非ロマネスカーによる脱出24:00

きせき

前編(脚本)

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きせき

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〇アパレルショップ
  ショッピングモールの一角にあるような洋服売り場。
  木目のお洒落な床には沢山のハンガーやマネキン、色とりどりの女性ものの服。
  それに試着室にかかっているようなカーテンもはずれて、
  何かの争いでそうなってしまったように散乱している。
  そんな雑然とした中で槍田鎧(うつだがい)が目を惹いたのは
  緑色をした茎のようなものだった。
  柔らかくて、どこか握り込むには頼りない布や
  布よりは硬さはあるが、握り込むには不安定なハンガーとは違い、
  材質が硬そうで、しっかりしていることもあった。
  槍田は無意識的にも極めて論理的にその茎を武器として手繰り寄せた。
槍田鎧「(結構、ボコボコしている・・・・・・)」
  緑の茎には凸凹があり、その先端は無惨にもポキリと折れているものの、
  ブロッコリーの茎を思わせる。
  すると、何語か分からないが、槍田は声をかけられた。
「◯◇★♪$%*↓→」
槍田鎧「っ・・・・・・」
  その声に槍田の心臓は止まりそうになるが、
  無我夢中でブロッコリーの茎のようなものを握りしめて声のした方へ一心に振る。

〇黒
  キィーン

〇アパレルショップ
槍田鎧「(ヤバい! はずれた!)」
  槍田は手近にあったカーテンのレール部分を掴み、盾のようにして、
  声の主との間隔をとる。
槍田鎧「(だったら、)もう一撃!!」
槍田鎧「うああああ!!!!」

〇街中の道路
  彼の名前は槍田鎧。
  小学生の頃から映画が好きで、映画制作が勉強できる専門学校に通う学生だった。

〇大教室
  だが、過去の作品を分析し、ヒットした作品をなぞるように教えられる授業や

〇撮影スタジオのセット
  映画作りの何もかもに嫌気がさし、人生に絶望しかけていた。

〇アパレルショップ
槍田鎧「(だからって、こんな訳の分からない死に方で死にたくないだろ!!)」

〇黒
「お待ちください。ワタクシはアナタを屠るつもりはございません」

〇アパレルショップ
  何語か分からない言葉から槍田がよく知り、自らも使う言葉で話しかけられる。
  槍田は日本語でも丁寧な部類になるだろう言葉に、
  振り上げたブロッコリーの茎らしきものを下ろした。
???「ああ、アナタが話の通じる人でよかった」
  黒い燕尾服。それに対比するかのように、白い髪を後ろへ撫でつけた人物が
  場違いに笑った。

〇アパレルショップ
コルセスカ「ワタクシ、地球風に申し上げると、ドラゴンスパイラルという勢力に属している」
コルセスカ「ロマネスカーでございます」
コルセスカ「そして、名。これも地球風に申し上げると、コルセスカと申します」
槍田鎧「ドラゴンスパイラル? ロマネスカー? コルセスカさん?」
  勢力に所属している、というよりは

〇華やかな裏庭
槍田が想像するお嬢様「爺や、今日は良い天気ね」
コルセスカ「はい、お嬢様」
  どこかの令嬢に仕えているような物腰の柔らかさで

〇アパレルショップ
  コルセスカは槍田へ挨拶する。
コルセスカ「ふふ、混乱なさって何とも可愛らしい方です。ロマネスカーというのは・・・・・・」
  槍田の問いに、コルセスカが説明を開始したその時だった。
  マネキンやショーウィンドウの影から得物を持った星人が襲ってきた。
槍田鎧「右、右っ、いや、左、左っ!!」
  右からも左からも茎が異様に長いブロッコリーかカリフラワーのような武器を持った
  星人がコルセスカを一斉に狙う。
槍田鎧「コルセスカさん!!!!」

