あたらしい朝が来た(1)(脚本)
〇モヤモヤ
お蝶親分「なるほどね」
お蝶親分「アタシが芸能博に出ろと言ったばかりに」
お蝶親分「・・・」
お蝶親分「見ての通りヒナは外人の血を引いててね」
お蝶親分「アタシが世話してやってた遊女が毛唐に孕まされて出来た子で、母子ともどもこの街に捨てられてさ」
お蝶親分「10かそこらで母親がおっちんでからしばらくは、あの子も随分荒れたもんさね」
お蝶親分「アタシの目を盗んじゃ妙な連中とつるんでスリだのクスリだのに手を出して」
お蝶親分「果ては変態野郎に襲われそうになったのを偶然助けた旅芸人が、バロン吉宗って訳さ」
お蝶親分「バロンと暮らすようになってあの子は変わったよ。口の悪さ以外はね」
お蝶親分「いや、変わったのはヒナだけじゃない」
お蝶親分「この街全体が明るくなった、楽しくなった」
お蝶親分「何よりバカになった」
お蝶親分「まあウチラとしちゃ忌々しいところもあるけどね」
お蝶親分「そこはそれ、アンタらの仕事も同じだろ。あまり舐められちゃ商売になんねえんだよ」
お蝶親分「と、いうわけで男爵さんよ」
お蝶親分「表に出な」
〇川沿いの原っぱ
お蝶親分「さて、アンタには二つの道がある」
お蝶親分「バロンを盾にした罪を贖って川に流されるか?」
お蝶親分「それとも男爵を捨ててバロンになるか?」
義孝「罪?」
義孝「道化になる?」
義孝「お前は頭が悪いのか?それとも頭がおかしいのか?」
義孝「この来栖川義孝を侮るな」
義孝「河原者ごときを盾に生き延びるなど・・・」
義孝「あの男が勝手に俺を突き飛ばしただけだ」
お蝶親分「まあ、見たヤツはいないから好きに言えるさね」
お蝶親分「バロンが見つかりゃ、本当の事はすぐに分かる」
義孝「つまり奴が見つかるまで奴になりすまし、道化のフリをし続けろと」
お蝶親分「命、助けてもらったんなら、それくらいの義理は果たしてもいいんじゃないのかい?」
義孝「俺は忙しいのだ」
義孝「お前達のような不平分子を日々取り締まらねばならんからな・・・」
義孝「・・・!」
義孝「ふん。小賢しい真似を」
お蝶親分「腐っても軍人か。うまくかわしやがる」
義孝「女の刃に倒れるは自由恋愛に溺れる活動家程度の輩だ」
義孝「侠客なら相手の度量を見極めて喧嘩を売れ」
お蝶親分「憲兵が怖くて極道やってられるかってんだ」
義孝「二、三日くらい我慢しろ。バロンとやらもすぐに見つかるだろう」
義孝「何なら我が憲兵隊も協力してやろうか?」
義孝「遺体捜索にな」
猪頭「だったら手前もすぐにバロンの後を追わせてやらあ!」
鹿沼「親分、話になんねえ。こいつは腐ってます」
鹿沼「人間の吐く言葉じゃねえ」
お蝶親分「・・・」
お蝶親分「あんた、家族はいるのかい?」
義孝「いたらどうした?」
お蝶親分「アタシにはいない。だから驚いたもんさ」
お蝶親分「親を亡くした子供が、頼るもんをなくしたガキが壊れてく様を見るのはね」
義孝「・・・」
義孝「・・・」
〇城の会議室
〇川沿いの原っぱ
義孝「・・・」
お蝶親分「あの子のためなんて偉そうな理由じゃない」
お蝶親分「アタシ自身がヒナが壊れちまうのを、もう二度と見たかないだけなのさ」
義孝「・・・」
義孝「バロン吉宗が発見されるまでだ」
お蝶親分「え?」
義孝「確かに、結果的に命を救われたのは事実である」
義孝「受けた恩から目を背けるは帝国軍人にあらず。もののふにあらず。漢にあらず」
お蝶親分「そ、それじゃあ・・・」
義孝「ふん、果たして喜ぶべきことか?」
お蝶親分「え?」
義孝「どんな形で発見されるか、お前達に肚を括る時間を与えてやるだけだ」
義孝「極道とて所詮は女。甘すぎる」
義孝「娘にもその時が来たらきちんと現実を受け入れさせろ。虚飾は人生を蝕むものである」
お蝶親分「言われなくたって・・・」
義孝「全く、河原者どもが。迷惑極まる」
義孝「記憶喪失だったか?」
義孝「お前の猿芝居につきあってやる。感謝しろ」
義孝「兇徒の温床、貧民窟の実態も調査しておきたい」
義孝「来るべき『貧民窟浄化』に備えてな。ククククク・・・ハハハハハ!」
お蝶親分「・・・」
猪頭「あああああ!殺してえ!」
鹿沼「いいんですか?好き勝手言わせておいて」
お蝶親分「いいさ」
お蝶親分「ヒナに発覚(バレ)たら殺(バラ)してやる・・・」
〇黒
第二話 あたらしい朝が来た