怪人アー君と、マッドサイエンティストな彼女

久望 蜜

怪人アー君の秘密(脚本)

怪人アー君と、マッドサイエンティストな彼女

久望 蜜

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〇簡素な部屋
アー君「何じゃこりゃあ!?」
イズミ「あら、目を覚ました?」
アー君「どういうことだ? 何で俺の身体が怪人になっているんだ!?」
イズミ「だって君、イズミが大事にとっておいたケーキを食べたでしょ。だから、その仕返し」
アー君「仕返しで、寝ている間に人の身体を改造する奴があるか!?」
アー君(イズミは俺の彼女で、天才科学者といわれている。 だが、いくら何でもこれは・・・・・・)
アー君「夢・・・・・・そう、夢に決まっている。 こんなこと、あってたまるか!」
イズミ「全く、しょうがないなぁ」
アー君「うわ、危ないだろ! 何を考えているんだ!?」
イズミ「ちょっとアー君、避けないでよ。 痛感があれば、夢じゃないってわかるでしょ」
アー君「いやいや、死んじまうだろ!」
イズミ「大丈夫よ。イズミ特製怪人ボディが、そんな簡単に壊れるわけないんだから」
アー君「ものみたいにいうな! それより、早くもとの身体に戻してくれ」
イズミ「うーんと、ごめん。無理」
アー君「は?」
イズミ「いやー、調子に乗っていじりすぎちゃって、もとに戻せなくなっちゃった。テヘッ!」
アー君「『テヘッ』じゃねぇ! ちょっと待て、どうするつもりだよ、これ!? こんな姿じゃ外にも出られないだろ!」
イズミ「着ぐるみに見えるし、大丈夫じゃない? 気にしすぎよ」
アー君「もうちょっと気にしろよ!」
イズミ「だからぁ、謝ったでしょ? 細かいことにこだわっていると、モテないよ?」
アー君「全っ然、細かくねぇ!」
イズミ「全く、しょうがないわね。人間の身体に近づけるよう、もう少し研究してあげるわよ」
アー君「何で、そんな上から目線なんだ・・・・・・」
イズミ「イズミは、どんな姿の君でも愛しているよ?」
アー君「そういう問題じゃねぇ!」
イズミ「とりあえず、気分転換に散歩でも行こう!」

〇開けた交差点
イズミ「外の空気はどう?」
アー君「何故か、やけに久しぶりな感じがするな。 最近、あまり散歩していないせいかもな・・・・・・」
アー君「それより、普通に出歩いて大丈夫なのか?」
イズミ「堂々としていれば、バレないって。ほら」
女性「キャー、何あれ!」
アー君「おい、どこがバレないって──」
女性「カッコいい!」
アー君「へ?」
男性「クオリティーが高い着ぐるみだな!」
アー君「あ、どうも・・・・・・」
イズミ「ね? 平気だったでしょ。 今は怪人にも寛容な世の中なんだから」
アー君「寛容って・・・・・・」

〇田舎の駅
  イズミとの出会いは、一年くらい前。
母「無理しないでね」
父「身体に気をつけるんだぞ」
アー君「ああ。こまめに連絡するから」
  そうして田舎育ちの俺は上京したけど、知りあいもいなくて不安だった

〇電器街
  あるとき、街でたまたま見かけた彼女に一目惚れしたのが始まりだ。
  そのときはまさか、ここまで無茶苦茶な娘だとは思わなかったが。
  でもまぁ、思いかえすと片鱗はあった。
  スマホを勝手に改造されたこともあったし・・・・・・

〇開けた交差点
アー君(あれ? 変だな。どうして俺は・・・・・・)
アー君「そういえば、俺のスマホはどこだ?」
イズミ「あー、あれ? ようは通話できればいいんでしょ? 怪人ボディに通信機能をつけておいたから、もういらないよね」
アー君「は? いや、嘘だろ! 友だちの連絡先とか入っているし!」
イズミ「は? イズミ以外の連絡先なんて、いらないでしょ。その通信機能でも、他の人には連絡とれないから」
アー君「ヤキモチを焼いたのか。 かわいいところもあるじゃないか」
アー君「・・・・・・って、ならんわ! 何してくれてんだ、お前!!」
イズミ「えー・・・・・・。あ、危ない」
アー君「銃声!? どこから!?」
イズミ「うーん、もう見つかったか・・・・・・」
アー君「は?」
イズミ「ぼやっとしてないで! 逃げるよ!」
アー君「おい、待てよ!」

