後編(脚本)
〇アパレルショップ
槍田鎧「全てを奪いとっても・・・・・・」
コルセスカ「命だけでなく、遺体も捨て置き、武器も奪いとって、それを糧に生きていく」
コルセスカ「残酷だと申しますか? でも、アナタにも分かる時が来る」
コルセスカ「もし、アナタが地球人ではなく、ロマネスカーになれば否が応でも」
〇地球
コルセスカ「それがロマネスカーの、ワタクシの生き方なのだと・・・・・・」
〇アパレルショップ
コルセスカは唇を動かすのを止めると、槍田に先程まで奮っていた愛器を見せる。
変形したブロッコリーのような野菜。
だが、ブロッコリーよりは淡い色合いをしていて、円錐形の蕾がいくつもついている。
あまり野菜を使った料理をしない槍田には見覚えがない野菜だった。
槍田鎧「これがロマネスカーの武器なんですか?」
コルセスカ「えぇ、この淡い黄緑色に、花蕾群のフラクタル形状が実に美しくございましょう?」
コルセスカ「また幾何学的な配置を成し、個々のつぼみが規則正しい螺旋を描いて円錐を成している」
コルセスカ「さらに円錐自体も螺旋を描くように並び、これが数段階繰り返されて」
コルセスカ「自己相似の様相を呈する」
コルセスカ「配列したつぼみはと円錐の数はフィボナッチ数にも一致していて・・・・・・」
槍田がコルセスカの愛器を見つめていると、コルセスカが変形したブロッコリーのような
謎の野菜について語った。
美しいと感嘆するには螺旋状のつぼみが幾重にもついた、見ようによっては
グロテスクな造形と、コルセスカの日本語らしからぬ独特の説明。
それらに早々にドロップアウトした槍田はその名称だけ理解した。
〇地球
コルセスカ「ロマネスコ。ロマネスカーのロマネスカーたる所以」
〇アパレルショップ
槍田鎧「ロマネスカーたる所以・・・・・・」
コルセスカ「そうですね。アナタの国風に言えば、『やりがい君』とも呼ばれていたかと」
槍田鎧「・・・・・・」
ロマネスコの造形には似合わず、やや甘美さの漂う響きと若干間抜けない響きに
槍田は絶句する。敵対勢力であろうブロッコリアンとカリフラワーズではない、
地球人である筈の槍田も鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。
コルセスカ「と、ワタクシとしたことが重要なことを失念しておりました」
コルセスカ「こちらはアナタの武器です」
コルセスカ「ロマネスカーになる、ならないに関わらず、丸腰では心許ないでしょう?」
コルセスカは槍田がずっと握っていた先端が折れてしまったロマネスコの茎の代わりに、
新しいロマネスコを渡す。
槍田鎧「(そう言えば、これはつぼみの部分がとれているんだ)」
槍田は新しいロマネスコを受け取ると、コルセスカの戦闘中も、
ずっと持っていた方のロマネスコの茎についていたであろうつぼみを見つける。
槍田鎧「あ・・・・・・!」
槍田の足元に落ちている紫色のワンピース。
その影に隠れるように、
ロマネスコはかつての美しい黄緑色からくすんだ茶色になっていた。
コルセスカ「死傷した仲間のロマネスコでございましょう」
コルセスカ「こうなってしまっては武器にも糧にもできません」
土に還るのみ、とそのまま捨て置き、槍田はコルセスカについて洋服売り場を後にした。
〇落下する隕石
ブロッコリーで戦うブロッコリアン。
〇落下する隕石
カリフラワーで戦うカリフラワーズ。
〇黒
そして、
〇宇宙空間
ロマネスコで戦うロマネスカー。
そのロマネスカーが組織する、ブロッコリアン・カリフラワーズ排除最高勢力
『ドラゴンスパイラル』。
おのおの地球人ではなく、異星人ではあり、敵対し、戦闘を繰り返しているという。
〇デパートのサービスカウンター
コルセスカ「ご理解いただけましたか」
槍田鎧「えぇ、理解なんてしたくないけど、何となくは」
ロマネスカー達のことを話しながら、槍田とコルセスカは3階の西ゲートに近い
洋服売り場エリアから中央のインフォメーションを通り、
8階にある屋上を目指していた。
コルセスカ「それはそれは。ただ、本当にお帰りになるのでございますか?」
直に3階の西エリアから8階の屋上へは行かず、
〇本屋
比較的安全な東エリアや
〇ゲームセンター
南エリアを通りながら、
〇エレベーターの前
