死神珍奇譚

射貫 心蔵

ひざまづく死神(脚本)

死神珍奇譚

射貫 心蔵

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死神珍奇譚
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〇田舎の教会
  十九世紀末
  アメリカ西部に位置する、小さな教会

〇大聖堂
  今日も迷える子羊が救いを求め
  懺悔室で秘密を吐露していた

〇宇宙空間
信者「――ってな訳で マリリンと旦那が結託し ワシを間男に仕立て上げたのです」
信者「明日までに金を振り込まなければ 浮気した事実を女房にバラされます」
信者「離婚は不可避 千ドルなんて大金、とても用意できない」
信者「主よ、哀れな子羊を救いたまえ」
シスター「不貞行為は 見方を変えれば冒険と捉えることもできます」
信者「冒険?」
シスター「火遊びのスリルを味わう冒険です」
シスター「どうですもう一度?」
シスター「奥様に全てをぶちまけなさい 存続も終焉も、奥様の胸一つ」
信者「そいつァ大冒険だ」
シスター「少なくともアナタの迷いは消え 千ドルの損害を被らずに済みます」
信者「しかしダメなら──」
シスター「失敗しても、そこは第二のスタート地点 アナタを縛る物は何もありません 新たな一歩を軽やかに踏めるでしょう」
信者「よーし、やっちゃるか!」
シスター「誠意ある決断に、神のご加護がありますよう」

〇大聖堂

〇宇宙空間
アンリ「私はダニーが好きで ダニーはケリーが好きなの」
アンリ「私はケリーを陥れるべく ダニーの机にカエルの入った箱を仕込んだ」
アンリ「フタに『ケリーより愛をこめて』と書いてね」
アンリ「ダニーは皆の見てる前で箱を開けたわ」
アンリ「カエルは彼の顔に飛びつき、離れなかった」
アンリ「皆は大笑いしたけど、彼には死活問題」
アンリ「カエルアレルギーだったの」
アンリ「顔にブツブツができて 泡を吹いて倒れちゃった しばらく体をブルブル震わせてたわ」
アンリ「私、とんでもないことしちゃった だけどもうダメ、とても謝れない」
アンリ「ダニーのブツブツは治らず 二人は大ゲンカして、それっきり」
アンリ「計画通りになったのに ちっとも嬉しくないよぉ!」
シスター「難しい問題ですね」
シスター「まず ご自分に何ができるか考えてみましょう」
シスター「箱を三つ用意し、机に仕込みなさい アナタとダニーとケリーの分です フタには『アンリより愛をこめて』と」
シスター「アナタの箱にはカエルを──」
シスター「ダニーとケリーの箱には 草を結ったペアリングと謝罪文を入れます」
シスター「これを皆の見ている前で、同時に開けなさい」
シスター「アナタは罪を一身に引き受け ダニーとケリーの友情は、より強固となる」
シスター「ポイントは アナタはカエルをひっ被りながらも 二人の仲直りに、誠心誠意尽くすこと」
シスター「邪心を交えず、最後までできますか?」
アンリ「やるわ!」
アンリ「嫌われるより 三人がバラバラになる方が辛いから」
シスター「アナタの健闘を 主はきっとご覧になっているでしょう」
アンリ「だけど一つ問題が」
アンリ「ケリーは草アレルギーなの」
シスター「ペアリングはミサンガで代用しましょう」
シスター「あとで作り方をお教えします」
アンリ「やったー!」

〇大聖堂

〇宇宙空間
作家「僕はタップノベルで死神の話を書いています」
作家「以前『レトロフューチャーの死神』 という話を書いたのですが──」
作家「少年ジャンプの大人気マンガ 『僕とロボコ』の設定と酷似してしまって」
作家「書いたあとで『ロボコ』を知ったのですが (アレ最高に面白いですよね!) 後発のため、マネした感が強く──」
作家「自作を名乗るのに罪悪感を感じるのです」
作家「せっかく書いたので消してはいませんが なんだか恐れ多くて──」
作家「なにより世間から「パクリだ!」と 非難されるのがおそろしい!」
  ※十九世紀アメリカの話である
作家「すみません、告解ではなくて ただシスターの知恵をお借りしたくて」
作家「僕は一体どうすれば──」
シスター「批判をおそれぬことです」
シスター「渾身の自信作が既存作品とソックリだった これは典型的な作家あるある 物書きなら誰しも通る道です」
シスター「むしろ「人気作品とネタが被るなんて 光栄だなァ」と誇りに思うべきです」
作家「そりゃそうですが やっぱりオリジナルで勝負したいというか」
シスター「新規性に固執してもいい作品は創れません 少しずつ改良を重ねて進歩するのです」
シスター「既存作品から「自分ならこうする」と 変更を加え、新しい物に組み替えていく 温故知新です」
シスター「特大ホームランを狙わず 地道に凡打を打ち続けなさい いずれ飛距離が伸び、スタンドへ届きます」
作家「どうやら僕は 細かい点を気にしすぎていたようです」
シスター「大切なのは諦めぬこと 似通っても非難されても 手を止めずに精進を続けて下さい」
シスター「無論、剽窃はダメですよ?」
作家「はいシスター!」

