闇堕ち-きのこパスタは誰が作ったのか-

きせき

エピソード2(脚本)

闇堕ち-きのこパスタは誰が作ったのか-

きせき

今すぐ読む

闇堕ち-きのこパスタは誰が作ったのか-
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇宇宙船の部屋
仕切秀人「君もなかなか恐いことを言うね。黙っていれば、可愛いのに」
月夜野健「可愛いって・・・・・・」
月夜野健「まぁ、でも、今や19世紀とかでもないんですよ?」

〇外国の駅のホーム
月夜野健「二重人格、多重人格なんてある意味、自覚があるか。ないか」
月夜野健「実害があるか。ないか。そんな違いだけで病気でもなんでもないことなのかも知れない」

〇雑踏
月夜野健「誰にだって人には明かせない人格とかあるんじゃないですか?」

〇雑踏

〇宇宙船の部屋
  月夜野はインスタント珈琲を淹れる。
  仕切の粉増し増し珈琲ではなく、ティースプーンで1杯の薄めのアメリカン珈琲。
月夜野健「はぁ、なんとか飲めます」
仕切秀人「おいおい、それじゃあ、君は私の淹れた珈琲は飲めないというのかね?」
月夜野健「私ってなんですか? そんなキャラじゃないくせに。しかも」
仕切秀人「しかも、君に淹れたことはない訳だけど?」

〇黒
仕切秀人「この繊細かつ大胆な味は」

〇宇宙空間
「凡人には理解できないのだよ!!」

〇宇宙船の部屋
仕切秀人「・・・・・・(ドヤっ!!)」
月夜野健「・・・・・・(はぁ〜)」
  満足そうな仕切に、呆れ顔の月夜野。
  すると、仕切は満足しきったのか、仮眠用のベッドにごろんと横になった。
月夜野健「家に戻られたら、どうですか? 最近、先生、働きづめですし・・・・・・」
  僕が車で送りますので、と月夜野は続けるが、仕切の脳は既に眠ったような状態で、
  会話が意味を成さない。
仕切秀人「ありがとう。じゃあ、家に帰るー」
  いや、言葉そのものはそこまでおかしくないのに、仕切は靴を脱ぎ、靴下も脱ぐ。
  昨日から履かれて汗でよれてしまった靴下は畳まれ・・・・・・はしなかったものの、
  枕元に仲良く並べるように置いた。
仕切秀人「うん、これで良しっ!!」
  暫くすると、仕切の寝息が聞こえる。細身ながら上背のある仕切の体格を考えると、
  ややベッドは小さくて、寝返りを打った瞬間に枕が動いて、靴下の片方が床へと落ちた。
月夜野健「はぁ・・・・・・そんなに奥さんが出て行った家に帰るのは嫌なんですか?」
  月夜野は溜息を吐くと、仕切の体に掛け布団をかける。
  枕元に置かれた靴下と床に落ちてしまった靴下を手にとる。
月夜野健「この靴下は洗濯に回しますよ」
  代わりに洗いたての靴下をベッドサイドに置いて、仮眠室を出て行った。

〇駐車スペース
  月夜野が仕切を残し、仮眠室から出ると、晴れていた空が曇っていた。
月夜野健「(晴れてたら、何時頃か分かるけど・・・・・・)」
  おそらく16時前か、経っていても、16時半頃くらいだろうかと月夜野は思うが、
  日が落ちたように暗い。
月夜野健「(えーと、スマホは・・・・・・)」
  今日はたまたま腕時計の調子が悪かったこともあり、月夜野はスマートフォンを出す。
  すると、ちょうど『矢口真依』(やぐちまい)という名前が画面上に表示された。
月夜野健「はい、月夜野です」
  おそらく、電話の向こうの矢口も月夜野だと認識して電話をかけている筈なので、
  やや間抜けなやり取りだな、と月夜野は思ったが、もはや電話の対応というのは
  細胞か遺伝子か何かで決定されているのだろうかとも思う。
  だが、一見? そんな間抜けなやり取りにも例外はあった。

〇綺麗なダイニング
矢口真依「あ、やだ。月夜野君? ごめんね」
矢口真依「着信の履歴で電話をかけようとしたら」
矢口真依「月夜野君のところでタップしちゃってたみたいで・・・・・・」

〇駐車スペース
  電話の向こうの人間が月夜野だと認識していなかったという場合だ。
  それなら月夜野が名乗った理由も少なからずあるのかも知れない。
  月夜野はそんな風に考え直すと笑った。
月夜野健「いえいえ。お久し振りですね。そう言えば、以前、教えていただいたきのこのパスタ」
月夜野健「とっても美味しくて、日頃、お世話になっている人にも作ってあげたんですよ」
月夜野健「さすが、今、大注目の料理研究家さんですね」

〇綺麗なダイニング
矢口真依「ふふ、おだてても何も出さないけど、ありがとう」
矢口真依「月夜野君がお世話になっているその人も喜んでくれたかな?」

〇駐車スペース
月夜野健「ええ、あっという間にお皿が空になっていましたよ」
  矢口との会話では仕切に見せていた毒気は鳴りを潜めて、
  極めて爽やかな青年のものになる。
  声が久し振りに聞けて良かった、
  また共通の話題でもあるきのこ同好会でまた会えると良いね、と
  言葉を交わすと、月夜野は矢口との通話を終了した。
月夜野健「お世話になっている人か・・・・・・」
  月夜野は嘲るような、皮肉るような調子で呟くと、自身の車が停めてある方へ向かう。

