10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在曰ミグランス人

第3話 ARF(脚本)

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〇荒野
  尾行されていたらしい。
  僕はそんなミスはしない。されていたとしたらムルアの方だろう。
  ・・・・・・多分。
  最新機器盛り沢山のロボット兵器だ。誰が動きを察知されたとしても、おかしくはない。
ムルア「ちっ!」
ムルア「逃げろ!」
  ありがたい申し出だが、折角築いたコネクションを失う訳にはいかない。
ムルア「戦う気か?」
アメタ「簡単に逃げられる相手じゃない!」
アメタ「それに・・・・・・」
アメタ「良い肉を貰った礼だ」
ムルア「!!」
  戦闘は久し振りだが何とかなるだろう。
  ARコンタクトを戦闘モードに調整。
  自慢なのだが、僕は結構な戦闘能力を誇る。
  食糧監察官はその職務上、どうしてもならず者を相手にする機会が少なくない。
  それ故、各国の特殊部隊、諜報局、警察などが指揮する訓練を受ける事が義務付けられている。
  特筆すべきは接近戦術(Close Quarters Tactics)という特殊技能だ。
  即ち、銃撃戦の統計学的分析の元、敵の死角に身を置き、瞬時に倒す技術。
  蓄積されたデータを反映し、銃口の角度を判断、
  弾丸が経過する軌道を避けて、死角に回り、最小の動きで最大の成果を上げる。
  CQTを習得した者の戦闘力は、世界でもトップクラスに入ると言っても良い。
  駄目だ。ライフルやグレネードでは火力が足りない。
  ロボットの動きが僅かに変化した。
  遠隔操作型という事だ。
  AI搭載型も一時期持て囃されたが、如何せん細かい融通がきかなかったらしく、今では専ら遠隔操作型が主流になりつつある。
  弱点を見つけ出せ。装甲の最も薄い箇所だ。
  見つけたっ!
アメタ「ムルアッ!」
ムルア「ああっ!」
  ロボット兵器との戦闘は、兎に角短期決戦が望ましい。
  こっちが全身を酷使するのに対して、相手の疲労は殆どない。
  戦闘が長引く程、どんどん不利になってしまう。
  何より・・・・・・
アメタ「くたばれっ!!」
  今頃カメラの向こうにいる操縦者は、エアコンの効いた快適な環境で、ゲーム機みたいなコントローラーを握っているのだろう。
  そんな奴に弄ばれる程、ムカつく事はないからだ。
  精神衛生上、大変宜しくない。
ムルア「・・・・・・やった、のか?」

〇野営地
  戦闘が終了すると、僕はARFのキャンプへ招待された。
  少し驚いた。
  ムルア以外はみんな子供だった。
  所謂少年兵。こんな土地では珍しくもないが、しかし・・・・・・
ムルア「アメタ、丁度食事の準備が出来たらしい。一緒に食べよう」
アメタ「え? 一緒に? 食事を? ここで?」
ムルア「何かおかしいか?」
アメタ「こんな歳から青食で乱食なんて・・・・・・」
アメタ「性癖が歪んでしまわないか?」
ムルア「歪んでるのはお前の方だよ・・・・・・」
ムルア「先進国の奴は皆そんななのか?」
  機内での一幕を思い出す。
  昔は大勢の人間で食事をするのが、何よりの楽しみだった、と。
  見ればどの子も楽しそうにしている。
  とても、いやらしい事をしている様には見えない。
  これが本来の人間の姿なのだろうか。
  ・・・・・・悪くないかも知れない。
  命を頂く行為。それは罪深い事なのかも知れない。
  でも、そんな風にしか僕らは生きていけない。
  それは本当に罪なのか?
アメタ「・・・・・・」
  どうやら僕も随分、飢渇至上主義に毒されていたらしい。
アメタ「食事しながら吸うのか?」
ムルア「何言ってる。美味いんだぞ?」
アメタ「それは理解出来んわ・・・・・・」
少年兵「・・・・・・やけた」
アメタ「うわ!」
ムルア「食えよ。熱いうちに。サイコーだぞぉ」
アメタ「ごきゅ・・・・・・」
  ・・・・・・良いのだろうか?
  女子供の前で、こんな卑猥な物を・・・・・・
「・・・・・・」
  良いんだよな?
アメタ「・・・・・・」
アメタ「はも・・・・・・」
アメタ「・・・・・・」
アメタ「・・・・・・」
ムルア「・・・・・・?」
ムルア「どうした?」
アメタ「・・・・・・」
ムルア「おい、大丈夫か?」
アメタ「おひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
アメタ「・・・・・・なんだこれ」
アメタ「美味い。美味過ぎる・・・・・・」
アメタ「天然の肉ってこんなに美味しいのか・・・・・・」
アメタ「こんなの食べた事ない・・・・・・」
  甘美な肉汁が溢れ出す。
  舌を絡ませ、口の中で転がすと、滑らかな歯ざわりが口内を愛撫する。
  ぱりぱりの皮と、ジューシーな霜降りのコラボレーション。
  芳ばしい香りが鼻腔を駆け抜けて行く。
  味蕾がフル活動して、脳から快楽物質を大量にリリースする。
  顎の動きが止まらない。永遠に咀嚼していたい。
  余りの美味しさに目頭が熱くなる。
ムルア「ははっ! 泣く程美味かったのか?」
アメタ「だって・・・・・・ こんな・・・・・・」
アメタ「こんな%△#?%◎&@□!・・・・・・」
ムルア「いや美味いのはわかったから落ち着け」
  これだから、この仕事は辞められない。
  こんな味を覚えてしまったら、とてもじゃないが、普通の食事では満足出来ない。
  栄養なんて全く考えていない。カロリーの計算だってしていない。
  極めて雑で、いい加減。
  でも自然が持つ本来の味。
  命の味だ。
ムルア「よぅし!」
ムルア「私達も食べよう!」

