負けたくない!(脚本)
〇学校の部室
『矢間先生、恋人いるよ』
『うちのOGで、矢間先生と山岳部で同期だった・・・』
加奈子「杉下 加奈子です。 あなたが石塚さんね?」
石塚ゆら(び、美人~~~~ッ)
加奈子「矢間くんから話は聞いてるよ! すごく頑張ってるって」
石塚ゆら(しかもメチャメチャ良い人そう~~~)
加奈子「よろしくね。 あと、君は男子チームの・・・」
黒木「1年の気象担当、黒木っす!!」
黒木「今日は天気図の講義に来ていただき、 ありがとうございます!!」
石塚ゆら「声デカ・・・」
黒木「え!?なんて!?」
石塚ゆら「・・・ハァ・・・」
黒木「なんだよ感じ悪ぃな・・・」
加奈子「よ、よろしくね!! 気象予報士の端くれとして、後輩の役に立てたら嬉しいです」
黒木「ウス!!」
石塚ゆら「よろしくお願いします・・・」
ガラッ
矢間「加奈子」
矢間「資料、これも使うか?」
加奈子「おーサンキュ!!」
矢間「こちらこそありがとな。よろしく頼む」
加奈子「うん。後でね」
石塚ゆら「・・・」
石塚ゆら「付き合ってるんすか?」
加奈子「へ!?」
加奈子「私と矢間くん?」
加奈子「ないないない!!たまにこうしてOBOGとして会うくらいだよー!」
石塚ゆら「じゃあ・・・たまに山に登ったりとか・・・泊まりで・・・」
黒木「なに聞いてるんだよ・・・」
加奈子「それもない!!」
加奈子「・・・私ね、もう山には登ってないの」
加奈子「高校のとき、膝の靭帯をやっちゃってね」
石塚ゆら「あ・・・すみません!!」
加奈子「いいのよ。 フフ、しかし矢間くんと私がかあ~」
石塚ゆら(な~んだ副部長の早とちりかあ~!)
石塚ゆら(・・・ん?)
『当時・・・先生と同期の部員が、登山中に大怪我をしてしまったらしいの』
『その人は、二度と山に登れなくなってしまったそうよ』
石塚ゆら(もしかして・・・加奈子さんのこと?)
石塚ゆら「それって・・・」
石塚ゆら(忘れられないひとってやつじゃん・・・)
〇学校の部室
石塚ゆら「ハア・・・」
黒木「お前・・・まじでずっとため息ついてたな」
黒木「シャンとしろよ!!女子チームも今年こそはインターハイ出場目指すんだろ!?」
黒木「やる気にあふれた奴が入ったっていうから楽しみにしてたのによ・・・」
石塚ゆら「・・・てか誰だっけ」
黒木「黒木だよ!!お前と同期の!!さっき自己紹介しただろ!!」
黒木「まったく・・・」
黒木「ま、天気図も俺のほうが上手く描けてたし」
黒木「ライバルにもなりそうにないな」
石塚ゆら「きょ、今日はちょっと調子が悪かっただけで・・・」
黒木「ま・・・いいんじゃん?」
黒木「女子はさ、のんびりやれば」
石塚ゆら「・・・はあ?」
黒木「インターハイ出場は男子チームに任せて、楽しく山ガールしといたらいいんじゃん?」
石塚ゆら「・・・なにそれ」
石塚ゆら「男子チームって、うちの先輩たちのことそんなふうにバカにしてんの!?」
黒木「え?あ、いや・・・」
石塚ゆら「そりゃあたしはチャランポランだけどさ!!」
石塚ゆら「なんかそのかんじ・・・めっちゃ腹立つ!!」
石塚ゆら「見てろよ!!」
石塚ゆら「県大会なんてヨユーで突破して、インターハイだって優勝してやるんだから!!!!!!」
ガララ・・・バタン!!
