始末屋さんはおみとおし

きらそね

Ep.3 始末屋さんとこひなちゃん(脚本)

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〇学校の校舎
  ──放課後。
  学校を出た私たちを待っていたのは──
  やっぱり、
  この人だった。

〇走行する車内
男2「いやぁ急にごめんねぇ」
  学校近くの駐車場に
  停めてあった車に乗せられて
  彼──”ツトム”さんの運転で
  始末屋さんの事務所に向かっている。
ツトム「二人とも、予定とか大丈夫だった?」
里紗「私はもともと休みだったので・・・」
ツトム「休み? 部活? バイト?」
里紗「バイトです」
ツトム「へー、えらいねぇ。 なんのバイトしてんの?」
里紗「コンビニで・・・」
ツトム「そーなんだ コンビニもけっこう大変だよねぇ」
ツトム「俺も高校のときやっててさぁ──」
里紗(なんか── 昨日とはちょっと雰囲気違うっていうか)
里紗(びっくりするくらい、陽気・・・)
  てっきり怒られるものと思っていた私は
  ただただ戸惑うばかりだった。
ツトム「こひなちゃんは? なにかやってるの? バイトとか」
こひな「してません」
ツトム「部活は?」
こひな「やってません」
ツトム「へえ、帰宅部かぁ」
こひな「・・・」
里紗(こひな、機嫌悪いなぁ)
里紗(っていうか、 なんか臨戦態勢になってる・・・?)
里紗「ねえ、こひな」
こひな「なに?」
里紗「ケンカしにいくんじゃないよ 謝りにいくんだからね」
こひな「わかってるし」
里紗(・・・ほんとかなぁ)
ツトム「──あのさ」
  バックミラー越しに
  ツトムさんと目が合った。
ツトム「『子どもだから なにしても許される』──」
ツトム「なんて思ったら 大間違いだからね」
里紗「そ、そんなこと・・・」
ツトム「とくに──」
こひな「!」
ツトム「天紀(アマキ)さんは そのへん容赦ないから 気をつけなよ」
こひな「──・・・だれだよアマキって」
ツトム「うちの”代表”」
ツトム「って言っても 俺とあの人だけなんだけどね」
こひな「ずいぶん少ないんですね。 始末屋なんてたいそーな名前でやってるわりに」
里紗「こひな・・・!」
ツトム「はは・・・ まあ、それで事足りるからねぇ」
里紗(・・・なんだろう)
  さっきからずっと変わらない笑顔が──
  不気味に思えて仕方がない──。

〇道玄坂
  車は市街地を抜け──

〇古いアパート
  住宅街の一画にある
  古びた小さなアパートへ──

〇安アパートの台所
里紗(こ、ここが事務所・・・?)
こひな「まじ・・・?」
  思わず顔を見合わせる。
里紗(どう見ても普通の──っていうか 安アパートの一室って感じだけど・・・)
ツトム「俺、戻りましたー」
???「・・・」
ツトム「あれ、どーしたの? 遠慮なく上がって」
こひな「・・・スリッパとかないんですか」
ツトム「ええ? タタミにスリッパとか邪道すぎるでしょ」
ツトム「っていうか靴下はいてるんだし 気にすることなくない?」
こひな「そういう問題じゃないんだけど・・・」
ツトム「俺お茶いれるから 二人とも先に奥入っててねー」

