10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在ミグ

第2話 アラムスタン(脚本)

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〇飛行機の座席
  世界同時多発幼児退行化現象が起きるよりも数週間前、
  僕はアラムスタン共和国へ向かっていた。
男「お仕事ですか?」
アメタ「ええ、まあ。出張みたいなもんです」
男「出張? どういったお仕事ですか?」
アメタ「しがない公務員ですよ。モニターと睨めっこするだけの」
  どうして曖昧にするのかと言うと、ひとえに食糧監察官が嫌われものの職業だからだ。
  折角手に入れた食糧を、権力で持っていかれたら誰だって面白くないだろう。
  食いもんの恨みは恐ろしい。僕らの仕事が戦争まで発展するケースは珍しくない。
アメタ「そちらは?」
男「中国まで。仕事は・・・・・・」
男「フードデザイナーなんです」
  フードデザイナー。食糧危機時代に名前を変えた料理人。或いは美食家。
  政府から配給される食糧をなるべく美味しく(つまり卑しく)食べる方法を考案する仕事だ。
アメタ「ほう。それは中々どうして・・・・・・」
  人気職らしいが、如何せん仕事の内容が内容だけに、日陰の存在にならざるを得ない。
  食事は生命維持の手段であって、それを加工して美味しく摂取しようなんて、破廉恥な発想だ。
  実にけしからん。
アメタ「僕もあやかりたいもんです」
男「貴方の様な若い人には想像も出来ないかも知れないが、昔は本当に食べる物が沢山あったんですよ」
男「今では途轍もなくいやらしいものになってしまったが、家族や大勢で食卓を囲むのが何よりの幸せだったんです」
アメタ「両親が揃って食事をしている所など見てしまったら、軽いトラウマですね」
男「ふふ・・・・・・ お若いのに、中々話せますなぁ」
男「お一つ如何です? 勿論合法です」
  飴。或いはキャンディ。嗜好品なので合法がどうかは疑わしい。
  市場では高額で取引されている。末端価格は幾らくらいだろう?
  キラキラと輝く様は、まさしく宝石だ。
アメタ「嗚呼、申し訳ないですが・・・・・・」
男「ふむ。それは残念」
  大変魅力的ではあるが、しかし食糧監察官としては、間違ってもこんな場所で受け取る訳にはいかない。
  後から何かあっても困る。ちょっとした事でも命取りになりかねない。
  『食育』行きになったら大変だ。

〇砂漠の滑走路
  アラムスタン共和国。
  中東に位置する小国で、昔から戦火が絶えない。
  ヨーロッパで水資源の争奪戦が始まったあたりから台頭し始めたPMSCsらがひしめき合い、
  今この地では食糧の奪い合いが起きていた。
  まさしく最後のフロンティア。
アメタ(流石に暑いな・・・・・・)
  といっても裸になる訳にはいかない。
  そんな事をすれば肌を焼かれ、僕はあっという間にバーベキューになるだろう。
  日光を反射する白系の、風通しの良いゆったりした服を着るのが正解。
  空港から出ると、協力してくれるPMSCsを訪問する。
  こういった場所で、仕事を単独で行うのは難しく、
  幾らFAOが国連の組織でも万能ではない。
  情報も戦力も現地のチカラを借りる必要がある。
  荒くれ者とやり合うには、これくらいの『防犯グッズ』が必要だろう。
  連中から食糧の取締を行うのが今回の仕事だ。
  食糧監察官が、筋肉や体力、適正カロリーが高めな訳。
  腹が減っては戦は出来ない。
  昔からそうである様に、前線の兵には肉が支給される。
  僕がこの仕事を選んだ理由の一つだ。
  尤も、大して美味しくもない人工の合成肉が僅かばかり貰えるだけだが。
  必要な荷物を積むと、僕は砂漠に向けて車を走らせた。

