さぁ、どうする?(脚本)
〇実家の居間
天音の悲鳴を聞きつけ、
氷見は居間に駆けつけた。
氷見 怜士「天音!」
西園寺 天音「氷見さん・・・」
氷見 怜士「大丈夫か!? 一体何が──」
氷見は視界に飛び込んできた光景に思わず
言葉を飲み込んだ。
男「はぐ、はぐ、はぐ・・・」
倒したはずの男が、満面の笑みを浮かべて
ハンバーグを食べている。
氷見 怜士「・・・」
西園寺 天音「下に降りてきたらこの人がいて・・・ 氷見さんのハンバーグ食べちゃってて」
氷見 怜士(あの攻撃を受けたら普通の人間は数時間── いや数日は動けないはずなのに・・・ コイツ、メシまで食ってやがる)
男「ママ、ハンバーグおかわり!」
西園寺 天音「ええっ? ママって・・・私?」
男「ママはママでしょ?」
氷見 怜士「はぁ・・・ 何かおかしなことになってんな」
男「んー、これ重いからポイッ」
男は腰に帯びた拳銃をそっと床に置いた。
氷見 怜士「・・・」
男「パパも一緒に食べよー!」
氷見 怜士「は? パパ?」
西園寺 天音「私がママで、氷見さんがパパ・・・」
西園寺 天音「困ったわね・・・どうしよう」
氷見 怜士「どうもしないだろ。 コイツが勝手に勘違いしてるだけなんだから」
西園寺 天音「そんなハッキリ否定しなくても 分かってるわよ・・・」
氷見 怜士「だいたい、コイツは天音の写真を持ってたんだぞ? 西園寺家の息がかかってるに違いない」
西園寺 天音「・・・!」
男「・・・」
男「どしたのー?」
西園寺 天音「そんな風には見えないけど・・・」
氷見 怜士「俺の攻撃であんなことになってるけど、 いつ正気に戻るか分からないぞ」
氷見 怜士「・・・しょうがないな」
氷見は男の腕を掴んだ。
男「パパ?」
氷見 怜士「・・・ちょっと、ドライブしようか」
〇外国の田舎町
氷見は男を車に乗せ、山道へ向かった。
男「パパとドライブ楽しいなー」
氷見 怜士「・・・もういいぜ、それ」
男「・・・」
男「なんだよ、気付いてたのか。 いつからだ?」
氷見 怜士「アンタが拳銃を床に置いたときだな」
〇実家の居間
男「んー、これ重いからポイッ」
〇外国の田舎町
氷見 怜士「ポイッ、なんて言うわりに丁寧に扱ってた からな」
男「さすがに放り投げる訳にはいかねぇだろ」
氷見 怜士「・・・俺の攻撃を受けてすぐ動いたの、 アンタが初めてだった」
男「そりゃどうも。 頑丈に産んでくれた母ちゃんに感謝だな」
男「で、どうする? オレを殺すのか? どんどん山に向かってるけど」
氷見 怜士「殺しはやらない。 また眠らせて、山に捨てるだけだ」
男「おいおい、俺は山姥じゃねぇんだからよ。 また目覚めて降りてきちまうぜ?」
氷見 怜士「なら、更に深く刺すまでだ」
男「へえ?」
男は胸元からカッターを取り出し、
氷見の横顔にチラつかせた。
男「へへ、実はこんなの持ってたりして」
氷見 怜士「遅い」
男「は? 何が──」
男は息を呑んだ。
鈍く光るものが自身の脇腹に向けられているのが見えたからだ。
男(いつの間に・・・! さっきまで左手はシフトレバーにあったはず なのに)
氷見 怜士「針の代わりに小刀、使ってやろうか?」
男「・・・・・・」
男「やっぱやめた」
男はカッターを後部座席に投げ捨てた。
氷見 怜士「・・・?」
男「っつーかよぉ、俺はハナからお前をどうこうするつもりはねぇんだ」
氷見 怜士「どういう意味だよ」
男「そんなの、氷見怜士の刺青に惚れてるからに 決まってんだろ」
氷見 怜士「・・・は?」
男「ま、信じられないだろうな。 でも本当だぜ?」
男「だいたい、お前が目的ならわざわざ彫られに 行くかよ」
氷見 怜士「それは、まぁ・・・」
男「ま、俺の彫りモン頼んでた相手が 写真の嬢ちゃんの関係者だってのは すごい偶然だけどな」
男「そうそう、あとはあのお嬢ちゃんもな」
氷見 怜士「天音?」
男「俺は下っ端だし、お偉いさん方がなんでお嬢ちゃんを狙ってんのか分からねぇけど・・・」
男「惚れてる男から女を引き離すのは違ぇって ことは分かるからよ」
氷見 怜士「・・・・・・」
氷見 怜士「どういう意味だ?」
男「全く・・・お嬢ちゃんに同情するぜ」
氷見 怜士「ところで・・・ アンタ、これからどうするんだ?」
男「俺か? さぁ、どうするかねぇ・・・」
氷見 怜士「なら、俺に考えがあるんだけど」
男「え?」
〇実家の居間
西園寺 天音(氷見さん、遅いなぁ。 大丈夫なのかな・・・)
氷見 怜士「ただいま」
西園寺 天音「氷見さん! 良かった、無事で・・・」
氷見 怜士「悪い、ちょっとな」
西園寺 天音「それで・・・あの人は?」
氷見 怜士「あれ? アイツ、何してんだ?」
氷見 怜士「おーい、早く入ってこいよ」
???「お、おう・・・」
氷見に呼び込まれ、
部屋に入ってきたのは──
西園寺 天音「あっ・・・」
男「なんで俺がこんな格好を・・・」
氷見 怜士「だって、いつまでも警察の格好じゃ 落ち着かないし」
男「だからってなんでコレなんだよ・・・ 他にあるだろ・・・」
西園寺 天音「待って、状況が全く分からないんだけど」
氷見 怜士「あー、メシ食ってからな」
氷見 怜士「おい、天音にちゃんと自己紹介しろよ」
篠野 大助「あー・・・俺、篠野大助っつーんだ。 嬢ちゃん、よろしくな」
西園寺 天音「よ、よろしくお願いします・・・?」
氷見たちがそんなやりとりをしていた頃──
西園寺では天音の行方をめぐり、
不穏な空気が漂っていた。
〇貴族の応接間
???「まだ天音の行方は分からんのか!!!!!!!!!!」
平瀬「だ、だんなさま・・・ そう大声を出されますとお身体に障ります」
西園寺 禮「あんな小娘ひとり捕まえて来れんとは・・・ 全く、この国の警察は無能だな」
平瀬「はぁ、全くですねえ」
西園寺 禮「ところで、密はどこへ行った? またフラフラと遊び回っているのか?」
???「ちょっとー、聞こえてるんだけど」
西園寺 禮「密・・・」
西園寺 密「そのフラフラ遊び回ってる息子ちゃんが、 親父殿にいいネタ持ってきましたよっと」
密が取り出したノートパソコンの画面には、
地図が表示されている。
西園寺 禮「? なんだ、これは」
西園寺 密「まぁ見ててよ」
西園寺 密「親父殿は警察を無能だって言うけど・・・」
西園寺 密「要は”使い方”だと思うんだよね」
密がエンターキーを押すと、地図上に赤いピンが立てられた。
西園寺 密「たぶん天音、ココにいるよ」