黒木「・・・なんだよ、冗談じゃん」
〇中庭
石塚ゆら「おりゃおりゃおりゃー!!」
部長「石塚さん!!火が強すぎ!!!!!」
※炊事練・・・安全かつ素早く栄養バランスのとれた食事をつくる練習。ガスを使用した小型火器を用いる
〇階段の踊り場
石塚ゆら「オラアアアアーッ」
※歩荷訓練・・・大会では規定の重さのザックを背負う。女子はおよそ15キロ程度。
長老「石詰めすぎ!!!!ザックからこぼれてる・・・!!!!!!」
〇学校の部室
石塚ゆら「フフ・・・フフフフ・・・」
副部長「え!?まだ残ってたの!!!?」
石塚ゆら「完璧な概念図が描けましたよお・・・」
※概念図・・・コースやその周辺の大まかな地形(山頂、尾根など)などを書き込んだ地図。手書きまたはパソコンで作成する
副部長「いや帰りな!!!!もう夜だよ」
〇役所のオフィス
矢間「・・・どうしたんだ?みんな心配してたぞ」
石塚ゆら「うう・・・こんなはずでは」
矢間「一生懸命なのはいいが、あせるなよ」
石塚ゆら「でも負けたくないんです」
石塚ゆら「男子チームも見返してやりたいし・・・」
矢間「なんでそこで男子が出てくる?」
石塚ゆら「それは・・・」
矢間「・・・あいつもそんなこと言ってたな」
矢間「俺の元同期の女子も、よく言ってたよ」
矢間「『負けたくない』『女だからってなめんな』って・・・」
石塚ゆら(・・・加奈子さん、かな)
加奈子「言ってた言ってた~」
「うわっ!!!?」
矢間「お前・・・部外者が職員室に入るな!!」
加奈子「峰岸先生が入れてくれたんだもーん」
加奈子「ハイこれ、この前借りた資料」
加奈子「石塚さん、明日が県大会本番よね?」
石塚ゆら「あ、ハイ!」
加奈子「大会は普段の山行とは違うから、いろいろ戸惑うかもしれないけど」
加奈子「負けたくない!って気持ちは大事よ! 頑張ってね!」
石塚ゆら「ありがとうございます・・・」
加奈子「矢間くん、あんまり普段から励ましたりしてないでしょ~」
矢間「いや・・・俺なりにいちおうは・・・」
加奈子「なんかないの?ご褒美とか」
加奈子「県大会優勝して、インターハイ出場できたら、アレしてやる~とかコレ買ってやる~とか」
矢間「そんな不純なモチベーションで乗りきれるほど甘くないだろうが!!」
加奈子「え~?石塚さんもなんかご褒美あったほうがいいよねえ?」
石塚ゆら「えっ!? あ~アハハ・・・」
石塚ゆら(先生の笑った顔が見たいです!!!!!!)
石塚ゆら(・・・なんてここでは言えない~)
矢間「・・・なんだ。何か欲しいもんでもあるのか。菓子くらいなら、まあ・・・」
石塚ゆら(でも・・・このチャンスは活かしたい!!!!!!)
石塚ゆら「・・・あ、あたし!!」
石塚ゆら「県大会でインターハイ予選突破できたら・・・!!」
〇山並み
登山競技大会──
高校体育連盟が主催する大会では、
以下のすべての項目について審査がおこなわれる
【登山中】歩行技術、体力、チームワーク、
読図、装備の扱い方 etc.
【登山後】テント設営、炊事、天気図、
ペーパーテスト、登山計画書etc.
各チームの持ち点は100点──
それをどこまで減点させずに
山行を終えられるか
知識 技術 体力──
すべての力をぶつけあう闘いである
県大会は1泊2日で行われ
県大会で優勝したチームのみが
インターハイへの切符を手にする
〇山の中
県大会 1日目
天候は──小雨
副部長「あちゃー、これは道が滑りそうだね」
部長「開会式の前に、地図で滑りそうな箇所を確認しておきましょうか」
長老「装備の防水も審査ポイントになりそうだな。各自チェックしておこう」
石塚ゆら「ひぇ~雨でも中止じゃないんだ・・・」
黒木「これくらいなら登れるだろ。午後は晴れるみたいだしな」
石塚ゆら「出たな黒いの」
黒木「黒木だよ!!」
石塚ゆら「男子チームの列は向こうでしょー! シッシッ!」
黒木「なんだよ人がせっかく・・・」
石塚ゆら「何!?」
黒木「・・・その・・・」
黒木「頑張ろうな!!お互い!!!!!!」
石塚ゆら「・・・」
石塚ゆら「声デカ・・・」
石塚ゆら(あ、先生!!)
石塚ゆら(あ~忙しそう・・・行っちゃった)
石塚ゆら「あーあ・・・大会だと先生とは登れないんですよね・・・」
部長「矢間先生、今年は大会役員の当番だからね」
副部長「励ましてもらいたかった~?」
石塚ゆら「ぜーんぜん平気でーす」
副部長「おっ?」
石塚ゆら「てか、矢間先生と加奈子さん付き合ってなかったですよ!!デマじゃないすか!!」
副部長「アハハ、いやそうだったら面白いかな~って」
石塚ゆら「ひどいー!もてあそばれた!!」
部長「2人とも、開会式始まるから・・・」
〇役所のオフィス
石塚ゆら「県大会でインターハイ予選突破できたら・・・」
石塚ゆら「めちゃめちゃ褒めてください!!!!!!!!」
矢間「めちゃめちゃ・・・褒める・・・!?」
石塚ゆら「はい!!!!!!!!」
矢間「わ・・・わかった・・・善処する」
石塚ゆら(フフフフ・・・名付けて)
石塚ゆら(『あくまで生徒としてのギリギリのラインを攻めつつ、あわよくば頭ポンポンくらいは狙える作戦』!!!!!!)
石塚ゆら(恋愛マンガ読み込んだかいがあったな~!!!!)
この時のあたしは、知るよしもなかった
まさか県大会が、我が山岳人生最大のピンチとなるなんて・・・
〇山間の集落
「石塚・・・石塚ーーー!!!!」
部の活動様子や大会について、キッチリしっかり描かれているので、枠に収まらないゆらのエネルギッシュな様子が際立ってますね!彼女の親でもない一読者なのに、その様子にハラハラしたり微笑ましく思えたりしてしまいますねw