死神珍奇譚

射貫 心蔵

招かれざる死神(脚本)

死神珍奇譚

射貫 心蔵

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死神珍奇譚
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〇花模様
  むかし、花のように美しい娘がいました
  貧しくも才色兼備で
  男たちから慕われていました
  評判を聞いた王子は町人に扮装し
  彼女を見定めに行きました

〇雷

〇大樹の下
王子(美しい、噂以上だ)
  王子のハートは一発で射貫かれました
王子「コホン!」
王子「よぉネエちゃん、どこ行くんだい?」
ティナ「わが家へ 洗濯の帰りですのよ」
ティナ「アナタは?」
王子「昼寝」
王子「ときどき仕事を抜け出して寝っ転がるんだ」
ティナ「まぁ」
王子「荷物もつよ」
ティナ「そんな、悪いですわ」
王子「いいってことよ 袖振り合うも多生の縁ってね」
ティナ「それではお言葉に甘えて──」
  よっこいしょーいち!
王子「俺、サンチェってんだ!」
王子「君は?」
ティナ「ティナと申します」
王子「ティナか、いい名前だ」

〇中東の街
  ティナは町外れの小屋で
  両親と暮らしています
ティナ「どうぞ上がって下さい、お茶を入れますわ」
王子「お構いなく、ここでおいとまするよ」
王子「家来が―― 家族が心配性でうるさいんだ」
王子「そうだ、これを君に」
ティナ「いただけませんわ、こんな高価な物!」
王子「もらって欲しいんだ、出会いの印に」
王子「どうやら俺は、君にホレちまったらしい」
王子「頼むよ」
ティナ「サンチェさん」
王子「また会おう、ティナ!」

〇黒
  腕輪は金でできていました
  これを売れば、貧困と縁が切れます
  両親は売却を勧めますが
  ティナは頑なに拒みました
  彼女もまた、王子に恋をしたのです

〇西洋の住宅街
  ティナ宛てに
  差出人不明の小包が届いたのは
  翌朝のことでした

〇暖炉のある小屋
  封を開けますと──
  ドレスと手紙が
  手紙にはこう書かれていました
  急な申し出、恐れ入ります
  今晩催される舞踏会に
  アナタをお招きしたく
  手紙をしたためました
  同梱のドレスをご着用の下
  踊る相手のいない哀れな男に
  お声をかけてくだされば、これ以上ない喜び
  お城へは
  門番に同書か封筒を見せれば
  通過することができます
  ティナ様との再会を心より願って
  サンチェ
ティナ「まるで夢を見てるみたい!」
父ちゃん「ウ~ム」
父ちゃん「金の腕輪をポンとやったり 高級ドレスを送りつけたり このサンチェって男、タダ者じゃないな」
父ちゃん「お近づきになりゃ、わが家も安泰 そうだろう母ちゃん!」
母ちゃん「よしなよ皮算用は」
母ちゃん「仮にサンチェさんが貴族だったとして 貧しいお前と釣り合いが取れるかね?」
母ちゃん「散々もてあそばれた挙げ句 腕輪やドレスのように ポイッと捨てられちまうんじゃないのかい」
ティナ「サンチェさんはそんなことしないわ!」
母ちゃん「お前は世間を知らなすぎるよ」
母ちゃん「私ゃお前の悲しむ顔を見たくないんだ」
父ちゃん「なんにしてもだ サンチェが何者なのか 舞踏会に出て確かめる必要がある」
父ちゃん「お前を泣かすような卑劣漢なら──」
父ちゃん「ギッタギタのメッタメタにしてやる!!」

〇古い洋館
  ヘックシュ!

〇暖炉のある小屋
母ちゃん「イキがるんじゃないよ、年甲斐もなく」
母ちゃん「とにかく お前も参加する以上 恥をかかないように振る舞わなきゃ」
母ちゃん「どんなに豪華なドレスを着ても 中身がヒヨッコじゃ ヒンシュクを買うだけだからね」
母ちゃん「まずは見栄えよく! 最低限の身だしなみを わきまえなきゃダメさね」
母ちゃん「床屋で髪を揃え、小物にも気を使いな!」
母ちゃん「それと、忘れちゃいけないのが手みやげだ」
母ちゃん「自分はゲストだから もてなされて当然と考える内は まだまだアマチュア、乳飲み子とおんなじさ」
母ちゃん「安い菓子折りでもいいから 差し詰めを用意するのが気に入られるコツさ」
ティナ「男女の会瀬って、結構お金がかかるのね」
母ちゃん「父ちゃん、お金貸してやんな!」
父ちゃん「待ってくれ! いきなりそんなこと言われても──」
母ちゃん「か~! つくづく甲斐性のない父ちゃんだ!!」
母ちゃん「皆で銀行に行くよ!」

〇西洋の住宅街
  かくして、一家は銀行へ──

〇西洋の住宅街

〇西洋の住宅街
  夜になりました

〇古い洋館
  舞踏会の開幕です

〇大広間
王子「・・・・・・」

〇大広間
  皆が華やかに踊る中、王子だけは憂鬱でした
  待てど暮らせど、ティナは一向に現れません
「踊っていただけますか、サンチェルノ王子」
王子「失礼、先約があります」
  ハメを外しがちな彼ですが
  今宵は踊る気になれません
王子(ティナ、なぜ来ぬのだ?)
  ティナのいない舞踏会
  それはまるで、お通夜のよう

〇古い洋館
  会が終わりに近づいた時
  思わぬ珍客が現れました

〇大広間
  骸骨です
  骸骨の怪人が、舞踏会に馳せ参じたのです
貴族「ちょっとヤダ! なにアレ!?」
貴族「紳士淑女の社交場に、バカじゃないの!?」
貴族「悪質な嫌がらせかしら」
  非難罵倒はどこ吹く風
  怪人はまっすぐ王子に歩みより
  こう進言しました
???「踊っていただけますか?」
貴族「なんと無礼な!」
貴族「あんなイカれた格好で よくお声かけできたものだ」
貴族「酒を四、五杯ひっかけましたな!」
兵士「お客様、冷やかしは困ります」
兵士「外へ出て、頭を冷やしましょう」
  兵士たちがつまみ出そうとしたその時
  王子は怪人の腕に光る物を垣間見ました
王子(あれは!)

