エピソード4(脚本)
〇古いアパート
藤堂法子「すみません。こちらにお住まいの方ですか?」
大家「ええ、大家です」
〇黒
昼のワイドショー、夕方のワイドニュース、夜の報道番組。
本日で3回目になる映像がテレビの中では繰り返されていた。
〇宇宙船の部屋
月夜野が仮眠室を後にした後、仕切は昼下がりから夕方を通り過ぎて、
23時近くまで寝ていたようだった。
仕切秀人「あぁ、よく寝たー」
仕切は1人きりになり、ベッドから立ち上がる。
昨日は闇堕ち病の治療薬を精製すべくデータをとっているところだった。
〇古生物の研究室
だが、思うような成果はなく、
〇古生物の研究室
いたずらに時間が過ぎている。
それが現状であり、実状であった。
〇屋上の隅
仕切秀人「はぁ、空気が美味い。って、ガスや二酸化炭素まみれの空気なんだろうけど・・・・・・」
仕切は屋上に行くと、空気を吸う。
そして、もう既に7、8時間も飲まず食わずだったことを思い出した。
仕切秀人「ただベッドで寝てても、腹は減るんだよな・・・・・・」
仕切秀人「確か、月夜野君の作ったソースとパスタがまだ残ってた気がする」
月夜野が持ってきた焼きそばや卵サンドもあった筈だが、
冷蔵庫やサイドテーブルを見る限りは見当たらず、
おそらく同じ指定医の木倉(きくら)辺りが食べてしまったのだろう。
〇宇宙船の部屋
木倉「おっ、良いもん発見!!」
〇屋上の隅
仕切秀人「いくら美味しくても、昼間と同じものを食べるのはな」
ただ、研究室のある病院の中にあるコンビニはとっくに閉まっている。
研究室のある病院の外にあるコンビニに行くのは・・・・・・めんどくさかった。
〇宇宙船の部屋
仕切秀人「パスタを茹でて、ソースはレンチンしてっと!!」
仕切は洗髪のされていない頭をぼりぼりと掻いて、パスタを茹でる鍋を出す。
月夜野が耐熱皿に移してくれていたソースを温める。
仮眠室には電子レンジのオレンジの光、次第に充満してくるバターの香り、
それとテレビの
〇テレビスタジオ
「以上で、中継を終わります」
アナウンサー「藤堂さん、ありがとうございました。闇堕ち病はどこまで拡大するのでしょうか」
アナウンサー「それでは、皆さん。また明日」
♪〜
〇宇宙船の部屋
報道番組の落ち着いた曲とキャスターの声が合わさっていく。
仕切秀人「♪〜」
仕切は鼻歌を歌うと、家出して戻らない妻・美弥子のことを想った。
〇綺麗なダイニング
「藤堂さん、ありがとうございました。闇堕ち病はどこまで拡大するのでしょうか」
「それでは、皆さん。また明日」
夜の報道番組の落ち着いた曲が流れて、テレビ局が用意したトピックスが全て終わる。
仕切が美弥子のことを考えていた頃、
美弥子は夕方、仕事に出掛けていった矢口のことを考えていた。
〇きのこ料理の店
矢口真依「落合さんって言われるんですか? 私は矢口真依です。よろしくお願いしますね」
整形を疑うような美しく長い鼻に、CGと見紛うような美しく長い脚。
目が大きく、少しキツめに映るが、それすらも彼女を美人に見せている気がする。
〇広い玄関
だから、そのキツめの大きな目を心配そうに細められると、美弥子はドキドキした。
矢口真依「美弥子さん? 美弥子さんっ!!」
〇部屋のベッド
仕切美弥子「矢口さん、ごめんなさい」
仕切美弥子「体調が悪くて、病院に行こうとしたら、急に動けなくなって・・・・・・助かりました」
矢口真依「いえ、たまたま良い椎茸が入ったから、お裾分けしますよって連絡があって家に行ったら」
矢口真依「美弥子さんが倒れていたんですから。起き上がれそうですか?」
仕切美弥子「ええ、大丈夫です」
矢口真依「・・・・・・」
矢口真依「あ、どうかなと思ったんですけど、キッチンをお借りして、お粥も作ってみました」
矢口真依「もし、食べられそうなら食べてくださいね」
仕切美弥子「ありがとう・・・・・・ございます・・・・・・」
矢口真依「・・・・・・。それにしても、仕切・・・・・・さんって」
矢口真依「いつもそうだったんですか?」
矢口真依「その、真夜中に職場に迎えに来て、とか、食事の予定を急に変えたり、とか」
