 早く行かなきゃ!」
原沖 麗(はらおき れい)「う、うん」
〇教室
地間 洋隆(ちま ようたか)「おい。お前、原沖のことが好きって本当か?」
月代 卒太(さかやき そつた)「はい」
月代 卒太(さかやき そつた)「彼女にふさわしい男になるために、 額を剃って髷(まげ)を結いました」
地間 洋隆(ちま ようたか)「なんでだよ・・・ 原沖がそれを望んでたっていうのか?」
月代 卒太(さかやき そつた)「僕は、武士になりたいんです」
月代 卒太(さかやき そつた)「彼女の隣に並ぶためには、 頭頂部の髪など邪魔なだけ」
月代 卒太(さかやき そつた)「日本古来、男はこの額に誓うのです」
月代 卒太(さかやき そつた)「高潔(こうけつ)であり、二心(ふたごころ)なく魂を捧げて戦うことを」
月代 卒太(さかやき そつた)「これは僕の覚悟です」
地間 洋隆(ちま ようたか)「覚悟・・・キマりすぎてないか?」
月代 卒太(さかやき そつた)「あの方に、過ぎるということはありません。 僕にとっては、それだけの価値がある」
地間 洋隆(ちま ようたか)「・・・俺は」
地間 洋隆(ちま ようたか)「俺には、みっともない自分をさらす覚悟がないってことか・・・」
月代 卒太(さかやき そつた)「所用(しょよう)があるので、失礼します」
地間 洋隆(ちま ようたか)「くそっ・・・麗ちゃん・・・」
〇体育館の舞台
原沖 麗(はらおき れい)「越智先輩!」
越智 虫哉(おち むしや)「お、来たな。 こっちも終わったから、すぐ案内できるぞ」
原沖 麗(はらおき れい)「ありがとうございます、あの・・・ さっきはご迷惑おかけしました」
越智 虫哉(おち むしや)「ああ、こっちこそごめんな? 成り行きとはいえ、彼氏面しちゃって」
原沖 麗(はらおき れい)「いえ、それは全然。 香子が無理言ったんですよね」
嶋名 香子(しまな かこ)「麗、今だ、行けーっ!」
香子が物陰からめちゃくちゃ応援してる。
無理だよ、他に人もいっぱいいるし。
それに、そんなに軽々しく彼氏を作っていいものか・・・
もっとその手前のドキドキハラハラウキウキを楽しみたい気がする。
私は彼氏が欲しいんじゃなくて、
恋がしたいんだもの。
越智 虫哉(おち むしや)「じゃあ、剣道場に行こうか。 体育館のすぐ裏手だよ」
原沖 麗(はらおき れい)「はい」
〇体育館の裏
地間 洋隆(ちま ようたか)「おい、嶋名。原沖はどこだ、この中か?」
嶋名 香子(しまな かこ)「地間くん? ちょっと、今は邪魔しないでよ」
地間 洋隆(ちま ようたか)「なんでだよ」
嶋名 香子(しまな かこ)「麗に彼氏ができるかどうかの瀬戸際なんだから」
地間 洋隆(ちま ようたか)「なんだって? まさか、あのちょんまげ野郎と・・・」
嶋名 香子(しまな かこ)「何よ。 もしかして地間くん、麗のこと好きなの?」
地間 洋隆(ちま ようたか)「俺は・・・俺にだって、覚悟はある!」
嶋名 香子(しまな かこ)「・・・地間くん?」
次回へ続く
麗が剣道場で目撃するものとは──
次回最終話 エピソード4.真剣乱舞
読ませていただきました。
名前のセンスとノリツッコミが最高で
とても面白かったです。
あ〜れ〜!
地間くんと越智先輩(の額)、どうなるの〜!?
あ…まさか、この流れは💦💦💦
地間く~~ん、血迷わないでっ!w