〇大広間
王子「待て!」
王子「その方への非礼は許さぬ!!」
兵士「しかしキャツは──」
王子「私がお呼びしたのだ! 今すぐ手を離せ!!」
「し、失礼いたしました!」
王子「部下の非礼をお許し下さい」
王子「おケガはありませんか、ティナ?」
ティナ「サンチェさん、私は──」
王子「本日はわが舞踏会に参加いただき ありがとうございます」
王子「踊っていただけますか、お嬢さん?」
ティナ「・・・・・・」
ティナ「喜んで」
  こうして
  王子と怪人の奇妙なダンスがはじまりました

〇モヤモヤ
  ジーッ
  ジトーッ
  二人に注がれる冷たい視線
  怪人だけでなく、共に踊る王子にも
  非難と失望の眼差しが向けられます
ティナ「いけないわ このままではアナタの名声に傷が」
王子「放っておきなさい 外見で態度を変える者は信用ならぬ」
王子「ドレスを着ようと、骸骨の仮面を被ろうと アナタは私の想い人だ」

〇水玉2
  王子の一言で
  暗澹たるティナの視界が広がりました
ティナ「聖人ですのね、サンチェルノ王子」
王子「サンチェで構いません 無知でグータラなダメ王子です」
ティナ「私は神に感謝しています アナタと出会えたことを」
王子「私もです」
王子「一つだけ、お願いを聞いてくれませんか?」
ティナ「なんなりと」
王子「もう一度、アナタの素顔が見たい」
ティナ「・・・・・・」
王子「一目でいいのです ほんの少し、ちょびっとだけ!」
ティナ「他ならぬアナタの頼みとあらば」
  ティナが仮面に手をかけたその時──

〇古い洋館
  十二時を告げる鐘が鳴りました

〇大広間
王子「ティナ?」
  そこに、ティナの姿はありません

〇古い洋館
ティナ「お待たせしました」
死神「お帰りなさい!」
父ちゃん「首尾はどうだった?」
ティナ「あの方は、やはり素晴らしい人でしたわ!」
ティナ「骸骨姿を意に介さず 最後まで紳士でいて下さいました!」
死神「・・・・・・」
母ちゃん「よかったねぇティナ!」
ティナ「死神様、お道具をお返しします」
  コレのお陰で
  サンチェさんと踊ることができました!
  ※ドクロの仮面を被ると
  目に見えぬ者の姿が見えるようになります
死神「不気味なデザインで申し訳ない」
死神「サンチェルノ王子が器の広い方でよかった」
父ちゃん「まさかサンチェのガキが王子だったとは──」
父ちゃん「上手くいきゃ王女の座にありつけたのに 惜しかったなァ」
母ちゃん「まーたこの人は皮算用を!」
母ちゃん「でもアレだねぇ 王子様をホレさせちまう位 お前にゃ魅力があったんだよ」
母ちゃん「母ちゃん鼻高々さ!」
ティナ「もう私は、何も思い残すことはありません」
ティナ「もう、何も・・・・・・」
父ちゃん「泣くんじゃない、泣くんじゃないよ」
母ちゃん「お前は幸せ者さ 小さい頃から憧れていた 舞踏会に出られたんだ」
死神(親子の絆か、いいものだなぁ)
死神「皆さん、参りましょう」
死神「私は華やかなパーティーより こちらの方が性に合っていますわ」

〇中東の街

〇中東の街

〇中東の街

〇西洋の住宅街
  翌日
  ティナの様子が気になった王子は
  彼女の家を訪れました
  家は無人で、誰も出てきません

〇中東の街
  町の人々から情報を集める内
  奇妙な事実が浮かび上がりました

〇中東の街
  先日
  銀行へお金を卸しに行った御一行
  お金を卸し、要り物を買う最中──
  強盗に遭遇
  怯える家族を路地裏へ連れ込み──

〇中東の街
  一家皆殺しの憂き目に遭わせたのです

〇中東の街
王子(それでは昨夜、ティナはすでに──)

〇水玉2
ティナ「踊っていただけますか?」

〇中東の街
王子(ティナ!!)
  昨夜お城に現れた彼女は
  亡くなってなお、王子と踊りたいと願った
  強力な思念体だったのかもしれません
王子「・・・・・・」
王子「・・・・・・」

〇炎
王子「冷酷な殺人鬼め! タダで済むと思うなよ!!」
王子「この借りは返す 世界中、どこへ逃げても必ず捕まえる!!」
王子「ティナの受けた苦痛を思い知れ!」
王子「貴様の一族を根絶やしにしてやる! 女子供も、一人残らず皆殺しだ!!」

〇中東の街
  復讐を誓ったサンチェは
  冷酷非道なサンチェルノ王子へ
  変貌を遂げたのでした

次のエピソード:もう一人の死神

コメント

  • 舞踏会も催され、ティナも現る物語の展開、どこにいつもの死神さんが現れるのかと思っていたら、まさかの!儚くも美しい恋物語ですね。

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