春は舞台で青く色づく

YO-SUKE

第一幕「夏合宿の夜に」(脚本)

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〇桜の見える丘
サワコ(高校一年生の春。 私たちは、学校の裏山にいた。 そこには、見渡す限りの桜が咲いていた)
ハル(私たちはそこで、 同じ演劇部になる仲間たちと出会った)
イチカ(四人は性格も好みもバラバラだった)
ヒナタ(サワコ、ハル、イチカ、ヒナタ)
サワコ(いつも喧嘩ばかりしてる私たちだけど、 この日、たった一つだけ約束をした)
ハル(二年後、卒業式の日もここに集まろうって)
イチカ(まだ何者でもない私たちだけれど)
ヒナタ(何者になれるかもわからないけれど)
サワコ(みんなと一緒だったら、怖くない)
  四人は輪になって手を差し出した。
  ~春は舞台で青く色づく~

〇花模様
  第一幕・夏合宿の夜に

〇宿舎の部屋
  2年後
サワコ「ちょっ! ハル! 痛いってば、ガチで投げないでよ!」
ハル「枕投げはガチでやらなきゃ意味ないでしょ」
ハル「って、台本ばっか読んでないで イチカも参加しなよ」
イチカ「・・・遠慮しとく。部活の合宿で 枕投げとか、やることベタすぎだし」
サワコ「あ、負けるのが怖いんだ」
ハル「まあイチカ、負けず嫌いだしねえ。 本気出したら私が秒殺して──」
  イチカの投げた枕が
  ハルの顔面に当たった。
ハル「痛ったぁ!」
サワコ「ハハハ。イチカ、ナイス!」
ハル「やったなぁ!」
  枕を投げ返そうとするハル。
サワコ「タンマー!」
ハル「邪魔しないでよ!」
サワコ「ねえねえ、せっかくだから 罰ゲーム考えようよ」
イチカ「またよからぬことを・・・」
ハル「たくさん枕をぶつけられたほうが、 腹筋百回とか?」
サワコ「うーん、いまいち」
ハル「じゃあ何がいいのよ」
サワコ「そうだなー。たとえば、みんなの前で 好きな人を発表するってのはどう?」
イチカ「それはない」
ハル「うん、ないね」
サワコ「えー! なんでよ、いいじゃん!」
イチカ「サワコだけ失うものがなさすぎ」
サワコ「は? どういうこと?」
ハル「あんたどうせ、 バスケ部の藤井くんでしょ?」
サワコ「へ? あ! いや、その、あの──」
イチカ「全員知ってるし」
サワコ「そうなの!?」
ハル「気持ちが顔に出すぎなのよ、いつも」
サワコ「し、知らなかった・・・」
ハル「ねえ、好きな人って言えばさ。 みんな、ヒナタの好きな人ってわかる?」
イチカ「いや・・・全然わからない」
ハル「そうなの? イチカ、ヒナタと一番仲良くしてるし、 そういうこと聞いていると思ってたけど」
イチカ「・・・・・・」
ハル「てか、サワコと違って、 ヒナタって明るいお嬢様風に見えて、 妙に謎めいたとこあるんだよね」
サワコ「サワコと違っては余計だから」
ハル「ヒナタって男子とか興味ないのかな──」
ヒナタ「・・・ごめん。ちょっとどいて」
ハル「ヒナタ!? 家に電話してくるって言ってなかった?」
ヒナタ「してきたよ。すぐに終わった」
サワコ「ヒナタ聞いてよ~。二人がさ、 私がバスケ部の藤井が好きだって言うの」
ヒナタ「うん・・・そっか」
サワコ「ちょっとヒナタ。聞いてるの?」
ヒナタ「あ・・・ごめん」
イチカ「どうした? ぼうっとして、ヒナタらしくない」
ヒナタ「・・・ごめん、みんな。私、帰る」
ハル「帰る!? 今から!? もう夜だし、 合宿だって明後日まであるのに」
ヒナタ「演劇部は・・・辞める」
ハル「辞める!?」
サワコ「ヒナタ、なんでなの!?」
ヒナタ「・・・親が離婚することになったの。 引っ越すから、演劇部だけじゃない・・・ 学校も辞めなくちゃいけないと思う」
イチカ「なんとかならないのか?」
ヒナタ「なんとかって言われても・・・」
イチカ「ヒナタが出ないと作品が成立しない」
ヒナタ「・・・そうだよね。イチカはいつもそう。 演劇のこと、作品作りのことだけ」
イチカ「三年間やってきて、 秋の大会が最後なんだ。今辞めたら──」
ヒナタ「イチカに何がわかるのよ」
ハル「ちょっとヒナタ」
ヒナタ「イチカっていつもそう。 クールぶって、何でも上から目線で・・・ そういうとこ、私、大嫌い!」
イチカ「・・・・・・」
サワコ「ヒナタ、言いすぎだよ」
  サワコがヒナタの手を取ると、
  その目には涙が浮かんでいた。
サワコ「・・・ヒナタ」
ヒナタ「みんなと演劇したかった。 みんなと一緒に卒業したかった。 約束・・・守れなくてごめん」
  そう言うとヒナタは出て行ってしまった。
サワコ「約束って・・・」
イチカ「卒業式の日に、またあの丘で 集まろう・・・そう約束したろ」
サワコ「あ、そうだったね!」
ハル「・・・両親がうまくいってないって話は 聞いてたけど・・・まさか離婚だなんて」
サワコ「ヒナタ、ずっと悩んでいたのかな」
イチカ「どうして何も言ってくれなかったんだ。 仲間だろ」
ハル「イチカには、特に言えなかったんだと思う」
イチカ「どういうこと?」
ハル「前からずっと気になって いたんだけど・・・ もしかしてヒナタはイチカのこと」
サワコ「ん?」
ハル「もしかしてだけど・・・ す、好きなんじゃないかなって」
サワコ「なんだ。そんなの私だって──」
ハル「好きってそういう意味じゃない」
イチカ「それって・・・」
ハル「うん。多分、恋愛の意味で」
サワコ「ふーん、恋愛って・・・えーーーー!!!」
ハル「だって、さっきヒナタがイチカにだけ きつく当たっていたのも、考えてみれば 好きの裏返しなのかもしれない」
サワコ「そんなヒナタが・・・」
ハル「イチカ。心当たりない?」
イチカ「・・・ごめん。 ちょっと外の空気吸ってくる」
サワコ「え、待ってよ! イチカ」

〇黒背景
ハル(その日。私たち四人の固い絆に、 亀裂が入ってしまったんだ)

次のエピソード:第二幕「秋季大会の前に」

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