消えゆく世界の茜色

しがん

第七話〈終〉(脚本)

消えゆく世界の茜色

しがん

今すぐ読む

消えゆく世界の茜色
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇フェンスに囲われた屋上
茜「私は、世界なんだ」
呉「・・・・・・」
茜「・・・と言っても、私もよく わからないんだけどね。 でも、私と世界は、連動してる」
  今更気づいたんだ。俺も、・・・茜も。
茜「だから、世界が終わるときに、私も・・・」
呉「茜!!」
  大声を出して、茜の言葉を遮った。
  茜が小さく、ごめん、と呟いた。
呉「前向き、だろ?」
  言葉とは裏腹に、声が震えてしまった。
  情けない。こんなときぐらい、
  強くありたいのに。
  けれど、茜は、
茜「・・・そうだ、前向き、だっ」
  俺の言葉に答えるために、口の端を指で
  持ち上げて、強引に笑ってみせた。
呉「・・・変な顔」
茜「あ、言ったな!」
  少し間があったあと、ふっと、二人で同時に
  吹き出す。
  ひとしきり笑ったあと、
茜「あーあ、私ってなんなんだろ」
  茜は、そうこぼした。
  ・・・俺は、今の素直な気持ちを
  伝えることにした。
呉「茜は、茜だよ」
茜「・・・私は、私・・・」
呉「茜が、何であるかなんて関係ない。 それで今まで過ごした時間が 嘘になるわけじゃないし、」
呉「俺が、茜を好きだってことも変わらない」
  ・・・言えた。
  茜はというと、
  耳まで真っ赤になっていた。
茜「え、えっと・・・今なんて・・・」
呉「二回も言えない」
  ヤバい。時間差で、こっちも顔が
  火照ってきた。
茜「え、え・・・も、もしかして・・・ 好きって、言ってくれた・・・?」
呉「・・・言いました・・・」
茜「う、嬉しい」
茜「嬉しい・・・」
茜「私も、呉のこと好きだよ!」
呉「・・・茹でダコ」
茜「くっ・・・呉もでしょ!」
  素直になれよ、自分。

〇フェンスに囲われた屋上
茜「ほんとは、なんとなくそうじゃないかと 思ってたんだ」
呉「そうって?」
茜「だ、だから・・・」
  むむむむ、と言い淀んでから、
茜「呉が、私を好きなんじゃないかなってこと」
茜「・・・もーこれだいぶ恥ずかしいやつ じゃん!」
茜「自意識過剰かもしれないじゃん! 呉は何も 言わないし! でも私ばっか好きだし!」
  手足をバタバタとさせて、支離滅裂なことを
  言う。
  そんな様子を微笑ましく思いながら、
呉「俺も、そうじゃないかと思うときがあった」
  茜が、「え゛」と濁った声を出した。
  また赤くなってる。
呉「・・・でも、気づかないようにしてた」
呉「本当は言うつもりなかったんだ。 茜は、雲の上の存在だと思ってたし」
呉「でも、やっぱりひとりの女の子なんだよ」
  二人で前向き、と決めたあの日。
  俺が帰ったあと、茜は泣いていたんだろう。
  記憶の中の茜はいつだって笑顔だけれど、
  実際はそうじゃない。
  ・・・ただの、ひとりの・・・・・・女の子なんだ。
茜「でも私、世界だよ?」
  なんだその言い方。少し笑ってしまった
  けれど、俺は話を続けた。
呉「関係ないって言っただろ」
茜「・・・うん」
呉「それに、俺にとっての世界は茜だったよ。 最初から」
  茜が首を傾げた。
呉「茜がいなかったら、俺は自分の中に 閉じこもってたと思うから」
  だから、世界は茜そのもの。
  何も間違っていない。
茜「・・・私も、私の色を呉に教えてもらった とき。世界が開けた気がした」
  意外な言葉だった。茜も、俺をそう
  思ってくれた瞬間があったなんて。
茜「お互い様だね!」
  こくりと、頷いた。
茜「・・・夜が明けるよ」
  空の色は変わらないけれど、
  茜にはわかっているみたいだった。
  ・・・終わりが、近づいていることが。

〇フェンスに囲われた屋上
茜「そういえばさ、呉のやりたいことって、 なんだったの?」
  ふと、茜がそう聞いてきた。
  ・・・そんな話をしてたな。最後の日に
  言うと。
茜「私、それを叶えてあげたかった んだけど・・・呉が教えてくれなかった」
呉「・・・俺のやりたいことは」
呉「この世界で、茜ともっと一緒に居たかった」
茜「それは、もう・・・ 叶えてあげられないよ・・・・・・」
呉「十分叶えてもらった」
茜「・・・ずるいよ・・・」
  また泣きそうになる茜の頭を、
  優しく撫でる。
呉「俺は、今ちゃんと幸せだから。 ・・・だから、大丈夫だ」
呉「それに、約束、したから」
茜「・・・うん・・・」
  何度も、何度も頷く。
  そして、何かに気づいたように空を見上げ、
  指差した。
茜「もうすぐ・・・」
  空が、

〇空
  いや、「茜色」が、近づいてくる。
  それに飲み込まれるのだ。俺たちは。
  世界は、本当に、終わるのだ。
  隣に居る茜の息が、苦しそうに
  荒くなったのが聞こえた。支えようと
  したけれど、茜はその場に座り込む。
茜「呉、約束」
呉「ああ」
茜「約束、守りたいね」
呉「・・・ああ」
茜「ううん、絶対守ろう」
呉「もちろんだ」
  もう一度二人で、小指を絡める。
  ・・・茜は、笑っていた。
  泣きながら、笑っていた。
  俺が一番美しいと思う茜が、そこに居た。
  さよなら、世界。
  さよなら、
  ・・・・・・茜。
  「「また、どこかで」」

コメント

  • 完結おめでとうございます。
    最後まで一緒なのは良かった。でも世界が終わると考えると……やり切れないなぁ。

  • 最後は2人で一緒にいられて良かったけど切ない。
    世界の終わりの美しいラブストーリーでした😭

ページTOPへ