Ep.1-3 深淵の記憶(脚本)
〇西洋風の部屋
『伝説の導き手』──
君のことだよ、カナタくん──
奏太「──・・・」
ランス「・・・いきなりこんなふうに言われたら、誰だって驚くよね」
ランス「お茶、入れようか」
ランスは立ち上がり、
キッチンへと入っていく。
奏太「──・・・」
奏太(女神サマの使者?『導き手』?)
奏太(──俺が?)
とりたてて取柄もない、なんの力もない自分が──・・・
奏太(ちから・・・?)
奏太(もしかして”アレ”か? 鬼獣に襲われたときに出た、変な力──)
奏太(そういえばあのあと急に、アルヴァの態度も変わったんだよな・・・)
奏太(もしかしてアレが──女神サマが俺に与えてくれた”力”?)
奏太(鬼獣を一撃で倒せたのはそのおかげ? アルヴァもそのことに気づいて──?)
奏太(あれ、なんか・・・)
不思議となんとかなりそうな気がしてくる。
ゲームにしろコミックにしろ──
こういうお話に出てくる主人公は、なんだかんだ上手く目的を果たすものだ。
ラスボスと戦うころには、冒険のすえに大きな力──
たとえば、伝説の剣とか特殊な魔法とかを手に入れて、仲間とともに勝利と栄光を掴む。
ついでに──
奏太(かわいいヒロインと結ばれたりなんかもしちゃったりして・・・!)
思い描いた未来予想は、なんとも楽しげでカラフルだ。
ただ──
腑に落ちない点も、あった。
〇黒背景
ここに来る直前に聞いた声、
発現した力、
そのどちらも
女神さまのものとは思えないほど──
禍々しかったこと。
けれど奏太は、
その違和感を
すぐに頭のすみに追いやった。
余計なことは考えない。
うまくいきそうなのだから、
それでいい──と。
〇西洋風の部屋
ランス「はい、どうぞ・・・って、あれ?」
ランス「もっと悩んでるかと思ったけど」
奏太「や、意外といけそうな気がして!」
ランス「いけそう・・・?」
奏太「レベルあげて悪いヤツをやっつければいいんですよね、俺」
ランス「あー・・・ええと。 そのことなんだけど──」
アルヴァ「・・・」
奏太(あっ! アイツ──)
ランス「ああ、おかえりアル。ちょうどよかった」
ランス「ここから先は、君がいたほうが話しやすい」
アルヴァ「あ? 話しやすいって──」
言いかけたアルヴァの目が、
奏太の胸元に留まる。
アルヴァ「──なんだよ まだ呪印(じゅいん)だけか?」
奏太「じゅいん・・・?」
アルヴァ「テメェの胸にあるソレだ」
アルヴァ「説明もしてねぇのかよ、ランス」
ランス「頼まれたこと『は』終わってるよ、2つとも」
ランス「『俺が戻るまでに──』なんて無茶言うから、いろいろ省いて終わらせたんだよ」
ランス「無理やりね」
ランス「説明その他もろもろは、これから」
アルヴァ「・・・そうかよ」
ランスの笑顔の圧にも動揺せず、
悪びれる様子もなく、
アルヴァはキッチンに入っていく。
ランス「そうだな、少し話は前後するけど──」
ランス「先に、君に刻んだ──”呪印”の説明からしようか」
奏太「この胸のやつのこと──ですよね」
ランス「そう。実はアルの腕にもあるんだけど──」
奏太「腕?」
奏太「あ、もしかして、あいつの腕から出た炎って・・・」
ランス「やっぱり見たんだね。 そう、ソレも呪印の効果だよ」
奏太「じゃあ俺のも──・・・あれ?」
奏太「でもあいつ、たしか『ふじゅ』とか言ってたような・・・」
ランス「呪印にもいろいろ種類があるんだよ」
ランス「アルのは──簡単に言うと、力を高めたり火や水の付加効果を得るためのもので」
ランス「『付呪』の呪印と呼ばれている」
ランス「君のは抑制── 力を抑えるためのものだよ」
奏太「力を抑える・・・?」
ランス「そう。どうしてその呪印なのかは、僕にもわからないけど」
アルヴァ「・・・」
水の入ったグラスと小さな林檎を手に
戻ってきたアルヴァに、
ランスが問うような視線を向ける。
しかしアルヴァは
それには答えず──
アルヴァ「・・・いざって時には胸のソレを意識すりゃいい。それだけで効果は出る」
奏太「いざって時に力抑えんの?」
アルヴァ「ああ」
奏太「どんな時だよ」
アルヴァ「さぁな お前が必要だと思った時だ」
奏太「さっきみたいな呪文はいらねーの? 宿れなんちゃらみてーな」
アルヴァ「いらねぇな」
奏太「ふーん・・・?」
ランス「ええと・・・少し付け足しておくと 呪印は複雑なものほど集中力が必要なんだ」
ランス「そのきっかけとなる『なにか』を決めている人も多い」
ランス「呪文というか、アルのはそれだよ」
奏太(ってことは、俺のはそんなフクザツなやつじゃないのか)
奏太(扱いに困ることはなさそうだけど・・・)
使いみちは謎である。
ランス「まあアルが必要だと思ったのなら、 そのうち役に立つときがくるよ」
ランス「さて── 次は導き手について、だね」
奏太「悪いヤツを・・・やっつける・・・?」
ランス「うん。伝承によれば、たしかにそれは導き手の使命とされてはいるけれど──」
ランス「結論から言うね」
ランス「その悪いヤツ── ベラトルムっていうんだけど」
ランス「奴はもういない」
奏太「え?」
ランス「すでに『勇者』の手によって討たれてるんだ・・・二年前に」
ランス「今のこの世界は、平穏そのものなんだよ」
奏太「へ? ・・・え?」
奏太(それってつまり──)
〇島
世界はとっくにハッピーエンドを迎えていて
主人公の冒険は
始まる前に終わってましたとさ。
~Fin~
奏太(──ってこと!?!?)