〇大聖堂
  問題の子羊は、夕暮れにやってきた

〇宇宙空間
邪悪なる者「こちらは 告解のお部屋で間違いありませんか?」
シスター「はい」
邪悪なる者「私は罪を犯しました」
邪悪なる者「この世に生まれた罪です」
邪悪なる者「人間は善と悪の二面性を持って生まれますが 私は悪のみを受け継いだのです」
シスター「穏やかではありませんね」
シスター「誰かにそう言われたのですか?」
邪悪なる者「父が──」
シスター「ご安心を、他言はいたしません」
邪悪なる者「わかりました」
邪悪なる者「父が悪魔なのです」
シスター「悪魔のような狼藉者という意味でしょうか?」
邪悪なる者「「ような」ではなく 正真正銘の悪魔なのです」
邪悪なる者「証拠をお見せしましょう」
  少女は頭に被ったフードを外した
邪悪なる者「信じていただけましたか?」
シスター「え、えぇ」
シスター「悪魔の娘さんが神の家に何の用です?」
邪悪なる者「祈りたいのです」
邪悪なる者「一生懸命お祈りすれば 主のご加護を得られると思って」
邪悪なる者「東洋の島国に 千日参りというものがあるそうですね」
邪悪なる者「千日間祈りを捧げますと 主が努力を認め、願いを叶えて下さる」
邪悪なる者「本当なら 悪魔から人間にしていただくことも──」
シスター「ただの迷信です」
シスター「強い精神力は身につきますが 種族の壁を越えることはできません」
シスター「千日といえば、約二年と九ヶ月 多感な子供には、長く険しい年月です」
シスター「容姿を気にせず 輝ける場を探した方が無難でしょう」
邪悪なる者「それではダメなのです」
邪悪なる者「人は見た目じゃないというけれど やはり見た目ですわ」
邪悪なる者「一目で役割を決めつける 鳥は飛ぶもの、魚は泳ぐもの 天使はよい子、悪魔は悪い子」
邪悪なる者「町の人々は 私を悪魔っ子と言って後ろ指を差します」
邪悪なる者「人間の母は肩身が狭く、毎日泣き通し 父は、母が私を身ごもってすぐ蒸発しました」
邪悪なる者「泳ぐ鳥がいたっていいじゃありませんか 飛ぶ魚がいたっていいじゃありませんか」
邪悪なる者「やんちゃな天使や敬虔な悪魔が いたっていいじゃありませんか」
邪悪なる者「千日参りを達成できれば 私が敬虔であることを証明できる 自信がつき、誹謗中傷にも動じなくなる」
邪悪なる者「お願いします、どうかやらせて下さい」
シスター「・・・・・・」

〇田舎の教会
  神父との協議の末、千日参りが認められた
  悪魔であろうと
  主はお見捨てにならぬという
  信念に基づくものである

〇田舎の教会

〇大聖堂
  少女は毎日教会に通った
  雨の日も風の日も、ただ一心に祈った
  当初
  信者は悪魔っ子を拒んだが──
  彼女の真摯な姿勢と、神父とシスターの
  フォローにより、彼女も一信者なのだと
  認知するようになった

〇大聖堂
  燃えるような意思は、何者にも阻まれない
  悪ガキや、近隣住民の嫌がらせにも屈しない
  足しげく教会へ通う内、彼女には
  彼らの行為が取るに足らぬ児戯に思えた
  無心で徳を積む悪魔と
  正義の名の下に排他する人間
  真に野蛮なのは、はたしてどちらか

〇大聖堂
  心がけ次第で、人は天使にも悪魔にもなる
  希望を見いだした少女は
  嬉々として教会に通った
シスター「よく頑張りましたね 今日で九百九十九日目です」
神父「正直、ここまで続くとは思いませんでした 見直しましたよ、お嬢さん」
邪悪なる者「お二人が私を支えて下さったお陰です」
神父「アナタの努力は、身分や容姿に悩む人々の 希望となるでしょう」
シスター「明日はささやかながら お祝いの準備をして待っています お母様とご一緒に、ぜひいらして下さい」
邪悪なる者「ありがとうございます」

〇草原の一軒家
  翌日
  少女は母親を誘ったが
  人間不信の彼女は頑なに出席を拒んだ

〇原っぱ
  単身教会へ行く途中
  近所が騒がしいことに気づく
  火事だァ~!!

