あたらしい朝が来た(2)(脚本)
〇廃倉庫
ヒナ「気をつけ!」
ヒナ「礼!」
ヒナ「健康体操、はじめ!」
ヒナ「下腹を抱えて肩の上げ下げ!」
トラ「すっ、すっ、はっ、はっ」
デンキ「すっ、すっ、はっ、はっ」
ヒナ「肋骨を抱えて肩を上げ下げ!」
トラ「すっ、すっ、はっ、はっ」
デンキ「すっ、すっ、はっ、はっ」
義孝「ほう、自彊(じきょう)術か。感心である」
ヒナ「おはよう」
義孝「お早う。では父も一緒に」
ヒナ「ええーーーーッ!?」
ヒナ「何で?」
義孝「こっちの台詞だ」
トラ「健康体操なんてアホのやることだってサボってたじゃないか?」
義孝「何を言っている!健全な精神は健康な肉体にこそ宿るべし!」
義孝「自彊術は国策であろう!それを怠けるとは言語道断!」
お蝶親分「ゴルァ!」
義孝(な、何をする!)
お蝶親分(お前は成りすます気があるのか?ああ?)
義孝(だが父として、ちゃんと教育すべきことはせねば)
お蝶親分(妙な即興芝居(アドリブ)入れんじゃないよ)
お蝶親分(あんたは酒かっくらって昼間まで寝てりゃいいんだ)
義孝「昼まで寝るだと?とんでもない非国民ではないか!」
ヒナ「非国民?」
お蝶親分「や、やかましい!安静にしてろって言ってるんだよ!」
お蝶親分「あはは!邪魔したねえ!」
お蝶親分「さあ、健康におなり!」
トラ「疲れてんのかな二人とも・・・」
ヒナ「・・・?」
〇荒れた小屋
「おい!」
義孝「なんだこれは。まともな服はないのか?」
義孝「本当に奴はこんなものを着ていたのか?」
義孝「気が狂ったとか思われないだろうな?」
お蝶親分「口を慎みな!道化には道化の矜持ってもんがあるんだよ!」
お蝶親分「そんな服でも、誇りを持って身にまとう。バロン吉宗の漢気ってやつさ」
お蝶親分「お侍だって昔はちょんまげなんて妙なもん結ってたじゃないかい。本当の漢ってのはそういうもんさ」
義孝「た、確かに言われてみれば左様なものかも知れんな」
ヒナ「ちょっと何着てんだよ?」
義孝「な、何とは?」
ヒナ「それ呼び込み用の面白衣装だろ」
ヒナ「家の中で着んなよ気色悪い」
ヒナ「気でも狂ったんか」
お蝶親分「ププッ・・・」
義孝「貴様・・・」
ヒナ「親分もあんまりバロンで遊ばないで下さい」
お蝶親分「悪い悪い・・・」
お蝶親分「ププッ・・・」
義孝(覚えておれ・・・絶対に逮捕してやる)
ヒナ「そっちは衣装箱。こっちがクローゼット」
ヒナ「早く着替えろ馬鹿親父」
義孝(おのれクソガキめ)
ヒナ「親分、本当にバロンの頭、大丈夫なんですか?」
お蝶親分「え?ああ」
お蝶親分「焦りは禁物だよ。現状をゆっくりと受け入れるんだ」
ヒナ「はあ・・・」
「おい」
ヒナ「なに?」
「いやお前じゃなくて、そっちの」
お蝶親分「なに?」
義孝(全く・・・ガラの悪い女どもめ)
義孝「朝飯はどこだ」
お蝶親分「あるのかい?」
ヒナ「あるわけないじゃん」
義孝「ないのか?」
〇炎
ヒナ「あああああ!もおおおお!がるるるる!」
〇荒れた小屋
ヒナ「ちゃんと頭直せよな!てか少しは思い出す努力しろよな!」
ヒナ「それとも介護か!もう介護が必要なのか!ああん!?」
義孝「す、すまん。努力する」
ヒナ「大体、ちょっとでもオイラの事思い出したのかよ」
義孝「あ、ああ。少しだがお前のことは真っ先に思い出したぞ」
義孝「娘だからな。うむ、当然である」
ヒナ「娘・・・」
義孝「ああ、大切な娘だ」
ヒナ「・・・」
義孝「・・・」
ヒナ「おえええええ~っ!」
義孝「えずくな!」
お蝶親分「アンタ、ヒナをろくすっぽ娘扱いしなかったじゃないか」
義孝「そうなのか?けしからんな」
ヒナ「で、でも今の、とっても嬉しかったよ!」
ヒナ「・・・」
ヒナ「おえええええ~っ!」
お蝶親分「無理するな。アタシも気色悪かった」
義孝「一体どういう関係性だったんだ・・・」
ヒナ「・・・ったく。しっかりしろよな」
義孝「正直言うとほとんど記憶がないのだ。諸々、思い出させてくれると痛み入る」
ヒナ「記憶がなくなった代わりに妙な喋り方になってんだけど」
お蝶親分「そりゃあほら。役者もやってたろう?軍服着て兵隊茶化して」
義孝「何だとけしからん!」
お蝶親分「お・ま・え・が・や・っ・て・い・た・ん・だ!」
義孝「・・・」
ヒナ「重症だよお。面倒臭いよお」
お蝶親分「あとあれだ。念の為に言っておくが」
お蝶親分「お前は、私の組に相当見ヶ〆を滞納してるんだ。よ~く覚えておいてくれよ」
お蝶親分「案外どっかに溜めこんでんじゃねえかい? 『男爵』閣下」
ヒナ「?」
義孝「き、貴様!からかうのもいい加減にせよ!」
義孝(正体がバレてもいいのか?)
お蝶親分(ふん。一応努力はしてくれんだね~)
義孝「クッ・・・」
〇劇場の舞台
バロン「ど、どけッ!」
義孝「・・・!」
〇荒れた小屋
義孝(・・・)
義孝(猿芝居など少しの間だけ。造作もないわ)
お蝶親分「じゃあ私は組に戻るよ」
義孝「も、戻るのか!?」
お蝶親分「当たり前だろ。私は忙しいんだ」
お蝶親分「どっかのお偉いさんと同じでね~」
義孝「・・・」
ヒナ「色々ありがとうございました!」
お蝶親分「おう!」
お蝶親分(下手打ってヒナを傷つけたら容赦しないからね)
義孝「・・・」
ヒナ「さてと。踊りのお稽古しやしょうかね~」
ヒナ「誰かさんがオイラのバイオリン持っていって燃やしちゃったしねえ~」
義孝「・・・?」
義孝(どういう意味だ?)
義孝(謝るところなのだろうか?)
義孝「すまん」
ヒナ「まあ入れ間違えたのオイラなんだけどね~」
義孝「そうだ!以後気をつけなさい!」
ヒナ「・・・」
義孝「・・・」
〇廃倉庫
(わ、わりと早く、下手を打ってしまうやも知れんな・・・)