〇古いアパートの部屋
  そろそろと
  奥のひと間に進む。
  部屋のまんなかに
  パソコンを前に座っている──
里紗(・・・昨日の人。 ”天紀(アマキ)”──さん)
天紀「・・・どーも」
  目を上げた天紀さんが
  私たちを見比べる。
天紀「昨日会ったの、そっちか」
里紗「そ、そうです あの、騙すようなことして・・・ ほんとにすみませんでした」
こひな「スミマセンデシター」
里紗「ち、ちゃんと謝ってよ」
こひな「謝ったじゃん」
里紗「謝ってないよ今のはっ」
天紀「・・・ハア」
天紀「まあいーよ、べつに。 謝ってもらうために 呼んだわけじゃないから」
天紀「──初めからわかってたし」
里紗「え・・・?」
天紀「とりあえず座って」
ツトム「お茶でーす」
  タイミングを見計らったかのように
  入ってきたツトムさんが──
  冷たい麦茶の入ったグラスを
  私たちの前に置いてくれる。
こひな「・・・」
ツトム「あはは、 お客さん用のグラスだから ちゃんと綺麗だよ」
ツトム「潔癖なんだねえ こひなちゃん」
こひな「・・・気安く呼ばないでほしいんですけど」
里紗「こひな!」
天紀「・・・」
天紀「話、先に進めていいか?」
ツトム「あ、 すんませーん」
里紗「あの・・・さっきの 『わかってた』っていうのは・・・」
天紀「その前に ひとつ確認しておきたいんだけど」
天紀「あんたのしてた、あの話。 芦原奈央──だっけ?」
天紀「アレ、完全なウソ── ってわけでもねぇんだよな?」
里紗「!」
里紗「それは・・・その・・・」
こひな「里紗・・・」
天紀「・・・」
天紀「OK 今の反応で大体わかった」
里紗「え!? あ、あのっ・・・」
天紀「とりあえずあんたはいいや」
天紀「まずはお前だ バカガキ」
こひな「な、なによ」
天紀「なによじゃねぇよ SNSにクソみてぇな煽り文句入れて 動画上げやがって」
こひな「だからさっき謝ったじゃん」
天紀「謝ってもらうために呼んだんじゃねぇって 言っただろ」
こひな「動画は消したよ」
天紀「知ってるよ」
こひな「じゃあ・・・」
こひな「・・・なんなのよ」
天紀「いやさ、 お前なにがしたかったのかなって」
こひな「はあ? なに、って・・・」
天紀「注目されたかったか?」
天紀「『おもしろい』とか『すげぇ』とか みんなから言ってもらいたかった?」
こひな「あ、あたしはべつに・・・」
天紀「じゃ、なんで上げたの?」
天紀「こんなことしたら お前の姉ちゃんの件が流れるって・・・ わかってたよな?」
こひな「・・・」
天紀「姉ちゃん犠牲にして トモダチ利用して── それでお前はなにがしたかったわけ?」
こひな「犠牲とか、利用とか あたしはべつに、そんなつもりじゃ・・・」
天紀「べつにべつにって それしか言えねぇのかよ」
こひな「・・・っ」
里紗「あ、あの!」
里紗「利用されたなんて私、思ってないし そんな言い方しなくたって・・・」
天紀「あんたちょっと黙ってて」
里紗「でも──」
天紀「うるせぇって言ってんの」
里紗「・・・」
  重たい沈黙が流れた。
  こひなはなにか言いたそうに──
  けれど、言葉が出てこないらしく、
  唇を噛んだまま天紀さんを睨んでいる。
天紀「──・・・お前さ」
天紀「家族とうまくいってないだろ」
こひな「!」
里紗(・・・え・・・?)
天紀「お前の姉ちゃんから いろいろ聞いてる」
天紀「まあ・・・ よくあるっちゃよくある話だったけど」
こひな「べつに・・・」
こひな「うまくいってないわけじゃ ないもん」
こひな「あたしのしたいことと ママたちの望むことが・・・ いつも、違うってだけで」
天紀「・・・」
こひな「でも! それでケンカしたりとかもしないし」
天紀「・・・」
こひな「そ、そりゃ昔はちょっとあったけど 今はなにも言わないし あたしのしたいことを尊重してくれてるっていうか」
こひな「お姉ちゃんみたいに 褒められることはないけど べつに・・・ あたしそれでいいと思ってるし」
こひな「しょーがないし!」
天紀「・・・ よく喋るようになったな、いきなり」
こひな「!」
こひな「あ、あんたが聞くからっ・・・」
天紀「さっきは何聞いても 『べつにべつに』だったのにな」
こひな「・・・」
天紀「──じつはさ」
天紀「おまえの姉ちゃんからの依頼、 ふたつあったんだよ」
こひな「ふたつ・・・?」
  天紀さんはパソコンを操作して、
  画面をこちらに向けた。
  SNSのスクリーンショットの数々が
  リストのように並んでいる。
天紀「見てみ」
里紗(──・・・これって)
  こひなのお姉さんのSNSにつけられた
  コメントを保存したものだった。
天紀「ツラツラと恨み言ばっか書いてる ”az”ってのが ネットストーカー化した元彼さん」
天紀「他にも 誹謗中傷目的の捨てアカっぽいのが いくつかあるだろ」