〇雑踏
  闇堕ち病。
  まだマスコミには報じられていないが、その症状が出た人間に共通していたのは
  ある新種の毒きのこを食べた可能性が極めて高いらしい。

〇綺麗な一人部屋
  うっ・・・・・・

〇高級マンションの一室
  あぁ・・・・・・

〇古いアパートの部屋
  なんだ、これ・・・・・・

〇女の子の部屋
  く、苦し・・・・・・い・・・・・・

〇研究開発室
  それを突き止めたのは誰あろう、仕切秀人博士で、
  そして、その最初の罹患者になったのは30代の女性だったという。

〇広い玄関
仕切美弥子「・・・・・・」

〇駐車スペース
月夜野健「やっぱり、奥さんを追い出しただけじゃあ、僕の方へは振り向いてくれないですね」
  先程まで黒雲はどこへ行き、晴れ間が見えてくる。
  夕焼に照らされる中、月夜野は車に乗ると、エンジンをつけ、ハンドルを切る。

〇オープンカー
月夜野健「でも、いつかは忘れさせてあげますからね。先生・・・・・・いえ、秀人さん」

〇オープンカー

〇雑踏
月夜野健「先生の優秀さも、いい加減さも愛せるのは僕だけなのだから・・・・・・」

〇雑踏

〇空

〇空

〇空

〇マンション前の大通り

〇綺麗なダイニング
矢口真依「久し振りに月夜野君の声が聞けて良かった」

〇駐車スペース
月夜野健「ええ、もう1年前くらいになりますかね。きのこ同好会で集まった時以来だから」
月夜野健「またご一緒したいですね」

〇綺麗なダイニング
矢口真依「ええ、それじゃあ。また」
  月夜野へかけた電話をしながら、矢口は自宅のアイランドキッチンにもたれかかる。
  今や、美人料理研究家の仲間入りを果たした矢口が人目を避けるように
  カーテンのかかる室内で、ただ何かにもたれかかり、電話をしている。
  差し込む西日の光も相まって、それだけで、妖しくて美しかった。

〇綺麗なダイニング
「電話、誰からだったの?」
  正確に言うと、月夜野に電話をかけたのは矢口の方だったのだが、
  先程まで別の部屋で眠っていた彼女には分からなかったようだ。
矢口真依「ああ、美弥さん。起きたの?」
仕切美弥子「うん、おはよう。真依ちゃん」
矢口真依「ふふっ、おはようってもう夕方だよ? もうすぐ17時が来るんだから」
  とは言いつつも、矢口も「お腹は減っている?」と優しく聞く。
  矢口と彼女が住んでいるこの空間ではゆっくりとした時間が流れているのか、
  時計の音か、彼女達の話し声しか聞こえない。
仕切美弥子「うん、食べたい。食べたい。真依さんのお料理、美味しいから凄く嬉しい」
矢口真依「じゃあ、美弥さんも大好きなきのこのパスタにしましょうか。ちょっと待ってね?」
仕切美弥子「はーい!!」
  パスタを茹でながら、シメジやマイタケ、エリンギにヒラタケといったきのこを
  手際よく、切ったり、ちぎったりして矢口はバターと醤油をメインに味をつけ炒める。
矢口真依「♪〜」
  アイランドキッチンから聞こえる矢口の楽しそうな歌声を聞きながら、
  美弥子はテレビをつけた。

〇古いアパート
藤堂法子「はい、こちら藤堂です。私は今、現場に来ています」
  若い女性レポーターは神妙な面持ちで、カメラに向かって言っている。
  すると、1人の男性がアパートらしき建物から出てくる。
藤堂法子「すみません。こちらにお住まいの方ですか?」
大家「ええ、大家です」

〇綺麗なダイニング
矢口真依「(ほんと、良くできてる・・・・・・)」
  矢口はパスタを作りながら、テレビの画面をチラリと見る。
  カメラワーク上、顔は見えないが、
  どことなく矢口の学生時代の教授を彷彿とさせる。
矢口真依「(まぁ、ゼミの時の画像から作ってもらったんだから当たり前だけど・・・・・・)」

〇化学研究室
鶴田教授「やぁ、みんな、集まっているか?」
矢口真依「はい、あ、まだ仕切君が来ていないようです」
鶴田教授「全く、あいつは困ったヤツだなぁ。今日は動画を撮るから早めに集合って言ったのに」
鶴田教授「折角、我が鶴田(つるた)ゼミでも特に優秀な学生なのに・・・・・・」
矢口真依「・・・・・・」
仕切秀人「すみません〜遅れました〜」

次のエピソード:エピソード3

コメント

  • 闇堕ちについても、この登場人物のヒューマンドラマについても気になって読み入ってしまいます。あと「きのこ同好会」の活動内容もですねw

成分キーワード

ページTOPへ