エネミー・オブ・エンパイア(1)(脚本)
〇西洋の市街地
第三話 エネミー・オブ・エンパイア
「追えーッ!」
「逃がすなーッ!」
警官「いたぞ!間違いない、根室だ!」
警官「あっちへ逃げたぞ!追え!」
伝八「いいか、絶対見つけだせ」
帝都警視庁捜査課、石塚伝八
伝八「憲兵は信用できん。俺達の手で根室を挙げ『けものたち』を引きずり出す!」
伝八「花のお江戸は俺達が守るんだ!探せ探せ!」
警官「はい!」
〇ビルの裏
根室「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
根室「官憲の犬どもめ」
???「根室・・・」
根室「アンタか・・・驚かすなよ」
???「相変わらず気の小さい男、だ」
根室「小心ゆえに、かくの如き大事を成し遂げたのであろう」
根室「むしろ慎重と言ってくれたまえ」
???「しばらく派手な動きは慎め」
???「蓬莱街、がいい。あそこに身を隠せ」
根室「蓬莱街・・・気乗りしないな」
根室「考えておくよ」
???「余計な心配などするな。お前には『我々』が後ろ盾となっている」
???「お前の大願は我々が支えてやる」
根室「当然だよ。あれほどの事をしたのだからね」
根室「僕達は運命共同体なんだ」
根室「天下国家の為、ともに成就させよう」
根室「デモクラシイを」
???「ああ。デモクラシイ、を・・・」
〇シックなバー
美島「陸軍少将、来栖川義孝」
美島「男爵。華族来栖川家当主」
美島「陸軍士官学校を首席で卒業後、参謀本部へ配属。その栄達の影には元老山縣有朋公爵の後ろ盾があったとも噂される」
美島「三十歳で憲兵司令部への転属を希望。治安維持機関としては有名無実化していた憲兵隊の刷新へと乗り出す」
美島「そしてあの事件・・・」
〇西洋風の駅前広場
『政府は国民の発言を聞け!』
『元老を排除して若き政を行うべし!』
『対露戦争を継続し国民に富と誇りを!』
少年「おかーさーん!」
『うるせえクソガキ!』
『革命の邪魔だ!凡俗どもめ!』
少年「おかーさーん!どこー!」
義孝「大丈夫か!」
少年「おかあさん・・・おかあさん」
義孝「男であろう。泣くな」
少年「うう・・・」
義孝「俺達が必ず探し出してやる」
少年の母「かずちゃん!」
少年「おかーさーん!」
少年の母「良かった。無事で・・・」
義孝「すぐにここを離れろ」
少年の母「ありがとうございます」
『デーモクラシイ♪デモクラシイ♪』
『デーモクラシイ♪デモクラシイ♪』
義孝「おのれ!」
義孝「最早遠慮などいらぬ!」
義孝「怯むな!暴徒どもを鎮圧せよ!」
義孝「ねじ伏せよ!踏み潰せ!この国の秩序を守るのだ!」
最上「現在のデモクラシイ運動の魁となったかの日比谷公園焼打事件において、騒乱鎮圧に多大なる功績を得る」
美島「その痛みで大衆は口を閉ざした。切り捨て御免の再来を望んでいる、一人の男の時代錯誤によって」
最上「痛み?自業自得だ!」
最上「少なくとも、あの場に巻き込まれた大衆の一人にとってはね」
美島「その後も、現在まで徹底的なデモクラット弾圧を遂行」
美島「反権力を唱える活動家達の骸の数にも勝る数の叙勲を連ね、昨年、遂に憲兵司令官の座に就くこととなった」
〇シックなバー
美島「それから一年も経たないうちに原因不明の爆発事故に巻き込まれたってわけね」
美島「乾杯」
美島「あ、間違えた。献杯」
最上「・・・」
美島「安心して。大々的には報じないから」
最上「そうか」
美島「というより誰も興味をもたない人間を載せても紙面の無駄という上の判断ね」
最上「てっきり悪口雑言を書き連ねると思ってた」
美島「書いたとしても、全部事実でしょ。何人の記者仲間が捕まったと思ってるの?」
美島「まあ私としては死人に鞭打つ趣味はないし、過去の遺物を掘り起こす暇もないわ」
美島「爵位も家柄も関係ないの。個性が人の価値を決める時代が来るのよ。それを力で弾圧しようとした人間なんて」
最上「もういいだろう」
美島「もういい?これからじゃない。私達の時代が始まるのは」
最上「その時代を作ってきたのは先人達だ。そして自由を謳歌するこの国を守っているのは我々軍人だ」
最上「これ以上閣下を愚弄するな、女!」
美島「馬鹿な男・・・」
美島「その単純な思いが踏みにじられたら、また相手をしてあげるわ」
美島「女だから」
最上「・・・金はいい」
