P5・決意の表れ(脚本)
〇魔王城の部屋
ゲイダル「先日の魔王陛下略取誘拐の件により」
ゲイダル「ルゼバエナ家当主より 爵位返上の申し出がありました」
フェゴール「嫡男があれだけの事に関わっていたのですから、当然でしょう」
ゲンティム「人間の方はどうなった」
ゲイダル「勇者一行が商業ギルドに引き渡しました」
ゲイダル「ギルドに加入する一方、 裏で非合法な商売を行っていたようです」
ゲイダル「規律違反には容赦のない組織ですので、 相応の制裁が加えられるかと」
フェゴール「生薬に装飾品ですか・・・ なんとも悪趣味ですねぇ」
ゲンティム「引き続き警戒してくれ」
ゲイダル「ハッ」
ゲンティム「・・・ところでさァ〜」
ゲイダル「では、私はこれで──」
ゲンティム「お前が婚活パーティーに参加してるなんて、パパ知らなかったな〜」
ゲイダル「友人に誘われて 付き合いで参加しただけです」
ゲンティム「可愛いコいた?」
ゲイダル「いえ、それどころではなかったので・・・」
ゲイダル「というか、フェゴール様も 参加しておられたのですよね?」
ゲイダル「あの騒ぎの中、 どちらにいらっしゃったのです!?」
フェゴール「女性陣と連絡先を交換するのに忙しく、 騒ぎに気が付きませんでした」
ゲイダル「この野郎・・・」
ゲンティム「そういや、 ダーリナがお前のこと褒めてたぜ」
ゲンティム「指示が的確で決断も早かったって」
ゲイダル「四天王の方を前に、差し出がましいことをしたのではと案じておりました」
フェゴール「ダーリナさんもローレットさんも」
フェゴール「魔王様のこととなると 途端に冷静さを失くしますからね」
ゲンティム「お前がいて助かったとさ」
ゲイダル「そうですか・・・ お役に立てて何よりです」
ゲイダル「ところで、本日は皆様は?」
ゲンティム「ローレットが弟を連れて来たんで、 四人でお茶会だとよ」
〇華やかな裏庭
ローレン「エリゼ様ーっ!」
ヴィエリゼ「久し振りね、ローレン」
ヴィエリゼ「また少し大きくなったんじゃない?」
ローレン「うん! 三メートルは伸びたよ!」
ローレット「でもまだ人型にはなれないのよね〜?」
ローレン「すぐなれるようになるもん!」
ローレン「いけめんになって、 エリゼ様と結婚するんだ!」
ヴィエリゼ「ええっ!?」
ローレット「こないだの婚活パーティー、 ロクなのいなかったじゃん?」
ローレット「うちの弟の方が全然イケてるし」
ローレット「どうだ、青田買い!!」
ダーリナ「どうだ、じゃありません」
ヴィエリゼ「ダーリナ」
ダーリナ「遅くなり申し訳ございません、 ヴィエリゼ様」
ダーリナ「少し調べ物をしておりました」
ローレン「ダー様こんにちはー!」
ダーリナ「こんにちは、ローレン」
ダーリナ「ダー様って呼ばないでくださいね」
ローレン「あうぅ」
ローレット「調べ物って?」
ダーリナ「──隊商について少々」
ローレット「交易関係かぁ」
ローレット「魔界と人間界で、互いの領地でしか 採れない物を取引してるんだっけ?」
ヴィエリゼ「薬草や果物なんかをね」
ローレット「大丈夫なの?」
ヴィエリゼ「どの隊商にも、獣人やエルフなんかの 人間に友好的な魔族が所属してるわ」
ヴィエリゼ「そのおかげか、 今のところ大きな問題はないみたい」
ダーリナ「好んで人間界に移住する 魔族もいるようですが・・・」
ヴィエリゼ「本人の希望なら私は気にしないわ」
ダーリナ「しかし──」
ヴィエリゼ「どこでも好きなところで、 好きに生きられることが重要だもの」
ヴィエリゼ「・・・とはいえ」
ヴィエリゼ「取り締まりは強化しているはずなのに、 密猟の増加率が不自然なのは──」
ヴィエリゼ「考えたくないけど、人間に情報を売っている魔族がいるのかもしれない」
ダーリナ「ルゼバエナ以外にも不審な動きはないか探っておりますが、今のところ手応えはありません」
ヴィエリゼ「やっぱり、お父様みたいにもっと 魔王っぽいコトしないとダメなのかなぁ」
「魔王っぽいコト・・・?」
ヴィエリゼ「内政の強化はもちろんだけど──」
ヴィエリゼ「ちょっとだけ人間界に 脅しをかけるというか・・・」
ローレット「あー! ガル様よく村焼いてたもんね!」
ダーリナ「言い方・・・」
ヴィエリゼ「お父様は理由もなく 焼き討ちを行っていたわけではないの」
ヴィエリゼ「密猟や違法な取引に関わった人間のいる場所を、徹底的に調べて潰していただけ」
