〇役所のオフィス
石塚ゆら「入部をみとめない・・・って」
石塚ゆら「なんでですか？」
矢間「・・・なんでもだ！」
石塚ゆら「えー！横暴！横暴教師!!」
部長「い、石塚さん・・・」
部長（好きなひとでも言うときは言うのね・・・）
「おやおや・・・どうされたのかな」
石塚ゆら「・・・誰？」
部長「もう１人の顧問の峰岸先生よ！」
部長「主に男子チームのほうを見てくださってるの」
石塚ゆら「え、この部って男子いるんですか!?」
部長「最初に説明したじゃない・・・」
峰岸「ははは。よろしくね。入部希望なの？」
石塚ゆら「あ、はい！」
石塚ゆら「インターハイめざしまっす！」
峰岸「そうかそうか！たしかに君が入れば４人揃って、予選に出られるね」
峰岸「よかったじゃない矢間くん」
峰岸「女子チームも挑戦させてあげたいって言ってたもんね」
矢間「あ、いや・・・しかしですね」
矢間「・・・まだ日帰りの山行しか経験してないのに、インターハイをめざすなどというのは」
矢間「軽はずみにすぎますよ！もっとよく考えてから・・・」
峰岸「うんうん」
峰岸「じゃあ次の山行での様子をみてからの判断でもいいんじゃない？」
峰岸「次の女子チームの山行は私も一緒にサポートしますから」
矢間「・・・それは」
峰岸「ね？」
矢間「・・・」
峰岸「ね？」

〇中庭
石塚ゆら「よくわかんないけど、次のサンコーであたしがいい感じだったら入部できることになりました！」
副部長「山行（さんこう）ね」
副部長「まあとりあえず仮入部おめでとーってことで！」
石塚ゆら「ぐっ、これは・・・!!」
副部長「石の入ったザックでーす！」
副部長「とりあえず10キロにしといた！」
副部長「これを背負って校内の階段を10周しまーす！」
石塚ゆら「うあああ～」
長老「そのあとはテント練だ」
石塚ゆら「テント練・・・？」
長老「ひたすらテントを張る練習をする」
石塚ゆら「じ、地味・・・」
部長「そしてそのあとは・・・」
石塚ゆら「まだあんの!?」
部長「お勉強でーす！」
石塚ゆら「べん・・・きょう・・・？」

〇学校の部室
「石垣島、南東の風、風力２、くもり、気圧は980ヘクトパスカル・・・」
部長「ふむふむ・・・」
石塚ゆら（なに？暗号・・・!?）
部長「と、こんなふうに」
部長「ラジオの気象情報を聴いて、天気図を作成します」
部長「うちの山岳部では、必ず山行中に天気図を作成して、次の日の天候の変化を予測したうえで行動するの」
石塚ゆら「はあ～大変すね」
部長「次回山行での担当は石塚さんね」
石塚ゆら「ご冗談を～」
石塚ゆら「・・・マジで？」

〇本棚のある部屋
「ゆらー!!お風呂入っちゃいなさーい!!」
石塚ゆら「グー・・・」
お母さん「あら」
お母さん「ゆら、ほら起きて」
石塚ゆら「ハッ!! 小笠原諸島1082ヘクトパスカル・・・!!」
石塚ゆら「・・・」
石塚ゆら「ゆ、夢のなかでも部長にしごかれてた・・・」
お母さん「フフ・・・」
石塚ゆら「だって聞いてよー、部長ってずっと笑顔なのにめちゃめちゃスパルタでさ～」
お母さん「そうやって学校のことを話してくれるようになって嬉しいわ」
石塚ゆら「・・・お母さん」
お母さん「いきなり山岳部なんて、無理やり入部させられたのかと心配してたけど」
お母さん「・・・中学校のときよりずっと楽しそう」
　　『お母さん・・・あたし・・・』
　　『あたしもう・・・逃げたい・・・』
石塚ゆら「・・・うん。たしかに、ずっと楽しいや」
石塚ゆら「変な部活なんだけどね」
お母さん「青春ね!!」
お母さん「誰か気になる子はいないの～？」
石塚ゆら「・・・」
お母さん「あらあらあら～!!」
石塚ゆら「顧問の・・・」
お母さん「顧問・・・!?」
石塚ゆら「・・・の先生に気に入られてる男子がちょっとカッコいいかなーーーって!!!!!!」
お母さん「そうなのー!!いつか会いたいわあ!!」
石塚ゆら（さすがに先生にひとめぼれして入部したなんて言えない～!!）
石塚ゆら（不純な動機でごめん、お母さん・・・）