エレベーターが唯一、動いている北エリアへ向かう。
エレベーターが動くということは他の星人と出くわす確率が高い、
かなり危険なエリアなのだが、槍田がこの戦場から元の日々へ帰還するには
本日の24時までにこの建物の屋上へ停泊すると言う船へ乗る他ないという。
〇デパートのサービスカウンター
槍田鎧「えぇ、俺、ここでは生きていけそうにないです」
槍田鎧「貴方くらい強いなら生きていけそうですが・・・・・・」
槍田はコルセスカの背にひっつくくらいの距離をとりながら歩く。
というのも、槍田はコルセスカから新しいロマネスコを受け取ったが、
万年体育の成績は10段階評価で2だった。
コルセスカ「まぁ、訓練さえすれば、アナタは立派なロマネスカーになれると思いますけどね」
コルセスカ「ワタクシも最初から強くはなかった。何度も何度も死神に手を引かれた」
コルセスカ「でも、生きてこられました。死にさえしなければ・・・・・・」
コルセスカ「いえ、死神が手を引き、黄泉へと旅立つその日まで何かをしさえすれば」
コルセスカ「どうとでもなるものでございます」
槍田鎧「・・・・・・」
〇街中の道路
槍田鎧「(絶望していても、死にたいとは思わなかった)」
〇大教室
槍田鎧「(ただ、生きているのが辛くて、何かをする気も起こらなくなっていた)」
〇撮影スタジオのセット
槍田鎧「(どうせ、何も変わらないなら、死神に手を差し出されて、手を引かれても良いと)」
〇骸骨
槍田鎧「(思っていた・・・・・・)」
〇デパートのサービスカウンター
コルセスカ「アナタは弱い訳ではありません」
コルセスカ「何故なら、今のワタクシには今のアナタの日々の方がずっと生きてはいけない」
コルセスカ「それでも、帰っていくということは強さ故にできることなのです」
〇アパレルショップ
槍田とコルセスカは中央にあるインフォメーションを通り過ぎると、
東エリアの洋服売り場に向かい、東エリアの非常階段へ向かう。
〇非常階段
非常階段では慎重を期して、3階から5階まで登り、
〇本屋
本屋のある5階の東エリアからは、さらに細心の注意を払い、無駄な戦闘を避ける。
ズンズンズン。
キョロキョロキョロ。
〇エレベーターの中
そして、本来ならば、東エリアから直接、北エリアに行けば良いのだが、
〇落下する隕石
ブロッコリアン星人と
〇落下する隕石
カリフラワーズの交戦を巻き込まれないように
〇ゲームセンター
南エリアのゲーセンや、
〇ビリヤード場
西エリアのビリヤード場に身を潜めつつ、北エリアへ向かう。
〇エレベーターの前
コルセスカ「さて、いよいよエレベーターに到着しましたね」
コルセスカ「6階がブロッコリアン陣営、7階がカリフラワーズ陣営でございます」
コルセスカ「これまで以上にワタクシから離れないでください」
槍田鎧「はいっ!!」
〇エレベーターの中
〇黒
チーン
〇雑貨売り場
〇エレベーターの中
〇黒
チーン
〇映画館のロビー
〇エレベーターの中
槍田鎧「相変わらず、凄い・・・・・・」
エレベーターが1階ごとに開くも、コルセスカは槍田をエレベーターを利用して
身を守りながら、襲いかかってくるブロッコリアン星人とカリフラワーズ星人を倒す。
時には彼らの武器を踏んづけて壊し、倒れた星人も踏んづけて、星人を倒していく。
〇アパレルショップ
コルセスカ「残酷だと申しますか? でも、アナタにも分かる時が来る」
コルセスカ「もし、アナタが地球人ではなく、ロマネスカーになれば否が応でも」
〇エレベーターの中
槍田鎧「(それがロマネスカーの、彼の生き方なのだと・・・・・・)」
数時間前のコルセスカの言葉を思い出すと、3階目のエレベーターのベルが鳴る。
槍田が目的としていた屋上に着いたのだ。
〇近未来の通路
槍田鎧「真っ暗ではないですけど、結構、暗いですね・・・・・・」
先程まではショッピングモールのような場所で微かに現実感があった槍田だったが、
突如、現れた通路はまるで現代の地球のそれとは思えない。
槍田鎧「(B級もここまでくれば、神作にもなるのか?)」
なんて、馬鹿げたことを考えていると、コルセスカはこちらです、と手を引いてくれる。
真っ暗な闇の中、コルセスカの手を頼りに槍田は通路を歩いていく。
長いのか、短いのか、初めてその通路を歩く槍田には永遠に続くような感覚がした。