里紗(『死ね』とか『ブス』とか 『キモイ』とか・・・ めちゃくちゃなことばっかり)
里紗「・・・ひどい」
天紀「ひどいよな」
天紀「お前だろ、コレ」
こひな「っ・・・」
天紀「疑ってたぞ、お前の姉ちゃん。 もしかしたら──程度にだけどな」
こひな「──・・・ もしかして ソレ、確かめるため?」
こひな「あたし、ハメられたの?」
こひな「お姉ちゃんがあたしに 始末屋のハナシしたのもわざと? ぜんぶあの人が仕組んだわけ?」
天紀「”俺”が仕組んだんだよ」
天紀「”口外しないことを条件に”── それを知ったうえでお前がどう動くか 見たかったから」
こひな「・・・なにそれ」
こひな「バカにしてっ!」
天紀「直で聞いても どーせごまかすだろ」
こひな「だからって こんなことしなくたっていいじゃん! わざわざ人を騙すようなことっ・・・」
こひな「・・・っ」
天紀「ソレについては謝るつもりでいたけど ・・・お互い様だな」
天紀「お前が昨日の件をちゃんと謝れたら こっちも謝ってやるよ」
こひな「・・・えらそーに ムカつく」
天紀「ソレもお互い様」
里紗「あ、あの」
里紗「じゃあ昨日私と会ったときは ぜんぶわかってたって・・・ことですか?」
天紀「俺はね」
天紀「──ソイツは別」
ツトム「そうそう 俺も今朝まで知らなかったんだよ 聞いてビックリー」
天紀「コイツ 腹にイチモツ抱えてるときほど やたらニヤニヤする癖あるから」
ツトム「なんか言い方にトゲがあるなー」
里紗(じゃあ昨日 怒ってたのは演技じゃなくて・・・ むしろ今日のほうが──)
里紗(だから不気味だったんだ・・・ っていうのも失礼だけど)
天紀「とりあえず この誹謗中傷の書き込みは お前がやったってことで 間違いないんだな?」
こひな「・・・ぜんぶじゃ、ないもん」
  こひながちらりと私を窺う。
  悪戯をばらされた子どもみたいに──
天紀「じゃ自分の書き込んだやつあとで教えて それと──」
天紀「なにが目的だったのか聞いていい?」
こひな「も、目的・・・?」
天紀「身バレしたくねぇからトモダチ使って コンタクト取ってきたんだろ?」
天紀「そのくせ自分のアカウントで 動画あげてるし」
天紀「姉ちゃんへの嫌がらせとか 邪魔したいだけとかなら わざわざこんなトラブルのタネ作る必要もねぇだろうし」
天紀「よくわかんねぇんだよ お前の行動」
こひな「そんなこと言われても・・・」
こひな「べつにお姉ちゃんの邪魔しようとか思って やったわけじゃないし」
こひな「もしバレたとして それでお姉ちゃんの件が流れても べつにいいかなとは思ったけど・・・」
こひな「自業自得なとこあるし──・・・」
天紀「・・・」
こひな「あたしはただ、始末屋とか フツーにおもしろそうだなって思って」
こひな「それで・・・里紗誘って──」
こひな「・・・」
こひな「里紗にはほんと 悪いことしたって──思ってるよ こんなことになるなんて・・・」
里紗「い、いいよ私は」
こひな「でも、なんか・・・ あたしのすごくイヤなとこまで 見せちゃったし」
こひな「──引いた、よね?」
里紗「そんなこと・・・ っていうか、私のほうこそ」
里紗「こひなのおうちでのこととか お姉さんとのこととか ぜんぜん知らなくて・・・」
里紗「・・・友達なのに いつもいろいろ聞いてもらってるのに」
里紗「私のほうこそごめんね、こひな」
天紀「──・・・ ソッチにも問題アリっぽいな」
里紗「え?」
天紀「まあいいや」
天紀「とりあえずお前が 後先考えない根ッからのバカだって ことはよくわかった」
こひな「な、なによそれ!」
天紀「お前の返答次第では 個人情報ぜんぶ晒して、いちど イタい目見てもらおうかと思ってたけど」
こひな「え・・・!?」
天紀「いいよ、やめといてやる ・・・ただし、二度目はねぇからな」
こひな「ハ・・・ハーイ」
里紗(こひなが素直になった・・・!)
天紀「ちなみに姉ちゃんの件は 今夜カタつける予定だから お前も一緒に来い」
こひな「え・・・」
こひな「あたしもですかぁ?」
天紀「なんか言いてぇことあるから あんな姑息なマネしてたんだろ」
天紀「死ねだのブスだのじゃなくて ちゃんと言葉にして伝えたら? 小学生じゃねぇんだから」
こひな「・・・」
里紗(──なんか・・・)
  思わぬ方向に話がすすむ。
  不安そうなこひなが心配だったけれど
  部外者の私が口をはさめるわけもなく──
  こわばってしまったこひなの肩を
  撫でるくらいしかできなかった。

コメント

  • この回でストーリーが複雑化してぐっと重厚感が増してきましたね!各人の思惑なども見え隠れして、読んでいてワクワクしてきます。

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