〇荒野
アメタ「・・・・・・」
アメタ「・・・・・・」
アメタ「・・・・・・」
アメタ「・・・・・・やっと来た」
  アポの時間を3時間程過ぎて、ようやくデートの相手が現れた。
  随分とルーズだが、こんな辺境の地で先進国の時間感覚を押し付けても仕方がない。
  怒ってはいけない。下手をしなくても、3時間どころか、3日待たされる事もあるのだから。
ムルア「アンタがFOAの食糧監察官か?」
アメタ「君がARFの?」
  ARF。アラムスタン解放戦線(Revelation Front)の略で、良く言えばレジスタンス。
  悪く言えばゲリラか。
ムルア「代表のムルア・サテネだ」
アメタ「FOA食糧監察官、アメタ・オオゲツだ」
ムルア「監察官というから、もっと年寄りが来ると思っていた」
  言いながらムルアは煙草を取り出し、火を点け、僕にも勧めた。
  こういう土地では挨拶みたいなもので、受け取らないのは失礼に当たる。
アメタ「・・・・・・」
  臭いからしてマリファナだった。
  腹の足しにはならない嗜好品。それでもないよりはマシだから、世界的にも規制が緩和されている。
  因みに僕は普段は吸わない。
アメタ「君程若くはないけどね」
アメタ「危ない橋を渡るから若い奴が多いんだよ」
アメタ「これでも三十だ」
アメタ「君は? ARFは子供でも入れるのかい?」
ムルア「数えていないからわからないが、多分十五から二十くらいだ」
  なんたるアバウト。まあ政府がまともに機能していない国ではよくある事だ。
  そして命の軽い土地では、精神年齢が高くなる。
  彼女に比べれば、先進国のぬるま湯に浸かっている僕の方が子供だろう。
ムルア「早速だがトレードといこうか?」
アメタ「良いだろう。確認してくれ」
  車に積み込んだ荷物は、殆どが武器や弾薬、医薬品だ。
  ARFに協力して貰う為の手土産。
  僕が仕事で集めたり、横領したり横流しした闇物資だ。
ムルア「これは?」
アメタ「水の濾過装置。ほんのサービスだよ」
  国産の高性能フィルターだ。これを通すだけでどんな汚水もクリアになる優れもの。
ムルア「へぇ。これに水を流すだけで良いのか?」
  食糧危機になる前兆として、水不足になった時期があった。
  第三世界では汚染水が原因で大勢の人間が死亡しているし、安全な水が確保出来るのは一部の先進国のみだ。
  島国に住んでいると実感しにくいが、河川が複数の国に跨っていると、利権争いに発展しやすい。
  高価な物ではあるが、こういった物が喜ばれるものだと、僕は良く知っていた。
アメタ「そっちは?」
ムルア「心配するな。ちゃんと用意してあるさ」
アメタ「おおお・・・・・・」
アメタ「素晴らしい・・・・・・」
  素っ気ない支給品とは違う。
  ホンモノの肉だ。
アメタ「嗚呼・・・・・・ 堪らない・・・・・・」
アメタ「この光沢、艶・・・・・・ 匂い・・・・・・」
アメタ「なんて、いかがわしいんだ・・・・・・」
アメタ「このドスケベが。いい加減にしとけよこの野郎」
ムルア「お前、大丈夫か? 色んな意味で」
アメタ「こんなの・・・・・・ 先進国の連中が見たら卒倒するぞ❤」
アメタ「間違いなく猥褻物陳列罪で逮捕される」
アメタ「実刑も覚悟しないと・・・・・・」
ムルア「大変な国だな・・・・・・」

〇荒野
ムルア「しかし良いのか? こんなフィルターまで貰ってしまって」
アメタ「構わないさ」
  大量の武器と弾薬。最新の濾過フィルター。
  僅かな肉に対して不釣り合いだと思われるかも知れないが、全然そんな事はない。
  今や天然物の肉の価値はダイヤモンドに匹敵するか、それ以上だ。
  この程度でトレードが成立するなら安いものだ。
ムルア「しかしアンタ食糧監察官なんだろう?」
ムルア「こんな事をしていて良いのか?」
  そう。僕の仕事は食材の不正入手、不法取引の取締だ。
  でも目の前に食い物があるんだぜ? 押収して輸送する頃には腐ってしまう事も多々ある。
  そんなの勿体ないじゃないか。
  危険で嫌われる仕事に従事しているのだから、これくらいの役得がなければやってられない。
アメタ「この国には不正に食糧を得ようとしている輩が大勢いる」
アメタ「君らみたいなレジスタンスに協力するのは、立派な食糧保護に繋がるのさ」
アメタ「ちゃんと仕事してるだろ?」
ムルア「やれやれ。公僕がいい加減なのは、どこも同じか」
  ついでにいうと、犯罪者やテロリストは取り締まるより、コントロールする方が都合が良い。
  利害が一致すれば無茶な行動に出る事は少ないし、何より友好関係を築く事で裏の情報を得る事が出来る。
  後々の活動を考えると、先行投資的な意味合いもある。
  実際、今回のトレードに使った物資の大半は、裏社会から『提供』された物だ。
ムルア「ま、何にせよ助かる」
ムルア「・・・・・・何の音だ?」
ムルア「ウォーボット!?」
アメタ「チィッ!! 尾行されたか!?」

次のエピソード:第3話 ARF

コメント

  • 過度な説明描写に偏らず、登場人物との会話がストレスを低減させ、物語がスッと入ってきます
    読者に情報を与えるのは難しいと思うのに、グムム……肉がダイヤにも勝る世界、育てる人も大変そうですね(。ŏ﹏ŏ)

  • 卑猥なおにく!!!!!!

  • 今回のお話は過去だったんですね。
    つくづく、今がおいしいもの食べられる時代で良かったです😂
    兵器がジブリみありますね!

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