仕切美弥子「・・・・・・えぇ、まぁ・・・・・・」
仕切美弥子「でも、私が悪いんだと思います。私が、バカだったというか・・・・・・」
仕切美弥子「男性を見る目、ゼロですね・・・・・・私」
矢口真依「そんな! 美弥子さんはバカでも見る目がゼロでもないです」
矢口真依「悪いのは男というか、男運だけですって!」
矢口が美弥子を擁護すると、美弥子は力なく笑う。
病院で施してもらった点滴が効いたのか、少し症状が落ち着いたように見えたが、
まだ回復したとは言えない。
数時間前までは水さえも身体が受けつけず、自力では車の運転や
食事の用意もできなかったのだ。
矢口真依「って、私こそバカなこと、言ってますよね」
仕切美弥子「いえ・・・・・・矢口さんは素敵な人です」
仕切美弥子「気配りも料理もできるし、おまけに美人さんだし、皆さんにも好かれてて・・・・・・」
仕切美弥子「大学もあの人と同じで、鶴田ゼミの学生さんだったんでしょう」
仕切美弥子「きっと私なんかとは違う、非の打ち所がない人生ですよね」
矢口真依「・・・・・・」
一瞬、矢口の笑顔が引き攣る。それはある男を思い出したから・・・・・・。
〇黒
〇部屋のベッド
矢口真依「あの、美弥子さんが体調が悪い時に言うべきじゃないって思ってたんですけど」
矢口真依「私、同好会で美弥子さんに初めて会った時からもっと仲良くなれればと思っていたんです」
矢口真依「それに、今なら男運が悪い美弥子さんの女運はお約束しますよ」
仕切美弥子「えーと・・・・・・それは、つまり・・・・・・?」
戸惑いを見せる美弥子に、矢口は今までも数々の男性達を虜にしてきたのだろう
笑顔で告げた。
矢口真依「仕切さんと結婚されると聞いてからも美弥子さんが好きでした」
〇部屋のベッド
矢口真依「あんな男に、美弥子さんはふさわしくない」
矢口は美弥子に手を差し出すと、美弥子は迷いながらも矢口の手をとった。
〇広い玄関
後日、美弥子は体調が回復すると、仕切家を出た。
仕切美弥子「・・・・・・」
〇マンション前の大通り
美弥子はマンション通りを歩いて、
矢口が住んでいるというマンションの近くまでやってくる。
すると、雨が降っているにも関わらず、
前もって連絡をしていた矢口が美弥子を待っていてくれた。
矢口真依「美弥さん!!」
連絡くれたら、迎えに行ったのに。と矢口が言うと、
仕切美弥子「ううん、教えてくれた真依ちゃんのおうち、意外と近くだったし、早く来たかったから」
あの家にはいたくない。と暗に言っているのか、美弥子の顔は少し下を向いていた。
矢口真依「美弥さん・・・・・・」
仕切美弥子「それより、真依ちゃんが濡れちゃうよ。家で待っててくれたら良かったのに」
矢口真依「ふふっ、ありがとう。美弥さん。じゃあ、早く私のマンションへ行きましょうか」
〇綺麗なダイニング
仕切美弥子「お邪魔します」
矢口真依「はい、どうぞ」
矢口の住むマンションは最近できたばかりで、エントランスから綺麗で立派だったが、
部屋の中も落ち着いた色味で統一されていて、立派なアイランドキッチンがあった。
仕切美弥子「素敵なお部屋だね」
仕切美弥子「それに、良い香りがする・・・・・・」
矢口真依「ふふ、アロマオイルの香りかな。今日は雨で少し気が滅入りそうだったから」
矢口真依「ああ、そうそう。美弥さんは梨、苦手じゃない?」
仕切美弥子「ううん、大好きだよ。きのこもだけど、秋のものって美味しいよね」
矢口真依「確かに。今日はお休みで梨のタルトを作ってたんだけど、良かった。すぐに切るね」
矢口真依「お茶も淹れるからそこのソファにでも座ってて」
仕切美弥子「はーい」
それから、程なくして、矢口が美弥子へ梨のタルトと紅茶を持ってくると、
美弥子と矢口はお茶を飲んだり、互いの話を聞いたりした。
だが、矢口が発した一言で、美弥子は聞き役
に回る。
仕切美弥子「闇堕ち病?」
闇堕ち病という社会全体に関わるテーマと、きのこ同好会の中という小さなコミュニティ内の人間ドラマ、この2つが並行して進むのかと思いきや、なんだか交わりそうな気配ですね!