読切(脚本)
〇一軒家
美咲「いってきまーす」
母親「はい、いってらっしゃい」
〇曲がり角
美咲「天気いい~♪」
美咲「カワイ~♡」
美咲「おはようございます!」
美咲「あ・・・」
〇田舎の公園
幽霊「・・・・・・」
美咲(あの女の人・・・)
美咲(あきらかにこの世のものじゃない)
私は幼い頃から霊感が強く、ふだんから、あたりまえのように霊を目にしていました。
〇歩道橋
生者といっしょに横断歩道を歩いている
サラリーマンの霊。
〇学校の廊下
学校の廊下でたたずんでいる女子中学生の霊。
〇病院の待合室
彼らはたいてい、生前の生活習慣を単純に繰り返しているか、何もせずにただジッとしているだけ。
〇川に架かる橋の下
ですが稀に、明確な意志を持って行動している霊もいるのです──
美咲「・・・!」
美咲(また、あの男の子の霊・・・)
美咲(真っ青な肌で、全身がぐっしょり濡れてる)
美咲(キョロキョロして、何かを探してるみたい)
美咲(目つきが虚ろだから、何を見ているのかよくわからないけど)
美咲「・・・・・・」
〇一軒家
〇女性の部屋
美咲「あった、この記事だ」
〝N市の行方不明7歳男児、捜索続く〟
〝川で発見された遺体は、行方不明だった佐久間雄太くん(7)と判明〟
美咲「やっぱり! 二年前のあの事故の・・・」
美咲「生前の写真もある」
〇明るいリビング
〇女性の部屋
美咲「元気そうな可愛い男の子だ」
美咲「あれって、いったい何をさがしてるんだろう?」
美咲(明確な意志を持って行動している霊は、この世に何らかの未練を残してるはず・・・)
美咲(あのくらいの年の子にとって大事なものっていうと・・・)
〝事故の当日、両親は仕事で自宅を留守にしており〟──
美咲「そうか、お父さんとお母さんだ!」
〇家の階段
〇おしゃれなリビングダイニング
美咲「お母さん、二年くらい前に近所の川で亡くなった子がいたでしょ。雄太くんっていう」
母親「美咲、どうしたの急に?」
美咲「雄太くんの両親のこと知ってる? この辺に住んでるんでしょ」
母親「あのご夫婦なら、奥さんの実家に引っ越したらしいわよ」
母親「お子さんが亡くなった町にいるのが、よほどつらかったのね」
美咲「え・・・」
〇駅前広場
美咲(霊の行動範囲は広くない)
〇川沿いの道
美咲(このままだと雄太くんは両親に会えないまま、永遠にこの町でさまよい続けることになる・・・)
美咲「こんな狭い道なのに。危ないなあ・・・」
美咲「もう少し先に・・・」
美咲(雄太君が転落したのは、この辺り・・・)
美咲(ここで一人で遊んでて落っこちたのか。かわいそう・・・)
美咲「あ、いた・・・!」
美咲(やっぱり、キョロキョロして何かをさがしる)
美咲(おいそれと、霊とは関わるべきじゃないけど・・・)
美咲「雄太くん、きみはお父さんとお母さんをさがしてるの?」
雄太「・・・・・・」
美咲(ちゃんと私の顔を見て話を聞いてる)
美咲(でも自分が声を発することはできないんだ)
美咲(路上に濡れた指先で・・・)
美咲(私の質問の返事を、絵で描いてるんだ)
美咲「これは・・・鳥?」
〇女性の部屋
美咲「う~ん・・・」
美咲「たしかこんな感じだったと思うけど」
美咲「この謎めいた絵の意味は・・・」
美咲「タカ? ハト? 飛んでるところかな?」
兄「美咲、ハサミ借りるぞ。シャツの袖がほつれちまった」
美咲「うん・・・」
兄「ん? トランザム?」
美咲「知ってるの、お兄ちゃん?」
兄「ファイヤーバードトランザムのエンブレムだろ」
美咲「それってクルマのこと?」
兄「ボンネットにでっかく描かれてんだよ。なんでそんなもの見てんの?」
美咲(そういえば・・・!)
美咲(やっぱり・・・雄太君は自動車が大好きだったって記事に書いてある)
美咲(じゃあ、雄太くんがさがしてるのって──)
兄「前は、よくこの近くを走ってたのにな」
美咲「え? 近くって?」
兄「美咲が学校行くとき通ってる道とかだよ。最近は見かけないけど」
美咲(そうか、雄太くんはそのクルマをもういちど見たいんだ)
美咲(だからいつもあの辺りにいて、さがしてるんだ・・・)
美咲「お兄ちゃん、そのクルマの持ち主ってこの町の人?」
兄「ああ、梶原の道楽息子が乗ってんだよ」
〇クラブ
〇女性の部屋
美咲「梶原さんちって・・・」
兄「郵便局のそばにある、何かの社長の屋敷があるだろ。あの梶原だよ」
〇宇宙空間
〇高級一戸建て
美咲「ここ、この家だよ」
美咲「この黒いほうが、雄太君がさがしてるクルマだと思うんだけど」
美咲「シャッター越しだけど見えるかな?」
美咲(腕力で強引に押し上げて・・・)
美咲「い、意外と力持ちなんだね」
美咲「雄太君、クルマを壊さないようにね」
美咲(・・・ジッと車を見つめたまま動かない)
美咲(よっぽど、このクルマが好きなんだね)
美咲「私はもう帰るから」
〇バスの中
美咲(あれから十日。雄太君の姿を見かけることはなくなったけど・・・)
美咲(今度こそ、成仏してくれたのかな?)
〇川に架かる橋の下
美咲「なに!?」
〇川沿いの道
美咲「野次馬もいっぱい・・・事故?」
美咲「川に浮かんでる遺体を、救助の人が岸に・・・」
野次馬「やっぱりあれ、梶原さんとこの息子さんらしいわよ」
野次馬「ほら、派手な外車をスピードを出して乗り回してた」
野次馬「でも交通事故じゃないんでしょ?」
美咲「あ・・・!」
美咲「野次馬の中に、雄太君が・・・」
美咲「雄太くん・・・?」
私に気づいて、雄太くんがこちらをむく。
美咲(血だらけ・・・!! 返り血!?)
雄太「・・・・・・」
美咲「・・・きみがやったの?」
美咲(うなずいてる)
美咲「どうして?」
美咲(また道路に指で絵を・・・)
美咲「クルマに人が跳ねられて・・・川に!?」
美咲「これって・・・!」
美咲(雄太くんがずっとさがしてたのは、大事なものなんかじゃなくて・・・!)
岸に敷かれた青いシートに、川から引き揚げられた死体がおかれる。
両腕とも肩のところから、もぎ取られるように切断されている。
その死に顔は、恐怖で歪んでいた。
ずっと虚ろな顔だった雄太君が、ニタリと満足そうに微笑む。
〇黒背景
〇バスの中
〇駅前広場
〇川に架かる橋の下
あれ以来、私が雄太君の姿を見かけることはありませんでした・・・
〇黒背景
終
影絵が効果的でした!!
良かれと思ってやったことで、復讐の片棒を担いだみたいで…とっても怖いお話ですね。 震えます😱
生きている人間が一番怖いとはよく言われますが、協力者を得た死人が最恐なんですね。期せずして復讐の片棒を担いでしまった美咲。「触らぬ神に祟りなし」ならぬ「触らぬ死霊に祟りなし」との教訓になりましたね。
想像以上に怖い話でした。
探しているものが違ったのですね。
どんどん明らかになっていく謎がとても面白く、そして怖くもありました。