第7章 坂口さんの残業(脚本)
〇事務所
その日の夕方、
私は1人でパソコンと睨みあっていた。
パソコンの周囲には、
午後に頼まれた書類が積まれていた。
坂口(1人で残業は久しぶりね……。)
資料を作成しながら、
昼間の話を思い出していた。
坂口(もし、遺伝ではなく、呪いだとしたら 解ける方法があるってこと?)
坂口(でも、母も祖母も教えてくれなかったし、 解けない呪いなのかもしれない。)
坂口(そもそも、呪いが解けるとか、 おとぎ話じゃあるまいし……。)
〇事務所
作業に戻ると、突然明かりがついた。
坂口(警備員さん、かな……。)
華「やっぱりいたんですね、坂口さん。」
坂口「百合野さん、どうしてここに!? 部長たちと呑み会に行ったんじゃ・・・・・・。」
華「行ったんだけど、 お酒が入った部長たちが 面倒くさくなってきて、 出てきちゃいました。」
彼女は隣の席に座り、
積んであった書類を手元に置いた。
華「この書類から片付けちゃいますね。」
坂口「いや、別にやらなくても。 そもそも私が頼まれた仕事だし。」
彼女はパソコンを開くと、
書類を元に資料を作成していく。
普段の雰囲気から想像つかないほど、
早いし丁寧でテキパキしている。
華「仕事できるんだ~、とか 思ってたりします?」
坂口「え、いや、別に・・・・・・。」
華「気にしないでくださいよ。 そう思う方が普通ですから。」
華「前の職場ではちゃんとやってたんですよ。 でも、転職したら今の感じになって。」
華「最初は楽だし、 超ラッキーって思ってたんですけど。」
坂口「けど?」
華「だんだん自分の存在意義が 分かんなくなってきた、というか。」
華「坂口さんはいないといけない人だけど、 私はどっちでもいい人なのかなって。」
坂口「百合野さんがどっちでもいい人なんて。」
華「あと、部長たちの相手をしなきゃ いけないのが意味わかんないっていうか。」
華「キャバ嬢にしては給料安すぎるし。 お茶一万円で出したいくらいなんだけど」
坂口「シャンパンじゃないんだから……。」
華「坂口さんと業務以外の話したの、 初めてかも……楽しいですね。」
そう言って彼女は、
女神のような微笑みを私に向けた。