〇黒
  キン、キン、キン
  ガン、ガン、ガン
  ドコ、ボコ、ガコ

〇アパレルショップ
  刀と刀がぶつかり合うような激しい音に、鉄を金槌で打つような高い音。
  それに、鈍器で何かを殴っているような音。
  とても野菜で殴り合って出る音ではないが、そんな音が響く。
  そして、それらは何も聞こえなくなった。
槍田鎧「コルセスカさん・・・・・・?」
  まさか、やられてしまったのかと槍田は思うと、
  コルセスカは変形したブロッコリーのような、よく分からない野菜のついた茎を持ち、
  多くの刺客達が倒れる中、1人、洋服売り場の真ん中に立っていた。
槍田鎧「(何が起こった、んだ・・・・・・)」
  槍田は何も目を瞑っていた訳ではなかった。
槍田鎧「速すぎるだろ・・・・・・」
  そう、動体視力がまるでない槍田ではあるが、コルセスカ達が何をやっているのか、
  見えなかったのだ。
コルセスカ「ブロッコリアンにカリフラワーズ、でございましたか」
コルセスカ「最近、この手の手合いが増えましたね」
コルセスカ「老体でも清掃に駆り出されているのですよ」
  清掃、というよりは戦闘に近いと槍田は思うのだが、
ブロッコリアン星人「うぉぉぉぉっっっっ!!!!」
  後方からブロッコリアン星人がコルセスカの頭上をブロッコリーで殴っても躱す。
カリフラワーズ星人「ふんっ!!」
  カリフラワーズ星人が投石のように茎の短めなカリフラワーを投げつけても、
  コルセスカは武器で弾いて、カリフラワーズ星人を返り討ちにしていく。
コルセスカ「まぁ、この時代へは自らの意思もあり、参りましたが」
槍田鎧「え、この時代に? 自らの意思で?」
コルセスカ「ええ、ワタクシはアナタにも分かりやすく言えば、」
コルセスカ「何億光年も未来から来たのでございます」
コルセスカ「ほんの少し訓練を積めば、時間跳躍が可能なので」
  時間跳躍、即ち、タイムトラベルのことだが、
  槍田には目の前の男がホラや世迷言を言っているとは思えなかった。
  多分、目の前の彼は地球人ではなく、ロマネスカーという星人だし、
  本当にドラゴンスパイラルという勢力に所属しているのだろう。
  ただ、絶望しながらも平和な時代で生きていた槍田には
  こんな訳も分からないところへ自らの意思でやって来た彼を理解することは難しかった。
コルセスカ「信じられないでございますか? てっきり、アナタはそうだと思っていたのですが」
  コルセスカはそう続けると、息の1つも乱さず、服に1つの染みをつけずに
  死闘を演じていく。
コルセスカ「アナタの国風に言うと、求人募集をご覧になって・・・・・・」
槍田鎧「求人募集、ですか・・・・・・?」
コルセスカ「ええ、1(いち)インディア2000ロマネーで」

〇地球
  ロマネスカー急募。1インディア2000ロマネー。
ロマネスカー星人「未経験者歓迎。先輩ロマネスカーが優しく教えます」
ロマネスカー星人「高収入。福利厚生も充実。明るくて、優しい方が沢山いる職場です」
コルセスカ「さぁ、アナタも明日のロマネスカー」
「皆さんのご応募、お待ちしております!!」

〇アパレルショップ
槍田鎧「(みたいな・・・・・・? って、インディアにロマネーって何?)」
  槍田はコルセスカに疑問に思ったことを聞いた。
コルセスカ「あぁ、馴染みがない言葉でございましたね」

〇地球
コルセスカ「インディアは1時間、2時間とかの時間の単位で、ロマネーは円とかドルとかと一緒で」
コルセスカ「お金の単位ですよ。時給2000円、ってことですね。アナタの国風に言えば」

〇アパレルショップ
  時給2000円で、ロマネスカー星人になって野菜をぶん回し、
  ブロッコリーとカリフラワーを振り回す星人達と訳の分からない戦いを繰り広げる。
  冷静に考えれば、何っていうB級映画だろうと槍田は思う。
  だが、それを言うほど、槍田は空気が読めない訳でも、頭が硬い訳でもなかった。
  すると、コルセスカは溜息を1つついた。
ブロッコリアン星人「うがぁぁぁぁぁ!!!!」
  棍棒みたいな巨大なブロッコリーを持ったブロッコリアン星人が
  空気も読まず、襲ってくる。
  だが、巨大なブロッコリーもそのブロッコリーに見合う巨体のブロッコリアン星人も
  彼の敵ではなかった。
コルセスカ「ふぅ、やっとこの辺りの気配が消えましたね。また敵が集まる前にここを離れましょう」
  そう言うと、コルセスカは床に倒れた星人には目もくれず、
  彼らの得物であったブロッコリーやカリフラワーを回収する。
  そうしないと、息を吹き返した時に再び襲われたり、死の商人に回収されるのだという。
槍田鎧「死の商人・・・・・・ですか?」
コルセスカ「ええ、死の商人です。彼はどの勢力にも汲みさない商人で、我々に武器や物資を売ります」
コルセスカ「ある意味、彼らさえいなければ、この不毛な戦闘も起きなかったかも知れませんね」

〇黒
死の商人「武器の売り買いいたします」
死の商人「また、米肉魚薬のご用命もお任せください」
死の商人「ブロッコリアンさんもカリフラワーズさんもロマネスカーさんもどうぞご贔屓に」

〇アパレルショップ
コルセスカ「まぁ、それだけじゃないんですよ」
コルセスカ「相手の武器を失敬し、調味料を駆使し、食する。ここは戦場でございますからね」

〇荒廃したデパ地下
コルセスカ「たまには死の商人から米や肉なんかも買いますが、物資が足りないのでございます」

〇荒廃したショッピングモールの中

〇荒廃したセンター街

〇宇宙空間
コルセスカ「仮に、それが彼らを生命や尊厳、全てを奪うことになろうとも・・・・・・」

次のエピソード:後編

コメント

  • ロマネスコとブロッコリーとカリフラワーの勢力争い、発想が斬新ですね!どれも似てるし惜しい気がする...😄

  • ノリがいいお話でぐっと読んでしまいました。
    時給2000円ってこの仕事内容にしては安いような気が…。
    重いお話だと思うんですが、あまりそれを感じなかったのは筆力ですね。

  • イタリアに住んでいるのでロマネスコはよくスーパーで見かけるんですが、一度たべて調子悪くなってから食べていません。野菜を他のものに例えれば、なにか最近起きていることを比喩したようなお話でひきこまれました。

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