第六話(脚本)
〇病室
呉「じゃあ俺、帰るな」
茜を病室に送り届けて、
茜「うん。また、明日」
そう言って、手を振る。
〇近未来施設の廊下
まだ、明日はある。
別れるときは、いつも何とも言えない
雰囲気だ。
二人ともわかっているからだろう。
この時が続くのは、あと少しだと。
呉(いや、前向き、前向きだ)
すぐ後ろを向こうとする自分を
奮い立たせながら、早足で歩く。
〇大学病院
建物の外に出た瞬間、ぽつり、と雫が
頭に当たった。
〇大学病院
呉「・・・雨」
数週間ぶりの、雨だった。
〇空
それからというもの、時折雨が降るように
なった。
少し降っては、すぐに止むような
雨ばかりだけれど。
不思議なことに、雨が降っても空に雨雲は
浮かんでいなかった。
茜色が隠されることはない。
少し、安心する。
そして、茜の病状は・・・
医師の言った通り、
日に日に悪くなっていた。
それでも、ベッドから起き上がることは
できて、・・・今では、病院の屋上が
俺たちの定位置になっていた。
ふたりでただボーッとしたり、
他愛もない話をしたり。
こんな日が何日か続いていた。でも、
残り少ない時間を棒に振っているとは
思わなかった。有意義だとさえ思った。
気づけばもう、世界が終わる、
最後の夜になっていた。
〇フェンスに囲われた屋上
夜と言っても、空は暗くならない。
すっかり俺たちの「いつも通り」に
なった茜色の屋上で、俺と茜は
夜を明かすことにした。
茜「わがまま聞いてくれてありがと」
呉「いや」
俺も、茜とできるだけ長く一緒に
居たかったし。・・・というのは、
口には出せないけれど。
茜「・・・ねえ呉、どうして今、空が 茜色なのかわかる?」
不意に、茜が───あの日、
俺がした質問を投げかけてきた。
呉「俺が、茜には茜色が似合うって 言ったから・・・だっけ」
茜「うん・・・」
茜「・・・呉が覚えてないかもしれないくらい、 本当にちょっとしたことなんだけど」
茜「私ね、好きな色がなかったの」
茜「おえかきで使うクレヨンとか、服とかもね、 お気に入りの色がなくって」
茜「ある日、工作の時間に」
茜「先生が好きな色の紙を選んで、って言った」
茜「私は選べなかった」
茜「他のみんなは、すぐに選んでた。 適当に選んでも良かったのかもしれない。 でも、それすらもできなくて」
茜「悩んでたら、呉が教えてくれた」
くれ「だったら、自分に似合う色を選べばいいよ」
あかね「そんなのわかんないよ」
くれ「じゃあ、おれが教えてあげる」
〇フェンスに囲われた屋上
呉「・・・茜には、茜色が似合う」
覚えてる。
確かに俺が、そう言ったんだ。
呉「覚えてるよ」
茜「ほんと? 嬉しいな」
茜「だからね、きっと、この空の色は・・・」
茜の顔を見て、驚く。
茜「呉が、私には茜色が似合うって・・・ 言ってくれたから・・・」
茜は、笑いながら泣いていた。
狼狽える俺を、茜は大丈夫、となだめる。
茜「あれ、なんで・・・ ・・・ふふ、おかしいね・・・」
涙を拭っても、端からぼろぼろと
こぼれ落ちてしまう。
そんな茜を、
今まで過ごしてきた中で、一番綺麗だ、
と思った。
呉((・・・恥ずかし・・・・・・))
自分の感情ながら、さすがに
恥ずかしすぎる。彼女を直視できないのと、
赤らむ顔を見せたくなくて、目を逸らす。
すると、ぽつ、と鼻の頭に水滴が当たった。
〇フェンスに囲われた屋上
また、雨か。
茜を連れて、庇の下へと移動する。
茜「・・・あーあ、しまったなあ」
茜「泣くつもりじゃなかったんだけど」
茜「ふたりで前向きって言ったのにね。 ときどき、こうやって泣いちゃうんだ」
茜「・・・たぶんね、 呉を守れなかったからだと思う」
・・・・・・
呉「・・・・・・え?」
〇フェンスに囲われた屋上
茜「私ね、呉と、呉の居るこの世界を 守りたかった。 ・・・でも、できなかった。 ・・・・・・守ってあげられなかった」
呉「茜・・・?」
茜「力不足でごめんね」
茜を見る。ひとつの考えが頭をよぎる。
散らばる点を、ひとつの線で繋いで・・・
美しい弧を描くような、そんな感覚。
病状。雨。・・・この、茜色。
呉「茜・・・、茜は─────」
茜「そうだよ」
茜「私は、世界なんだ」
衝撃の事実が!
そして呉の優しさに泣く
茜ちゃんが世界そのもの……!?
病の原因や天候も彼女とリンクしていたというのか……。