〇森の中の小屋
  家が燃えてるぞォ!!
  そこは、少女をイジめる悪ガキの家だった
母親「あぁ嘘! 中にはまだ息子が!!」
邪悪なる者「・・・・・・」

〇黒
悪ガキ「悪魔っ子、お前なんか生きてる価値ねぇ!」
悪ガキ「お前と同じ教室にいるだけで吐き気がする 早く消えてくれねーかな!?」
悪ガキ「消えろ・消えろ・消えろ・消えろ!」

〇森の中の小屋
邪悪なる者(アンタこそ消えるがいいわ)
邪悪なる者(さ、早く教会へ行かなくちゃ 神父様とシスターが待ってるわ)
母親「お願い、誰かあの子を あの子を助けて」
  火の回りはおそろしく早く
  誰も助けに行くことができない
母親「神様 私はどうなっても構いません 坊やの命だけは──」
邪悪なる者「・・・・・・」

〇田舎の教会

〇大聖堂
神父「こないねぇ、あの子」
シスター「なぜでしょう、なんだか胸騒ぎが──」
「大変だァ!」
「悪魔っ子が火事ン中に飛び込んだぞ!!」
悪ガキ「アイツ、ダチを助けるために──」
悪ガキ「ダチは助かったけど 彼女が脱出する前に家が倒れて──」
「場所はどこです!?」

〇草原

〇大樹の下

〇森の中

〇森の中の小屋
母親「坊や! 坊や!」
悪ガキ「ママァ」
母親「このままじゃあの子が」
悪ガキ「お、俺を助けるために──」

〇テクスチャ3
  倒壊した後も、家は燃え続けた
  少女の助かる見込みは、ほぼ皆無
  人々は、彼女の行動を
  「悪魔の気まぐれ」で片づけてしまった
  日頃の仕打ちや
  誰一人として助けに行けなかった
  負い目が、素直な賞賛を留まらせた
  千日参りを不意にし、恨み重なる
  悪童を助けた少女の不憫な末路であった

〇森の中
死神「こんにちは」
邪悪なる者「アナタは?」
死神「死神です」
邪悪なる者「死神?」
邪悪なる者「すると私は──」
死神「そういうことになります」
邪悪なる者「私は教会で人を待たせています きっと心配しているわ」
死神「ここにいます、ご覧なさい」
  本当だわ
  二人とも、あんなに悲しそうに
邪悪なる者(私のために、そんな顔しないで)
死神「アナタのお母さんも来ていますよ」
邪悪なる者「お母さん」
母親「醜くても、悪魔でも アナタは命より大切な宝物だったわ」
母親「お願い、娘を返して──」
邪悪なる者「ごめんなさいお母さん」
邪悪なる者「私、最期までダメな娘だったわ」
死神「ダメなものですか」
死神「アナタは己の欲徳より、人助けを選んだ」
死神「身を持って人間の美徳を証明したのです」
死神「私も人々から嫌われる身 よかったら、アナタの面倒を──」
  その心配は無用じゃ、死の神よ
  突如として、天から声が聞こえた

〇空
  娘よ
  お前の良心、とくと見せてもらった!
  千日目の祈願を放棄し
  よく因縁ある相手を救った
  来なさい、心優しき天上人よ

〇森の中
死神「アナタは・・・・・・」
悪ガキ「お、おい! 空を見ろ!!」

〇空
  家の焼け跡から
  魂が一つ、天に昇っていくのを人々は見た
  それは人間の姿をしていた
  人間の顔をしていた
  頭上には黄色い輪っかが
  背中には白い羽が生えていた

〇森の中
「天使様」
「天使様」
「天使様」
「天使様」
「天使様」
母親「天使様」
死神「天使様」

〇空
  地上の民は
  天に昇る聖女に粛々とひざまずいた
神聖なる者「地上の皆さんに祝福がありますように」

〇森の中
  天使が去った後も
  人々はいつまでもひざまずいていた
  ヒラヒラ・・・・・・
死神(どんな立場でも変われる 今日はアナタに 素晴らしい希望を教わりました)
死神(どうもありがとう)
  皆が天を見上げる中
  彼女は一人、その場を立ち去った

〇田舎の教会
  その後
  教会は霊験あらたかな聖地として
  参拝人が後を絶たず──

〇草原の一軒家
  少女の母親は
  天使様をお産みになった聖母として
  近隣の者から神様のように扱われた
  行方知れずの父親は、依然消息不明
  最初で最後の孝行である

次のエピソード:招かれざる死神

コメント

  • 今回の死神さん、せっかく出張ったのにお仕事が無しというレアケースですね。ちなみに作中に登場された作家さんの告解の後に、当該作品を読んでみたのですが、、、見事な程の酷似ですね!19世紀アメリカでも告解したくなるくらいにw

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