物語る亡霊

山本律磨

EXORCIST(脚本)

物語る亡霊

山本律磨

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〇古い洋館
「ご出身はどちらです?」

〇洋館の一室
柴田「え?」
久喜「いや・・・森を見る瞳があまりに憂いを帯びていらっしゃるので」
久喜「山深いところですか?」
柴田「原宿です」
久喜「・・・」
久喜「はは。私の観察眼もめっきり錆びついたらしい」
久喜「俗世と離れ自分の声ばかり聴いていると、この様です」
柴田「俗世から逃げ自分を騙してるだけじゃないですか?」
久喜「クククッ・・・」
久喜「違いない」
柴田「大変ですね、そういう『雰囲気作り』」
柴田「でもすぐに楽にしてあげますから」
柴田「久喜先生」
久喜「確かに芝居ががってるとよく言われるが、人間観察くらいはするよ」
久喜「一応作家の端くれだ」
柴田「もう一度、お尋ねしますよ」
柴田「事実をお聞かせください」
柴田「盗作ですか?」
久喜「くどい」
久喜「そうだ。僕が奪った」
柴田「どうしてご友人を裏切るような真似を」
久喜「結論という事実だけでは不足かい?」
久喜「では、推論という自分なりの真実で補いたまえ」
久喜「あることないこと好き勝手に書きたまえ。そういう想像力に関しては我々よりも上だろう」
久喜「もう疲れた。嘲笑も断罪も甘んじて受ける」
柴田「でも事実は教えない、と」
久喜「・・・」
久喜「いいだろう。話そう」
久喜「全部作り話かも知れないがな・・・」
柴田「久喜健太郎10年ぶりの新作というわけですね」
柴田「光栄ですよ」

〇病室のベッド
桐原「この原稿が僕のもう一つの体だ」
久喜「丸々太って健康そうだな」
桐原「クククッ・・・」
桐原「違いない」
久喜「で、どうすんだそれ?」
桐原「言っただろう。僕の体だって」
久喜「一緒に棺桶に入れろとか言うなよ」
桐原「クククッ・・・」
久喜「・・・」
久喜「てかお前さ。死ぬなよ」
桐原「だから君はダメなんだ」
久喜「え?」
桐原「腹を括った人間にしか、傑作は書けない。僕はこんな体になって良かったと思ってる」
久喜「ははは」
久喜「誰の目にも触れない傑作か」
桐原「流し読みされる凡作に甘んじる恥辱。僕には耐えられそうもないからね」
久喜「誰に言ってんだよ?」
久喜「・・・聞いてるんだよ。誰に言っている」
桐原「・・・」
久喜「・・・」
桐原「見てみるかい?」
久喜「・・・」
久喜「いつもの奴だろ。見なくても分かるよ」
久喜「古臭いゴシックホラーなんてものにこだわってるから、いつまでもプロになれないんだよ」
久喜「お前さ・・・生きろよ」
久喜「アマチュアのまま生き続けろ」
久喜「そんでヨボヨボになってやっと認めるんだ」
久喜「『カビだらけの感性が僕の一生を食い尽くしました』って」
桐原「勝ち逃げされるのは悔しいってこと?」
久喜「お前は俺に負けたんだ!」
久喜「コンペが、編集者が、世の中がそれを認めてんだよ!」
桐原「君はどうなんだい?」
久喜「・・・!」
桐原「クククッ・・・」
久喜「一人ぼっちの負け犬が」
桐原「やはり一緒に燃やしてくれ」
桐原「それが君のためだろう」
桐原「ぐあっ!」
久喜「食え!食えよ!」
桐原「むぐッ!ぐあああっ!」
久喜「食って生きろ!生き続けろ負け犬!」
桐原「ゲホッ・・・ゲホッ・・・」
久喜「いいか・・・生きろよ」
久喜「俺の足元でずっと・・・」

〇大きな一軒家
「ああ・・・それ」

〇広い畳部屋
桐原の母「息子が、久喜先生に渡してほしいと」
桐原の母「中身は何なのか知りませんけどね」
桐原の母「久喜先生。今日はお線香をあげに来てくれてありがとうございました」
久喜「先生だなんて・・・」
桐原の母「ありがとう。久喜くん」
久喜「・・・」
桐原の母「あなたと違って引籠りで、格好ばかりで、何のものにもならない息子だったけど」
桐原の母「形見だと思って」
久喜「・・・」

〇おしゃれなリビング
桐原「見てみるか?」
久喜「・・・上等だよ」
久喜「・・・」

〇おしゃれなリビング
久喜「・・・」
久喜「何だよこれ」
久喜「こんなもの・・・」
久喜「ははは・・・」
久喜「あはははは!」
久喜「クククククク・・・カカカカカカカカ!」
久喜「・・・!」
久喜「・・・」
久喜「・・・」

