夢幻奏話

きらそね

Ep.1-2 刻まれる呪印 (脚本)

夢幻奏話

きらそね

今すぐ読む

夢幻奏話
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇森の中
  森を抜けた先にある
  小さな村──
  『ボワ』

〇西洋風の部屋
  アルヴァと名乗る青年に
  連れてこられた
  この家に──
  奏太はいま
奏太「・・・」
  知らない人の
  パジャマを着せられ
  置き去りにされている。
奏太(なんなんだよ、あいつ・・・!)
奏太(ついてこいって言うからついてきたのに、いきなり放置かよ!)
奏太(『アルヴァだ』)
奏太(──とかドヤ顔して名乗ったっきり、 ひと言も口きかねーし!)
奏太(しかも──)
???「・・・」
奏太(だれ、この人!?)
???「・・・大丈夫? さっきから表情筋フル稼働してるけど」
奏太「へぁ!?」
奏太「あっ・・・ あ、ハイ、だいじょーぶです!」
奏太(やべぇ変な声でた・・・!)
???「ははは・・・カナタくん、だっけ? そんなに緊張しないで」
???「自分の家だと思ってくつろいでくれて構わないから」
奏太「や、あの、ハイ が・・・がんばります」
???「そこがんばったら『くつろぎ』の意味なくなるね」
奏太「ああ・・・うう」
???「・・・まあ、無理もないか」
???「”アル”のことだから、どうせなんの説明もせずにココまで引っぱってきたんでしょ?」
奏太「アル? って、あいつ──アルヴァのことですか?」
???「そう、──ああ そういえば自己紹介がまだだったね」
ランス「僕はランス・バジェリー。アルの義兄だよ」
奏太「義理のお兄さん・・・?」
ランス「そう。僕の妻が、アルの姉」
ランス「っていっても 子供のころから知ってるから──」
ランス「僕は本当の弟みたいに思ってるけどね」
奏太「幼馴染的なやつですか」
ランス「まあ、そうだね」
奏太(なんか優しそうだし、あいつと違ってちゃんと話してくれそうな人・・・)
奏太(よかった・・・)
ランス「それにしても──大変だったみたいだね」
ランス「君が着替えてるあいだにアルから聞いたよ」
ランス「あ、そういえば君が着てた服、 いま乾かしてるから──」
ランス「僕の寝間着で申し訳ないけど もう少しがまんしてね」
奏太「いえそんな・・・ 逆に色々してもらって、なんかスイマセン」
ランス「いーえ」
奏太(やっぱめっちゃイイひとだ・・・!)
ランス「さて──本題に入る前に。 カナタくん」
奏太「はい・・・?」
ランス「上、脱いでもらっていい?」
奏太「・・・・・・・・・へ?」
ランス「恥ずかしかったら前開けてくれるだけでもいいよ」
ランス「胸あたりまでで大丈夫だから」
奏太「え? いや、あの──」
  ランスは振り向くことなく
  奥の部屋に入っていってしまう。
  その背中に覚える
  一種の既視感──
奏太(義理とはいえ、さすが兄弟・・・)

〇黒背景
  一人取り残された奏太は
  しかたなく
  シャツのボタンに手を掛けた。
  ヒトサマの家で半裸になるのも
  気が引けたので、
  胸元をひらく程度にとどめておく。
  間もなくして──
  塗料の入った小鉢と絵筆、
  分厚い辞書のようなものを持って
  ランスが戻ってきた。