〇公園のベンチ
アー君「どうして、俺たちが狙われなきゃいけないんだ?」
イズミ「あのね、イズミは悪の秘密組織の人間なの。悪の天才科学者って奴?」
アー君「もう何をいわれても、驚かないぞ・・・・・・」
イズミ「えー、つまらないなぁ」
アー君「それで、何で襲われたんだ?」
イズミ「実は、組織を抜けたの。 だから、イズミを消したいんだと思う」
アー君「何で抜けたんだ? いや、そもそも何で入ったんだ? 俺と出会ったときには、もう組織に入っていたのか?」

〇大きい研究施設
イズミ「組織に入ったのは、誘われたから」
ドクロ教授「悪の秘密組織に入らないか?」
イズミ「いいよ!」
アー君「おま、そんな簡単に・・・・・・」

〇公園のベンチ
イズミ「まぁイズミの才能を見込んでのことだったし、科学者としてはやっぱり魅力的だったのよ」
イズミ「潤沢な資金に、最新の設備で研究し放題っていうのは・・・・・・」
アー君「それはわかるけど、じゃあ何で組織を抜けたんだ? 命の危険もあるんだろ」
イズミ「それは──」
組織の人間「見つけたぞ! 覚悟しろ!」
アー君「危ない!」
アー君「う、撃たれた・・・・・・。 くそ、ここまでか・・・・・・」
イズミ「アー君!」
アー君「・・・・・・あれ、痛くない?」
イズミ「もう、何やっているの! 早く走って!」
アー君「いや、お前を庇って、今撃たれたんだけど・・・・・・。 もう少し心配してくれても・・・・・・」
イズミ「あんな普通の銃ごとき、怪人ボディには全く効かないわ!」
アー君「みたいだな・・・・・・。それは嬉しいけど、あまりに人間離れしていて悲しい・・・・・・」
イズミ「ぼやいてないで、走る!」
アー君「思ったんだけど、どう見ても相手は普通の人間だよな? この怪人ボディなら、反撃できるんじゃないか?」
イズミ「絶対ダメ! 君には人を傷つけさせたくない」
クワガタ型怪人「タァッ!」
アー君「うわっ怪人!?」
クワガタ型怪人「何だ、お前は? 組織の所属怪人ではないようだが・・・・・・。 まぁいい、大人しく捕まってもらおうか」
アー君「くっ。イズミは先に行け!」
イズミ「でも・・・・・・」
アー君「大丈夫だから! それに人間を傷つけるわけじゃないから、いいだろ?」
イズミ「・・・・・・わかった。 アー君、気をつけてね!」
アー君「とうっ!」
クワガタ型怪人「ふんっ!」
アー君「これでどうだっ!」
クワガタ型怪人「くっ、仕方ない。今回は引かせてもらおう。 だが、大事なものから目を離して本当によかったのか?」
アー君「まさか・・・・・・。イズミ!」
アー君「くそっ、どこだ!?」
アー君「通信機能はイズミ以外に使えないから、警察は呼べないし・・・・・・」
アー君「ん? これは・・・・・・イズミがつけたという通信機能か? スマホの位置情報が送られてきた」
アー君「・・・・・・待っていろ、イズミ!」