コルセスカ「こわいですか?」
槍田鎧「えぇ、まぁ・・・・・・」
こわいか、こわくないか。
槍田としては分かりかねる問いだったが、こわいと答えるのが正しいように思えた。
コルセスカ「えぇ、日々もまたそうでございます」
コルセスカ「明るく照らされた道であることの方が珍しいのです」
コルセスカ「そして、どんなに明るい道を歩いてきた者でも最期はひっそりとその命を終えていく」
それは、あの紫色のワンピースの影でひっそりと命を終えていくロマネスコのように、
いずれは自分も朽ちることをさしているのだろうか。
確かに、いかにコルセスカがロマネスカーの古豪であの実力があるとは言え、
〇手
ここには死神の差し出す手が多すぎる。
〇近未来の通路
コルセスカ「ただ、真っ暗な道もまた続かない」
〇近未来の通路
コルセスカの言葉と共に、辺りは青く光り出す。
〇黒
そして、次の瞬間、巨大な満月が辺りを金色に染めた。
槍田鎧「あれが船・・・・・・」
満月の傍らには同じ金色に輝く三日月型の船が停まっていた。
槍田鎧「あれに乗れば、帰れる?」
槍田は何故だか、自分の涙腺から涙が流れていることに気づいた。
〇宇宙空間
それから、暫く、その黄金に輝く宇宙空間の前に立ち尽くしていた。
〇近未来の通路
数億光年後、コルセスカは今日も愛器であるロマネスコを握り、
〇宇宙ステーション
ブロッコリアン星人と
〇宇宙ステーション
カリフラワーズ星人を
〇近未来の通路
殲滅していた。
コルセスカ「長かった。あの専門学校に通っていた日々から抜け出して、ここまで来るのは」
コルセスカは槍田鎧として生きていた日々を思うと、目を閉じる。
そして、これからその槍田を救いに、時間跳躍をする。
コルセスカ「でも、あの日の24:00(ふたよんまるまるインディア)は」
コルセスカ「たった数時間前のことのようだ」
〇SHIBUYA SKY
ロマネスカー星人「槍田鎧様、こちらがドラゴンスパイラルの本部でございます」
ロマネスカー星人「本当に地球に帰らなくて、良いのですか?」
ロマネスカー星人「ロマネスカーになれば、地球人として生きることも死ぬことも許されません」
時給2000円、人間では考えられない途方もない寿命、おまけに
ブロッコリアン星人とカリフラワーズ星人との不毛な戦いに身を投じることになる。
槍田鎧「(俺の命って安いな・・・・・・でも、あの光景は美しかった)」
〇宇宙空間
巨大な満月で染まる宇宙空間。その満月にまるで沿うように輝く三日月型の船。
槍田鎧「あんなに美しすぎる光景は見たことがなかった」
〇SHIBUYA SKY
槍田鎧「はい。ロマネスカーとして生きていきたいです」
ロマネスカー星人「分かりました。貴方にロマネスカーの証を与えます」
槍田鎧「うっっ!!!」
〇SHIBUYA SKY
槍田鎧「っっっ!!!」
焼けつくような痛みが両目を襲い、のたうち回りそうになる。
槍田鎧「(世界が赤・・・・・・い・・・・・・!!)」
世界・・・・・・槍田の視界が赤に見え、
〇SHIBUYA SKY
赤から青、
〇SHIBUYA SKY
青から緑に見え、痛みが治まったら、色は正常に戻っていく。
〇SHIBUYA SKY
〇SHIBUYA SKY
ロマネスカー星人「まだ痛みますか?」
槍田鎧「いえ、大丈夫です」
黒い瞳は移植を受けたように緑眼になっていて、ロマネスコが与えられる。
そして、最後にロマネスカーとしての服と名・コルセスカが与えられた。
コルセスカ「コルセスカ・・・・・・」
ロマネスカー星人「ええ、元・アナタの星、アナタの国風に言えば・・・・・・」
〇近未来の通路
コルセスカ「(去っていった仲間もいた。いつまでも、いつまでも終わらない戦いが続く)」
〇黒
〇近未来の通路
コルセスカは静かに目を開けると、黄金に輝く三日月型の船を見る。
それから、何もかも黄金に染める巨大な満月を見る。
コルセスカ「さぁ、参りましょう。あの日の24:00へ間に合うように」
何かもが黄金に輝く光景に、コルセスカはまた槍田だった頃のように涙を流すと、
若かりし自分の生きた時代へと向かった。
〇アパレルショップ
コルセスカ「お待ちください。ワタクシはアナタを屠るつもりはございません」
〇宇宙空間
FIN.
However His Story Continues......