流し屋

敵当人間

母親が失踪した女性の話(脚本)

流し屋

敵当人間

今すぐ読む

流し屋
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇田舎町の駅舎
「今日の予報は、20時から雨、か」
娘「あのっ──!!」
「はい」
「どちら様でしょうか?」
娘「申し遅れました」
娘「私、鬼形 真理と申します・・・」
「”おにがた”さん、珍しい苗字ですね」
娘「はい、よく言われます」
「まぁ、立ち話もなんですから、どうぞ・・・」
娘「ありがとうございます」
「それで、いかがされましたか?」
娘「・・・」
娘「実は、母が行方を眩ませてしまって・・・」
「・・・なるほど」
娘「この手紙を書き残していたんです」
  真理へ
  この手紙を読んでいるということは、
  きっと、施設の人から電話があった
  のではないでしょうか?
  ごめんなさいね。
  実はお母さんは、お父さんの面倒を
  みることに疲れ果ててしまいました。
  貴方のお母さんとして振る舞うと
  いうことにも・・・。
  母親失格ですね。
  でもね、真理・・・。
  振り返って考えてみても、
  お母さんにとって貴方の母親として
  生きてきたことや、
  お父さんの妻として生きてきたことが
  幸せだったとは思えないの・・・。
  真理はこんなお母さんが母親で
  幸せでしたか?
  お母さんが母親として認められないから
  優しく扱ってくれなかったんでしょう?
  貴方はれっきとしたお父さんの子です。
  私の様に逃げ出さず、お父さんの
  面倒を看てあげてください。
  警察に捜索願を出すだろうとも思い、
  先に捜索願不受理届を提出させて
  いただきました。
  お母さんは本気です。
  本当に貴方達二人に失望しています。
  お願いですから探さないでください。
  漸く自分の人生を楽しむところなの。
  どうしてもお母さんのことが
  諦めきれないのなら”流し屋”さんの
  ところに行って話を聞いてもらいなさい。
  きっと、真理にとっても悪いことは
  ないでしょう。
  母より
「こ・・・」
「これは、これは・・・」
娘「・・・」
「なかなか強気なお母様ですね・・・」
娘「感想は良いですから」
娘「母がどこに行ったのか知りませんか?」
「・・・」
娘「はぐらかすのは止してくださいね」
娘「こっちは生活が掛かってるんですから」
「と言うと?」
娘「当たり前でしょう?」
娘「毎日、毎日仕事をして」
娘「自分の生活のことに加えて」
娘「どうして父の面倒まで看なくちゃならないんですか?」
娘「自分の生活を熟すだけでいっぱいいっぱいなのに」
娘「結婚した夫婦であり、番である母が面倒を看るのが普通じゃないですか!?」
「なるほど」
「真理さんは、そう思っていらっしゃるんですね」
娘「そうですよ!」
娘「だから、結婚なんて馬鹿馬鹿しいこと、誰もやりたがらないんですよ」
「馬鹿馬鹿しい、ですか」
娘「貴方も結婚なさっているのに、ごめんなさい」
娘「・・・」
娘「でも、幸せな家庭で育てば、結婚に対して夢でも見るんでしょうけど」
娘「・・・私の家はそうじゃなかったから」
「どんなご家庭で育ったんですか?」
娘「・・・」
娘「男が横暴に振る舞い、女が虐げられる」
娘「その男尊女卑をまざまざと見せつけられる家でした」
娘「母は、私が”離婚すれば?”と伝えても頑なに拒否するもので」
娘「なんだかんだ父親のことが好きだと思っていたんです」
娘「それが、蓋を開けてみれば、ネグレクトが始まり、」
娘「このままじゃ、母が父を殺してしまう・・・」
娘「そう思って、市役所の人に相談して施設に入所させたんです」
娘「・・・」
娘「でも、この手紙を読んで、」
娘「・・・」
娘「母が・・・」
娘「・・・」
娘「私の母親であったことに幸せを感じなかった、という文章を見て・・・」
娘「どこで間違ってしまったんだろう、と・・・」
「・・・」
「どうぞ」
娘「ありがとう、ございます」
「・・・どこで間違ってしまったんでしょうね」
娘「分かりません」
娘「悔しいです」
娘「悔しくて口惜しくて堪りません」
娘「どうしてこんな不幸ばかり、私に降りかかるんでしょうか?」
「本当ですね」
娘「どうして毎日頑張って、普通に生きているだけなのに」
娘「こんなことって・・・」