〇古い倉庫
アー君「この辺りか? あ、あそこに怪しい倉庫があるな・・・・・・」

〇ボロい倉庫の中
ドクロ教授「さて、博士よ。 本当に組織に戻るつもりはないのだな?」
イズミ「ないわ」
アー君(いた! イズミと怪人だ)
ドクロ教授「それは実に残念だ。 その頭脳は、組織のために役立つのに」
イズミ「どうせ始末する前に、イズミの脳もトレースするつもりなんでしょ」
ドクロ教授「人の脳をトレースして移植すれば、手軽に人格を植えつけられるからね」
ドクロ教授「それに君の脳があれば、研究は続けられる」
イズミ「それなら、AIにでも計算させなさいよ」
イズミ「脳だけになっても、イズミは何度でも裏切るわ。この想いは、変わらないんだから!」
ドクロ教授「ふん、バカバカしい! 優秀な頭脳がありながら、思想や倫理によって何もなしえないとは!」
イズミ「そういうアンタこそ、三流な脳がトレースされているみたいね」
ドクロ教授「何だと!?」
イズミ「図星?」
ドクロ教授「・・・・・・ふん。 だが、私には君のほうが理解に苦しむね」
ドクロ教授「自分がつくった怪人を戦わせないために、組織を抜けるなど」
ドクロ教授「君が一緒に逃げていた、あの怪人のことだろう?」
ドクロ教授「誰だ!」
アー君「そんな・・・・・・。 組織を抜けたのは、俺のためだったのか?」
アー君「どういうことだ、イズミ? 俺が寝ている間に改造したといっていたが、俺は組織に改造されたのか?」
ドクロ教授「改造? 何をバカなことを。君は博士に製造されたのだよ。もとから人間ではない」
ドクロ教授「何もかもが、偽ものだ!」
イズミ「君にだけは、聞かれたくなかった・・・・・・」
イズミ「もうわかったでしょ、わたしは君の彼女でも何でもない」
イズミ「ほら、さっさと逃げて。君がわたしを助ける義理なんか、ないんだから!」
アー君「何いってんだよ・・・・・・」
ドクロ教授「ハハッ、驚きすぎて、逃げる気力も失せたか──」
ドクロ教授「へ?」
アー君「もう何をいわれても驚かないって、いっただろ。それに例え彼女じゃなくても、見すごせるか!」
イズミ「アー君・・・・・・!」
ドクロ教授「何故だ! 騙されていたんだぞ! 怒らないのか!?」
アー君「もしかしたら、って思っていたからな」
イズミ「え。気づいていたの?」
アー君「だって、両親の顔はおろか、怪人になる前の自分の顔ですら、思いだせないんだぜ? 何か変だと思っていた」
イズミ「そう・・・・・・。組織から逃げるのに必死で調整が間に合わなかったから、仕方ないか」
アー君「おい、そこの怪人! さっさと失せろ。 今なら見逃してやる」
ドクロ教授「私を舐めるな!」
アー君「逃げないのか? なら、もう容赦はしない!」
アー君「スーパー・サイクロン・ファイヤー・デストラクティブ・キック!!」
ドクロ教授「ぐああっ!」
イズミ「技名が長すぎ・・・・・・」
アー君「倒せた・・・・・・のか?」
イズミ「ほら、呆けている場合じゃないわよ。 追っ手が来る。早く逃げないと!」
アー君「その前に、訊かせてくれ。俺の記憶や人格は、他の人間から移植したものなのか?」
イズミ「・・・・・・ええ。組織が集めた人間の脳のサンプルから、適当なものをトレースしたわ」
アー君「じゃあ、俺は・・・・・・誰なんだ?」
イズミ「誰でもないわ。トレースした脳を移植しても、人間の記憶というものはひどく曖昧なの」
イズミ「でも、人間社会で生きていくうえでは必要だから調整して、ついでにイズミの存在も挟みこんで、つくり直した」
アー君「何で、そんな偽ものの俺なんかのために組織を抜けたんだ?」
イズミ「だって、君に恋をしたんだもの。 そしたら、組織に渡せなくなっちゃった」
アー君「それは・・・・・・怪人ボディにか? それとも、別の人間の脳にか?」
イズミ「どっちでもないよ。 イズミが恋をしたのは、君なんだから」

〇魔法陣のある研究室
イズミ「まだ君が培養槽に入っていた頃──」
イズミ「あーあ、疲れたぁ。イズミの頭脳でも、なかなか研究がうまくいかないなぁ」

〇水の中
アー君「お疲れ、イズミ」

〇魔法陣のある研究室
イズミ「へ? 喋った?」
イズミ「意識なんてあるはずもないし、記憶と聴覚情報が結びついた、ただの寝言のようなもの」

〇ボロい倉庫の中
イズミ「だけど、イズミを気にかけてくれる人なんて今までいなかったから、嬉しかった」
イズミ「そんな君だから、好きになったの」
アー君「それは、でも・・・・・・他の人間の人格だろ?」
イズミ「あのときイズミを労ってくれたのは、他の誰でもなく、君よ」
イズミ「あれから姿も記憶もいじったけど、間違いなくアー君なんだから」
イズミ「だから、君を連れて組織を抜けた。 アー君のためなら、命をかけてもいいと思った」
アー君「俺にそこまでの価値があるか?」
イズミ「技名のセンスがなくても、どんな姿の君でも、愛しているよ」
アー君「その気もちに応えられるかわからないけど、どうせ他に行くあてもないんだ」
アー君「しょうがないから、お前と一緒にいてやる」

コメント

  • 遅ればせながら、読ませていただきました🤗
    コメディと思って油断してました...終盤の展開はズルい...イズミちゃんのこと、より愛おしくなりました🌟

  • 何だか色々なスパイスの効いた、マイルドな味に仕上げたカレーでした。(意味わからん)
    怪人のために組織を抜ける程の愛は本物でしょうけど、それまで組織を抜けるどころか、嬉々として研究していたかと思うと…彼女もアレな方ですね(彼も言ってましたが)
    怪人の彼がまともな人(人?)のようなので、このまま逆美女と野獣で頑張って下さい!(地球の命運は、君に託された!)

  • コミカルな印象だったのですが、最後は切なくなりました。また、回想シーンの使い方が秀逸で、大変勉強になりました。

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