〇野営地
アメタ「嗚呼・・・・・・ 最高だった・・・・・・」
ムルア「それは何より」
ムルア「ここにはどの位いるんだ?」
アメタ「さあ? 命令が出るまでは、いるつもりだけど」
ムルア「命令ってのは、いつ出るんだ?」
アメタ「来週かも知れないし、数年後かも知れない」
ムルア「エージェントがいい加減なら、組織もいい加減だな」
アメタ「異動願を出せば、簡単に受理されるよ」
  それもこれも食糧監察官が命を狙われる仕事だからだ。
  特に外国人は誘拐ビジネスの標的になりやすい。
  僕がここに来たのも前任者が殺害されたからで、本部もその辺の事情をわかってくれているのか、異動は頻繁に行われる。
アメタ「今のところ出すつもりはないけどね」
ムルア「なら相談なんだが・・・・・・」
アメタ「?」

〇野営地
アメタ「・・・・・・成程」
  ムルアの話では、国境沿い付近にPMSCsの施設があるらしい。
  森や砂漠で食材を調達し、闇市で大量に捌いているとか。
  今までは手を出しあぐねていたが、僕の持ってきた武器によって攻撃する準備が整ったというのだ。
アメタ「ちょっと待て。いきなり攻撃する気なのか?」
アメタ「そもそも、そいつらが本当に違法行為をしているか、わからないじゃないか」
アメタ「根拠は?」
ムルア「ない」
ムルア「やましい事をしているから、コソコソしているんだ」
  軍事を請け負う企業なのだから、隠密行動に決まっている。
  食糧に限らず、隠している秘密なんて山程あるだろう。
アメタ「せめて証拠とか・・・・・・」
  そもそも攻撃する、というのが激しく間違っている。
  政府が最低限確保している警察や軍隊と違って、常に最前線で戦い続けてきた猛者揃いなのだ。
  少年兵ばかりの部隊で太刀打ち出来るとは到底思えない。
  世界中の人間が空きっ腹を抱えて、戦争らしい戦争が出来なくなって、それでも元気に戦いに明け暮れている好事家ばかりなのだ。
アメタ「・・・・・・」
  とは言え・・・・・・
アメタ「まず僕が調査する」
ムルア「出来るのか?」
アメタ「それが本業だから、ね」
  美味い肉の礼がしたい。

次のエピソード:第4話 PMSCs

コメント

  • 天然の肉……これは罪の味ですわ
    食糧難が来て、お肉が気軽に食べれなくなったとき
    久方ぶりに噛み締めたお肉はきっとそんな味わいなのでしょうね?
    バトルあり食事ありと楽しい回でした

  • あああ良かった、おいしいシーンがでてきて良かったー!!😂😂😂
    今まで食を否定する描写で息が詰まっていた分、おいしいものへの爆発に主人公とシンクロしてしまいました。
    戦闘シーンもかっこ良かったです!

  • 食による快楽の描写が素晴らしいと言うかすさまじいですね。これまでどれだけ味気ない毎日だったのかが伝わってきます(^^

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