〇西洋風の部屋
奏太「え、ってかそんなコトある・・・!?」
奏太「勇者がなんとかしちゃったんなら、俺、ふッ飛ばされて来た意味ねーじゃん・・・」
アルヴァ「お前が来るのが遅かったのが悪いんだろーが」
奏太「べつに俺のタイミングで来たわけじゃないし」
アルヴァ「知るかよ やっちまったもんは仕方ねぇだろ」
奏太「いや、っていうかさ」
奏太「そういう伝説とかあるんなら、フツー待つもんじゃねーの? って話」
奏太「自力でなんとかしちゃうとか、どんだけ逞しいんだよ勇者」
アルヴァ「るッせェな なりゆきだ、なりゆき」
奏太「・・・・・・」
奏太「なんでおまえが答えてんの?」
アルヴァ「・・・・・・」
アルヴァはなにも言わないまま
林檎をしゃくしゃくかじりだす。
奏太「え、俺の声聞こえてる?」
ランス「・・・アルだからだよ」
奏太「え?」
ランス「ベラトルムを討ったのは、アルなんだ」
奏太「・・・・・・」
奏太「はぁあああああ!?」
アルヴァ「うるっせェな、なんだよ」
奏太「いや、だっておまえ 勇者って感じじゃないじゃん!」
奏太「どう見たってチンピラ──」
とたんに
食べかけのリンゴが飛んできた。
奏太「いってぇ!」
アルヴァ「誰がチンピラだ」
アルヴァ「・・・ランスも笑ってんじゃねぇよ」
ランス「ははは、ごめんごめん」
アルヴァ「つーか。言っとくけどな」
アルヴァ「俺は自分から『勇者です』なんて名乗ったことは一度もねェ」
アルヴァ「なりゆきでこうなっちまっただけで、べつに世界を護ろうとか、平和を取り戻そうとか──」
アルヴァ「そんなたいそうな信条なんて、これッぽっちも持ってねェんだよ」
奏太「そんな威張って言うことですかね・・・」
アルヴァ「フン」
奏太(うーん・・・ こいつが倒したってのは本当みたいだけど)
奏太(悪の親玉ってそんな簡単に──なりゆきで倒せちゃうもんなの?)
奏太(じつはそんなに強くないとか・・・?)
奏太(まあ、俺みたいな普通の高校生が呼ばれたくらいだし・・・)
その時──
ふと、アルヴァと目が合った。
〇荒廃した教会
鼓膜の内側でキン──と
鉄線を弾くような音が響く。
脳裡に浮かぶ映像。
大剣を手に向かってくる──
傷だらけのアルヴァの姿。
奏太(え、なに? なんだ・・・!?)
それを皮切りに──
〇黒背景
知らない記憶が
脳の中に溢れ返る。
寂れた大聖堂
恐怖におののく人々の顔
うごめく鬼獣に──
ひび割れたステンドグラスに
滴り落ちる血に骸の山に──
たなびく漆黒の長い髪──
女性の背中──
ランス「──・・・くん、カナタくん!」
〇西洋風の部屋
奏太「っ・・・!」
ランス「どうしたの、大丈夫?」
奏太「あ、いや・・・なんか・・・」
奏太(・・・なんだったんだ、いまの)
奏太(急に頭の中を支配された感じ──)
奏太(しかも、アレぜんぶ・・・)
知らないのに、憶えている。
見たことがないのに、知っている。
それはひどく気持ちの悪い感覚で──
奏太(・・・や、ば・・・)
耳鳴りが激しくなる。
意識が──
体から剥がされていくような感覚が──
ランス「カナタくん? カナタくん!」
──ばしゃん、と。
突然、
顔に水が掛かった。
奏太「・・・・・・っ・・・」
アルヴァ「大丈夫かお前。すげぇ顔してたぜ」
奏太「・・・・・・」
ランス「アル、なにも水掛けなくても── カナタくん大丈夫?」
奏太「・・・あ、へーき、す・・・」
ランス「──じゃなさそうだね、顔真っ青だよ。 とりあえずタオル持ってくるから」
アルヴァ「・・・」
アルヴァがじっと──
目を覗きこむように見つめてくる。
その視線から逃げるように、
奏太はそっと顔を伏せた。
王道テンプレ的なストーリー骨格かと思いきや、意外な崩し方で楽しくなってきます。奏太のツッコミが適度な緩和となっていて、メリハリがいいですね!