〇西洋風の部屋
ランス「準備できた?」
奏太「い、一応・・・」
ランス「じゃあカナタくん、こっちに来て、ここ座って。僕の方に体向けてくれる?」
奏太「はい・・・」
  促されるまま、
  テーブルの前で向かい合わせに座る。
  ランスは手にしていた小鉢を
  テーブルに置き
  分厚い本をひらいた。
奏太(なんの本だろ・・・?)
  覗きこんでみると──
奏太「ひぇっ!」
  不可思議な図形と
  殴り書きされた文字が
  一分(いちぶ)の余白もなく
  紙面をびッしりと埋め尽くしている。
奏太(な、なんか狂気・・・!!)
ランス「ああ、ごめんごめん、びっくりするよね」
ランス「これは祖母から譲り受けたものなんだ。 なんていうか、少しクセの強い人だったんだけど──」
ランス「一応、魔術研究の第一人者でね」
奏太「まじゅつ・・・」
奏太「って、魔法みたいな──呪文唱えて火を出したり凍らせたりする・・・?」
ランス「まあ、そうだね」
奏太「・・・あの。俺、なにされるんですか?」
ランス「はは、大丈夫大丈夫。べつに拷問しようとか、そんな物騒なことじゃないから」
奏太(その例えが物騒・・・!)
ランス「ちょっとくすぐったいかもしれないけど 我慢してね」
  ランスは絵筆を取り、
  奏太の胸元にすべらせていく。
奏太(くすぐってぇ・・・)
ランス「動かないでね」
奏太「ハイ」
ランス「──・・・ ねえ、カナタくん」
ランス「ひとつ聞いてもいいかな」
奏太「なんでしょうか・・・」
ランス「君は、どこから来たの?」
奏太「!」
ランス「”ここ”ではない、どこか?」
奏太「えっと・・・はい、まあ。たぶん。 俺にもよくわからないんですけど──」
ランス「そう」
ランス「──僕は、アルに2つのことを頼まれた」
ランス「ひとつは、『ここ』に生きる者なら誰もが知っている”ある話”を君にすること」
奏太「ある、話?」
ランス「言い伝え、伝説、予言、あるいは迷信」
ランス「地域や話し手によってさまざまな呼び方があるけれど──」
ランス「ちょっとした民間伝承っていうのが いちばん良いかな」
奏太「民間伝承・・・迷信・・・?」
奏太(カッパとかテングとか、そういう・・・?)
奏太「あ!」
奏太「もしかしてアレですか? なんかグロくてキモい感じの──『きじゅう』とかいう」
ランス「あれ、鬼獣の存在は知ってるんだね。 アルから聞いた?」
奏太「聞いたっていうか、見たっていうか ・・・襲われたっていうか」
ランス「え?」
ランス「襲われた・・・って、鬼獣に?」
奏太「は、はい」
ランス「どこで?」
奏太「あの、せーいきとかっていう泉で この近くの、森の中にある・・・」
ランス「まさか、セクトールの泉で? そんな馬鹿な・・・」
ランス「・・・・・・」
奏太「あ、いや、あの、違うかも。あいつがボソっと言ったのが聞こえただけだし、聞き間違いとか空耳とか──」
奏太「ここに来る前からなんか耳おかしかったし、っつーか俺そんな耳よくないし」
ランス「黒くてグロテスクな生き物だったんだよね ツノ、あった?」
奏太「ツノ? いや、そこまではちょっと・・・」
ランス「・・・成程ね だからアルは急いで森に戻ったのか」
奏太(もしかして言わないほうがよかったのかな・・・)
奏太「あ、あの」
ランス「・・・・・・」
  ランスがふっと息を吐く。
  表情から険しさが消えた。
ランス「・・・君がアルと一緒でよかったよ」
ランス「鬼獣の餌食になる人は多い。 無傷ですんでなによりだ」
奏太「あー・・・そっすね、はは・・・」
  彼が助けてくれたのは確かだけれど──

〇睡蓮の花園
  事実とは──
  少し、違う。

〇西洋風の部屋
奏太(でも、あんま余計なこと言わないほうがいいかな)
奏太(あいつも話さなかったっぽいし・・・)
奏太「──あの、それで、さっき言ってた伝承とかって・・・」
ランス「うん。この話には鬼獣のことも関係してくるんだけど──」

〇島
ランス「これは、はるか昔から口頭で伝え続けられてきたものなんだ」
ランス「文献はほとんどない。 いつどこで生まれたのか誰が語り始めたのか──」
ランス「僕たちの知るものが原型通りであるのかもわからない」
ランス「今、伝えられているのは──」
  『強大な闇の力をもって
  訪れし災厄が──
  大地を蹂躙し
  空に混沌をもたらさんとする
  その時──
  戦女神に導かれ
  異界より一人の使者が舞い降りる。
  使者は聖なる光をもって闇を晴らし
  悠久の平穏へ
  我らを導いてくれるだろう』
ランス「──っていうものなんだけど」

〇西洋風の部屋
奏太「はあ、なるほど・・・」
奏太(言葉がむずかしくってよくわかんなかったけど──)
奏太「つまり、悪いやつを勇者的な人がやっつける──ってことですよね」
ランス「うん、まあ・・・ ものすごく簡単に言うとね」
奏太「あの鬼獣ってのが悪いやつ?」
ランス「うーん・・・」
ランス「鬼獣は・・・そうだな、君の言う『悪いやつ』の手下ってところかな」
ランス「それとセクトールの使者は『勇者』とはまた違う立場にある」
ランス「ちゃんとした呼び名もあるしね」
奏太「呼び名?」
ランス「そう」
  ランスが絵筆を置いた。
  なにが描かれたのか
  確認しようとしたけれど──
  ランスの手が胸元を覆(おお)う。
ランス「ごめんね、少し痛いかもしれない」
奏太「へ?」
  ランスの口から
  聞いたこともない言葉が
  流れだした。
  次の瞬間──
奏太「うぉわッ、熱ッち──」
奏太「・・・ぃ・・・ ──・・・あれ?」
  少し痛いどころではない、焼きゴテを押し付けられたような熱が走ったけれど──
  ほんの一瞬のことで。
奏太(・・・?)
  胸元を見下ろして見ると、
  ほのかに発光している不思議な紋
奏太「え!? これ──」
ランス「セクトールの使者は、こう呼ばれている」
  ──伝説の導き手。
ランス「君のことだよ、カナタくん」

次のエピソード:Ep.1-3 深淵の記憶

コメント

  • 転移先の世界について、そして伝承について、明らかにされるにつれてワクワク感が増しますね!大好きな王道ファンタジー設定に胸が躍ります!

成分キーワード

ページTOPへ