〇レトロ喫茶
編集者「これは・・・」
久喜「どうですかね?」
編集者「随分とまたぶっ壊してきたな」
久喜「ありえないですよね」
編集者「ありえない。お前、これまでのキャリア棒に振るつもりか?」
久喜「そうですよね・・・でも、なんていうか」
編集者「世に出さなければならない」
久喜「・・・」
編集者「お前、命削ったろう」
久喜「・・・」
編集者「もう一度聞くぞ、久喜」
編集者「これはお前が本当に書いたものか?」
久喜「・・・」
編集者「世に出してもいいものなのか!」
久喜「・・・」
編集者「俺は出したい」
編集者「出版するぞ・・・いいか!」
久喜「・・・」
久喜「・・・はい」

〇黒
久喜「お願いします」

〇洋館の一室
柴田「そしてあなたが否定した作品はあなた自身の手で出版され、空前の支持を得たというわけですか」
柴田「1000万部どころじゃないですよね。この10年で翻訳もされて海まで渡ったんですから」
久喜「そしてなまじ世界中から注目されたばかりに、作品ばかりか生き様までも模倣しなければならなくなった」
久喜「この本の語り部となるために」
柴田「騙り部となって」
久喜「でもようやくこれで解放される」
久喜「解放してくれるんだろ?この姿から」
久喜「解放してくれよ、なあ」
久喜「なあ!なあ!なあ!なあ!」
久喜「もう、金はうなるほどあるんだよ!」
久喜「どんな事実だろうと逃げ延びてやる!」
久喜「クククク・・・カカカカカカ!」
柴田「あなたは事実の力を侮っている!」
柴田「事実から逃げることなんて出来ない!」
久喜「事実を越える真実を作るのが俺達なんだよ」
久喜「そうだろう桐原」
久喜「とっとと帰れ。暴くだけの能無しめ」
柴田「暴くだけ・・・」
柴田「なるほど。そうかも知れません」
柴田「では俺が本当に暴きたいのはここからです」
久喜「なに?」

〇洋館の一室
  『あなたはなぜ、この10年間新作を書かなかったんです?』
久喜「あいつの亡霊を演じるのに手一杯だっただけだ。書く暇なんてねえよ」
  『書けないんじゃない。書かないんでしょう?』
  『書いたら負けることになる』
久喜「負ける?誰に?」
  『それとも実は書き続けてるんですか?』
久喜「負ける?誰に?」
  『いくら真実を作っても事実からは逃げられない』
  『事実だけで世界は充分成り立っているんですよ』
久喜「負ける?誰に?」
  『僕はあなたの真実なんて興味はない』
  『世界はあなたの真実なんて興味はない』
久喜「負ける?誰に?」
  『価値あるものは事実だけだ』
  『久喜健太郎は今、書いてるんですか?書いてないのですか?書けないのですか?書かないのですか?』
久喜「黙れえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

〇洋館の一室
久喜「・・・」
柴田「ありがとうございます。充分です」
柴田「どうやらあの時に死んだのは桐原『先生』じゃない」
柴田「あなただったんですね。久喜『さん』」
久喜「それは真実か?」
柴田「いえ、事実です」
久喜「じゃあ、書き換えられないな・・・」
柴田「え?」
久喜「・・・仕方ない」
久喜「また書くか・・・」
久喜「俺は生きている。俺は負けてない」
久喜「俺は生きている。俺は負けてない」
久喜「ちょっとスランプなだけだ」
久喜「負けてない」
久喜「生きている」

〇古い洋館
「負けてない。負けてない。負けてない」
「書かないと。書かないと。書かないと」

コメント

  • 作家のみならず、ゼロからイチを生み出す”創作者”には響く物語でしょうね。本作のようなケースは稀でしょうが、他者のものとの比較、或いは自身の過去作品との比較を強いられるわけですし。孤独な戦いですよね。

  • 盗作ではなく、書いた先生の名で出していればこんな事にはならなかったのでしょうが…「負ける」ということにこだわりすぎたのかもしれませんね。
    クリエイターに勝ち負けはないと思いますが。

  • 焦れば焦るほど空回って狂っていきますね。自分が思っていた以上に、過大に評価されてしまうとそれだけでも恐怖を覚えがちですが、ましてや自分の手柄ではないうえにこんな状況になってしまうとは、、芸能人たちもそうですが、有名になればなるほど、評価されればされるほど、増えるプレッシャーってありますね。私は、、、一般庶民でよかった。

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