ヴィエリゼ「そのせいで人間を滅ぼそうとしていると誤解されて、討伐対象にされてしまったけれど・・・」
〇魔界
魔族──中でも魔界を統べる魔王に、敵愾心を抱いている人間は少なくない。
先々代の魔王が、人間界を侵略したのが原因だ。
その恐怖は、時が経った今でも払拭されてはおらず、魔王の存在は常に人間に警戒されている。
〇華やかな裏庭
ヴィエリゼ「先々代やお父様を恐れて 魔界に手出しする人間は減っていた」
ヴィエリゼ「それなのに──」
ヴィエリゼ「私が魔王に就任してから また増えてきてるの・・・」
ローレット「やっぱ、村一個も焼いてないから 舐められてんだって」
ローレット「よし、今からパーッと焼きに行こ!」
ヴィエリゼ「バーベキューじゃないんだから・・・」
ダーリナ「焼き討ちはともかく」
ダーリナ「ヴィエリゼ様の御即位は 人間界には通達していませんし」
ダーリナ「警告も兼ねて、この機会に 宣言を出してもいいのかもしれませんね」
ヴィエリゼ「でも、そうしたらルカードに 私が現魔王だってバレちゃう」
ローレット「そんなんいずれバレるっての!」
ヴィエリゼ「うぅ〜っ」
ダーリナ「・・・ヴィエリゼ様」
ダーリナ「ヴィエリゼ様は、どうしてエンディングノートをお書きになられたのです?」
ヴィエリゼ「あ・・・」
ヴィエリゼ「最初は、暇つぶしに書いてみただけだったの」
ヴィエリゼ「でも、書き進めているうちに、 もっとしっかり魔王を務めようって思って」
ヴィエリゼ「討伐対象になってでも、 魔界を、魔族を、私が守るって決めたの」
魔界に住まう全種族がよりよく生きていくために、私が何をするべきか。
あのノートは私の遺書であり、決意の表れでもあるのだ──
ローレット「覚悟決まってんじゃん」
ローレット「ま、エリゼのことはあたしたちが守るから」
ローレット「エンディングノートなんて必要ないんだけどね」
ダーリナ「その通りです」
ヴィエリゼ「二人とも・・・」
ヴィエリゼ「ありがとう」
ヴィエリゼ「でも、それはそれとして」
ヴィエリゼ「もし討伐されるならルカードがいいなぁと、わりと本気で思ってる」
ローレット「ちょっとーッ!!」
ローレット「今までのいい雰囲気返しなさいよ!!」
ローレン「むぅ〜」
ローレン「お姉ちゃんたちだけ楽しそう・・・」
ローレン「そうだ!」
ローレン「スライムさんに遊んでもらおーっと」
〇養護施設の庭
〇華やかな裏庭
ヴィエリゼ「ローレン、ごめんね。 退屈しちゃった?」
ヴィエリゼ「ローレン?」
ローレット「あの子、ちょっと目を離すと すぐどっか行っちゃうんだから!」
ダーリナ「私が探して来ます」
ローレット「いいよいいよ」
ローレット「その辺で遊んでるだろうし、 飽きたら戻ってくるでしょ」
ヴィエリゼ「みんなで探そう!」
ローレット「エリゼ?」
ヴィエリゼ「この前のこともあるし 何かあってからじゃ遅いもの」
ローレット「・・・ごめん、ありがとう」
〇山並み
魔界と人間界の境界付近の山中──
〇けもの道
キオル「だあああああッ!!」
ルカード「キオル、どうした!?」
キオル「どうしたじゃねーよ!!」
キオル「何で毎回、山登りさせられなきゃなんねーんだっ!!」
ルカード「仕事だからしょうがない!」
キオル「ほとんどボランティアじゃねーか!!」
キオル「密猟場所の情報なんて どこで仕入れたんだよ」
ルカード「こないだ捕まえた密売人の連中に吐かせた」
ミア「こないだといえば」
ミア「ヴィエリゼちゃん、だっけ? いい子そうだったわね」
キオル「魔族にいいも悪いもあるか」
ルカード「あるよ」
ルカード「キオルも聞いたろ?」
ルカード「彼女はただ、仲間を守りたいだけなんだ」
キオル「そうだとしても、これまで魔王がしてきた所業は許される事じゃねえだろ」
ルカード「それは彼女のしたことじゃないし、 魔王にだって理由が──」
ミア「はいはい、ケンカしない」
ミア「そういえば、その魔王についてなんだけど、ちょっと気になったことが──」
???「うえぇぇ〜ん! お姉ちゃぁ〜ん!」
ルカード「・・・子供の泣き声がする」
ミア「子供?」
キオル「こんな山道で?」
???「うわぁぁあああーん!!」
キオル「ってギャン泣き・・・」
???「そっちに逃げたぞ!! 追え!!」
???「殺すなよ、生け捕りにしろ!!」
ルカード「今の声・・・密猟者か?」
ルカード「行こう!!」
キオル「くそ、またこのパターンかよ!」
ローレンくんが可愛すぎて。
勇者との恋愛も楽しみに読んでます。