「真理さん」
娘「はい?」
「お母様とこんな話をしたことがありますか?」
娘「こんな、とは?」
「”毎日普通に生きているだけなのに辛い”という話ですよ」
娘「・・・」
娘「いいえ」
「お母様も辛かったと思いますよ」
「それでも必死に生きるしかなかったんです」
娘「・・・どうしてですか?」
「・・・」
「僕が答えるのは、お門違いでしょうが・・・」
「貴方が居たからではないですか?」
娘「私が?」
「真理さん、時に、」
「報われない努力を虐げられたら、どう思いますか?」
娘「・・・」
娘「辛い、です」
「そうですよね」
「僕も辛いです」
「では、努力が続けられるのは、どんな時ですか?」
娘「・・・」
娘「希望がある時、でしょうか?」
「そうでしょうね」
娘「・・・」
「真理さん」
「今、お仕事もされて、お父様の介護もされて」
「本当にお辛いですよね」
「でも、その辛さを、貴方のお母様はもっとずっと長いこと味わってきた筈です」
「貴方が一人で生きていけるように」
「その希望だけを抱いて」
娘「・・・」
「お父様の洗濯物がきついなら、リースの着替えもあるでしょう」
「お見舞いの頻度が多いと感じるのであれば、少し減らしたって良いでしょう」
「けれど、貴方が辛い、苦しいと思うことは」
「貴方の、例えお母様であっても辛くて苦しいんです」
「逃げ出したくもなるんです」
「その考えを、他人に」
「ましてや大切だと思ってきた家族に否定されたなら」
「どれだけ心苦しいことでしょうか?」
娘「・・・」
「こんなにベラベラと小言を言うのは”流し屋”として失格ですが」
「今回ばかりは、真理さんが水に流していただければと思います」
娘「・・・いいえ」
娘「寧ろ、はっきり言ってもらえて良かったです」
娘「私、母に甘え過ぎていました」
娘「・・・社会人失格ですね」
「そんなことはありません」
「社会人合格の人なんて、見たことありませんから」
娘「ふふっ」
娘「確かに、そうですよね」
ヤングケアラー「あれ?流し屋さん、女の人泣かせてるの?」
不良の男子高校生「マジかよ、流し屋」
不良の男子高校生「やってんな」
娘「えっと、あの・・・」
流し屋「二人とも、受験勉強は進んでるの?」
ヤングケアラー「当たり前でしょ?」
ヤングケアラー「流し屋さんから貰ったお金を無駄には出来ないよ」
不良の男子高校生「おねーさん、困った時はマジで頼ったら良いぜ」
娘「あの、一体どういう、ことでしょうか?」
流し屋「まぁ、せっかくですから、僕よりも介護に詳しい彼に相談するのもアリかもしれませんね」
流し屋「なんでも、仕事と介護の両立が大変らしいんですよ」
ヤングケアラー「お姉さん、誰か介護してるんですか?」
娘「は、はい・・・」
娘「父が施設で入所してまして・・・」
ヤングケアラー「施設ってどんなとこですか?」
娘「えっと、有料老人ホームです・・・」
ヤングケアラー「すごーい、お金持ちなんですねー!」
娘「いえ、そこならすぐに入所させてくれるということだったので・・・」
ヤングケアラー「まぁでも有料なら、お金はかかるけど、サービスの併用が出来るはずですよ?」
ヤングケアラー「入所出来たってことは、要介護3あるんですよね?」
娘「はい、確か・・・」
ヤングケアラー「だったら、週に1回ヘルパーさんを付けたとして、3割負担でも600円ぐらいの支払いなので」
ヤングケアラー「ヘルパーさんを付けちゃえば良いと思います」
不良の男子高校生「おぉー、本物のケアマネジャーみたいだぜー?」
ヤングケアラー「からかうのはよせよ」
不良の男子高校生「で、お姉さん、解決しました?」
娘「は、はい、凄く分かりやすかったです」
娘「ありがとうございます」
不良の男子高校生「そしたら、そろそろ俺たちの番と行きますか」
娘「あ、そうですよね・・・」
ヤングケアラー「良かったらお姉さんも聞いていけば良いですよ」
娘「え?」
不良の男子高校生「おう、別に減るもんじゃねーし」
娘「そ、そうですか?」
ヤングケアラー「もちろん」
流し屋「こんなに大勢の方を相手するのは初めてですね」
流し屋「お手柔らかにお願いいたします」

次のエピソード:流し屋の男性の話

コメント

  • ここで1つ、お話が回収されるんですね。
    しかも、無関係に思えたキャラクターたちが、コミュニケーションを取るという展開に胸熱です。

成分キーワード

ページTOPへ