美島「当然でしょ。男だもの」
最上「芸能博の話聞きそびれたじゃないか・・・」
最上「なんでこうなるかな~」
マスター「のめりこんでるからでしょう?憲兵なら、もっと冷静に」
最上「うるさいよ」
〇廃倉庫
「う~む」
「う~む」
〇暖炉のある小屋
義孝「言うべきか」
義孝「言わざるべきか」
義孝「干渉すべきか」
義孝「黙殺すべきか」
義孝「確か桜子よりもまだ年下であったな」
〇荒れた小屋
ヒナ「じゃあ行ってくっから」
義孝「お、おう」
ヒナ「今日こそはちゃんと掃除しとくように」
義孝「お、おう」
義孝「・・・」
〇暖炉のある小屋
ヒナ「たっだいま~」
義孝「お、おう」
ヒナ「お?きれいになってるね。感心感心」
義孝「お、おう」
ヒナ「う~い。ちかれたび~(死語)」
義孝「・・・」
義孝「見ヶ〆の件だが」
義孝「そんなに滞納しているのか?」
「人ごとみたいに言うなよな~」
義孝「まあ、こういう些細な話から思い出していかんとな」
ヒナ「ササイ?」
義孝「ああ、いや、その・・・」
義孝「酒はやめよう。うむ」
ヒナ「無理すんなって。金なんか、銀座のブルジョアオヤジどもから幾らでもむしり取ってやらあ」
義孝「ブルジョワ・・・」
義孝「オヤジだと?」
ヒナ「じゃあおやすみ~」
義孝「待ちなさい」
ヒナ「なに?」
義孝「お前は幾つだ」
義孝「いや、幾つになった」
ヒナ「そんなことも忘れちまってんのかよ?」
義孝「座りなさい」
義孝「胡坐をかくな。正座」
ヒナ「したことないよ正座なんて」
義孝「では椅子でいい。婦女子が軽々しく足を広げるものではない」
ヒナ「誰になりきってるんだよ。サムライ?」
〇モヤモヤ
〇暖炉のある小屋
ヒナ(似合わね~)
義孝「おっほん!」
義孝「お前が今夜幾ら稼いだかは知らん」
義孝「記憶を失うまえの俺が『そういう仕事』を強いていたのかも知らん」
義孝「だが金輪際辞めるんだ!これは父の命令である!」
ヒナ「なんで?」
義孝「な、な、な」
義孝「なんでだとおおおおおっ!」
ヒナ「もう!熱い!」
ヒナ「オイラこの仕事辞めたくないし辞めないよ」
義孝「借金などこの俺が近いうちに帳消しにしてやる。それでも辞めないというのか?」
ヒナ「辞めない」
ヒナ「だって気持ちいいんだもん」
ヒナ「うるさい!」
ヒナ「なんで涙目なんだよ」
義孝(なんということだ)
義孝(この劣悪な環境が年端もいかぬ娘の倫理、道徳、貞操観念もろもろを粉微塵に破壊してしまったというのか)
義孝(まさに魔窟、蓬莱街!早急に浄化せねば!)
ヒナ「大体辞めるも続けるもオイラの自由だろ!今更バロンにどうのこうの言われる筋合いなんか・・・」
義孝「女子供に自由などない!」
ヒナ「・・・え?」
義孝「いや、それはその・・・」
義孝「力弱き者は強き者に守られてこそ健やかに暮らせる」
義孝「守られている者の自由が制限されるのは、致し方ないものなのだ」
義孝「それともお前はこれまで一人で育ってきたとでも思っているのか?」
ヒナ「そんなことないよ・・・」
義孝「ならば俺の言っていることも分かるはずだ」
ヒナ「うん。まあ・・・うん」
義孝「本当は傷ついておったのだろう?」
ヒナ「いやそれは別に・・・」
義孝「無理をするな。父は生まれ変わったぞ」
義孝「娘に女郎紛いの仕事など二度とさせぬ!」
ヒナ「へ?女郎?」
義孝「構わん構わん。お前はもう何も考えなくてもいい。この俺が面倒を見て」
ヒナ「待った!」
義孝「どうした?」
ヒナ「・・・」
ヒナ「・・・」
ヒナ「・・・ははっ」
ヒナ「あはははは・・・」
義孝「な、なにが可笑しい!父はお前のことを考えて・・・」
ヒナ「あははははは!」
ヒナ「やっぱ変だよ。バロン」
義孝「え?」
ヒナ「ダンス」
ヒナ「オイラ、お蝶親分が仕切ってるお店のただの踊り子だよ」
ヒナ「この街でやっとることと変わらん」
義孝「そうだったのか・・・」
義孝「いや・・・そうか!そうだったな!」
義孝「こうやって色々思い出してゆくのか。記憶を失うとは面倒なものだな」
義孝「はっはっは・・・」
ヒナ「・・・」
ヒナ「じゃあお休み」
義孝「うむ。ゆっくり休むのだぞ」
ヒナ「あ、明日から特訓すっからな」
義孝「特訓?」
ヒナ「気合いいれとけよ『お侍様』」
義孝「・・・」
義孝「気合い?」
義孝は元々好きなタイプでしたが、ヒナとのやりとりでますます好感度が上がってきました^^