その執事は、物語る。

槻島 漱

鴉の恩返し 前編(脚本)

その執事は、物語る。

槻島 漱

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〇空
  チュン、チュン
  付き人『時雨』の朝は早い。
???「何が「朝は早い」よ」
???「カッコつけてないでさっさと起きろ!」
  ゴンッ

〇田舎の一人部屋
時雨「あいたあああああああああああああ!!!」
紗羅「本っ当にもう、毎朝毎朝・・・」
紗羅「どうして主人の私が付き人のあんたを起こさなきゃいけないのよ!」
紗羅「普通、逆なんだけど!」
時雨「いたた・・・」
時雨「人の脳内を読むなんて・・・」
時雨「さすがは新種の怪力ゴリ・・・」
紗羅「なんか言った?」
時雨「いや、何も・・・」
紗羅「そう」
紗羅「とにかく、さっさと準備してよね」
紗羅「私が学校遅れちゃうでしょ」
時雨「へーへー」
紗羅「朝ごはん抜き」
時雨「迅速かつ可及的速やかに準備させていただきます」
紗羅「まったく、調子いいんだから」
  こうして俺、付き人時雨の朝は始まる。

〇広い玄関
時雨「お嬢〜」
時雨「準備できやした〜」
紗羅「遅い!」
紗羅「準備くらい1分で終わらせてよ!」
時雨「そりゃあ無理ってもんですよ、お嬢」
時雨「着替えやらなんやら含めて短くても5分はかかりますもん」
紗羅「だったら早く起きなさいよ!」
時雨「それも無理ですね〜」
時雨「布団が俺を離してくれないんすよ」
紗羅「言い訳すんな!」
???「はっはっは」
???「朝から本当に仲がいいね、お前たちは」
「お父さん!/旦那さん!」
紗羅の父「これから学校かい?」
紗羅「そうよ」
紗羅「時雨が寝坊さえしなければ、もっと早くに出られたんだけど・・・」
時雨「ちょっと何言ってるかわからないっすね」
紗羅「はっ倒すわよ」
紗羅の父「はっはっは」
紗羅の父「元気なことはいいことだ」
紗羅の父「それより紗羅、体調は?」
紗羅「平気よ」
紗羅「今日はいつもより調子がいいくらい」
紗羅の父「そうか、なら良かった」
紗羅の父「でも、あまり無理はするんじゃないぞ?」
紗羅の父「何かあったら、すぐ先生に・・・」
紗羅「わかってるわ」
紗羅「心配しないで、お父さん」
紗羅の父「そうか」
紗羅の父「時雨、くれぐれも頼むぞ」
時雨「はい」
紗羅「それじゃあ、行ってきます!」
時雨「行ってまいります」
紗羅の父「ああ、行ってらっしゃい」
紗羅の父「気をつけてな」
「はーい!/はい」
紗羅「ほら、行くわよ時雨」
時雨「お嬢、スカートめくれてますぜ」
紗羅「嘘!?」
時雨「嘘」
紗羅「時雨!!」
紗羅の父「はっはっは」

〇屋敷の門
紗羅「もうこんな時間じゃない」
紗羅「絶対間に合わないんだけど・・・」
紗羅「時雨、元の姿に戻りなさいよ」
時雨「嫌っすよ、めんどくさい」
紗羅「あんたのせいで遅刻しそうなんだから、当たり前でしょ?」
時雨「1人で登校すればよかったじゃないっすか」
紗羅「そんなことして怒られるの時雨だけど?」
時雨「・・・そうでした」
時雨「はあ、しかたないっすね・・・」
時雨「じゃあ、出しますよ」
  そう言って俺は体に力を込めると、真っ白な鴉の羽を生やした。
紗羅「・・・・・・・・・」
時雨「どうしやした、お嬢」
時雨「もしかして体調が・・・?」
紗羅「え?」
紗羅「ああ、ううん、なんでもない」
時雨「・・・そうですか」
紗羅「・・・ほんとよ」
時雨「・・・・・・・・・」
時雨「わかりやした」
時雨「んじゃ、持ち上げますよ」
紗羅「うん」
時雨「よっこらしょ」
紗羅「ちょっと!」
紗羅「なんで俵担ぎなのよ!」
時雨「おんっっっも!」
紗羅「あんたの辞書にデリカシーって文字は無いわけ?!」
時雨「昨日、公園のレナードのおやつにやっちまいましたね」
紗羅「バカじゃないの?!」
時雨「ほらお嬢、ちゃんとスカート押さえて」
時雨「じゃないと、市民の皆様にお嬢のパンツ公開することになりやすよ」
紗羅「もう!時雨のバカ!」
時雨「へーへー、なんとでも」
  俺はお嬢を担いでふわりと浮き上がると、学校目指して飛び立った。

〇学校脇の道
時雨「はあ、はあ・・・」
時雨「やっと着いた・・・」
時雨「よいせっと・・・」
紗羅「わわっ」
紗羅「もう!」
紗羅「下ろし方、雑!」
時雨「はあ、文句の多い・・・」
時雨「無事に着いたんで、これで勘弁してくだせえ」
紗羅「しょうがないなあ・・・」
紗羅「ケホッ、ケホッ・・・」
時雨「お嬢?!」
紗羅「大丈夫、ちょっとむせただけよ」
時雨「ほんとに?」
紗羅「ほんとよ」
時雨「・・・・・・・・・」
紗羅「はあ・・・」
紗羅「わかったから、そんな目で見ないでよ」
紗羅「今日の体育の授業は見学にしてもらうから」
紗羅「これでいい?」
時雨「そうしてもらえると・・・」
紗羅「バドミントン、楽しみにしてたのに・・・」
時雨「また体調が万全の時にやってくだせえ」
紗羅「はいはい」
紗羅「それじゃあ、行ってくるね」
時雨「行ってらっしゃい、お気をつけて」
  俺はお嬢が校内に入るのを見届けると、家路についた。

〇古めかしい和室
時雨「時雨です、失礼します」
紗羅の父「ああ、おかえり時雨」
紗羅の母「おかえりなさい、時雨」
時雨「奥さんもいらっしゃいましたか」
紗羅の父「それで、紗羅の様子は?」
時雨「送り届けた時に少しだけ咳が・・・」
時雨「体育は見学にしていただきました」
紗羅の母「そう・・・」
紗羅の母「最近、また少し咳をするようになったわね」
紗羅の父「そうだな・・・」
紗羅の父「あの子のことだ、また痩せ我慢をしていないといいが・・・」
紗羅の母「そうね・・・」
紗羅の父「時雨、注意して見ておいてくれ」
紗羅の母「お願いね」
時雨「はい」
  それから1ヶ月後。
  皆が危惧していた通り、お嬢が倒れた。

次のエピソード:鴉の恩返し 中編

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