悪魔との契約(脚本)
〇魔法陣
〇渋谷の雑踏
おれは自分の耳を疑った。
声をかけてきたやつが言うには、自分は悪魔なのだそうだ。
二十一世紀にもなった現代だというのにあまりにも馬鹿げてる。
たしかにおれは夏だというのに冬山のように凍りついた顔をしていただろう。
ここ数年トラブルがつづき、なにひとついいことがなかった。
ストレス解消に飲みにでかけたら、ボ―ナスをまるごとボラれて空をみあげていた。
そこへ白いス―ツを着たやつが声をかけてきたのだ。端正な顔だちでどうみても悪魔にはみえない。
だいいち、悪魔なら黒ずくめのほうがまだそれらしい。
〇渋谷のスクランブル交差点
悪魔「信じられないのも仕方がありません。姿かたちはふつうの人間となんら変わりがないのですからね」
悪魔「しかし、だまされたと思って話を聞いても損はないですよ。お金なんて一切とりませんから」
男「と、いうと、願いをかなえてくれるかわりに魂をよこせということか?」
ニヤつきながらそう言うと、
悪魔「そんな時代遅れなことは言いませんよ」
と、まじめな顔で答える。
男「まあいいさ、願いをかなえてくれるというならまずはお金だな」
悪魔「はい、わかりました。それくらいはおやすい御用です。そのかわりにあなたの哀しみや苦しみをいただきますからね」
おれはふたたび自分の耳を疑った。
お金はもらえる、苦しみはとりさってくれるでは、悪魔ではなくて神か天使ではないか。
悪魔「疑問をいだかれるのはごもっともです。私の主人がもっと苦しみの気を吸いたいと言われているのですよ」
〇渋谷のスクランブル交差点
悪魔「苦悩というものは前世からの負債みたいなものでしてね」
悪魔「それを帳消しにすることは、神が定めた法則を無視することになるのですよ」
男「なるほど、言われてみればなんとなく理屈にはなっているな。おれとしてはいいことずくめなんだから文句はないよ」
おれがそう言うがはやいか、やつはおれの額になにやら押しつけた。
悪魔「大丈夫。誰にもみえない契約のハンコを押しただけですから」
〇渋谷の雑踏
そして、やつは突然おれの目の前から消え去った。悪酔いをして変な夢でもみたような気分になった。
〇黒背景
〇時計
翌朝、二日酔いと睡眠不足なのか頭のどこかが麻痺しているような感じがしていた。
しかし、時間がたつにつれてようやく昨夜のことが夢ではなかったことがわかってきた。
たしかになにをしても苦しみや哀しみを感じない。恋人にふられても、上司に怒られてもなにも感じない。
しかしだ。なにをしても喜びも感じない。宝くじが当たって高額当選したがうれしくない。
どんな映画をみても楽しくない。苦しみをとりさってくれるのはありがたいが、
喜びまでやるとは言っていない。
〇汚い一人部屋
悪魔を呼びだせるような気がして額をなんども叩いた。
すると案の定やつは姿をあらわした。
悪魔「なにか御用ですか?」
男「ふざけるな、喜びまでやるとは言っていないぞ」
言葉は荒々しいが迫力はない。なぜなら腹が立たないからだ。
悪魔「苦しみと喜びがセットなのは、古今東西の常識ですよ」
男「いや、これでは生きている意味がない。契約を解除する」
悪魔「人間というものは本当に面倒な生き物ですよね。まあいいでしょう」
悪魔「そのかわりキャンセル料として死後は永遠に私の主人に仕えてくださいね」
悪魔「じつは私も契約解除をして、今の仕事をしているのですよ」
男「そんなバカな話があるかよ!!」
やつと私は一瞬にして薄暗い世界にワープしたようだ。そこでみたものは・・・・・・。
〇魔界
赤黒い血を油絵にまぜたような筆で書き殴ったような。薄暗く広い洞窟のような世界がそこにあった。
〇魔界
そして、やつのご主人らしい、まさに悪魔らしきものがにじり寄ってきた・・・・・・。
〇魔界
fin
やはり安直に悪魔と契約するのは危険ですね。だって悪魔なのですから、人をだましてなんぼなのでしょう。苦しみもあるからこそ喜びもある、どちらかだけでは生きる目的がなくなってしまいそうです。
人から感情をとってしまったら一体何が残るんですかね…。
無我…一体どんな状態なのだろう…。
無心になることはあっても、何も感じなくなることは考えるだけでゾッとします。
悲しみや苦しみを取り去ること、これは感情の揺らぎを無くすことになりますから、確かに喜びなども無くなってしまいますよね。恐ろしい契厄ですね。。。