〇山道
　　2週間の特訓をへて──
　　いよいよテント泊山行が始まった
石塚ゆら（あれ・・・なんか）
石塚ゆら「なんか・・・身体がしんどくない気がする!!」
副部長「そりゃー特訓の成果でしょ」
副部長「登山靴も買いに行ってよかったね！今回はスニーカーじゃきついからね」
石塚ゆら「うーん、靴は正直なんかゴツすぎて歩きにくいんですけど～」
副部長「慣れる慣れる!!」
副部長「先頭の長老の歩き方もよく見ておくといいよ～。疲れにくい歩き方してるから」
石塚ゆら「つ、疲れにくい歩き方・・・ウス!!」
長老「ちょっとプレッシャーだな・・・」
峰岸「石塚さん、なかなかしっかり歩けてるじゃない」
矢間「・・・まあそうですね」
峰岸「心配しすぎなんじゃないの？ 未経験で山岳部に入部する子なんてたくさんいるでしょう」
矢間「・・・」
峰岸「まあ・・・少し似てるかもね」
峰岸「『あの子』に・・・」

〇テントの中
部長「すごい!!」
部長「天気図・・・とてもよく描けてるわ!!」
石塚ゆら「えへへへへ～」
部長「頑張ったものね!!」
石塚ゆら「毎日２時間居残りで特訓されましたからね・・・」
部長「この調子なら、来月の県大会でも気象担当は石塚さんで大丈夫そうね」
石塚ゆら「県大会・・・がインターハイの予選なんでしたっけ」
部長「そうよ。今年はうちの他に、あと２校エントリーするらしいわ」
石塚ゆら「えっ２校だけ!?」
部長「うちの県は、そもそも山岳部が少ないしね・・・そのなかで女子４人を揃えられるところも限られてくるのよ」
部長「石塚さんのおかげで、挑戦できて嬉しいわ」
石塚ゆら「いや～まだ仮入部ですけどね」
部長「大丈夫よ！体力もあるし、歩行もだいぶ上手くなってるし、天気図だってセンスあるもの」
部長「この調子なら矢間先生もきっとみとめてくれるわ!!」
石塚ゆら「・・・ハイ！」

〇テントの中
　　消灯後──
石塚ゆら（・・・実は右足の親指がめちゃめちゃ痛いんだよな～）
石塚ゆら（明日にはマシになってる・・・とは思うんだけど・・・）
石塚ゆら（寝よ!!）
石塚ゆら（明日は山頂まで登るし、地図の読み方も教わるし・・・忙しいんだから!!）
石塚ゆら（矢間せんせーにも褒めてもらって、それでそれで県大会もヨユーで優勝して、それでそれでそれで・・・）
石塚ゆら「・・・」
石塚ゆら（なんか寝袋の下・・・ていうかテントの下にゴツゴツしたものがある～石？枝？）
石塚ゆら（気になって寝れない～～!!）
石塚ゆら（でもこんなことで部長たちを起こすのもなあ・・・）
　　『あんたってほんと役立たず』
石塚ゆら（部長たちは・・・あんなこと言わない）
石塚ゆら（言わないってわかってる・・・けど・・・）
石塚ゆら（・・・）
石塚ゆら「えーん寝れないよお～!!!!」

〇山の中
　　朝５時──
　　山岳部の朝は早い
石塚ゆら「はよござぃます・・・」
副部長「あれ!?どした、寝れなかった!?」
石塚ゆら「あー・・・はは、いやいや大丈夫です～」
副部長「・・・」
副部長「そう・・・」
石塚ゆら（えっ・・・怒ってる!?）
部長「・・・石塚さん」
石塚ゆら「あ、ぶちょー！おはようございまーす!!」
部長「ちょっと靴脱いでみて」
石塚ゆら「え!?な、なんでですか～」
部長「いいから」
石塚ゆら「・・・ハイ」
部長「・・・親指が腫れてるわね」
部長「昨日から痛かったの？医療担当の長老先輩にはみてもらった？」
石塚ゆら「あ、あの・・・」
矢間「石塚」
石塚ゆら「あ・・・」
石塚ゆら「先生、あの・・・」
矢間「お前はここで下山だ」
石塚ゆら「──え・・・？」